18.ティアとの再会、そして謝罪される
《アベルSide》
ファフニール討伐から数日後。
現在、俺はミョーコゥの西部、櫛形山に来ていた。
櫛形山の麓には一つの丘と、そして大きな樹が一本生えている。
ここが俺の、お気に入りの癒やしスポットだ。
俺は一人物思いにふけっていた。
「……古竜、あんな簡単に倒せるなんて……俺……とんでもなく、強くなってしまったんだな」
現役時代、古竜を苦労して倒したことがあるから、こないだのファフニール戦がいかに異常だったのか気づけた。
あれだけの大魔法を連発してもまったく魔力が切れないなんてオカシイ。
そもそも、人が古竜にあんな簡単に勝てるわけがないのだ。
俺は右手をかかげる。
……人差し指には、元弟子からもらった指輪が嵌められていた。
弟子のジャークとティアが、初めての報酬金で買ってくれたプレゼント。
しかしこれには、呪いがかけられていたことが後に判明した。
神聖輝光竜の呪いを解いたときに、解呪の魔法が反射して、この指輪にかかっていた呪いが解けたのである。
……つまり、俺を引退まで追い込んだ原因は、この指輪。
そのときだった。
「アベル、さん……」
振り返るとそこには、俺のよく知る、金髪の美少女……ティアがいた。
でも俺はここに彼女がくるのを、なんとなくわかっていた。
数十分前に、彼女がこの村に来たとき、彼女の懐かしい魔力を、感じ取っていたのだ。
顔を合わせないようにすることもできた。
でも、俺はあえて逃げなかった。
ちゃんと、彼女と話しておきたかったから。
「アベルさん……! ごめんなさい……!」
ティアが俺の前までやってくると、土下座してきたのだ。
「わたし……あなたに、とんでもないことを、してしまいました!」
彼女は大泣きしながら、俺に言う。
「あなたに呪いをかけてしまってました!!!!!!」
ティアの背後には、二人の美女と、1匹の子竜がいた。
薬師マテオと、Sランク冒険者ヒトミ。
そして、子竜ピュアが俺の元へ飛んでくる。
『ちち! この女! ちちに呪いかけた、わるいやつでしょ!』
「……ピュア。おまえ、ティアに話したのか? 呪いのこと?」
『うん!』
……なんとなく、こうなるのではないかと、ティアがヒトミと一緒に来たときに、気づいていた。
恐らくティアがここへ来た経緯はこうだろう。
ティアはヒトミと人外魔境で知り合う。
ヒトミから俺のことを聞き、彼女と一緒に俺の元へ来た。
その際に、ピュアが呪いのことをティアに喋った。
……俺のことを言うなって、忠告しておいたのだが。
「ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛! ア゛ベル゛ざ゛ん゛! ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛!」
『泣いて謝っても、ゆるさいのね!』
ピュアがぶち切れて叫ぶ。
『おまえのせいで、ちちはとてもくるしんだのね! さいあくしぬところだったのね!』
……ピュアの言うとおりではある。
でも俺は、ティアを叱りつけたくなかった。彼女と話がしたかった。
「【睡眠】」
ピュアが暴れたので、俺は眠りの魔法をかけた。
「マテオ、ピュアを連れて街へ戻ってくれ」
マテオは俺からピュアを回収すると、ヒトミを連れてこの場を離れる。
「よ、よろしいのですか……マテオ殿……?」
「いいんだよ。二人きりにしてやんな」
ヒトミは何度もこちらをチラ見していたが、結局、マテオと一緒に丘を下りていった。
その間ずっと、ティアは泣きながら俺に土下座していた。
……状況を整理しよう。
ティアはヒトミと一緒に俺の元へやってきた。
そして、ティアは、俺に呪いをかけていたことを、謝罪してきた。
確かにピュアの言うとおり、俺はあの指輪のせいで死にかけた。
謝ったところで、許せるものではないだろう。
俺はティアに手を伸ばし、ぽんっ、と頭をなでる。
「ティア。頭を上げてくれ。おまえ【は】何も、悪くないからさ」
「…………………………え?」
俺の言葉が意外だったのか、ティアがぽかんとした表情になる。
「確かに、おまえたちからもらったあの指輪には、弱体化の呪いがかかっていたよ。でも……おまえはそのこと、知らなかったんだよな?」
「も、もちろんです……!」
「そうだよな。おまえは……優しい子だもんな」
俺はティアが、人に呪いをかけるような子ではないことを、知ってる。
「し、信じるんですか……? わたしが、故意に呪いをかけたかもしれないのに」
「ああ。そもそも、故意に呪いをかけたやつが、どうして直接謝りに来るんだよ。そのまま知らん顔してればいいのにさ」
