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203/210

203.不気味なコート



 鬱蒼とした森の中。木漏れ日が差し込む小さな空き地で、俺たちは邪教徒キキョウを問い詰めていた。


 俺たちが捕らえた下手人――邪教徒は、黒衣ブラックウーズ・コートという奇妙なコートを身に纏っていた。

 一見するとただの黒い外套だが、どこか生き物のような、ぬらりとした光沢がある。


 全知全能の化身であり、俺の娘、ミネルヴァが、そのコートにそっと触れる。

 彼女の指先から、青白い魔力の光がコートへと流れ込んでいく。検索が始まったのだ。


 しばらくして、ミネルヴァがゆっくりと顔を上げた。


「パパ……これは、魔物でできています」

「? ……ミネルヴァ、それがどうした?」


 俺は眉をひそめる。

 きょうび、魔物の素材で作られた物なんて、珍しくともなんともない。

 例えば、白狼の毛皮は、なめすと耐火の衣になる。

 魔物の素材は、優秀な武器、防具になる。

 そんな風にして、俺たち人間は、魔物を利用して生きてきた。


「違います。魔物なんです、このコート」

「は……? 魔物?」

「はい。ブラックウーズという、スライムでできてるのです」

「まじかよ……!」


 俺は驚いてコートに手を伸ばす。

 触ってみると、どう見ても布の触り心地がする。

 これが……スライムだって……?


「一体どうやって作ってるんだ……?」


 俺が尋ねると、ミネルヴァはコートから手を離し、説明を始めた。


「このブラックウーズには、質感を変える力があります。こいつに命令を下すことで、自在に形や質感を変えるようですね」

「いや、そういうこと聞きたいんじゃなくてさ……魔物にそんな、コートのふりをしたままでいろ、なんて命令……言い聞かせるのむずくね……?」

「そうですね。調教師テイマーでも難しいでしょう」

「じゃあどうやってんの……?」

「……わかりません」


 わからない!?


「全知全能でもか?」


 俺が詰め寄ると、ミネルヴァは困ったように首を横に振った。


「はい。何らかの、超強力なスキル、あるいは魔法が……いいえ、スキルですね。魔法は体系化されてるので、検索が可能ですから」

「スキル……ねえ……そのスキルによる効果で、こいつは人間の言うとおり、コート形状を保ってるってことか」

「はい。驚くべきことですが……」


 そりゃそうだ。

 魔物を完全に支配下に置くスキルなんて、聞いたことねえ。


「なあ、あんた」


 俺は視線を、捕縛されて地面に座り込んでいるキキョウに向ける。

 彼女は怯えた様子で、何度も頷いた。


「このコート、邪神教から支給されたんだよな」

「ですですっ」

「邪神教には、そんな風に、他者に言うことを聞かせるスキル持ちがいるのか?」

「いいえ。そのコートは、遺物アーティファクトを研究、改良し、量産されたものだといいます」

「???? いまいち何が言いたいのかわからないんだが……」


 俺が眉を寄せると、キキョウは慌てて言葉を付け足した。


「邪神様が、その遺物アーティファクトであるコートを拾い、ブラックウーズを培養、量産したそうです」

「ほぉん……」


 つまり、邪神教はこれを生み出したわけでなく、どっかからパクって、それが使い勝手いいから、量産してるってわけね。


「てか詳しいね君」

「幹部でしたので!」


 キキョウが、なぜか少し自慢げに胸を張った。

 そうですか幹部でしたかそうですか……。

 俺はため息をつきながら、改めてその不気味なコートを見つめた。



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