22.勇者Side その8
《ジャークSide》
一方、勇者ジャークは魔法使いゼーレンとともに、王国の北部、櫛形山のふもとまで来ていた。
「くっそ……ミョーコゥはまだかよ」
現在、ジャークたちを載せた馬車は北へ向かって進んでいた。
ミョーコゥは王国最北端に位置するので、遠いのは仕方なかった。
ジャークはとにかく早くティアを取り戻したかった。
さっさと行って、師匠をぶったおしたいので、目的地までの道のりはずっとイライラしていた。
「なあおいゼーレン。転移魔法でぱっ、とおれらをミョーコゥまで運んでくれよ。できるだろ? 魔法使いなら」
ぎろり、とゼーレンがにらみつけてくる。
「説明したじゃろうが。自分だけでなく、自分以外も転移させる魔法は、古代魔法といって、現代で使えるものはおらんのじゃ!」
自分以外も転移させる、【大転移】の魔法。
しかしジャークはゼーレンの言葉を信じていなかった。
「アベルのおっさんは普通に使ってたぜ? 使えないおまえが雑魚魔法使いなんじゃねえの?」
ジャークはアベルとずっと一緒にいるため、魔法使いの基準が全て、アベルになってしまっているのだ。
……それが、最高峰レベルだと知らず。
「このクソガキ……! 何度もわらわを侮辱しよって! 消し炭に……」
と、そのときである。
ガタンッ、と馬車が急停止したのである。
「なんじゃ?」
「すみません、ゼーレン様。魔物が出ました」
御者台に座ってる、ゼーレンの従者がそういった。
「よっしゃ! 本番前の肩慣らしだ!」
ジャークは市販品の剣を手に取って、荷台から下りる。
「おい貴様、聖剣はどうした?」
「ふん! 聖剣なんてなくてもなぁ、おれは勇者、十分に強者なんだよぉ!」
ジャークの中では、こないだの砂蟲戦での敗北は、聖剣が使えなかったからではなく、聖剣がないことに驚き、本来の力が出せなかったから……と思っている。
聖剣がなくとも自分は戦える……そう、勘違いしてる。
だからこないだの大敗北があっても、嬉々として魔物の前に躍り出ることが出来たのだ。
……阿呆の極みであった。
せめて出発前にきちんと、自分の体の状態を調べることができれば、この先恥をかかずに済んだというのに。
……もっとも自らを省みる、ということができるのであれば、そもそも分不相応にもアベルに嫉妬して、追放なんてしないだろうが。
「相手は……なんだ雑魚じゃねえか」
ジャークの目の前には、巨大なネズミの魔物がいた。
巨大鼠。
人間の子供くらいの大きさの、Bランクモンスターだ。
「はんっ! こんなの中堅冒険者でもひとりで倒せるくらいの雑魚! おれひとりで十分やれるぜ!」
ジャークは巨大鼠の前に立ち、剣を構える。
「おいゼーレン! 手ぇ出すんじゃねえぞ! これはおれの得物だからよぉ!」
砂蟲の敗北で、傷付いた自尊心を、この雑魚を倒して回復させるつもりだった。
それゆえ、ひとりで戦おうとしてるのである。
「ふん……そんな巨大鼠ごときに、手こずるでないぞ。この櫛形山を超えればもうすぐ目的地なのじゃらかな」
「わかってるって! こんな雑魚……おれひとりで十分だぜ!」
巨大鼠を前にして、にやりとジャークが笑う。
「勇者に会ったのが運の尽きだったなぁ!」 おら死ね! 裂破斬……!」
ジャークは剣スキルの一つ、裂破斬を放つ。
大上段の構えから、脳天を割る一撃……。
だが……しかし。
スカッ……!
