表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/196

28.エクストラスキル、げっと



 元仲間のひとり、アシュローンはジャークを連れて、ミョーコゥを去っていった。

 それから、幾日か経過したある日のこと。


 マテオの薬屋にて。

 ……最近こっちにいることが多い。マテオが飯作ってくれるからだ。


「ベルさん、ちょいと山のほうへ出かけてくるね」


 緑髪の美人薬師、マテオが、大きなつづらを背負った状態で言う。

 普段は店の中で調剤してるか、街の寝たきり老人のもとに、薬を届けるかしてる彼女。


 しかし山へ行くという。

 

「何しに行くんだ?」


 ……今までは特に気にならなかったが、普段と違う行動をとるマテオのことが、気になってそう質問してしまう。

 マテオは「へえ……」と嬉しそうに笑う。


櫛形山くしがたやまさね。薬の材料を取りに行くのさ」


 ここミョーコゥは西に櫛形山、南に奈落の森と、緑に囲まれている。

 薬の材料、すなわち、薬草などの原料には困らないだろう。


 が、どちらの採取先も、魔物がうろついてる。

 ……この女、一人で行こうというのか。


「俺もついてくよ」


 ぽかん、とマテオが口を開く。

 だが、にぃいい……とすごくうれしそうに笑うと、俺に引っ付いてきやがった。


「なんだよ?」

「ベルさんが、あたいのこと気にかけてくれるようになったのがさ、うれしくって♡」


 ……ここへきてそろそろ一か月。

 その間、俺はこの女に結構、世話になっている。


 飯の準備だけでなく、たとえばマテオが、街の連中に、『ベルさんはうるさいのが苦手なんだ』といって、フォローして回ってくれているらしい(ヒトミから聞いた)


