23.勇者Side その9
《ジャークSide》
ジャークはふと目覚めると、目の前には知らない天井があった。
「……気づきましたか、ジャーク」
その声を聴いて、意識がはっきりとする。
ジャークの幼馴染にして、聖女のティア・セラージュがそこにいた。
数日ぶりのティアとの再会。
おもわず感極まって泣いてしまう。
「ここは?」
「ミョーコゥの薬屋です。あなたたちは櫛形山で倒れていたのです。門番の方が発見し、ここへ連れてこられたのです」
ジャークは改めて周りを見渡す。
木造の、そこそこ広い家の中にいるようだ。
つん、と鼻をつく異臭は薬のにおいのようだ。
簡素なベッドが二つあり、ひとつはジャーク、そしてもう一つはゼーレンが使っていた。
「あんなとこで何をしていたのですか?」
「ティアに会いに来たんだ! おれのパーティに戻ってきてほしくてよ!」
しかしティアは小さく息をつき、首を横に振る。
「無理です。私はもうあなたのパーティに戻るつもりは毛頭ありません」
やはりティアの、離脱の意思は変わらぬようだ。
「無理って……そんなきっぱり言わなくてもよぉ」
「無理なものは無理なのです。そもそもあなたと顔を合わせるのだって本来だったら嫌だったんですから」
どうやら、ティアは本当にジャークに対して、嫌悪感を抱いているらしい。
だがその理由が全く見当がつかない。
「なあ、何怒ってるんだよ。おれ、ティアに嫌われるようなことしたか……?」
「自分で考えてください。私はあなたのこと嫌いですし、パーティに戻るつもりはないです」
強くティアに拒絶されて、泣きそうになるジャーク。
だが、ここであきらめるわけにはいかない。
ジャークにとって、ティアはなくてはならない存在なのだ。
失ってようやく、彼はそのことに気づいたのである。
なんとかして、ティアを自分の手元に置きたかった。
「どうしても戻ってきてくれないか?」
「はい。そもそも私は、ここでやることが出来たので、当分は王都に帰るつもりはないですし」
「やっぱり、師匠がここにいるからか? だからミョーコゥに来たんだろ?」
古竜を倒した最強の魔法使い、師匠。
ティアはそいつに会いに、ミョーコゥに来たのだと思った。
「? なんですかそれ? 違いますよ。私がここに来たのは、ここにアベルさんがいるからです」
突然アベルの話題が出てきて、ジャークは困惑する。
追放した後、アベルがどうなったのか、彼は全く気にもしていなかったのだ。
そのときである。
「アベルさん! お帰りなさい!」
薬屋の入り口には、アベルがいた。
自分が呪いをかけて、体をボロボロにしたのち、パーティを追い出した相手。
ジャークは久しぶりにアベルの顔を見たのだが、驚きを隠せなかった。
(なんだこのおっさん、前より元気そうじゃねえか……?)
かつてのアベルは、髪の毛が真っ白で、咳を繰り返していた。
その姿は、とても30代には見えず、老人かと見まがうほどだった。
だが今はどうだろう。
(髪の色、一部だけ白髪になってるが、それ以外は元の茶色に戻ってやがる。咳もしてねえし、背筋もピンとして、まるで若返ったようだ……)
呪いでボロボロにしたアベルが、今こうして元気そうなにしてるのが、気になった。
だから理由を聞いてみることにしたのだ。
「お、おっさん……ひさしぶり。元気そう、じゃねえか。何かあったのか?」
「アベルさんは、呪いにかかっていたのです。でも、呪いが解けて元気になったのですよ」
……一瞬、頭の中が真っ白になった。
アベルの呪いが解けたことに驚いたのではない。
ティアが、呪いのことを知っていたからだ。
(まずい! ティアはおっさんのこと慕ってやがった! おっさんにおれが呪いをかけたって知ったら嫌われちまう……?)
ジャークは必死にごまかす言い訳を探していた。
……その時点で、もう駄目だった。
ここで素直にごめんなさいをしておけば、良かったのだ。
「おまえたちからもらったこの指輪にはな、呪いがかかっていたらしいんだ」
(あ、あれ……? アベルのおっさんのやつ、責めてこない……?)
もしも呪いをかけた犯人=ジャークだと、アベルにばれてるのであれば、そのことを直接指摘してくるはず。
「呪いの指輪と気づかずに、買っちまったんだってな」
アベルがこちらをじっと見つめてくる。
「もう一度聞くぞ? おまえも、ティアと同じで、呪いの指輪だと気づかずに、買っちまったんだな? 素直に謝るなら、このタイミングだぞ」
……そこまで言われて、ジャークは、こう答えた。
「ああ、知らなかった! わ、悪かったなおっさん!」
(うっは、ちょーラッキー。このおっさん、おれが呪いをかけたことに気づいてねえ!)
