21.弟子を教育(したら結果的に人助けしてた)
場所は櫛形山ふもとの、森のほうへと移動する。
「とりあえず、新しい力を試してみろ」
サムライ少女ヒトミの職業は、二刀流剣士から剣聖(SS)へと進化した。
それにより、スキル【絶対切断】というものを覚えたらしい。
「アベルさん、勇者しか持たない鑑定スキルを発現させるなんて、さすがです!」
……ティアはどうやら、俺が勇者の力を覚醒させたことに対して、特段違和感を覚えていない様子だ。
やつから奪ったかもしれないこの力。しかし申し訳なさ、というものは覚えない。
ティアと違ってあいつは俺に対して明確な害意を向けてきたし、危うく殺されるところだった。
俺はもうあいつを弟子とも家族とも思わない。
だから、この力の由来については、ティア同様に気にしないことにした。
「まずはこのぶっとい木を、切ってみるでござる!」
太ったくまの胴体くらいある、太い木を前にして、ヒトミがそう宣言する。
魔力で体を強化しても、この太い木を切るのは苦労しそうだ。少なくとも、一発では切れないだろう。
「スキル、【絶対切断】……!」
■絶対切断(SS)
→生物、非生物にかかわらず、あらゆる物を、防御力・強度を無視して切断できる。
「ぜやぁああああああああ!」
ズバンッ……!
ヒトミは刀を振る。
刀身が大木の幹にぶつかるも、そのまま何の抵抗もなく、すり抜けていった。
ばきばきばき! どしぃいいいいいん!
「すごいですヒトミさん! こんな太い大木を、一発で切断するなんて!」
ティアとヒトミがそろって、スキル絶対切断の威力のすごさに驚いてた。
……大勇者に覚醒する前の俺だったら、多分彼女らと同様の感想を抱いていただろう。
山を穿つほどの力を持ってしまったので、どうしても、ヒトミの斬撃が凄いと思えない自分がいる。
いかんな、感覚がバグって頭おかしくなりそうだ……。
「次は私の番ですね。大聖女の新しい力……【全回復】を試します」
■全回復(SSS)
→あらゆる有機物を、正常な状態へと回復させる。
「全回復!」
その瞬間、切断された木が強く輝きだす。
倒れているほうの幹が浮かび上がり、根本とくっつき、そして切断面がきれいに消える……。
あっという間に、倒れた木は元の大樹へと戻ったのだった。
「おお! なんという回復力でござる!」
「ありがとうございます。アベルさん!」
……ティアが俺に笑顔で頭を下げる。
「アベルさんのおかげで、こんなにもすごい力を手に入れることができました!」
「……別に。ただ俺は契約を結んだだけだ」
「契約してなかったら、大聖女になれなかったですし。やっぱり、アベルさんのおかげです」
この凄い力を得られたのは、ティアにその素養があったからだ。
俺はただきっかけを与えたにすぎない。
「しかしベルさん、やっぱ規格外だねえ。ただの魔力経路をつなげるだけの従者契約で、SSランク二人作っちまうなんて。」
「だから俺は別に……」
と、そのときだった。
俺の魔力感知に、異常な反応があったのだ。
「ヒトミ、ティア。おまえたちはここでおとなしく待ってろ。俺はちょっと用事で街に戻る」
「「わかりました!」」
俺は二人を残して、森の中へと向かう。
「どうしたんだい? ベルさん」
……マテオがいつの間にか、俺の後ろに居やがった。
「……待ってろっていただろうが」
「あの二人にはだろ? あたいは言われてないよ」
すました顔でそんなことをのたまう。
……減らず口を。
「何かあったんだろう?」
「……まあな。魔物の大軍だ。こっちにやってくる」
「! そうかい……やっぱり」
魔物の大軍が来てると告げたのに、マテオは少し驚いただけだった。
おびえた様子や、姪のいる街を心配するそぶりはない。
「ま、ベルさんがいれば大丈夫でしょ? 街を守ってくれるんだろう?」
「……違う。あくまで、不肖の弟子のしりぬぐいだ」
魔物の大軍が来ている理由。
それは、先ほどのティアたちが放った強い力を、魔物達が感じ取ったからだろう。
絶対切断、そして全回復。
どちらも規格外に強い力だ。
そんな力が自分達のすぐ近くで行使されたのだ。魔物達は驚いて、強敵が居ると勘違いしてしまったに違いない。
「力を不用意に使わせた、俺のミスだ。だから俺が片付ける。それだけ」
「そうかい。ほんと優しいひとだね。ベルさんのその不器用なとこ、好きだよ♡」
魔物の大軍、といっても雑魚の群れだった。
俺は初級氷魔法【氷針】一発で、大軍を瞬殺した。
「まさかこの大群の魔物を、初級の魔法で瞬殺しちまうなんて。やっぱりベルさんの強さは別格だね」
雑魚魔物たちの眉間には氷の針がぶっ刺さっている。
