25.勇者Side その11
《ジャークSide》
ミョーコゥの大通りには、大勢の人たちが集まっていた。
ティアは、決闘に負け、無様にはいつくばっているジャークを見降ろす。
「……あなたは、アベルさんに呪いをかけてたんですね……。そして、そのことを隠そうとしていたのですね」
ティアの瞳には、ジャークに対する軽蔑の色がはっきりと見て取れた。
アベルは孤児だったジャークを拾い、一人前の冒険者になるまで、手取り足取り教えてくれた。
そんな恩師に対して、呪いをかけて、死の淵まで追い込んだのだ。
……尊敬する師に対して、そのような非道を働いたのだ、軽蔑されても仕方なかった。
「……最低」
「ち、ち、違うんだ! 違うんだよぉティアぁ!」
ティアから完全に軽蔑され、ジャークがとった選択肢は、嘘をつくことだった。
「おれはやってねえ! 呪いなんてかけてない! あの指輪が呪いのアイテムだったことも、ついさっき知ったばかりなんだよぉお!」
ジャークはティアに嫌われたくない一心で嘘をつく。
周りで聞いていた街の人たちが怒り出す。
「てめえ、白々しいぞ!」「この嘘つき!」「見苦しいぞてめえ!」
……街の人たちはアベルの味方だった。
彼はヒドラから街を救った英雄なのだから。
その英雄に呪いをかけ、殺しかけたとなれば、みなその犯人であるジャークに対して憤りを感じるのは自然なことだった。
「ほんとだよぉ! 知らなかったんだぁ! 呪いなんてかけてない! 信じてくれよティアぁ! なぁ!!!!!!!!」
するとティアがぎゅっ、と下唇をかむ。
「……このスキルは、ほんとは使いたくないんです。人を傷つける力だから」
「スキル?」
ティアが両手を前に突き出す。
「スキル【罪の告白】、発動」
突如、ジャークの足元に魔法陣が出現する。
「つ、罪の告白……? なんだよそれ!?」
「ジャーク。あなたは今、その円から外に出れなくなりました。そしてこれから、私の質問に対して、正直に答えてもらいます。嘘をつくと、あなたの体に激しい電流が走り、死ぬほどの痛みが襲います」
「な、なんだそりゃぁ!?」
聖女の持つスキル、【罪の告白】の効果を聞いたジャークの顔から、さぁ……と血の気が引く。
この魔法陣から脱出不可能、しかも嘘をついたら死ぬほどの痛みを伴う電流が流れる。
大勢の前で、嘘がバレてしまう。
「や、やめようぜえティアぁ! こんな酷いことよぉお!」
「……私だって、こんなことしたくないですよ」
ティアはぎゅっと下唇をかむ。
彼女は優しい性格をしている。本当なら人を傷つけるようなマネはしたくないのだ。
それでも、ティアはこの件をはっきりさせておきたかったのだ。
「では、問います。あなたは、この【アベル】さんに、故意に呪いをかけましたか?」
街の人たちがざわめきだす。何か察したような人と、驚いてる人とがいた。
「…………」
当然ジャークは沈黙する。
だが、次の瞬間……。
「うぎゃぁああ……!」
ばちん! と電気が体に流れたのである。
「罪の告白は、回答者が一定時間、質問に答えなかった時も、電流が流れます」
「な、なんだよそれ! ご、拷問じゃねえか! こんなひでえスキルよく幼なじみに使えるなぁ!? ぎゃああ!」
質問に答えないペナルティの電流が走る。
ティアはぎゅっと唇をかみしめる。
彼女もこのスキルが人道に反するスキルだと、拷問に使えるスキルだとわかっている。
わかっているから、こんな便利な自白のスキルがあっても、使わなかったのだ。
ティアはジャークの善性を、信じたかった。
幼なじみが悪いやつではないと。
「どうなんですか?」
「う、うう……の、呪いなんてぇ、かけてねえ!」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!
