28.エクストラスキル、げっと
元仲間のひとり、アシュローンはジャークを連れて、ミョーコゥを去っていった。
それから、幾日か経過したある日のこと。
マテオの薬屋にて。
……最近こっちにいることが多い。マテオが飯作ってくれるからだ。
「ベルさん、ちょいと山のほうへ出かけてくるね」
緑髪の美人薬師、マテオが、大きなつづらを背負った状態で言う。
普段は店の中で調剤してるか、街の寝たきり老人のもとに、薬を届けるかしてる彼女。
しかし山へ行くという。
「何しに行くんだ?」
……今までは特に気にならなかったが、普段と違う行動をとるマテオのことが、気になってそう質問してしまう。
マテオは「へえ……」と嬉しそうに笑う。
「櫛形山さね。薬の材料を取りに行くのさ」
ここミョーコゥは西に櫛形山、南に奈落の森と、緑に囲まれている。
薬の材料、すなわち、薬草などの原料には困らないだろう。
が、どちらの採取先も、魔物がうろついてる。
……この女、一人で行こうというのか。
「俺もついてくよ」
ぽかん、とマテオが口を開く。
だが、にぃいい……とすごくうれしそうに笑うと、俺に引っ付いてきやがった。
「なんだよ?」
「ベルさんが、あたいのこと気にかけてくれるようになったのがさ、うれしくって♡」
……ここへきてそろそろ一か月。
その間、俺はこの女に結構、世話になっている。
飯の準備だけでなく、たとえばマテオが、街の連中に、『ベルさんはうるさいのが苦手なんだ』といって、フォローして回ってくれているらしい(ヒトミから聞いた)
彼女の身になにかあったら嫌だな、と思う程度には、親しみを覚えるようになってきたのだ。
「ベルさんに思われて、あたいすごくうれしいよ♡」
目を閉じてすりすり、と体をくっつけてくる。
豊満なバスト、それに整った顔立ち。こいつを好きになるやつは多いだろう。
言い寄る男も多いだろうに、こんな終わったおっさんに好意を向けるなんてな。
変わったやつだなって思う。
「じゃ、行くか」
俺は大転移を使って、マテオと一緒に、櫛形山へとやってきた。
「相変わらず、ベルさんの転移はすごいね。便利すぎる。ここまで徒歩で結構かかるんだよ?」
「そうかい。で、どこへ向かうんだ?」
「薬草が生い茂ってるポイントがこの奥にあるんだ」
俺は一度行ったところにしか転移できない。
普段一人でぼーっとしてるポイント(小高い丘)から、マテオと一緒に移動。
……魔力感知。
周りに雑魚魔物がいたので、少し魔力を解放して追い払う。
魔物達は俺のデカイ魔力におびえて、散っていった。
全部の魔物をこれで完全に追い払えるわけではない。
しかし少なくとも、薬草取っている間、マテオが魔物に襲われることはないだろう。
「ベルさん♡ ありがとう♡ 魔物追い払ってくれたんだね」
……勘のいい女だ。
俺が少し魔力を解放したのをみて、すぐに、俺の意図を察したのだろう。
「ベルさんって、ほんとは優しい人だよね」
「……そうかな」
「そうだよ。その優しさは、もっとどんどん表に出していいと思うよ。大丈夫、あんたを裏切るようなクズは、もう檻のなかだからね」
確かに、ジャークのように俺を利用しようとするやつは、少なくとも、俺の周りにはいない。
優しくしたら裏切られる、って今までは思っていた。
でも、それは極論だったのかもしれない。
「てゆーか、ベルさん、魔力制御上手くなったね」
魔法大学を首席で卒業したマテオから、魔力をコントロールする、という概念を教わった。
どうやら一流の魔法使いは、外に流れ出る魔力を制御しているらしい。
「まさか一発で魔力制御できるようになるとはね。やっぱセンスあるよ」
「いや、でも俺には足りないことばかりだ。魔法を、戦いの道具としか見てなかったからな」
俺は孤児の生まれだ。誰も俺を養ってくれなかった。
そんな俺にとって、魔法は生きるため、魔物を倒すためだけの道具だ。
より効率的に、より強い魔物を倒すための武器。それが、魔法。
だから、魔物を倒す以外の使い道を、俺は知らない。
一方でマテオはいろいろと、魔法の使い方を知っている。
俺より賢者してるよ、こいつ。
ほどなくして、俺たちは薬草の採取ポイントへとやってきた。
マテオは自分のつづらから、モノクルを取り出す。
「これは薬草用の鑑定魔道具さ」
この世界において、ものを鑑定する道具はとても希少だ。
鑑定スキルが、勇者固有のスキルであることからも、その価値の高さはうかがえる。
「随分と古びた魔道具だな」
マテオのモノクルにはひびが入っていた。
いつ壊れても不思議じゃなさそうだ。
