30.スキルの覚醒、強大な呪いを解く
《アベルSide》
ある日のミョーコゥ。ある日の薬屋にて。
『ぴゅい~♡ ちち~あそんで~♡』
神聖輝光竜のピュアが俺にくっついてくる。
「大魔導士様! 魔法を教えていただきたいのじゃ!」
ゼーレンが杖を持ってぐいぐいくる。
「くっつきすぎですよ! ちょっと離れてください!」
とティア。
「アベル殿! 実践の手ほどきを……」
ぎゅうぎゅう。
むぎゅむぎゅ。
「狭い……」
マテオの店はさほど大きくはない。
現在、俺の周りには何故か女たちがたくさんいる。
結果、店が手狭に感じる。
ここにはピュアたちを含めた、弟子(?)たちが寝泊まりしてる。
「これ以上増えると困るねえ」
とマテオ。
まるで、これ以上増えるのが確定してるかのような言い方だ。
「増築しようかね。ベルさんも最近はこっちにいることも多いし」
最初は町外れのぼろ小屋にひとりで住んでいた。
が、マテオが毎日のように俺の家に来て、メシを作りに来てくれるようになった。
わざわざ遠くから来てもらうのも忍びなかったので、こっちから、マテオの家に行くようになった次第。
その弊害として、店が手狭になっている。
「増築できるような、職人はいるのか?」
「いないねえ。ミョーコゥにいる大工じゃ、できてせいぜい修繕くらいさね」
となると、増築ができる職人を他所から呼び寄せないといけない訳か。
それはそれで面倒だな。
「魔法でパパッとできないのかい?」
「無茶言うなよ……そもそも、俺は物を壊す以外の魔法は苦手なんだ」
魔法は壊すための道具。そういう認識が俺の中にある。
だから、たとえば物を直したり、何かを作ったりする魔法は苦手なのである。
「ってことは、やろうと思えばできなくないってことさね?」
「まあ……」
俺の職業は大賢者(今は進化して大勇者)。
あらゆる魔法を使えるからな。
と、そのときである。
「おおい! 兄貴ぃ~!」
門番のモンバが、薬屋を訪ねてきた。
こいつもナチュラルに、俺に用事があるとき、マテオの薬屋にくるようになったな……。
「どうした?」
「兄貴にお客さんだぜ!」
モンバの隣には、外套で体を覆った、ドワーフが居た。
……そのドワーフに少し、見覚えがあるような気がした。
「あなた様が、兄者の言っていた、大魔導士様ですか?」
大魔導士であることは、もうすっかり周知の事実である。
だから、まあもう諦めている。
「そうだが……兄者?」
「わしゃ、ガンコジー・クラフトの弟で、キムズカジーという」
ガンコジー……。
どこかで聞いた名前だな。
「ベルさんほら、人外魔境で出会った、開拓団のリーダーのドワーフだよ」
「ああ、あいつか……」
「はい。兄者からここに、どんな問題もたちどころに解決してくださる、偉大なる大魔導士さまがおられると聞き及び、ここへ来ました」
……買いかぶりすぎだろ。
どんな問題も解決って……。
「俺は神さまじゃ無いんだから……」
「まあまあベルさん、話くらい聞いてやんなよ? こんな辺境までわざわざやってきたってことは、そうとう、困ってるんだろうし」
……マテオの言うとおりだな。
ここで話を聞かずに追い返すのは、ちょっと可哀想だし。
「どうしたんだ?」
「うむ……これを見て欲しい」
ぱさ……とキムズカジーが羽織っていたマントを脱ぐ。
「これは……痣? いや……まさか……」
キムズカジーの両腕には、黒い痣が浮かんでいた。
それはどこか茨のような、不気味な文様、そして不吉な魔力を感じさせた。
……鑑定スキルを使わずとも、俺にはわかった。
「呪いか……」
「はい。この呪いを受けてから、物が作れなくなりましたのじゃ」
キムズカジーは腰につけてあるハンマーを持つ。
だが……ぽろ……とハンマーを手放してしまった。
腕がびくびくと痙攣し、彼が苦痛の表情を浮かべている。
「物を作ろうとすると、両腕に激しい痛みが走りますじゃ。これでは物が作れません」
「…………呪いの、せいか」
呪い。
俺はこいつが嫌いだ。
呪いのせいで、俺は全てを失った。
こんなものがあるから、俺は死にかけたし。
こんなものが存在するから、あいつは……。
「…………わかった。俺が何とかする」
「おお、本当ですか!?」
「ああ……」
呪いでどんな辛い目にあうのか、誰よりも俺が一番わかってる。
理解できるからこそ、何とかしてやりたい。
俺と、同じような、悲劇はもう繰り返したくない。
「解呪!」
呪いを解く魔法を使用する。
だが……。
ぱきぃん!