 彼女の身になにかあったら嫌だな、と思う程度には、親しみを覚えるようになってきたのだ。


「ベルさんに思われて、あたいすごくうれしいよ♡」


 目を閉じてすりすり、と体をくっつけてくる。

 豊満なバスト、それに整った顔立ち。こいつを好きになるやつは多いだろう。


 言い寄る男も多いだろうに、こんな終わったおっさんに好意を向けるなんてな。

 変わったやつだなって思う。


「じゃ、行くか」


 俺は大転移を使って、マテオと一緒に、櫛形山へとやってきた。


「相変わらず、ベルさんの転移はすごいね。便利すぎる。ここまで徒歩で結構かかるんだよ?」

「そうかい。で、どこへ向かうんだ?」

「薬草が生い茂ってるポイントがこの奥にあるんだ」


 俺は一度行ったところにしか転移できない。

 普段一人でぼーっとしてるポイント(小高い丘)から、マテオと一緒に移動。


 ……魔力感知。

 周りに雑魚魔物がいたので、少し魔力を解放して追い払う。


 魔物達は俺のデカイ魔力におびえて、散っていった。

 全部の魔物をこれで完全に追い払えるわけではない。


 しかし少なくとも、薬草取っている間、マテオが魔物に襲われることはないだろう。


「ベルさん♡ ありがとう♡ 魔物追い払ってくれたんだね」


 ……勘のいい女だ。

 俺が少し魔力を解放したのをみて、すぐに、俺の意図を察したのだろう。


「ベルさんって、ほんとは優しい人だよね」

「……そうかな」

「そうだよ。その優しさは、もっとどんどん表に出していいと思うよ。大丈夫、あんたを裏切るようなクズは、もう檻のなかだからね」


 確かに、ジャークのように俺を利用しようとするやつは、少なくとも、俺の周りにはいない。

 優しくしたら裏切られる、って今までは思っていた。


 でも、それは極論だったのかもしれない。


「てゆーか、ベルさん、魔力制御上手くなったね」


 魔法大学を首席で卒業したマテオから、魔力をコントロールする、という概念を教わった。

 どうやら一流の魔法使いは、外に流れ出る魔力を制御しているらしい。


「まさか一発で魔力制御できるようになるとはね。やっぱセンスあるよ」

「いや、でも俺には足りないことばかりだ。魔法を、戦いの道具としか見てなかったからな」


 俺は孤児の生まれだ。誰も俺を養ってくれなかった。

 そんな俺にとって、魔法は生きるため、魔物を倒すためだけの道具だ。


 より効率的に、より強い魔物を倒すための武器。それが、魔法。

 だから、魔物を倒す以外の使い道を、俺は知らない。


 一方でマテオはいろいろと、魔法の使い方を知っている。

 俺より賢者してるよ、こいつ。


 ほどなくして、俺たちは薬草の採取ポイントへとやってきた。


 マテオは自分のつづらから、モノクルを取り出す。


「これは薬草用の鑑定魔道具さ」


 この世界において、ものを鑑定する道具はとても希少だ。

 鑑定スキルが、勇者固有のスキルであることからも、その価値の高さはうかがえる。


「随分と古びた魔道具だな」


 マテオのモノクルにはひびが入っていた。

 いつ壊れても不思議じゃなさそうだ。


 俺は物を壊す魔法は得意だが、それ以外の魔法は苦手。

 修復の魔法は使えない、こともないが、使って壊す確率のほうが高そうだ。


 下手に手を出すより、家に帰ったとき、ピュアに修復ビームで直してもらったほうがいいかもしれん。


「ベルさんにはつづらもってもらおうかな。あたいが薬草を拾うからさ」

「わかった」


 マテオがしゃがみ込み、薬草を手に取る。

 ポゥ……とモノクルのレンズが輝く。


「これは違うね。次……」

「おいおい、いちいちそれやるのかよ? 日が暮れるぞ」

「そりゃしょうがないよ。鑑定魔道具で鑑定できるのは、一つずつなんだから」


 魔道具では、か。

 俺はふと思い立ち、スキルを使う。


「鑑定」


 視界いっぱいに、窓が開いた。

 勇者の鑑定スキルは、視界に入ってるものの情報を読み解く。


 魔道具のように、1つずつ鑑定しなくていい。


「回復の薬草だけでいいんだな」

「あ、ああ……ベルさんもしかして、鑑定スキルを使ってるのかい? あたいのために?」


 ……普段なら、ここで勘違いするなとか、そういうひねくれたことを言う。

 だが、俺はマテオの言葉を信じることにする。


「そうだよ。おまえには、世話になってるからな」

「ベルさん……うう、あたい、うれしくて泣きそうだよ……」


 ……マテオが本当にうれしそうにしてる。

 それをみて、なんだか俺もうれしくなってきた。


 ……久しく忘れてたかもしれないな、こういう感覚。


「さて、ちゃっちゃと薬草とろうかね。で、どれが薬草なんだい」


 俺が指示して、マテオが薬草を拾う。

 最初はいいんだが、だんだんと面倒になってきた。


「おまえにも、鑑定スキルが使えればいいのにな」

「勇者のスキルだから無理無理」


 ……まてよ?


「スキルを貸すのはどうだ?」

「? 何言ってんだい?」

「鑑定スキルは勇者のスキルだ。だが、それは勇者が持っているってだけでさ、別に勇者以外が使えないってわけじゃないだろ?」


「そりゃそうだけど……でも、無理だろ。あたいはスキルを所持してないわけだし」

「……なあ、ちょっと実験につきあってもらえないか?」


 ふとした思い付きを、試したくなったのだ。


「いいよ。ベルさんになら、何されてもいい」


 すっ、と俺はマテオに手を向ける。


付与エンチャント


 付与魔法。

 モノに、魔力を付与し、性能をアップさせる魔法だ。


 今まで俺は、属性魔法か、身体強化魔法しか付与してこなかった。

 戦いに使うとなると、その二択だったからな。


 でも、俺はマテオから、魔法には戦い以外の使い道があることを知った。

 ならば、こんなこともできるかもしれない。


「スキル、付与」

「な!? す、スキルの付与!? そんなこと、できるなんて魔法教本に書いてなかったよ!?」


「だろうな。俺の思い付きだ。鑑定」


 俺は鑑定スキルを使おうとした。

 だが、使えなかった。よし。


「マテオ。やってみてくれ」

「あ、ああ……鑑定、ってすごいよベルさん! 鑑定スキルが、使えてるよ!」


 やはりか。

 付与魔法は、こうして他人にスキルも付与できるみたいだ。


 今までは、そんなことできなかった。

 自分の持っている飯のタネを、誰かにあげたくなかった。


 でも、ミョーコゥに来て、俺は少し視野が広くなった。

 おのれのためだけに、力を使うのではなく、他者を信じて、他者に自分の持つものを与えることを。


『新しいスキルを獲得しました。スキル、【技能貸与】を獲得しました』


 突如として俺の頭の中に、女の声が響いた。

 な、なんだこれは……?


「どうしたんだい?」

「いや……」


 とりあえず、この声については後で調べるとしよう。


「それより、新しいスキルを得た。技能貸与っていうらしい」

「どんなスキルなんだろう? あ、今あたいが鑑定を持ってるんだっけ」

「ああ。鑑定スキルは……」


 その瞬間、俺の前に窓が開く。


技能貸与スキルレンド(SSS)

→他者におのれの持っているスキルを複製し、貸し与えることができる。※制限あり


「……どうやら俺のスキルを、他人に貸せるらしい」

「なんだって! そ、そんなスキル聞いたこともないよ! すごいよベルさん、エクストラスキルだ!」


 エクストラスキル……?


「歴史上で、初めて観測される、すごいスキルのことだよ! すごい、エクストラスキル持ちなんて何世紀ぶりさね!」


 ……どうやら、俺はすごいスキルを獲得したらしい。 

 これのおかげで、マテオはさくさくと薬草を拾うことに成功したのだった。


 しかし、ランクアップしたわけじゃないのに、新しいスキルを獲得するなんて。

 それに、あの声は一体……?


【★☆大切なお願いがあります☆★】


少しでも、

「面白そう!」

「続きが気になる!」

「アベル少しずつ人に優しくなってていいね!」


と思っていただけましたら、

広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、

ポイントを入れてくださると嬉しいです!


★の数は皆さんの判断ですが、

★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、

最高の応援になります!


なにとぞ、ご協力お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 長〜く続く、寸止め嬲り殺し。ザマァ度が高くて最高! 僕って変態?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