194.わけない
俺の領地に、勝手に入り込んできた盗賊ども。
無詠唱の氷魔法で、全員とっ捕まえることができた――そう思ったんだが。
「【転移】」
俺は即座にその場から姿を消し、少し離れた場所に転移した。
「くっく……感のいいやつだな」
現れたのは、四十代くらいに見えるおっさんだった。
そう、“見た目は”普通の人間だ。だが――なんか、気持ち悪い。
見た目じゃない。
こいつからあふれる魔力が、明らかに人間のそれじゃない。
「おまえ……何者だ?」
「答える義理があるとでも?」
「いや、ないな。確かに」
俺は内心でミネルヴァに問いかける。
あの男、人間じゃないな?
『はい、パパ。ただ……“人間ではない”以上の情報は、全知全能でも引き出せません』
……なるほど。情報を隠してやがる。
しかも、相当高度な隠蔽だ。
俺の脳裏に、一つの可能性が浮かぶ。
「――邪神王とやらの手先か?」
アシュローンのときに出てきた、あの妙なやつ。
あいつも人間離れした動きをしてた。こいつからも、同じ匂いがする。
「…………」
男は何も言わない。だが、それで十分だった。
『図星を突かれて動揺してます。相手は』
なるほどな。
正体そのものは隠されているが、精神状態までは隠せない。
相手の内面を覗けるなら、正体を探るのなんて、わけない話だ。




