26.竜の王も余裕で圧倒
《アベルSide》
俺、アベル・キャスターは元弟子のバカ、もといジャークとの決闘に勝利。
その後、ジャークを断罪し、罪を認めさせることに成功した。
……話は数日後。
俺はマテオの薬屋にいた。
「アベル様~!!」
「大魔導士様ぁ♡」
「こっち見てぇ……♡」
店の外からは、ミョーコゥの街の連中たちの黄色い声が聞こえる。
俺はその声が聞こえるたび、ため息が漏れてしまう。
「大魔導士さま! お疲れですじゃ? 肩でもおもみいたしましょうかっ?」
……俺にそんなことを言うのは、エルフの少女。
魔法使いゼーレン。
元々はジャークが、俺が抜けた後釜としてスカウトした女である。
そいつが何故うちにいるかというと……勝手に居着いたからだ。
俺は……ついにミョーコゥで、大魔導士アベル・キャスターだとバレてしまった。
そこから、ゼーレンは俺になぜか心酔。
そばに置いてくれとものすごい熱心にお願いされた。
そして今に至る次第。
「外の人間がうるさいので、葬り去っていきましょうかっ?」
「……要らん。ちょっとひとりにしてくれ」
たっ、とゼーレンが出て行く。
はぁ……まったく、面倒なことが増えた。
「大人気じゃないかい、ベルさん。街の連中みんな、店の前に居たよ」
買い出しにいっていたマテオ、そしてティアが戻ってきた。
「ごめんなさい、アベルさん。私のせいで……周りにバレてしまって……」
……こないだ、ジャークがミョーコゥに来たときティアは、俺のことを、アベルだと口を滑らせた。
そこから俺の正体がミョーコゥ中にバレてしまった、という次第だ。
「気にするな」
「まあ遅かれ早かれ、バレてただろうしね」
俺……というか、大魔導士アベルは知名度が高すぎるからな。
「まあここド田舎だし、街の連中全員に知られたって言っても、たいした人数はいないからな」
「ド田舎はよけいさね……まあ否定はしないけど」
人口が1000もいかないような小さな街だからな、ここ。
ティアは、でも自分を責めているらしくて、しょぼくれた表情をしてる。
俺はこの子にそんな顔をしてもらいたくなかった。
ぽんぽん、と俺が昔そうしてあげたように、頭をなでてあげた。
「気にすんなって」
「はいっ」
笑顔が戻って何よりだ。
……俺を陥れようとした元凶は、ジャークひとりだけだった。
ティアはこの弱体化の件には、何も関わっていなかったことが証明された。
そのことで心の中にあった、他人への不信感が、若干だが薄れてきている。
人を信じても裏切られる、そう、俺はひねくれてしまっていた。
でも全員がそんな風に、裏切ってくるわけではない……。
少なくとも、ティアは違ったし、マテオや、ヒトミはそういう悪い奴らではなかった。
……少し心を開いてもいいのかなってそう思っている。
「ベルさん、あんたこれからどうするんだい?」
窓ガラスに映るのは、現役時代のアベル・キャスターの若々しい姿だ。
ここへ来る前の、老人と見まがうほどに、しょぼくれた姿とは180度変わってしまっている。
「この姿で、街の外出歩いたら……騒ぎになるだろうな」
「そりゃ魔神を倒した大英雄さまだからね。ミョーコゥはともかく、王都なんて行った日にゃ大騒ぎだろうさね」
ちなみに俺が追放前、王都に居ても大騒ぎになっていなかったのは、誰も俺=大魔導士アベルと気づかなかったからだ。
ジャークたちを拾ったのは、王都から離れた別の街。
そこを拠点としてしばらく生活し、ジャークたちがPT仲間として使えるようになってから、王都へ拠点を移した。
……その頃から調子を崩し、ドンドンと外見が老人のようになっていって、最近じゃ誰も俺を大魔導士と認識してくれなかった次第。
が、今は違う。
ちゃんと現役の頃の姿に戻ってるからな。
どこ行っても騒がれるだろう。
「しばらくはこの街にいるよ」
ミョーコゥでも正体がバレてしまっているがまあこっちの方が人も少ないし、多少住みやすいからな。
「そりゃよかった♡ ダーリンがいなくなったらあたいさみしいもん♡」
「やめろ」
マテオが俺にくっついてくる。
別に嫌ではないが、娘同然のティアの前でやられると、気まずくて仕方が無い。
「あ、アベルさんが嫌がってるじゃないですか! 離れてください!」
「あいよ。……んで、バカ勇者はどうするんだい?」
現在、ジャークは拘束して、薬屋の倉庫にぶち込んでいる。
結界を張ってあるため脱出は不可能である。
まあ魔力感知で常にやつの位置を見張ってるから、逃げ出すのは無理ではあるんだが。
