32.増築のための素材を集める
これまでの振り返り。
俺の名前はアベル・キャスター。
魔神を討伐した英雄、【大魔導士】として呼ばれていた。
しかしある時を境に体調を壊し、ついに冒険者を引退。
辺境の街ミョーコゥへと流れ着いた。
そこで呪われた神聖輝光竜の子を発見。
呪いを解くと同時に、俺自身にも弱体化の呪いがかかっていたことが判明した。
呪いが解除され、元気になった俺。
すっかり人間不信気味になっていた俺だったのだが、ミョーコゥで暮らすうちに、少しずつ心の傷が快復。
俺はこの辺境の街、ミョーコゥで、セカンドライフを始めることにしたのだった。
☆
ある日のこと。
マテオの薬屋に、人が尋ねてきた。
「よぉ、大魔導士さま」
「キムズカジー」
ドワーフの職人、キムズカジー。
こいつは腕に呪いが掛かっており、それを解くために、遠くからここミョーコゥへとやってきた。
俺は新しいスキル、聖なる白炎を使い呪いを解いた。
「その後、具合はどうだ?」
「バッチリですじゃ! これで職人を続けられます。本当に、ありがとうございますじゃ!」
彼は呪いのせいで職人道具を持てない状態だったのだ。
治って良かったよ。
「今日はそのお礼をしたく、参上した次第ですじゃ」
「お礼って……いいよそんなもの」
むしろ俺がお礼を言いたいくらいなんだが。
トラウマ克服のきっかけをくれたからな、ドワーフ。
「いや! ぜひともお礼させてくれ! でないと気が済まん!」
「うーん……」
すると黙って聞いていたマテオが、こんなことを言う。
「この店の増築を頼むのはどうだい?」
増築……。
確かにこの店、人が増えたため、結構手狭になってきていた。
「ベルさんたち住むんだし、もうちょっと大きくして欲しいなーなんて」
「いや住まないけど……」
俺は元々ミョーコゥの端っこにある、ぼろ小屋に一人で住んでいた。
マテオのところに最近は頻繁に顔だすようになったけどもさ。
「こっち住んでほしいなぁ。毎回ベルさんの家にメシ作りに行くの、めんどうだし。それに、これからはこっちに住んだ方が、皆助かると思うんだよね。あんたを頼って人がくるだろうしね」
……そういうことか。
まあ、確かに街の端っこって結構遠いしな。
薬屋はこの街の中心にあるし、人も俺を訪ねやすい……。
「って、なんで俺の元に人が来る前提なんだよ」
「そりゃあんた……伝説の冒険者パーティ七剣星のリーダーで、魔神を倒した大魔導士アベル・キャスターが、この街にいるってバレたからね」
そうだった。
……ジャーク騒動のせいで、俺の素性が街の内外の人間にバレてしまったのだ。
竜王アシュローンを始め、これからもっと人が来ることが予想される(元仲間は特に来そうだ)。
「人が来るたび、端っこまでベルさん呼びに行くのめんどくさいんだよ。おとなしくうちと住みな」
「そうだな……」
「やった~♡ ベルさんと同棲~♡」
マテオは一転して笑顔になると、俺の腕にひっついてくる。
……どういうわけか、マテオをはじめとした、美少女達から俺はモテているのだ。
わからん、10も上なんだぞ、俺は?