……ジャークは素直に謝ることよりも、ごまかすことを選んだのだ。
(勝手に都合のいいように解釈してくれて助かったわぁ。これでティアに怒られずにすむ)
ジャークはアベルを弱体化させたことに対して、何の罪悪感も覚えていないのだ。
そんな彼が、正直に罪を認めるはずもなかった。
罪がバレずに済む道があるなら、迷わずそっちを選ぶ。
アベルは天井を見上げて、何かつぶやく。
「……最初から、そういうやつだったんだな」
「ま、まあなんにせよだ! おっさんが元気になってよかったなぁ、ティア!」
ジャークがそう言うと、ティアが「そうですね、良かった」と少しだけ笑顔を見せた。
「おっさんも元気になったし、ティアがここにいる理由はもうねえだろ? 王都に帰ろうぜ? な?」
するとティアは首を横に振る。
「帰れないです」
「な、なんでだよ……? おっさんもう元気になったじゃねえか。お前がここにいる理由なんてないだろ?」
するとティアが、こんなことを言う。
「あります。だって私、アベルさんと契約のキスをして、従者となったので」
アベルと……ティアが、キス……?
「キスっておま……おっさんとキスしたのかよ!?」
違うと言ってくれ! とジャークは心から祈った。
愛する女と、自分が嫌っているおっさんがキスをした。そんなこと許せるはずがなかった。
だが、ティアは頬を赤らめながら、しっかりとうなずいた。
「う、うそだ……嘘だ嘘だ嘘だぁああああああああああ!」
愛する女の初めてのキスを、おっさんに奪われた。
自分の欲しかったものが永遠に失われてしまい、彼は心の底からショックを受けた。
……そして、次第に湧き上がってきた感情は、怒り、だった。
「おっさんてめえええええ!」
ジャークはベッドから起き上がると、アベルの胸ぐらをつかむ。
「ティアに【無理やり】キスするとか、どういう了見だぁ!? あああ!?」
契約がどんなものなのかわからない。
しかし、さっきティアはここを離れられない理由があるといった。
「おっさんてめえ! 嫌がるティアを脅してキスし、契約を結ばせ、ここから離れられないようにしたんだろ!?」
……ティアはあきれるを通して、唖然としていた。
黙っているアベルに向かって、ジャークはこんなことを言う。
「決闘だ! おっさん、おれと決闘しろ! おれが勝ったら、契約を解除してティアを自由にしろ!」
アベルは、ティアに強制的に契約を結ばせ、自分の所有物にしてる、悪いやつだ! そんなやつからティアを守るのだ、と使命感に燃えるジャーク。
「何を馬鹿なことを……! だいたいアベルさんがこの決闘に乗る必要なんて全然ない……」
ティアの発言を、しかし、アベルは遮る。
「いいぜ、ジャーク。やろうじゃないか、決闘」
「アベルさん!? どうして……?」
アベルを見たティアが、怯えたように体をすくませる。
「俺もこいつに、むかついてたところだからな」
アベルたちは薬屋の外へ出る。
ミョーコゥの大通りにて、アベルとジャークは相対する。
「決闘のルールは簡単だ! 先に相手に参ったって言わせたほうが勝ち! それでいいな、おっさん!」
「それでいい。さっさと始めよう」
大通りでの決闘だからか、ギャラリーがそこそこいた。
ジャークはニヤリと笑う。
(おっさんはこないだまで弱体化しつづけたんだ。いくら呪いが解けたからって、強くなったわけじゃねえ!)
呪いが解けたということは、弱体化しなくなったということであり、強さが元に戻るわけではない……と思っている。
彼は無学だったので、呪詛返し、というものの存在を知らなかったのである。
「じゃあ始めるぜおっさん! 決闘、開始ぃい!」
開始の合図と同時に、一瞬でアベルが間合いを詰める。
アベルはジャークの顔面を、魔力を込めたこぶしで、勢いよく殴りつける。
ばきぃいいいいいいいいん!
「ぶべぇええええええええええええええええ!」
すさまじい威力のパンチを受けて、ジャークは木の葉のように吹っ飛ばされる。
ぐしゃりと落下したジャークを、アベルが見下ろして言う。
「立て、ゲス野郎。まだ決闘は終わってないぞ?」
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