34.姫騎士、来る
凄腕職人キムズカジーが主導となって、民家の屋根や壁等を木材で直す。
キムズカジーの腕と、俺の強化魔法のおかげで、驚くべき速さで民家はきれいに補修されていった。
一方、俺はミョーコゥの街の入口へとやってきていた。
「これが魔物除け……? 嘘だろ……?」
「ほんとうだぜ、兄貴! このぼろっちい柵が、魔物除けの柵だ!」
門番の青年、モンバ・シューエイが俺にそう説明してくれた。
膝の高さ位しかない、粗末な柵がミョーコゥの街をぐるっと囲っていた。
こんなのでは、魔物の進入を防げないだろ……。
「良く今までこの街、無事だったな」
ミョーコゥは櫛形山、奈落の森という、どちらも魔物はびこる魔境に囲まれている。
しかもそこに出現する魔物はかなりランクが高い。
だというのに思ったより街のなかは平和だ。
街の周りに魔物の姿もない。
どうなってんだろうか、これは……?
「そりゃマテオの姐さんのおかげだぜ」
「マテオの?」
「ああ。姐さんたちケミスト一族秘伝の、魔物除けのお香のおかげで、魔物がこの街に近づかないんだ」
マテオ・ケミスト。
この街で薬師をやっている女だ。
モンバに案内され、この街の入口から歩いてすぐのところまでやってきた。
櫛形山の登山口に生えている木の枝からは、小袋がつるされていた。
小袋からはかなり強力な魔力が発せられていた。
なるほど、この袋のおかげで、街に魔物がやってこないってわけだ。
「つっても、姐さん曰くそんなに万能じゃないんだって。数日おきに取り換えないといけないし、雨の日とかはにおいが消えちゃうからやばいんだってさ」
マテオ達ケミスト一族が優秀なおかげで、この街の治安は守られてるみたいだな。
だがその守りも、万全ではない。
「雨の日とかの警備はどうしてるんだ?」
「村の自警団が街の周りを警備してるぜ」
「自警団があるのか。なら安心だな」
「ところがどっこい、みんなじーさんなんだよね」
……大工も自警団もみんな老人、か。
若者は仕事と刺激を求め、すぐにここを出ていってしまうんだろうな。
「話聞けば聞くほど、ここ結構やばいんじゃないか? 街の守りをもっと固めたほうがいい」
俺は収納魔法でしまっていた木材を取り出し、重力魔法で宙に浮かせる。
木材を並べて簡単な外壁を作る。
「す、すげええ! 一瞬で立派な外壁ができちまった! さすが兄貴ぃ!」
喜ぶモンバ。しかし一方で俺はあんま喜べないでいる。
「あくまで簡易的な防壁だ。きちんとしたものを作ったほうがいい」
「だよなぁ……おれっちもずぅっとそう思ってたよ」
危機意識はあったのに、ずっと放置されていたのか……。
というか。
「こういうこと、街長に相談しないのかよ」
街のインフラを整えるのは、この街の長の仕事だろうに。
するとモンバがため息交じりに言う。
「街長なんていないよ」
「は……? いない?」
「うん。街のことで相談があるときは、ここ【ヴォツラーク領】の領主様に相談することになってるんだ」
「ヴォツラーク領……」
ミョーコゥの地理を説明しよう。
西に櫛形山があり、南に奈落の森があることは以前説明したとおりだ。
奈落の森周辺の町や村は、ヴォツラーク領という王国の領地に属している。
「でもヴォツラーク領主さまは、奈落の森をはさんで向こう側にすんでて、滅多にこっち側にはやってこないんだぜ。てゆーか、完全放置してるんだよね、ミョーコゥ」
「仕事しろよ領主……」
まあわからんでもない。
西と南に魔物がうろつくやばい土地があるんだ。そもそも近づきたくないのだろう。
それに、ミョーコゥには名産品もなければ、そこでしか取れない資源があるわけでもない。
放っておいても、別に問題ないわけだ。
……そこに住んでいる人がいるのにな。
「マテオの姐さんは街に外壁を建ててくれって、ずっとヴォツラーク領主に訴えかけてたんだけど、そのたび却下されててね」
「そうか……」
マテオのやつ、オーバーワークすぎるだろ。
よっぽどこの街のことが好きなんだな。あいつが街の長やればいいのに。
「苦労してるんだな、おまえたち」
「まあね。でもいいんだ! 今は兄貴がいるからさ!」
にかっ、と笑ってモンバが俺に言う。
「人面樹、伐採してくれたんだろ? 兄貴。山菜取りのばーさまがたが、すごい感謝してたぜ!」
モンバ曰く、人面樹(だけでは無いが)がいるせいで、街の人は、櫛形山にはあまり頻繁に立ち入ることができなかったようだ。
特に人面樹のテリトリーでは山菜や木材がたくさん取れるらしい。
街の老人たちは獲りたくてもとれなくて、困っていたとのこと。
「兄貴ってやっぱ英雄なんだな! 人から頼まれたわけでもないのに、魔物を倒すんだからさ!」
