20.キスするだけで弟子を強く出来る
《アベルSide》
ティアから謝罪を受けた、数日後。
櫛形山にある、俺のお気に入りスポットにて。
「師匠! さっそく修行を着けて欲しいのでござる!」
「アベルさん! 修行、よろしくお願いします!」
……俺の前にはサムライ美少女と、金髪聖女がやる気に満ちた表情を浮かべて居ている。
どうしてこうなったか。
『わたし、しばらく冒険者を休業して、アベルさんのもとで修行したいです!』
……俺からティアに、もっと強くなれと言ってしまったため、NOとは言えなかった。
……もうこれ以上、絶対に弟子は取らないぞ。
面倒ごとはゴメンだ。
ふぅ……仕方ない。
二人に戦い方を伝授……
「ちょっと待ちな、ベルさん」
後で待機していた美女、薬師のマテオが待ったをかける。
「今のまま修行するのは、非常に危険だと思う。今のベルさん、強すぎるからね」
俺が強すぎるから危険?
……そうか。そういうことか。
マテオの言いたいことが直ぐに理解できた。
「俺……今、大勇者になったんだ。魔法の出力も、めちゃくちゃ上がってるんだった」
俺の魔法は山を穿ち、古竜を一撃で倒せるほどに強くなってしまっている。
ここでたとえば、ヒトミと組み手なんてして見ろ?
誤って彼女を殺してしまうかもしれない。
「危なかった……ありがとうマテオ」
「いえいえ。つまりまあ、今のベルさんと、弟子との間に、強さに開きがありすぎるのが問題なわけだ」
なんだか矛盾してるな。
強くなるために、弟子入りしたのに、強くないと弟子になれないなんて。
「では、当面は座学や自主練でござるか?」
「いや、あんたらじゃいくら修行したって、今のアベルさんのレベルには到達できないよ。一生かかっても」
「まあ確かに、アベル殿の強さは、世界最高峰でござるからな」
……一応言っとくと、ヒトミもティアも決して弱いわけではない。
職業にはランクが存在する。
ヒトミたちは最高ランクとされる、Sランクの職業をそれぞれ持っているのだ。
ただ……今の俺、大勇者は、彼女らの職業を凌駕するSSSランク。
「でもじゃあどうすれば、アベルさんのもとで、修行できるようになるのでしょうか?」
するとマテオは、こんなことを言う。
「簡単さ。ベルさん。あんた……この二人にチューしな」
「「「は……?」」」
ちゅー……だぁ……?
「なななな、何をおっしゃってるでござるか!? マテオどの!?」
「そそそそ、そうですよチューだなんてそんな……ご褒美をもらって……強くなれるなんてどういう理屈なんですか!?」
慌てふためく二人。
ヒトミたちが慌ててるせいか、逆に俺は冷静になった。
「マテオ、別にふざけていった訳じゃないんだろ?」
この女が冗談を言うタイプではないことを、知っている。(付き合いは短いがな)
「ベルさん、【従者契約】って知ってるかい?」
「従者契約……? いや、知らん」
「あ、そっか。ベルさん魔法教育を受けたことないんだっけ」
俺は孤児の生まれだ。
生きていくために、魔法を使って魔物と戦い続けて今に至る。
魔法の教育なんて一度も受けたことがない。
一方、マテオは王都の魔法学校を首席で卒業したという経歴がある。
「従者契約っていうのは、魔法職のみが行える特別な儀式さね」
「特別な儀式……? そこにキスがからんでくるのか?」
そう、とマテオがうなずく。
「魔法使いってやつは、魔法発動までにどうしても隙が生じてしまう」
大抵の魔法職は、魔法発動に呪文の詠唱が必要だからな。
俺は、【詠唱破棄】というスキルがあるため、呪文詠唱は必要ないが。
「魔法使いが呪文詠唱をしてる間、盾となって守る存在。それが、従者だ」
確かに、詠唱破棄を持ってない、普通の魔法使いには従者が必要かもしれんな。
「従者になるためには、主と魔力経路を結ぶ必要がある」
「魔力経路……?」
「魔力の通り道みたいなもんさね。従者は主と契約した瞬間、主から魔力の供給を受けるようになる」
なるほど、俺から魔力供給を受けるということは、ヒトミやティアの体内魔力量が増えること。
「従者たちは魔力量が増えたことで強くなり、逆に俺は二人に魔力を供給しなきゃいけないから、魔法の出力が下がるってことだな」
現在俺ひとりが強すぎるせいで、修行できない状態だったが、従者契約を結ぶことで、できるようになるってことだ。
「で、従者契約には粘膜接触が必要なんさね」
だから、キスか。
一番手っ取り早いからな、その方が。
