33.魔法で高速建築
マテオの薬屋を増築することにした。
人面樹の亜種を倒し、たくさんの上質な木材をゲットした俺たちは、ミョーコゥへと戻ってきた。
ドワーフの職人、キムズカジーに、取ってきた木材の一部を見せる。
キムズカジーは目をむいたあと、木材にぺったりと頬をつけて言う。
「な、なんと上質な木材! これは人面樹の亜種から採取されるやつじゃな!?」
「ああ、よくわかるな」
腕のいい職人らしいから、目利きができるんだろうか。
「表面に焦げもないし、余計な傷も入ってない。こんなにも美しい木材、初めてみたのじゃ! こんなすごいものを取ってくるとは、すごいな、大魔導士さまは!」
人面樹だけに限らないが、魔物から採取される素材は、傷がないほど高く売れるからな。
小さいころから、そのことを心掛けながら戦っていたおかげで、こういう技術が無駄に身についてるのである。
「あとは街の大工たちと協力し、ログハウスを作るだけじゃ」
マテオが声をかけていたらしい、大工たちが、キムズカジーのそばにいた。
でも、全員がかなりいい歳のじーさんばかりだ。
まあ、辺境の田舎の街だから、若い労働力はみんな外へ行ってしまうのだろう。
「このメンツで、完成はいつになりそうだ?」
あんまかかりそうだと、ピュアたちが俺の家に、すし詰め状態で寝泊まりすることになる。
それはちょっとかわいそうだしな。
「このメンツだと、ふむ、一週間かのぅ」
「一週間か。ちょっとかかるさね」
もうちょっと早く完成させてほしいものだ。
一週間も彼女らに不便を強いるのは気が引けるしな。
「俺も魔法でサポートするよ」
「!? よ、よろしいのですか……?」
「ああ。それならもうちょい早く終わるだろ?」
「はいですじゃ! 大魔導士さまがいれば百人力ですじゃ! しかし……本当によいのですか? これはあなた様へのお礼なのに……」
キムズカジーは俺に呪いを解いてもらったお礼として、家を建ててくれることにした。
だから、その俺が手伝うことに、若干気が引けているのだろう。
「気にすんな。俺も住むんだし。俺が手伝うのは当然だよ」
するとマテオがすごくうれしそうに笑うと、よしよしと頭をなでてきた。
「なんだよ?」
「いやぁ、ベルさんも成長したなぁって」
……ついこないだまで、俺は人間不信になっていた。
極力人と関わらないように生きていた。
でもいろいろあって、俺はトラウマを乗り越えた。
俺はもう、人助けに力を使うことに、躊躇しない。
マテオは一番近くで、俺のことを見てくれていた。
だから、変化に気づいてくれたのだろう。
子供のように褒められたのは恥ずかしいが、それでも、俺が変わる努力をしてることを褒めてくれた。
それがまあ、うれしかった。
「作業開始じゃ! 大魔導士様は木材を切ったり、持ち上げたりするのを手伝ってほしいのじゃ」
「了解だ」
キムズカジー主導で、マテオの新しい家づくり(増築だが)が始まる。
彼はものすごい速度で図面を引く。
その間に俺は魔法で、言われたとおり木材を加工。
と、同時に、作業員全員に魔法をかけておく。
ほどなくして、キムズカジーが図面を完成。
彼の指示で俺たちは家を作っていく……。
そして、数時間後。
「すごいよ! うちがめちゃくちゃ大きく、立派な家になってるさね!」
マテオが驚く気持ちもわかる。
王都にあってもおかしくないくらい、立派な家がそこにあったからだ。
土地が広いから一階建てだけど、きちんと塗装されてるし、ただ樹をくみ上げただけとは思えないほど、しっかりしてる作りだった。
「すごいのは大魔導士さまじゃ! このお方のおかげで、ここまで早く、これだけのものができたのじゃ!」
「いや、俺はただ、あんたの指示で動いてただけだ。すごいのはあんただよ」
「いやいや! わしは気づいておったぞ、大魔導士さまの、すごい魔法に! なぁ大工連中!」
キムズカジーを手伝っていたじーさんたちが、うんうんとうなずく。
「大魔導士さまのおかげで、体がすんごく軽かったわい」
「まるで50歳くらい若返ったと思ったよ!」
どうやら俺が身体強化魔法を、彼らにかけていたことに、気づいていたようだ。
「すごいじゃないか、ベルさん! 強化魔法を複数人に、数時間ずっとかけっぱなしにできるなんて! 前代未聞だよ!」
今度はマテオが驚いてる。
すごい?