氷針は本来、手のひらサイズの氷の針を生成し、単体攻撃する魔法。
「針のサイズが騎士の剣並みにでっかくなってるし、数も100以上だせるなんて。やばすぎるねこれは」
「これでも、かなり手加減したんだがな……」
「これで手加減したのかい!? はぁ~……ベルさん、すごすぎだよ」
こないだの山吹っ飛ばした件があったからな、同じ轍を踏まないように、かなり力をセーブしたつもりだが……。
まさか、初級魔法をかなり手を抜いて、この威力とは。
「さ、ベルさん。さくっと死体を回収し、さっさとあの子らのもとへ帰ろうかね」
収納魔法で雑魚魔物の死体を回収し、俺はティアたちのもとへ戻る。
が、そこには彼女達以外にも人がいた。
「よぉブラザー!」
「おまえ……確か、モンバ」
「そう! ミョーコゥを守る門番の、モンバ・シューエイとはおれっちのことだ。よろしくお嬢さんがた」
自棄に説明がかかった口調だったのには、ティアへの自己紹介だったらしいな。
「何しに来た?」
「街の連中に頼まれてさ。ベルさんにちょいと、依頼しにきたんだ」
「依頼……?」
「おうさ。実は困ったことが……」
「断る」
俺ははっきりとそう言った。
「そもそもなぜ俺に頼む?」
「いやそりゃ、ほら、ベルさんは街をヒドラから救った英雄だし……」
なるほど、こないだも街を救ってくれたから、今回も頼む、ということか。
「俺は英雄でもなければ、便利屋でもない。引退した身だ。困ってることがあるなら冒険者にでも頼めばいい」
俺はもう他人の面倒事に首を突っ込むのは辞めたのだ。
善意で誰かを助けるようなことはしない。
「……ま、ベルさんの言うとおりだな。悪かったね。あんたを便利屋みたいに使おうとしちゃって。他をあたるよ」
モンバが帰ろうとするが、ヒトミが彼を呼び止める。
「まってくだされ! 拙者が相談に乗るでござるよ!」
「私もです! 何かお力になれるかと!」
……どうやら俺と違って、弟子2名はこの件に首を突っ込むらしい。
お人よしなやつらめ。
「おお、助かるぜお嬢さんがた!」
「して、依頼内容は?」
「最近、巨大鼠が異常繁殖して、田畑を荒らしてきて困ってんだ」
……巨大鼠、だと?
「確か、Bランク程度の雑魚魔物でござったな」
「いやBは雑魚じゃないんだが……まあいい。櫛形山近辺を縄張りとする巨大鼠たちを、あんたらに倒してもらいたいんだ」
「了解でござる! では、拙者とティア殿がその依頼を請け負うとうことで!」
どうしてこんなタイミングで……。
俺は面倒事に巻き込まれない様、こっそり逃げようとしたのだが……。
「あー、モンバ。悪いけど巨大鼠、もうベルさんがやっつけちまったよ」
「なにぃいいい!? ほんとかい、ベルさん!?」
マテオが勝手にモンバに言ってしまった!
さっき、雑魚魔物を、俺が倒してしまったと!
「なんでバラすんだよ……!」
「あきらめなベルさん。遅かれ早かれ、ばれてたよ」
まあ確かに、ティアたちが巨大鼠のところへいけば、魔物が居なくなってることに気づく。
魔法を使ったので、ティアが、俺の犯行だと気づいてただろうけど……。
モンバのやつがむかつく笑みを浮かべながら、俺の隣にやってきて、肩をバシバシたたく。
「あんたってもぉ~! なんだよさっきの、ツンデレかよぉ!」
「違う。誤解だ。街のために倒したわけじゃない」
「うんうんわかるわかる。照れてんだよな! 別にあんたのことなんて好きじゃないんだからね的なね!?」
「意味がわからん……」
しかし結果的に、冷たい態度をとりながら、実はいいひとみたいなムーブをかましている。
「アベ……先生!」
ティアが俺の名前を言いかけるも、マテオから事情を聴いてるのか、先生と呼んできた。
「やっぱり先生は、優しくて素敵なおかたです!」
「街のために人知れず敵と戦うなんて、かっこいいでござる!」
……弟子2名の評価が爆上がりしていた。
こいつらまで、俺がツンデレだと思ってやがるのか……。
「さっそく街の連中に教えてくるぜえい! ベルさんはやっぱり頼りになるすっげえ人だってよぉ! おおいみんなぁ!」
俺が止める暇もなく、モンバのやつが山を下りていった。
「これでベルさん、街の頼れる便利屋的ポジションになっちまったね。次も来るよ」
「……どうしてこうなった」
「あんた根っこが善人なんだから、悪ぶってみても無駄だよ。いい人のもとには人が集まるもんさ」
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「ツンデレわろたw」
と思っていただけましたら、
広告の下にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!