29.勇者Side その12
《ジャークSide》
一方、王都では、勇者ジャークが王国の地下牢に収監されていた。
「げほげほ! うぇほげほっ! だ、だしてくれぇ~……だしてくれよぉ~……」
アシュローンによってここまで運び込まれたジャーク。
その後、この冷たくてジメジメとした牢屋の中に放り込まれた。
石造りの牢屋のなかには、ベッドや毛布などはなく、またトイレも設置されていなかった。
臭く冷たい牢屋のなかにいるだけで、ジャークの体調はどんどんと悪化していく。
「どうして……うう……おれはぁ……こんな目にあうんだよぉ~……」
そのときだった。
かつん、かつん、かつん……。
「ごきげんよう、ジャーク・モンド?」
そこには、青い髪の美しい女がいた。20代前半。
長い髪に、整った容姿。
スカートの上から軽鎧に身をつつみ、頭の上には王冠が乗っている。
「あ? んだよてめえ……」
「貴様、ワイズマン王女様に失礼であるぞ!」
見張りの騎士が声を荒らげる。
「ああ!? 王女殿下……だと?」
その割には、鎧を身にまとい、腰には立派な剣をぶら下げている。
「このお方をどなたと心得る! ゲータ・ニィガ王国第三王女にして、王国第二騎士団長、ワイズマン=フォン=ゲータ・ニィガ様だ!」
ワイズマンは姫にして騎士、すなわち、姫騎士ということだ。
「姫騎士さんがなんのようだよ……?」
ワイズマンは常に笑顔を絶やさない。
狐のように目を細め、ずっと笑っているせいで、表情が読みにくい。
だが相手は女、しかも可憐な女性ということもあって、少しだけジャークの気が大きくなる。
「弟弟子に、挨拶をと思いましたの」
「弟弟子……だぁ? どういうことだよ?」
「わたくし、かつてアベル様のもとで、ともに旅をしていたことがあります。そのときに、戦いの手ほどきを受けたことがある……いわば、姉弟子、ということになりますわね」
しめた、とジャークは内心でほくそえむ。
(この女……おれと同じでおっさんの弟子! もしかしたら、同じ弟子のよしみで助けてくれるかもしれない!)
「へへ、そっかじゃあ、ワイズマンの姉ちゃんだな」
ぴくっ、とワイズマンの口の端が少しだけ動く。
「姉ちゃんだと!? 貴様、殿下になんと失礼な……」
「よいのです、見張りさん」
ワイズマンが見張りをたしなめる。
やはり、どうやらジャークの味方のようだった。
「ところで、わたくし少し彼とお話ししたいのですが、中に入ってもよろしいでしょうか?」
「「な!?」」
見張りだけでなく、ジャークもまた驚いてしまう。
ジャークはいちおう、犯罪者としてここにつかまってる。
そんな男がいる牢屋の中に、姫が入ることなんてできない。何を考えてるのだろうか……?
見張り役は当然……。
「よろしいですよぉ」
「な!?」
見張り役がドアのかぎを開ける。
……その彼の表情は、とろんととろけていた。
まるで、恋する乙女のような、そんな顔をしていた。
姫騎士のワイズマンはすたすたと中に入ってきた。
……あまりに異常な行動に、ジャークは戸惑いの色を隠せないでいる。
「わ、ワイズマンの姉ちゃん……?」
すると、ワイズマンは腰に差した剣を引き抜く。
否。
剣ではなかった。
刃の部分には、とげの付いたロープが付けられている。
あまりに太く、そして時折びりびりと雷の走るそれは、どう見ても騎士の持つ剣ではなかった。
「む、鞭……? なんで、姫の姉ちゃんが……」
すると、ワイズマンは持っていた鞭で、思い切り、ジャークの体にたたきつけたのだ。
「いぎゃぁあああああああああああああ!」
棘がジャークの体の肉をこそぐ。
そして、すさまじい高圧電流が、彼の体に流れる。
「tp4おky3お37、ぷ「7p!?」
おおよそ人の発する言葉ではない、悲鳴を上げながら、ジャークは激痛に悶える。
ばしんばしん! と何度も姫はジャークを鞭で攻撃した。
「いでえ……! いでえよぉおおおおお! おい見張りぃいいいい! 何やってんだ止めろょおおおおおおおおおお!」
いくら相手が罪人とはいえ、人間に対して鞭で痛めつけるなど、許される行為ではない。
ましてや、相手は一国の王女なのだ。
さすがに見張り役は止めに入るだろうと思われた。しかし……。
見張りは夢見心地の表情のまま、何も口を出してこない。
「なんで……? あぎゃ! いぎぎぃい! ふぎぃいいいいいい!」
何度目かのむち打ちが終わった後……。
姫の攻撃が止む。
「はぁ! はぁ! いてえ……なにすんだよぉお~……」
「黙りなさい、このクソ虫」
見上げると、そこにいたのは、恐ろしい表情をしたワイズマンだ。
先ほどまで朗らかに笑っていた姫騎士はいない。
凶器を手にこちらを見下ろすその姿は、遠目には殺人鬼のそれに見えるかもしれない。
だが、違う。
彼女の目には知性があった。
殺人衝動にかられて、無茶苦茶に人を殺す殺人鬼とはまた別種の凄みがあった。
かたかた、と彼の体が恐怖で震える。
逃げたくても、この狭い牢屋に逃げ場はない。
「あなたは恐れ多くもアベル様を傷つけた大罪人。それを罰するのが、わたくしの使命」
「あ、アベル……様って……ぎゃああす!」
ワイズマンはジャークを鞭で痛めつける。
「アベル様が! 家族として大事にしていた人間だから! おまえのことは大目に見てやっていた!」
ばしん! ばしん! ばしん! ばしん!
