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205/210

205.



 首都へと戻った俺たちは、俺たちの拠点兼自宅である茶屋へと帰ってきた。

 暖簾をくぐると、香ばしい茶の香りが漂ってくる。

 その奥の席で、帳簿を片手に優雅に茶を啜る女性が一人。

 マテオだ。

 俺の恋人の一人であり、姉御肌で面倒見の良い、頼れるパートナーである。


「おかえり、ベルさん」


 マテオは俺の顔を見るなり、ヒラリと手を振った。

 だが、その視線が俺の背後――恭しく付き従うキキョウへとスライドした瞬間、ふっと細められる。

 そして、深いため息を一つ。


「……はぁ。ベルさん、またかい?」

「えっと、マテオ? まだ俺、何も説明してないんだけど」

「言わなくても分かるよ。どうせ、行き場のない訳ありな子を拾ってきたんだろ? それも、ベルさんのことが大好きで仕方がないような子をさ」


 ギクリ。

 図星だ。

 何も言えねえ。

 マテオは察しが良い。良すぎる。


「まったく……あんたは本当に、放っておけない人だねぇ」

「いや、今回はちょっと事情が複雑でさ」

「いいよいいよ、細かいことは。どうせベルさんのことだから、成り行きで助けちゃったんだろ」


 マテオは苦笑しながら、キキョウに向かって手招きをした。


「あんた、こっち来な。悪いようにはしないからさ」

「はっ! 神の御使い様!」


 キキョウがマテオに向かって深々と頭を下げる。

 御使いって。まあ、当たらずとも遠からずか。

 マテオはキキョウの様子を見て、やれやれと肩をすくめる。


「この子の面倒はアタシが見るよ。他の子たちへの説明や、生活の基盤の手配も、アタシがやっておくから」

「うう、すまんマテオ。いつも頼りにしてる」


 俺が頭を下げると、マテオは「ふふん」と得意げに胸を張った。

 そして、少しだけ意地悪な瞳で俺を見上げる。


「当然さ。困ったことがあれば、アタシを頼りな。ベルさんは、戦うこと以外はてんで役に立たないんだからさ」

「ひ、ひどい! 俺だって、これでも一応は領主だし、神様なんだけど!?」


 俺が抗議すると、マテオは心底意外そうな顔をした。


「あら? 違ったかい? 書類仕事はからっきし、女心には疎い、おまけに拾い癖がある。アタシのサポートなしで、ベルさんがまともに生活できるとでも?」

「うぐっ……」

「ほら、図星だろ?」


 マテオがテーブルの下で、俺の脛をコツンと小突く。

 その顔は「しょうがない人ね」と呆れつつも、どこか慈愛に満ちていた。

 完全に尻に敷かれている。

 悔しいが、言い返せないのが俺の弱いところだ。


「分かったよ。全部任せるよ、マテオ」

「はい、よろしい。素直なのが、ベルさんの一番の長所だよ」


 マテオは満足げに頷くと、俺の茶碗に新しい茶を注いでくれた。



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