「やります! キス、します……!」
一方ティアは結構ノリノリだった。
「いいのか、おまえ? こんな冴えないおっさんとキスするなんて、嫌じゃないか?」
「はい! むしろごほー……ごほんっ! 強くなるためですからね!」
ティアはご機嫌だった。
まあ、ちょっとキスするくらいで強くなれるんだもんな。
お得というか。
それにティアにとって俺は【父親】みたいなもんだ。
俺へのキス、は父親にする親愛の証と思ってるのだろう。
だから照れてないし、嫌がらないわけか。
「きききき、キス……」
「ヒトミ。嫌なら辞めていいんだぞ」
キスを。
「!? やります! やりますとも! 拙者だって、アベル殿みたいに……強くなりたい、ので!」
そうか。
強くなるために、嫌なことを率先してやろうとするのか。
なかなか根性の座ったやつだ。
「ベルさんって、もしかして天然なのかい……?」
マテオがそんなことを言う。
「なんだ、天然って?」
「いいや、愚問だったね。毎日生きるために、魔物を狩る日々だったから。色恋沙汰にかまけてる余裕もなかったんだろうさ」
うんうん、と納得したようにマテオがうなずく。
なんなんだこの女……。
「さ、ちゃちゃっと契約しとこっか。儀式に必要な顔料はあたいが持ってるからね」
マテオはさささっ、と地面に魔法陣を描く。
……やけに、用意周到なんだが。
「儀式魔法陣、作成完了。さ、どっちから……」
「私から! 是非私から! やります……!」
ティアが率先して手を上げる。
姉弟子(一応)として、妹分に手本を示そうというのか。感心だな。
「じゃ、ティアからさね。二人とも魔法陣の中に入って」
「入ってって……おまえ、この魔法陣、やけに狭くないか?」
二人入れば、普通に体が密着してしまうのだが……。
「さ、アベルさん! やりましょう!」
嬉々としてティアが魔法陣のなかに入る。
やる気は十分のようだ。そこまでして強くなりたいとは……。
俺の強くなれ、という俺の言葉を、しっかり胸に強く刻み込んでくれているようだ。
他人を動かすことはとても難しい。
だからこうして、ティアが俺の言ったことを真摯に受け止め、強くなろうとしてくれてるのが、嬉しかった。
「よし、やるか」
「はいっ!」
……至近距離で見ると、ティアは本当に美人だというのがわかる。
出会った頃はガリガリだった彼女も、今は健康的な美人になっていた。
魔法陣が小さいため俺たちは密着してしまう。
「あんっ♡」
「す、すまん……」
「いえ! 嬉しいです! さ、アベルさん……んっ……♡」
ティアが背伸びしてくる。
……ここでやっぱ止めた、というのはさすがに相手に失礼だな。
俺はなんてこともないように、軽く……ティアの唇にキスをする。
カッ……! と魔法陣が……いや、ティアが光り輝く。
「これは……! すごいです! 力が、体の底から無限に湧き上がってきます!」
やがて光が収まる。
ティアの顔はつやつやしていた。
「アベルさん、ありがとうございます! 初キス……とても良い思い出になりました!」
「す、すまないな……初めてがこんなんで」
「いえ! とっても良かったです! 一生このことは忘れません! やったっ♡ アベルさんに初めてを捧げられました~♡ 嬉しくて死んじゃいそうです~♡」
するとマテオがすすす、と近づいてきて、俺に言う。
「ベルさん、ちょっとティアを鑑定してみてくんないかい?」
「え、ああ。【鑑定】」
~~~~~~
名前:ティア・セラージュ
種族:人間
職業:大聖女(SS)
~~~~~~
「…………………………は? だ、大聖女? 職業が、変化してる、だと……?」
大賢者が大勇者になったように、ティアもまた、大聖女へと進化したってことなのか……?
「すごいじゃないか、ベルさん! あんたの魔力が凄すぎて、従者をワンランク上に進化させられるみたいだよ!」
従者を作ると、通常なら魔力量が増えるだけ。
だが俺の従者となった場合に限り、職業を進化させる……ってことらしい。
「さすがアベルさんです! さ、ヒトミさんも♡」
「う、うむ! よろしくお願いいたします! ちゅ、ちゅ~♡」
結果、ヒトミは二刀流剣士(S)から、剣聖(SS)に進化した。
「剣聖! すごすぎるでござる! アベル殿はやはりとんでもないお方でござるな!」
……まさか俺に、こんな隠された力があるなんてな。
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