街の人たちが喜んでくれたようでなによりだ。
まあ、善意で魔物を倒したわけではないのでちょっと気まずいけど。
「あーあ、兄貴が領主だったらよかったのになぁ。街のトラブルをスピーディに、鮮やかに解決してくれるしさ」
「何言ってんだ。俺が領主になれるわけないだろ」
だいいちヴォツラーク領にはすでに領主がいるのだ。
「無能な領主はクビにしてさ、兄貴が領主になるべきだよ!」
「誰がクビにできるんだよ、領主をさ」
「そこはほら、えらい人が……」
と、そのときだった。
魔力感知に反応があったのだ。
「兄貴?」
「人だ。魔物に襲われてる」
「なんだって!?」
「俺は様子を見てくる。おまえは外壁の中にいろ。いいな?」
モンバを残して、俺は魔法で空を飛び、現場へと向かう。
魔力を感知したところによると、どうやら3人の人間がミョーコゥに向かう途中、魔物に襲われたようだ。
少し離れたところに、鳥型の魔物が見受けられた。
■グリフォン(A)
→鷲の羽と上半身、ライオンの下半身を持つ巨力な魔物。その鍵爪は鋼をも握りつぶす。
グリフォンか。一般人ならだいぶ苦労するだろう。ベテラン冒険者でも手を焼くような相手だ。
襲われている人間がどんな奴かは知らん。
だが困ってるやつを放っておくことはできなかった。
「【落雷】」
俺は右手人差し指を前に突き出し、空中で魔法を発動。
落雷は、雷で相手を麻痺させる初級の雷魔法だ。
近くに人がいる以上、規模のデカイ魔法(極大魔法等)は使えない。
まずは落雷で相手を麻痺させ、人を避難させてからだ。
バチィイイン!
俺の放った雷がグリフォンに当たり、そのまま落下。
その間、俺は現場へと到着した。……が。
「まる焦げになってやがる……」
おかしいな、初級の魔法、しかも相手を麻痺させる魔法で、Aランク魔物を倒してしまうなんて。
大勇者へとランクアップした影響で、魔法の威力が上がってるのは承知してた。
だがまさか、ここまで威力があるとは……もっと手加減しないとな。
「お見事です。さすがですわね、アベル様」
ふと、なつかしい声が聞こえてきた。
グリフォンのそばには、白銀の鎧を身にまとったやつらが3人ほどいた。
その中の一人に見覚えがあった。
「ワイズマン……」
そいつは、この国の王女にして、騎士団長となった女、ワイズマン。
かつて一緒にパーティを組んだ元仲間でもある。
青い髪の美しい姫騎士が微笑みながら立っている。
いや、というかなんでこいつがこんなとこに……?
「ああ、アベル様!」
がば! とワイズマンが俺に抱き着いてきて、そのまま押し倒してきた。
「ああ嬉しい! アベル様にまた会うことが出来るなんて!」
「あ、ああ……ひさしぶりだな、ワイズマン」
そうか、俺こいつにジャークを引き取ってもらうよう、手紙を出したんだっけか。
アシュローンが引き取りに来たから、ワイズマンは来ないとばかり思っていたが……。
ふと、ワイズマンが涙を流してることに気づいた。
……アシュローンといい、この娘もまた、俺の身を案じてくれてらしい。
まったく、俺ってやつは、本当に自分のことしか見えてなかったんだな。
俺を心配してくれるやつが、周りにはいたっていうのにさ。
「悪いな、心配かけて」
「いえ、元気そうでなによりですわ」
にっこりと笑う姫騎士のワイズマン。
少し見ぬ間に、かなりきれいになってるな。
前はまだ幼さが抜け切れていなかったけど、今は普通に、きれいな大人の女性へと進化してる。
「そういや、お前何しに来たんだ? っていうか、早くどいてくれ」
「わたくし、アベル様にお父様からの勅命を持ってきましたの」
「勅命? 国王から?」
なんだろうか……?
いやそれより早くどいてほしい。こんなところ知り合いに見られたら……。
「おおい、兄貴ぃ~。大丈夫かーい!」
「げぇ!?」
モンバ、マテオ、そしてティアが、こちらへやってくるではないか。
あいつ、待ってろって言ったのに!
「あらま」「……アベルさん、誰ですかその女?」「兄貴の新しいカノジョっすか!?」
やっぱり誤解されてる……。
「元仲間のワイズマンだよ。ここに、ええと……何しに来たんだっけ?」
勅命とか言っていたけども。
するとワイズマンはニコッと笑って言う。
「アベル様がこの街の領主に、任命されたことを記す勅命書を、お持ちいたしました♡」
……はい?
領主……?
「お、俺が領主!?」
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「アベルが領主ってどういうこと?!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!