もっともこの子が、わざと呪いを俺にかけたのではないって確信したのは、ついさっき、彼女が俺の前にやってきたときだ。
ティアは本気で泣いていた。
嘘泣きとは思えなかったから、この子はやってないって、確信を得たのだ。
「アベルさん! どうして……どうして私を許してくれるんですか!?」
ティアは泣きながら何度も首を横に振る。
「私は、自分を許せません……! 故意じゃなかったにしても! 私はあなたを長い間苦しめた! 人類の宝である、大魔導士を引退にまで追い込んでしまった!」
ティアが涙を流しながら訴える。
「お願いします、アベルさん! 私を罰してください!」
この子……本当に、優しい子だ。
自分が無意識に人を傷つけていたことを、本気で許せないんだ。
「奴隷商人に売り払って、一生奴隷としてこき使っても良いです! あなたが望むなら、私はあなたに殺されてもいい!」
俺は……ティアの泣いてる姿を、もうこれ以上見ていられなかった。
ポケットからハンカチを取り出し、それを渡す。
「これで涙を拭いてくれ。それでチャラだ」
「そんなことで許されて良いはずが……!」
「俺に悪いって思ってるなら、俺の話をちゃんと聞いてくれ」
ティアは言いたいことをぐっとこらえ、俺からハンカチを受け取る。
涙を拭く彼女の傍らで、俺は言う。
「確かに、おまえたちからもらったこの指輪には呪いがかかっていた。俺を弱体化させる呪いだ。そのせいで結構辛い思いをした」
俺はあくまで、『ティア達が選んだ指輪が、【偶然にも】呪いの指輪だった』ということで、話を進める。
……わかってるさ、【真犯人】が誰かなんて。
そいつが、わざと呪いをかけたんだって。
「でも、もういいんだ……。正直、魔神を倒した大魔導士、なんて肩書き、俺には荷が重すぎたんだよ」
【あいつ】が呪いをかけなかったとしても、誰かがきっと、同じことを俺にしてきたと思う。
もっとあくどい手を使って、俺を殺そうとしてきたかもしれない。
それはひとえに、俺が大魔導士としての肩書きを持ってるが故に、だ。
「呪いのおかげで、俺はこの重い荷物を早めに下ろすことが出来た」
彼女がもしも【真犯人】の正体と、そいつが【故意に】呪いをかけたと知ったら、引き留められなかった自分を責めるかもしれない。
だから、この件はあくまでも、事故ってことで処理したいのだ。
「それにおまえはそもそも、あれが呪いのアイテムだって知らずに買っちゃったんだ。悪いのは呪いのアイテムを作ったやつ。おまえは何も悪くないし、おまえが、責任を感じることはないよ」
優しくて、強い力を持つこの子の将来を俺のせいで、奪いたくなかった。
だって俺はこの子の師匠であり……この子の、家族だって、そう思ってるから。
「それでもまだ、罰が欲しいって言うなら……そうだな」
泣きじゃくるティアに、俺は言う。
「もっと腕を磨け。そして……俺と同じように、呪いで苦しんでるやつがいたら、誰よりも早く気づいてあげて、そいつの呪いを解いてやりなさい」
多分ティアは、俺の体調不良の原因が、呪いだったことに気づけなかったことにも、責めているのだろう。
仕方ない、ティアには才能があったけども、まだその才能は発展途上だったのだ。
ティアはまだ解呪を使えない。
でもいずれ、必ず修得するだろう。
ティアはきっと、大勢の人に感謝される、良い聖女になるだろう。
そして運良く大魔導士となった俺と違って、彼女はきっと、本物の英雄になる。
そうなってくれたほうが、俺は嬉しい。
別に俺は大魔導士に戻りたいわけではないのだ。
「アベル……さん……あなたは……なんて……なんて……優しい人なんですか……」
「……優しくなんてないさ。俺は、おまえだから許すんだ。大事な……家族だから」
「アベルさん……うわああああああああああああああん!」
ティアが俺に抱きついて、子供のように泣きじゃくる。
歳を重ね、彼女は変わってしまったと思った。
でも泣いてるこの子は昔のまま。
そう……何も変わらなかったのだ。俺が勝手に悪者にしてただけだった。
「ごめんなさい、アベルさん! 許してくれて……ありがとう!」
こうして俺はティアを許し、和解したのだ。
……でもあくまで許したのは、ティア【だけ】だからな。
おまえは絶対許さないからな、ジャーク。
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「面白そう!」
「続きが気になる!」
「ティアと和解できてよかった!」
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