何度も何度も、ワイズマンがジャークの体を、渾身の力でたたく。
そのたび激しい痛みが体を襲い、ただ、ジャークは怖くて震えることしかできなかった。
「アベル様が、『おまえは自分の役割をまっとうしろ』とおっしゃるから! この国の平和のために尽力した!」
何度も鞭でたたきつける姿からは、とてもこの国の王女とは思えなかった。
「これから貴様には、長い拷問の日々が待っていますわ」
「ご、拷問ってぇ……? な、なんでぇ……?」
「馬鹿な貴様に、呪いのアイテムを授けた、真犯人。そいつの居場所を吐かせる」
確かにジャークは、独学で呪術を習ったわけではない。
高名な呪術師から、呪いのアイテムを買っただけにすぎない。
「し、知らねえ! 今そいつがどこにいるかなんて……ふぎゃぁああああああ!」
ワイズマンは鞭を巧みにあやつり、ジャークの足にそれを巻き付ける。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!
「やべてぐでぇえええええええええ……!」
「わたくしの目的は、貴様から情報を引き出すことと同時に、あなたを痛めつけること」
「どぼじでぇえええええええええええ!?」
「……殺人未遂では、せいぜいが奴隷落ちで、鉱山で死ぬまで働くくらいの刑にしか処せませんわ」
それでも十分に重い罪なのだが、この女は、それでは許せないらしい
「これから拷問し続けます。あなたは黒幕の手掛かりを持ってますからね。その情報を引き出すために、多少、強めに……」
どうやらワイズマンの狙いは、黒幕の特定よりも、ジャークを痛めつけることらしい。
「死よりも恐ろしいことが、この世にはたくさんあるのだと、教えてあげますわ」
「や、やめてぇえ……やめてよぉお……」
ジャークは情けなく泣きながら、姉弟子に訴える。
「おれはよぉ……アベルの、おまえが尊敬する人の、弟子なんだぞぉ」
「はぁ……まったく何を言い出すかと思えば」
ジャークは自分の身を守るため、アベルの弟子であることを強調した。
しかし、ワイズマンは鼻で笑って言う。
「そのアベル様を追い出したのは、どこの誰ですの? 弟子というポジションを放棄したのは、御自分ではなかったのです?」
「そ、それはぁ……」
「なにもかもを失い、最後に残ったのが、自分が追い出した人間の弟子であったこと、だけだなんて。哀れですわね」
「ぐ、ぢ、くしょぉ~」
倒れて動けないジャークを見下ろしながら、ワイズマンは言う。
「あなたが傷つけた人は、わたくしの大切なお方。……簡単には、死なせませんから。お覚悟を」
そう言って、ぼろ雑巾になったジャークを放置し、ワイズマンは立ち去っていった。
「うぐ……ううぅうううう……おれぁ……なて、馬鹿なことをぉ……」
大魔導士アベル・キャスター。
彼が魔神を倒したすごい人物だとは知っていた。
だが、それ以上のことを考えたことは一度もなかった。
それほどまでにすごい人物なのだ、彼を慕う人間も多いということに。
もしもジャークがアベルに呪いをかけ、追放なんていう自分勝手なことをしていなかったら、きっとワイズマンは自分に手心をかけてくれただろう。
彼女の権限で、自分を逃がしてくれたかもしれない。
だが、もうその可能性は失われた。ジャークはアベルにひどいことをしてしまったのだ。
「なんで……おれは……馬鹿なことをぉ……」
素直に、アベルのもとで弟子をやっていればよかった。
アベルから力を吸うなんてことせず、まじめに修行に励めばよかった。
そうすれば、誰もがうらやむような、地位と名誉、そして本当の強さが手に入ったのに。
アベルの持つ人脈で、大成できたというのに。
ジャークは自分勝手な振る舞いをしたせいで、その明るい未来が、完全に潰えてしまったのだと……。
今更気づいたところで、もう、遅いのだった。
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