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24.勇者Side その10



《ジャークSide》


 ミョーコゥの街にて。

 ジャークはアベルに決闘を挑んだ。


 アベルの一撃を顔面にもろに受けたジャークは、勢いよく上空を舞い、そして無様に地面と激突。


「な、なんだ……このパワー!? 何が起きてるんだよぉ!?」


 アベルは魔法使いだが、身体強化エンハンスという、強化魔法を使って前で戦うこともあった。

 彼は後衛というより、オールラウンダーに近い。


 近接戦闘から遠距離攻撃、あらゆるレンジで戦うことができた。

 それは知ってる。だがわからないのは、その異常な膂力だ。


 弱体化してるはずのアベルが、人を殴って、相手を木の葉のようにぶっ飛ばせるわけがない。


「身体強化使ってんのかぁ!?」


 アベルがゆっくり近づいてくる。

 彼の身体からは、明確な怒りのオーラが漏れている。


 ジャークはアベルの背後に、荒ぶる竜の姿を幻視した。

 ガタガタと身体が恐怖で震える。


「ジャーク。おまえ、俺が教えたこと、忘れてしまってるようだな」

「い、今更師匠面すんじゃねええええええええ!」


 ジャークは剣を引き抜いて、アベルに斬りかかる。

 肩から斜めに向かっての一撃。


 パシッ!


「な!? 受け止めただと!?」


 アベルはジャークの刃を、指でつまんで止めたのである。

 しかも正面からではない。


 刃の逆側、つまり背の部分を掴んでいた。

 相手の攻撃のタイミングを完全に見切ってないとできない芸当だ。


「剣の持ち方も、なんだこりゃ」


 ジャークは一生懸命、剣を引き抜こうとする。

 だがいくら引っ張ってもびくともしない。


「俺は、教えたよな? きちんと基本の剣術を。だというのに、おまえはいつまでたっても剣術を覚えない。聖剣の高いスペックに頼り切り、力でごり押しするばかり」


「ぐ、う、うるせえ! 離せよ!」


 アベルが剣を軽くひねる。

 ぐるん、とジャークの身体が回転する。


「ぶべっ!」


 地面に倒れ伏すジャークを、アベルが見下ろしている。

 その手には剣が握られている。


 こちらは丸腰で、相手は武器を持っている。

 しかもアベルには魔法もある。……完全に不利な状況。


「どうした? もう降参か?」

「ぐ、ぐぐうぅ……」

「武器に頼る戦い方をしてるから、奪われたときに対処できなくなるんだ。……教えたよな」

「う、うるせえ! うるせえうるせえ! さっきからよぉお!」


 師匠面して説教たれてくるアベルが、むかついてしょうが無かった。

 アベルはため息をつくと、剣をぽいっと放り投げる。


「使えよ。斬りかかってこい」

「は、はぁ? なめてんのかてめえ!」

「ああ、そうだよ。今のおまえなんて、剣を持っててもまったく怖くない」


 アベルは完全にこちらを見下していた。

 物理的にも、精神的にも。


 相手は呪いの影響で弱体化してるはず。

 一方こっちは勇者の力があるのだ。


 アベルは武器を捨て、両手を広げている。

 バカなのか。こんな状態で勇者が剣で斬りかかったら、ただでは済まないのはわかっているはずだ。


 身体は真っ二つになって死ぬ……。

 そんなの、勇者の師匠だったアベルが知らないわけがない。


 なのに、武器を捨て、防御の構えを取らない。

 本気でなめているとしか思えなかった。


「死にてえようだなぁ……アベルぅ……! てめえ……殺す! 殺す! てめえはむかしっから、嫌いだったんだよぉおおおおおおお!」


 ジャークは剣を持ち、渾身の力を込めて、アベルの身体に斬りかかる……。

 ふりをして、心臓めがけて突きを放った。


 アベルを必ず殺すのだ、という強い殺意のこもった突き。

 

 バキィイイイイイイイイイイイン!


 だが聞こえてきたのは、肉に剣が突き刺さる音でも、感触でもなかった。


「いっでぇえええええええええええええええええええええ!」


 ジャークはその場でのたうち回る。

 彼の持っていた剣は粉々に砕け散っていた。


 だがそれだけじゃない。

 剣を握っていたジャークの両腕に激しい痛みが襲う。


「ああ、両腕の骨が砕け散ってるな」


 痛みでのたうち回るジャークを見下ろしながら、アベルが無感動にそうつぶやく。


(おかしいおかしいおかしいい! どうなってやがるんだ!? 完全に心臓を潰す一撃だった!? なのになんで生きてる!? 剣が突き刺さらないのはなぜだぁ!?)