「うぎゃぁあああああああああああああああああああああああ!」
体全身を激しい痛みが襲う。
それは立っていられなくなるほどの痛みだった。
その場に崩れ落ち、のたうち回る。
痛くて痛くて仕方なくて、ただ叫ぶことしかできない。
「悪意を持って呪いをかけましたね? アベルさんを殺そうと」
「してねえ! ぎゃあああああ! してねえよぉおおお! うぎゃぁああああああ!」
ティアの質問に対して、ジャークが答える。
流れる電流はそのまま、ジャークが嘘をついてるということを証明してた。
アベルに故意に呪いをかけ、殺そうとしたと、ティアを含めた大勢にばれてしまった。
ティアは魔法陣を消す。
「……もう十分です。あなたの罪は白日の下にさらされました。この証言をもって、あなたは法で裁かれることでしょう?」
「はへぇ……? さば、かれるぅ……?」
痛みで気を失いかけていたジャークだったが、しかし、ティアの一言で目が覚める。
「あなたは……いえ、おまえは犯罪者です」
「………………な、に言ってるんだ?」
ジャークを見つめるティアの目は、幼馴染に向けるそれではなかった。
死後罪人をさばく、神の使いのようだった。
「ジャーク・モンド。おまえはアベルさんを呪い殺そうとしました。これはれっきとした殺人未遂行為です」
確かに、ほっとけばアベルは呪殺されていた。
殺人未遂という罪状は当てはまっている。
「これから王国騎士と連絡を取り、おまえを犯罪者として連れていってもらいます」
……犯罪。
罪人。
「え、え、なに、それ? お、おれ……捕まるってこと? お、おれは勇者だぞ!」
「たとえ勇者であろうと、罪なき人を殺せば犯罪者です。おとなしく法の裁きを受けなさい」
……ティアと話してるはずなのに、目の前には別の人がいるようだ。
こちらを気遣うそぶりは一切見せない。
完全に、ティアの中で、ジャークは犯罪者と認定されたようだ。
「罪人の烙印は、この先ずっとついて回ります。もうあなたのことを、誰も勇者と言わないし、勇者とみてくれないでしょう」
ジャークは勇者ではなく、罪を犯した、犯罪者とみられることになる。
そう……勇者としての能力だけでなく、地位も名誉も、失うということだ。
愛する女から、完全に見放されたうえに、だ。
「う、う、うわぁあああああああああ! いやだぁあああああああああああああああ!」
ジャークは泣きわめきながら、立ち上がって逃げようとする。
だが先ほど高圧電流を浴びせられたせいで、体が思うように動かない。
ぐしゃり、とジャークはアベルの前に倒れこむ。
「おっさぁああああああああああああああん! 助けてよぉおおおおおおおおおお!」
この期に及んで、ジャークはアベルに助けを求めた。
「おれ、犯罪者になりたくないよぉお! 助けてぇ! たすけてよぉおおおおおおおお!」
「…………」
アベルもまた、ティアと同様、ジャークに対して冷たいまなざしを向ける。
「なぜ? 俺がお前を助けなきゃいけないんだ?」
「あんたおれの師匠だろぉ!? なぁおっさぁん! ごめんよぉお! 悪気はなかったんだよぉ! ただおれはぁ、あんたがうらやましかっただけなんだよぉおおお!」
ジャークはもうこれ以上失いたくなかった。
愛する女から完全に見放され、勇者の力を失い、残っているのはSランク冒険者としての地位だけ。
だがそれも、犯罪者として捕まった瞬間、失われることになる。
ジャークに残された、たった一つの誇りまで失ってしまったら、もうどうやって生きていけばいいのかわからない。
だからジャークは必死になって、アベルの同情を買おうとする。
「おっさんごめぇええええん! 許してくれよぉおおお! 頼むからぁああああああああああ! なぁ、おっさん、おれはぁ! あんたを師匠としてでなく、本当の父親だと思ってたんだよぉ!」
……ぴくっ、とアベルが反応を見せた。
「なあ父親が家族を見捨てるのかよぉお! なぁ!? 切り捨てないよなぁ! 家族だもんなぁ!」
ジャークがアベルの腕に縋り付く……が。
アベルはその手を振り払った。
「おまえさ……どの口が言うんだよ」
「え……?」
「……俺も、お前を家族だと思っていたよ。大事に育てたさ。でもお前は、そんな俺の思いを踏みにじった」
「あ……」
「家族を最初に切り捨てたのは、おまえじゃないか」
アベルの言う通りだった。
ジャークは、何も言い返せなかった。
もう必要ないと、追放したのは、ジャーク本人である。
「今更、家族面してももう遅いんだよ。しっかり裁かれろ、この犯罪者」
「う、ぎ、ぐぅうううううううううううううううう!」
ジャークは周りを見渡す。
師匠も、幼馴染も、街の人たちも、全員が自分を犯罪者として見てくる。
この街を出たとしても、他人が自分を見る目は変わらない。
社会でまともに暮らしていける場所すらも失ってしまったからだ。
「どうして、こんなことにぃいいい……」
ジャークは心から悔いていた。
こんな状況に陥ってしまったのは、彼の醜い嫉妬が原因。
師匠に素直に師事していれば、ティアの恋路を応援していれば……こんなことには、ならなかった。
そう気づいた時には、もう、すでに何もかもが、遅かったのだった。
かくしてジャークは全てを失った。
だが……これで終わりではなく、むしろここからが地獄の本番だった。
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「終わったなジャークw」
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