「魔法陣が壊れたね……。魔法がキャンセルされた」
「……それほど強い呪いってことか。鑑定」
■××××の呪い
→××××のかけた、術者にしか解呪できない、強力な呪い。
「……呪いをかけたやつの名前が、表示されねえ」
「スキルで隠蔽されてるのかもね」
博識なマテオが、神妙な顔つきで言う。
スキルで情報隠蔽、か。そんなことができるのか……。
しかし問題はそこではない。
術者、つまり呪いをかけた人間にしか解呪できないということ。
俺が解呪の魔法で、呪いをとけない……ってことだ。
「……ありがとうございます、大魔導士さま」
キムズカジーが諦めたような顔で言う。
「偉大なる魔法使い様でも、解呪できないのであれば、諦めがつきます」
……俺は落ちてるハンマーを見やる。
ハンマーはボロボロだった。
柄の部分には、何度も握ったあと。
キムズカジーの手の皮はぶあつく、職人の手をしていた。
「……諦めるだと? ふざけんな。そんな簡単に、捨てられるものなのかよ」
呪いのせいで全てを失った俺は、今こうして、呪いのせいで大事なものをなくそうとしてるキムズカジーをほっとけない。
しかし、呪いによって人生をめちゃくちゃにされることを、受け入れようとしてる、このドワーフに腹が立った。
その先に待ってるのが地獄だとわかってて、そこへ行こうとするバカを、止めたかった。
「俺が何とかする」
「なんとかって……どうするんだい?」
「わからない。だが……何とかしてやりたいんだ」
そのときだった。
『条件を達成しました』
……またあの声だ。
『条件を達成しました』? どういうことだ……?
『スキル【聖なる白炎】を獲得しました』
■聖なる白炎(EX)
→人にあだなす、あらゆる障害(毒、病気、呪い)を焼き、浄化する白い炎を発生させる。
鑑定で調べたところ、これはどうやら、呪いを解除するというより、呪いそのものを破壊する(浄化)するってものらしい。
……まただ。
こないだの技能貸与といい、新しいスキルを獲得してる。
一体どうして……?
スキルなんて、そう手に入るものじゃないのに……。
まさかこれが、大勇者の力なのか……?
「ベルさん?」
「…………」
どうしてこんな力が、俺に宿ったのかはわからない。
ただ、それでも一つ確かなことがある。
この力を、俺が、望んだということだ。
「……キムズカジー、俺を信じてくれるか?」
初めて使うスキルだ。
しかも炎を使ったもの。相手を、下手したら焼き殺すことになるかもしれない(そんなことはないだろうが)。
それでも、ちゃんと断りを入れておきたかった。
「はいですじゃ! あなたを信じます……兄を、仲間を救ってくださった、大魔導士さまのことを!」
……俺は今まで自分のためだけに力を使ってきた。
自分が生きるため、金を稼ぐためって。
ジャークとティアを育てたのだって、結局は自分の、家族が居ないってことに対するさみしさを埋めたかったからだ。
今までの俺は、ずっと自分勝手に生きてきた。
……でも。
今は違う。
誰かのために、力を使いたい。
「スキル、聖なる白炎、発動!」
ごぉお! とドワーフの体を白い炎が包み込む。
「あつ……! く、ない。全然熱くないですじゃ。むしろ心地よい……」
じゅううう……という肉が焼ける音がするのに、キムズカジーは痛がっていなかった。
腕の茨だけが消えていった……。
やがて炎が消え、そして、呪いもすっかり消えていた。
キムズカジーは恐る恐るハンマーを握る。
ぶんぶん! と腕を振る。
「腕の痛みが、ない! 呪いが解けたのじゃぁ!」
キムズカジーの言葉をきいて、俺はその場にへたりこむ。
……上手く行ったようだ。
「す、すごいですじゃぁ! 誰に頼んでも解呪できなかった呪いを、解除してしまうなんて! ありがとう! ありがとうぉ!」
……何度も頭を下げるキムズカジー。
その笑顔が、俺の胸に染み渡る。
……ああ、そうか。
俺が欲しかったのは……これだったのかもしれない。
自分のためで無く、誰かのために、力を振るう。
そして、幸せにする。笑顔にする。そうすることで……俺は満たされる。
そっか、最初からこうしておけばよかったんだ。
なんて、なんて……遠い回り道をしたんだ。
「ベルさん、良かったね。大切なことに気づけたみたいでさ」
「……ああ。でも、遅すぎたよ」
「ははっ。何言ってんだい。人生はこれからじゃないか。ね?」
マテオがそう言って笑う。
……俺は、気づけば泣いていたのだった。
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