「強化魔法のアウトプットは、自分を強化するよりも多くの魔力量が必要となる。しかも、誰をどれくらい強化するってのを正確に見定めないと体をだめにしちゃうんだ。だから、ち密な魔力操作が必要となる。全員を、自分も含めてそれぞれ強化するなんて芸当、神業としか思えないよ!」
魔法学校を首席で卒業してる、マテオが驚くくらいだ。
俺が当たり前のように行っていることが、実はすごいことだったのだろう。
……他人の強化ってそんな難しかったんだな。
「ベルさんも謙虚だね。壊す以外の魔法、ちゃんと使えてるじゃないかー」
「苦手ってだけだ。できないわけじゃない」
俺基準だと、攻撃魔法と比べたら、他の魔法はまだまだなのだ。
「しかしほんと魔法の天才だね。こんなにセンスのある魔法使いなんて見たことないよ」
「確かに大魔導士様のセンスは一流じゃな!」
今度は一緒に現場で働いていたキムズカジーが、絶賛してきた。
「あんたは重い木材を、魔法で軽々と持ち上げた。しかも大小さまざまなサイズの木材を、図面のとおり、正確に配置していた。まるで凄腕の透明な巨人が、家を建ててるみたいじゃった! あれは見事だったなぁ!」
なんだかすごい絶賛されるな。
物を持ち上げて動かすくらい、簡単にできることなんだが。
「ベルさんまさか、重力魔法まで使えるなんてね……」
「ああ。それが?」
「それ、古代魔法だから」
「え、これも!?」
「そうだよ。重力を操る魔法なんて、周りで使ってる奴いなかっただろ?」
「どうだろう……現役時代は、戦闘中に周りを見る余裕なかったしな」
ただひたすらに、目の前の敵を倒し続けてきた。
だから、俺以外のやつがどんな感じなのか、知らなかったし、知ろうとも思わなかったな。
「こんなにものを知らないのに、ベルさんって、よく師匠やってたね。今までもこれまでも」
「……ほんとな」
思い返せば、俺がジャークたちに教えたのは、魔物との戦い方、相手の壊し方が主だった気がする。
……もう少し、いろんなことを教えておくべきだったかもな。
まあ、その教える側も、戦い以外で教えられるものが少なかったわけだが。
「ま、気にすんなベルさん。あんたが悪い先生じゃないのは、ティアちゃん見れば明らかだよ。あの邪悪勇者は最初から性根が腐ってたんだよ。あんたは悪くないよ」
マテオが俺を励ましてくれる。
だが、気休めなのはわかってる。それでも、そんな風にフォローしてくれたのがうれしかった。
「ありがとな」
「! へへ、ベルさん……よしておくれよぉ♡ あんたにほめられると、うれしくって笑いが止まらなくなっちまうよぅ♡ ん~すき~♡」
マテオが引っ付いてくる。
前はひっつかれて鬱陶しいくらいにしか思ってなかったが、最近ではそんなに気にならなくなった。
なにはともあれ、マテオの家(兼俺の家)は驚くべき速さで完成した。
「大魔導士さま、余った木材はいかがいたしましょうか?」
人面樹を倒して手に入れた木材は、思ったよりも多かったらしく、結構残っているのだ。
俺はふと、周りを見渡す。
ミョーコゥの家は結構ぼろいものが多い。
常駐の大工がよぼよぼのじーさんらだからな、できることも限られてる。
「なあ、キムズカジー。金は出すから、この余った木材で、民家を補修してくれないか。全部」
くわ、とじーさんたち、そしてキムズカジーも目をむく。
「大魔導士さま!」「なんとおやさしい!」「街の人のために頼んでくださるなんて!」
まあ、マテオの家だけ直すのも、なんかひいきしてるみたいで、嫌だからな。
せっかくいい職人がいるんだから、全員分の家を直しておいたほうがいいだろう。
「もちろん、やらせていただくのじゃ! でもお代は結構じゃ!」
「いや、悪いよ」
「いえ、あなたはわしの腕を治してくださった! そのでかすぎる恩義を返すには、家一軒では安すぎると思っていたところじゃ!」
結局どれだけ言ってもキムズカジーは、金を受け取ろうとしてくれなかったので、ご厚意に甘えることにした。
「人に優しくすると、良いことあるだろう?」
マテオが子供に諭すように、俺にそう言った。
「……俺より、よっぽど教師むいてるよ、あんた」
「照れちゃってまあ♡ そんなところもかわいくて好きだよ♡」
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