19.勇者Side その7
《ジャークSide》
アベルがティアと和解した、一方その頃……。
勇者ジャークは王都の宿屋に引きこもっていた。
「うう~……ティアぁ~……ティアああ……なんでだよぉお~……」
人外魔境から帰ってきて数日、ジャークはずっと悲しみに暮れていた。
クエストを終えたジャーク一行は、メアリーの馬車で王都へと戻ってきた。
ジャークが気絶してる間に、ティアがテキパキと、事後処理を行った。
まずギルドにクエストの結果を報告。
メアリーの温情と、ティアの功績(結界で馬車を守った)のこともあり、いちおう、クエストは達成扱いになった。(報酬は受け取らなかった)
その後、ティアは受付でパーティ脱退届を提出。
ヒトミと一緒に王都を出発した。
そして……ジャークが気絶から回復した頃には、すでにティアは王都にはいなかった。
「なんでおれを嫌いになったんだよぉ~……」
ジャークはティアに嫌われたことがショックすぎて、ここ数日動けないで居た。
それくらい、ティアのことが好きだったのだ。
ティアは、優しい人だ。
自分がどれだけわがままを言っても、あきれられても、ずっと側にいてくれた。
「どうして急に嫌って、俺の前から居なくなったんだよぉ~……」
結局、ジャークはティアが出て行った理由を、何一つ理解していなかった。
ぐうぅ~…………。
「……はら、へったぁ……チクショウ……ティアの飯が食いたい……」
ティアは治癒術だけでなく、料理洗濯掃除と、家事全般についてもプロ級の腕前を持っていた。
ティアのおかげで、ジャークは毎日美味い飯にありつけていた。
だが……もうティアは居なくなってしまったので、彼女のご飯も食べれない。
「くそ……飯でも食いにいくか……凹んでても腹は減る……」
ジャークは暗い気持ちのまま部屋を出て、宿の食堂へと向かう。
適当に椅子に座ると、くすくす、と笑い声が聞こえてきた。
「……おい見ろよ、イキリジャークだぜ」
……声は少し離れた席に座っている、冒険者たちのものだった。
どうやら食堂を利用しに来たらしい。
彼らはジャークを見て嘲笑する。
「……おれらにあんだけイキっておいて、現場じゃ役立たずだったらしいぜ」
「……うわ、だっせえ。てかざまぁw」
ジャークは馬鹿にされて腹が立ち、その冒険者たちの元へ向かう。
「やいてめえ! 何デタラメいってんだよぉ!」
冒険者たちは一瞬だけ気まずそうにするも、すぐに馬鹿にしたように、鼻で笑ってきた。
「デタラメ? 事実だろ」
「ヒトミ・パーティのメンバーから聞いたぜ。砂蟲には負けるし、護衛についてったのに馬車放り出して敗走し、依頼失敗したってよぉ」
くすくす、と冒険者たちが笑う。
食堂にいた、彼ら以外の客たちもそれを聞いて、同じく嘲笑を浮かべる。
「……え、まじぃw」
「……普段あんだけ偉そうにして置いて失敗とか」
「……うわ、だっさ、ちょーださいw」
かぁ……とジャークは顔を赤くする。
「う、うるせえうるせえ! テキトー言うんじゃあねえ! い、依頼は失敗してねえし!」
メアリーは今回の緊急クエスト、失敗扱いには確かにしていない。
「まあね。でも失敗にならなかったのは、ティアさん一人が頑張ってくれたからじゃん」
「そのティアさんにも逃げられたけどなw」
「そりゃ逃げるよ。こんな足手まといの屑が一緒じゃ、嫌気がさして当然だね!」
……ぎりり、とジャークは歯がみする。
言い返したくても、彼らが言ってることは、全部事実だからだ。
「どうしたよおい、何か言い返してみろよぉw」
周りの連中がジャークを見て馬鹿にするように笑っている。
ジャークはそんな自分が惨めで、その場から逃げ出した。
「また逃げるんですかw」
「これじゃ勇者じゃなくて負け犬だなw」
耳を塞いでジャークはその場から飛び出す。
宿を出て走っている間も、冒険者たちの笑い声が頭の中に響く。
「うるさいうるさい黙れ黙れ黙れぇ!」
がっ、と石にけつまずいて、その場に顔面から倒れる。
「うう……いてええ……ティアぁ……いてえよぉ……早く治療を……」
……だが、振り向いてもそこにはティアがいない。
……失って、ようやくジャークは気づいた。
ティアが、どれだけ自分のために、色々してくれてたのか。
「ティア……ティアぁ……」
腹が減ったら料理を作ってくれた。
ケガしたり病気しても、すぐ治療してくれた。
今回のクエストだって、ティアが居てくれたから失敗扱いにならなかった。
もしもティアが居なかったら、依頼失敗で、大量の違約金を払わされていたことだろう。
……そのティアが、ジャークの前からいなくなってしまった。
不調のせいで【一時的】に聖剣が使えなくなっている今、ティアが必要だというのに……。
「ティア……おれぁ……やっと気づいたよ。【おまえ】がいたから、おれは勇者としてバリバリ活躍できてたんだなぁ……」
……ティアが今のジャークを見ても、100%、パーティには戻ってこないだろう。
ただ一言、『恩知らずのバカ』と言われるだけが関の山である。
そもそも、こないだのクエストで、ゼーレンと比較して【彼】がすごかったのだと気づけていない時点で、ジャークは駄目すぎた。
と、そのときだ。
「そち、何をしてるのじゃ?」
「ゼーレン……」
往来でうずくまっていと、パーティの魔法使い、ゼーレンが話しかけてきたのだ。
彼女は侍女をともなって、どこかへ行く途中のようだ。
「うるせえ、ほっとけ。てめえはどこいくんだよ?」
「ミョーコゥじゃ」
「ミョーコゥ……? クソ田舎じゃねえか。なんだって、そんなとこに……?」
「そこに古竜を倒したが魔法使いがいるらしくてな。そやつに会いに行くのじゃ」
人外魔境でファフニールを討伐した、魔法使いに、ゼーレンは会いに行くらしい。
……そういえば、ジャークは思い出す。
「確かティアも、その魔法使いに会いたいとか言っていたな……って、待てよ?」
そこでジャークは、こう考える。
「ティアのやつ……もしかしておれのこと嫌いになったって言ってたけど、それっておれがあの師匠ってやつより弱い、って思ったからなのかもしれない!」
「……何を言ってるのじゃおぬし?」
……その場にティアがいたら、ゼーレン同様にあきれかえっていたことだろう。
「そうだよ! きっとそうに違いない! 女って強い男が好きってどっかで聞いた! ティアがおれのそばにいたのはおれが強かったから! だから、より強い男のとこに行った……そう考えればつじつまが合う!」
「……よくわからんが、それはつじつまではなくこじつけじゃ……」
ならば、やることは一つだ。
「おいゼーレン! おれもミョーコゥへ行くぜ!」
「はぁ? なぜじゃ」
「その師匠ってやつぶっ殺して、おれのが強いってことを証明するんだ! そしたらティアはおれのもとへ、きっと帰ってきてくれる! いや、絶対帰ってくるんだ!」
こうして、ジャークは嫌がるゼーレンを引き連れて、師匠の居るミョーコゥへと向かうのだった。
「待ってろよ師匠とやら! てめえに勝負を挑み、必ず勝つ! そして絶対にティアを取り戻してやるからなぁ! 覚悟して……げほげほ! げほげほげほ!」
……ジャークの呪いは依然進行中、むしろひどくなっている。
こんな状態で戦ったところで、残念ながら結果は目に見えているのだった。
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