「な、なに!? 避けやがっただと!? お、おれの必殺技を!?」
その一撃は、あまりに遅く、そして切れが悪かった。
とても必殺技とは言えない、お粗末な一撃。
ジャークは呪詛返しの影響でだいぶ弱体化してしまってる。
当然、スキルによる一撃は、その威力、速度、キレ、全て低下してしまっているのだ。
「GISHAA……!」
巨大鼠の反撃。
素早くジャークの腕にかみつく。
「いってぇええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
巨大鼠の前歯は、ナイフのように大きくそして鋭利だ。
それがずぶり、と深く腕に突き刺さり、なおも食い込んでいるのだ。これで痛くないわけがない。
「ああくそぉおお! 離れろ! 離れろぉおお!」
ジャークは噛まれてないほうの腕で、巨大鼠の顔面を何度も殴りつける。
だが、弱体化した腕力で、魔物にダメージを与えられるわけもない。
何度殴っても巨大鼠は自分を離そうとせず、むしろ、力を込めてきた。
ぐじゅぐじゅ……と歯が肉に食い込む音がし、ジャークを怯えさせる。
「ぜ、ぜぇれええええええええええん! 何やってんだよぉ! 魔法でこいつをぶっ殺してくれよぉお!」
馬車で待機していたゼーレンが、鼻で笑う。
「断る。自分ひとりでやるんだろう?」
ゼーレンは仲間になったばかりだ。
ジャークとの間に仲間意識なんてものはない。
直前に馬鹿にされたこともあって、ジャークを助けようとしてこない。
「いいからぁ……! 魔法使えぇ! 早くぅ!」
「……ちっ。仕方ないな。一つ貸しじゃ。……氷の精霊よ、我が杖先に集い、氷の針を……」
ぶつぶつと詠唱を始めるゼーレン。
「アアもぉおお! いつまで詠唱してんだよぉお! 詠唱無しで魔法使えやぼけぇええ!」
「いちいち腹の立つやつじゃな……! 【氷針】!」
初級の氷魔法……【氷針】。
短めのペンくらいの、細い氷の針を出現させ、射出し攻撃する魔法だ。
巨大鼠の頭上に針を出現させ、射出。
スカッ……!
巨大鼠はジャークからはジャンプして離れる。
針は巨大鼠がさっきまで立っていた場所に突き刺さり、【直ぐに消えた】。
「お、おい外れたぞ! どこ狙ってやがるんだよぉ!」
「うるさい! そちがもっとネズミを引きつけておらぬから!」
「おれのせいだっていうのか……ぐはぁあああああああ!」
ジャークは巨大鼠からタックルを食らう。
後へ吹っ飛ばされて、無様に地面を転がる。
「う、ぐ……げえええええ!」
ジャークは口からゲロを吐いて動けなくなる。
腹部に甚大なダメージを受けていた。
また、その際に胸骨も折れてしまったのか、呼吸するたび凄まじい痛みが全身に広がる。
「い、ってえ……いてえよぉお……!」
「GISHISHI……!」
巨大鼠は倒れ伏すジャーク……。
ではなく、狙いをゼーレンに変えたようだ。
「お、お、おいバカ! こっちにくるな! おいジャーク! しっかり敵を引きつけろ、ジャーク!」
「いてぇよぉお……いてえよぉおお……」
……二人はまったく連携が取れていなかった。
ティアが言ったとおりだった。
『パーティを組んだばかりなのだから、きちんと連携を確認しよう』と。
「こっちにくるな! あ、あっちいけ……! お、おいおまえ何とかせよ!」
「いてえよぉお……いてよおぉお……」
ゼーレンは確かに優れた魔法の使い手ではある。
だが圧倒的に、実践での経験が不足していた。
一方、ジャークは自分の状態をしっかりと把握(認識)できていなかった。
その結果がこのみっともない、連携もへったくれもない戦闘である。
「GISHAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
巨大鼠がジャークに襲いかかる。
「もうだめだぁああああああ!」
と、そのときだった。
バシュッ……!
突如、巨大鼠の眉間を、何かが打ち抜いたのである。
巨大鼠は脳に甚大なダメージを受け、一瞬で動かなくなった。
「はぁ……はぁ……はぁ……た、たすかった……のかぁ……?」
ジャークは自分が助かったことに、心から安堵する。
一方ゼーレンはというと……。
「なん……じゃ、これは……」
動かなくなった魔物。
そして、脳天に突き刺さる、【氷の針】を凝視していた。
その目は大きくむかれ、そして、声を震わせている。
まるで、とんでもないものを見てるようだ。
「これは【氷針】か……? こんな大きな針なんてありえん! しかも敵の急所を正確に打ち抜くなんて、精密な魔力操作が必要じゃ……!」
どうやらゼーレンは、誰かが使ったであろう、氷針の魔法に驚いてるようだ。
「しかも、こんなに長く氷の針が持続してるじゃと!? つまりそれだけ魔力が大量に注ぎ込まれてるってことじゃ! ……そんな……これは、魔法なのか……これと比べれば……わしのなんて……児戯に等しいじゃ、ないかぁ……」
ゼーレンは何やらショックを受けたようだ。
ジャークは痛みでそれどころではない。
「いてえ……いてえよおぉ……だれか、たすけてくれよぉ……だれかぁ……」
打ちひしがれるゼーレン。
痛みで悶え苦しむジャーク。
ジャーク・パーティの正式な初戦闘は、散々な結果で終わったのだった。
【※とても大切なお知らせ】
少しでも
「ジャークよえええ!」
「ゼーレンもあんま大したことないな」
「魔物瞬殺したアベル強かったんだな!」
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