 困惑するジャークに、アベルがため息交じりに言う。


「何かわからないことがあったときは?」

「………………あ!」


 事ここに至り、ようやく、ジャークは自分の手札を思い出した。

 いつもアベルに、言われていたことがある。


 ジャークには聖剣以上に、すさまじい武器が備わっていると。

 だが攻撃力のないそれを、ジャークはないがしろにし続けてきた。


 だが、今が使い時だと追い詰められてようやく気づく。


「か、【鑑定】……!」


 鑑定スキル。

 勇者に与えられた切り札のひとつ。


 あらゆる隠された情報をつまびらかにするスキルだ。

 しかし、スキルを使用しても、目の前に情報の書かれた【窓】が出現しない。


「はぁ!? か、鑑定! どうしたんだよ、鑑定! 鑑定! かんてぇええええええええええええええええええい!」


 鑑定スキルは勇者のスキル。

 それが使えないということは……。


 ぶわ……と、ジャークの全身に汗が噴き出る。

 口の中に苦みが広がり、呼吸が荒くなる……。


「な、何が起きてるんだよぉ……おっさぁあああああああん!」

「おまえが一番わかってるんじゃないか?」


 勇者専用武器、聖剣が呼び出せなくなった。

 勇者固有のスキルが使えなくなった。


 それが意味するのは、ひとつ。


「ゆ、勇者の職業ジョブが……な、なくなった……ってこと?」


 残酷な真実を前に、ジャークは泣き叫びながら、首を振る。


「嘘だ嘘だ嘘だ! なんでおれが勇者じゃなくなるんだよぉお!」


 そのときだった。


『ぴゅい! おまえが、ちちに呪いをかけたからなのね!!!!!!』


 突如、アベルの背後に巨大な白い竜が出現する。

 全身から絶えず、まばゆい白い光を発するドラゴンは、神の使いかと思うほどに神々しい。


「な、なんだてめ……」

『ちちと契約した、ドラゴンなのね! この、あくま! よくもちちに呪いかけたのね!』


 どくんっ! とジャークの心臓が身体に悪いはねかたをした。

 アベルに呪いをかけたことは秘匿事項だった。


 それをこの突然現れたドラゴンが、秘密を大声で暴露したのである。


「な、て、てめ……デタラメ言うなぁ!」

『でたらめじゃないのね! ぴゅあにはわかるのね! のろいをかけたのはおまえ! そののろいが返ってきた! だからおまえは力を失ったのね!』


 はっ、とジャークはアベルを見やる。

 彼はしかし……黙ってこちらを見つめていた。


アベルの表情に変化はない。驚いてる様子はない。


「俺が気づいてないとでも、思ったのか……? おまえの、薄汚い嘘に」

「あ……ああ……」

「まあ、もっとも呪いかけられてたって気づいたのは、呪いがとけた後だったけどな」


 つまり、さっきジャークと再会したさい、彼のついた嘘にすでに気づいていたのである。


『てぃあに、わるいことしちゃったのね。一番わるいやつ、こいつなのね!』

「あ、ああ……ああ……」


 アベルがこちらに近づいてくる。

 彼の身体からほとばしる、すさまじい力の源泉に気づいた。


 そうだ……。


「お、おっさん……あんたに……勇者の力が……?」

『そうなのね!』


「ふ、ふざけんな! お、おれの力! それはぁ……! おれのだぞぉお!」


 ジャークは飛び上がり、アベルの首筋にかみつこうとする。

 だが、アベルはさっと回避し、がら空きのジャークの腹部に、ケリをかましてきた。


 ボゴォオオオオオオオオ!


「がはぁあああああああああああああ!」


 ジャークはボールのように吹っ飛ばされ、そして地面に落ちる。


「げほげほげほ! うぐ、げほ、おぇええええええええええ!」


 ジャークが吐き出したのは、胃の内容物ではなかった。

 大量の血が口から出て、目の前に血だまりを作っていた。


『おまえは力を失っただけじゃないのね! 呪詛返し、ちちにかけてたのろいが、何倍にもなって返ってくる……! じかんがたてば、もっともっと、おまえはぼろぼろになるのね……!』


 恐ろしい未来を宣告され、ジャークは恐怖で身体を震わせる。


「そ、そんなぁ~……」


 だが、失うのは、勇者の力、若く健康な身体だけでなかった。


「ジャーク……」


 いつの間に、目の前には彼女がいたのだ。

 ティアが自分を見る目には、明確な怒り、そして憎しみが込められていた。


「てぃ、てぃあぁ~……」


 ここがどん底ではなかった。

 ……地獄の入り口に過ぎないのだ。


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― 新着の感想 ―
幼い頃から家族みたいに育てられた子が親に呪いをかけるのも気分悪いし、それが判明したうえで全てを失ってさらにこれからも弱体化していく息子を本気で殴れる親 この作者家族になんか恨みでもあるんか
[一言] いやまあ、弟子がこうなのは師匠のせいの部分が多大にあるから・・・
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