俺は物を壊す魔法は得意だが、それ以外の魔法は苦手。
修復の魔法は使えない、こともないが、使って壊す確率のほうが高そうだ。
下手に手を出すより、家に帰ったとき、ピュアに修復ビームで直してもらったほうがいいかもしれん。
「ベルさんにはつづらもってもらおうかな。あたいが薬草を拾うからさ」
「わかった」
マテオがしゃがみ込み、薬草を手に取る。
ポゥ……とモノクルのレンズが輝く。
「これは違うね。次……」
「おいおい、いちいちそれやるのかよ? 日が暮れるぞ」
「そりゃしょうがないよ。鑑定魔道具で鑑定できるのは、一つずつなんだから」
魔道具では、か。
俺はふと思い立ち、スキルを使う。
「鑑定」
視界いっぱいに、窓が開いた。
勇者の鑑定スキルは、視界に入ってるものの情報を読み解く。
魔道具のように、1つずつ鑑定しなくていい。
「回復の薬草だけでいいんだな」
「あ、ああ……ベルさんもしかして、鑑定スキルを使ってるのかい? あたいのために?」
……普段なら、ここで勘違いするなとか、そういうひねくれたことを言う。
だが、俺はマテオの言葉を信じることにする。
「そうだよ。おまえには、世話になってるからな」
「ベルさん……うう、あたい、うれしくて泣きそうだよ……」
……マテオが本当にうれしそうにしてる。
それをみて、なんだか俺もうれしくなってきた。
……久しく忘れてたかもしれないな、こういう感覚。
「さて、ちゃっちゃと薬草とろうかね。で、どれが薬草なんだい」
俺が指示して、マテオが薬草を拾う。
最初はいいんだが、だんだんと面倒になってきた。
「おまえにも、鑑定スキルが使えればいいのにな」
「勇者のスキルだから無理無理」
……まてよ?
「スキルを貸すのはどうだ?」
「? 何言ってんだい?」
「鑑定スキルは勇者のスキルだ。だが、それは勇者が持っているってだけでさ、別に勇者以外が使えないってわけじゃないだろ?」
「そりゃそうだけど……でも、無理だろ。あたいはスキルを所持してないわけだし」
「……なあ、ちょっと実験につきあってもらえないか?」
ふとした思い付きを、試したくなったのだ。
「いいよ。ベルさんになら、何されてもいい」
すっ、と俺はマテオに手を向ける。
「付与」
付与魔法。
モノに、魔力を付与し、性能をアップさせる魔法だ。
今まで俺は、属性魔法か、身体強化魔法しか付与してこなかった。
戦いに使うとなると、その二択だったからな。
でも、俺はマテオから、魔法には戦い以外の使い道があることを知った。
ならば、こんなこともできるかもしれない。
「スキル、付与」
「な!? す、スキルの付与!? そんなこと、できるなんて魔法教本に書いてなかったよ!?」
「だろうな。俺の思い付きだ。鑑定」
俺は鑑定スキルを使おうとした。
だが、使えなかった。よし。
「マテオ。やってみてくれ」
「あ、ああ……鑑定、ってすごいよベルさん! 鑑定スキルが、使えてるよ!」
やはりか。
付与魔法は、こうして他人にスキルも付与できるみたいだ。
今までは、そんなことできなかった。
自分の持っている飯のタネを、誰かにあげたくなかった。
でも、ミョーコゥに来て、俺は少し視野が広くなった。
おのれのためだけに、力を使うのではなく、他者を信じて、他者に自分の持つものを与えることを。
『新しいスキルを獲得しました。スキル、【技能貸与】を獲得しました』
突如として俺の頭の中に、女の声が響いた。
な、なんだこれは……?
「どうしたんだい?」
「いや……」
とりあえず、この声については後で調べるとしよう。
「それより、新しいスキルを得た。技能貸与っていうらしい」
「どんなスキルなんだろう? あ、今あたいが鑑定を持ってるんだっけ」
「ああ。鑑定スキルは……」
その瞬間、俺の前に窓が開く。
■技能貸与(SSS)
→他者におのれの持っているスキルを複製し、貸し与えることができる。※制限あり
「……どうやら俺のスキルを、他人に貸せるらしい」
「なんだって! そ、そんなスキル聞いたこともないよ! すごいよベルさん、エクストラスキルだ!」
エクストラスキル……?
「歴史上で、初めて観測される、すごいスキルのことだよ! すごい、エクストラスキル持ちなんて何世紀ぶりさね!」
……どうやら、俺はすごいスキルを獲得したらしい。
これのおかげで、マテオはさくさくと薬草を拾うことに成功したのだった。
しかし、ランクアップしたわけじゃないのに、新しいスキルを獲得するなんて。
それに、あの声は一体……?
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