さておき。
「もちろん騎士団に突き出すさ」
やつは罪を犯した。
俺はもうあいつを弟子とも家族とも思っていない。
俺を殺そうとした犯罪者だ。
そいつを捕まえたのだ、騎士団にしょっぴいてもらうのが筋ってものだろう。
「でもベルさんが王都へ行けば凄い騒ぎになるんじゃないかい?」
大転移であっちに行けば、マテオの言ってるとおりになるだろうな。
「かといって、ミョーコゥに来る行商に頼むのもよくない。逃げられるかもしれないからな」
「んじゃ、騎士に来てもらうかい?」
「それが一番だろうな。……だから、王都の騎士団にいる知り合いに、手紙を出しておいた」
「騎士団に知り合いなんているのかい?」
「ああ。古い知人が……な」
と、そのときである。
……凄まじいスピードで、誰かが近づいてくるのを、感知した。
「……早速のご登場のようだ」
「だ、大魔導士さまぁ……! たたたた、大変ですじゃぁ!」
ゼーレンが慌てた様子で、ドアを開けて、中に入ってくる。
思い当たる節のある俺は、入口の方へと向かう。
「ど、どどど、ドラゴンが来たですじゃ! それも……! し、神竜族ですじゃぁ……!」
「神竜族……?」
ティアは知らないようだ。
俺は神竜族に知り合いがいるので、侵入者の元へ向かいながら、説明する。
「古竜を凌駕する力を持つ、高位の竜のことだよ」
「!? そ、そんな竜が……どうしてミョーコゥに……?」
……まあ、ある程度予想はついてるのだが。
街の連中は姿を消していた。
どうやら、神竜族にビビって、逃げてしまったらしい。
ミョーコゥの広場には、1匹の、赤い鱗の竜がいた。
そいつは2メートルほどの小柄な竜だ。
二足歩行するタイプの竜、と言えば良いか。
腕も足も太く、どちらかと言えば亜人に近い見た目かもしれん。
だがやつから放たれる魔力量半端ではない。
ただそこに立っているだけで、空気がビリビリと震えている。
「【アシュローン】」
にぃいい……と赤い竜が笑う。
そして竜……アッシュが凄まじい速さで、こちらに突進してきた。
多分誰も反応できてないだろう。
俺はとっさに身体強化で、動体視力を強化したから、やつの動きが目で追えた。
ガキィイイイイイイイイン!
アシュローンの爪と、俺の風の魔法とがぶつかり合う。
「す、すごいのじゃ! 神竜族の爪は万物を切り裂く恐るべき爪! それを魔法で受けるとは! さすが大魔導士さまじゃあ!」
ゼーレンが驚く一方で、俺たちは距離を取る。
アシュローンは……凄く嬉しそうに口の端をつり上げた。
『征くぞ』
「ああ、こい」
たんっ! と俺たちは空中に飛び上がる。
そこからは攻撃の応酬が繰り広げられた。
俺の放つ風や火などの攻撃魔法を、やつが爪で弾いたりいなしたりする。
決して間合いの内側には入れさせないよう立ち回る。
『甘い……!』
アシュローンが俺に近づく……のではなく、上空へと向かう。
体をのけぞらし、そして大きく吸い込んだ息を吐き出す。
「【竜神業火】!」
ごおぉおおおおおおお!
極大魔法、【煉獄業火球】と見まがうほどの、巨大な火の玉が発射される。
「なんという高熱の炎! 神竜の炎は山をも溶かすという! ど、どうするのじゃぁ!?」
「【反魔法】」
瞬間、竜の炎が一瞬で消え去る。
「竜の炎は体内の魔力を燃やして発射される。魔法みたいなもんだ。なら、反魔法で打ち消せる」
ここで水の魔法をぶっ放すのは素人のやるところだ。
水蒸気爆発がおきて、街に被害がでてしいまうからな。
ぺたん……とマテオを始めたとした、ギャラリーの連中が腰を抜かす。
「な、なんてハイレベルな戦いなんだい……」
「あの神竜族と互角……いや、圧倒して見せるなんて! 大魔導士さまはすごいのじゃぁ……!」
アシュローンは地べたに這いつくばっていた。
反魔法と同時に放った、中級風魔法【風重圧】。
相手を押しつぶすほどの強い風を発生させる魔法である。
やつは俺の魔法によって身動きが取れない状態である。
『まいった、まいったよ。さすがだぜアベル!』
俺が魔法を解く。
すると、ぽんっ、とアシュローンが人間の姿へと戻った。
赤い髪の毛の、美しい女がそこに居た。
赤い鎧を着込んだ、ド派手な女だ。
「お、女!? こやつ……女じゃったのか!?」
「おれは【アシュローン】! 元・【七剣星】のひとり! 竜王国スカイ・ファシアで女王やってるもんだ! よろしく!」
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