そんなおっさんにどうして好意を持つのだろうか……。
向こうは俺が好きみたいだが、正直、俺のほうは困惑のほうが大きい。
別に彼女らが俺をおとしめる(ぼったくりバーみたいな)気はない、いいやつらなのはわかってるが。
それでも……わからん。
「ということで、キムズカジー。あんたに増築を依頼したいさね」
「もちろん! 喜んでやらせていただくじゃ! となると……必要な物があるのう」
ふむ、とキムズカジーは少し考えていう。
「足りないのは主に木材と、あとは人手じゃな」
「うちの街に大工のじーさんたちはいるから、頼めば手伝ってくれるだろうけど、問題は木材さね」
この街は西に櫛形山、南に奈落の森、と木々の生い茂るポイントは豊富である。
が。
「良質な木材が取れる場所には、魔物がいついてるからね」
「そうか……まあ、問題ないな」
「そうさね。ベルさんがいれば問題ない」
ということで、俺は櫛形山へと大転移を使って飛ぶ。
「あいっかわらず……ベルさんの魔法はすごいね。転移魔法は古代魔法の一つなんだよ?」
「ああ、それ言っていたなゼーレンのやつが」
俺は成り行きで、弟子を三人ほど雇っている。
そのうちのひとり、エルフのゼーレンが言ってたのだ、古代魔法って。
俺はマテオに先導してもらいながら、奥へ進んでいく。
「そもそも古代魔法ってなんなんだよ?」
「現代魔法では考えられない、凄い現象を起こす魔法のことだよ」
現代魔法は大きく、属性魔法(攻撃魔法等)と、無属性魔法に分類される。
そのくくりからはみ出した、規格外の魔法が、古代魔法というらしい。
「そもそもベルさん、古代魔法なんてどこで修得したんだい?」
「封神の塔でだよ。あそこに出てくる魔物? みたいなのが使ってたのを、パクった」
封神の塔。
大昔に存在した、魔神を封じていた七つの最高難易度ダンジョンだ。
そこには通常のフィールドではない、ヤバすぎる魔物たちが跋扈してた。
で、そいつらが使う魔法を、見て、覚えて、再現したってわけだ。
「……独自に古代魔法を現代に再現するなんて、ほんと、規格外すぎるよ。魔法学者達が泣いちゃうねこりゃ」
そうこうしてると、少し開けた場所へと到着した。
「ここ?」
「そうだよ」
そのときだ。
ずずずずずずず……と森の奥に生えていた木々が、こちらに歩いてきたのだ。
「魔物だな。人面樹だ」
3メートルほどの木がこちらに歩いてきてる。
人面樹って魔物だ。
Cランクくらいの、まあ、雑魚である。
……ん? 人面樹にしては、少し色合いが違うが。
亜種だろか?
「ベルさんなら火球で一発だろうけど、火は使わないでおくれ。あの素材を使うんだ」
「了解。氷針!」
空中に無数の氷の針が出現。
それらが人面樹亜種のある一点を突き刺す。
がくん……と人面樹たちが動きを止めて倒れる。
ぼんっ、という音とともに、そこには上質そうな木材が転がっていた。
「これでよし……って、どうしたマテオ?」
マテオが呆然としていた。
「いや……ベルさん、なんで相手の急所わかったんだい?」
「? そりゃ……見ればわかるだろ」
俺は近くに落ちてる木材のもとへむかう。
氷の針を引き抜くと、先端部には、小さな結晶が突き刺さっていた。
「魔力結晶。魔物の急所だな。ここを潰せば死ぬ」
「ああ……ただ、魔力結晶がどこにあるかは、魔物ごとに違う。でもベルさんは急所を正確に射貫いてる。どうやってんだい?」
「? 魔力感知を応用すれば、体内の魔力の流れが見えるし、そこから、魔力結晶がどこにあるのかわかるだろ」
マテオが「はぁ~~~~……」とため息をついた。
「ベルさん、やっぱあんた凄すぎるわ」
「何だよいきなり……」
「あのね、魔力感知はものすごい技術なんだよ?」
「あー……そうだったな。なんかゼーレンもそんなこと言ってたな」
つまり、普通のやつは魔力の流れを、感じ取ることが出来ないのか。
「冒険者達は、魔物を倒すときにかならず、魔物の体を傷つけてしまう。そうすると素材の価値が下がっちまう。けど……ベルさんは急所を正確に狙うから、すごく質の良いアイテムがドロップするね。大魔導士の名は伊達じゃないね、すごいよ!」
ばしばし、とマテオが俺の背中を叩く。
俺は色々知らないことが多い。
魔法は独学で覚えたので、学校に通ってる魔法使いが、常識で知ってることを知らない。
魔法学校主席で卒業したマテオに、色々聞いて覚えていこう。
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