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17.勇者Side その6



《ジャークSide》


 勇者ジャークのパーティは、開拓団の村まで無事到着した。

 人外魔境に存在する開拓団の村は、古竜ファフニールから甚大な被害を受けているはず……だったのだが。


「これのどこが、甚大な被害を受けてるって?」


 村人たちは笑顔で炊き出しを行っていた。

 建物は壊れておらず、また村人たちも、負傷してるようには思えない。


 と、メアリーたちのもとへ、一人のドワーフが駆け付けてきた。


「メアリーじゃねえか!」

「ガンコジー!」


 ひときわがっしりとした体格のドワーフが、メアリーに親し気に話しかけてくる。

 このドワーフが彼女の親友であるらしい。


「無事だったか!?」

「ああ。おかげさんでな。村の連中もぴんぴんしておる」


 メアリーは安どのあまり、その場にへたり込んでしまった。


「メアリー、そいつらは誰だ?」

「冒険者たちだ。我々をここまで護衛してくれたのだ」

「冒険者? え、こいつら【も】?」

「も……? どういうことだ……?」


 何か話がかみ合っておらず、ガンコジーとメアリーが首をかしげる。


「あの魔法使いの兄ちゃんを派遣したのは、メアリーじゃねえのか?」

「魔法使いの兄ちゃん……? いったい誰のことを言ってるのだ、ガンコジー?」


「わしらのケガを治療し、ファフニールを一人で討伐した、あの凄い魔法使いの兄ちゃんだよ」


 ……ジャークは一瞬ガンコジーの言ってることを理解できなかった。


「お、おいジジイ! その話は本当か!?」

「うむ。本当じゃ」


 ジャーク、そしてゼーレンも同様に、ガンコジーの言葉が信じられないようだ。


「しょ、証拠は!? 証拠はあんのかよ証拠はよぉお!」


 ジャークが明らかに失礼な態度をとっている。

 こういうとき、彼を引き留めるのは、幼馴染であるティアの仕事だ。


 が、しかしティアはさっきから黙り込んでしまっている。

 特に、【村に入る直前】から、様子がおかしかった。「この結界、まさか……!」と。


「証拠? あれを見よ」

「な!? な、な、なんだよあの馬鹿でけえ肉の塊はぁ!?」


 大樹と見まがうほどの、巨大な肉片が、村にいくつもあった。

 明らかに動物の肉ではない。


「ファフニールの肉じゃ。魔法使い様は古竜討伐のあと、倒した肉や素材を、すべてこの村に、無償で提供してくださったのだ」

「は、は? はぁああああ!? ば、馬鹿じゃねえのそいつ!?」


 ジャークは思わず叫んでしまう。


「古竜の素材丸ごと売ったらそれだけでひと財産だぞ!? それを無償で提供とか、馬鹿だろ!?」


 するとガンコジーが眉をひそめ、ジャークのことを殴りつけた。


「いってぇ! 何すんだよ!?」

「おい小僧! 馬鹿とはなんだ! あの人は我らにとって命の恩人なんだぞ!」


 彼にとってどうやらこの村、そして村に住んでいる同じ開拓団員たちは、本当に大事なものであるらしい。


 窮地から救ってくれた恩人を馬鹿にしたのだ。

 怒られても仕方なかった。


「うそだ……古竜を倒しちまうなんて……は! そ、そうだ! そいつも勇者なんだろ!?」


 自分と同格の存在ならば、倒せても不思議ではなかった。


「いや、そのお方は魔法使いじゃった。空を飛び、転移で仲間を連れてきて、そしてファフニールを圧倒的な魔法の力で倒した」

「馬鹿なぁあああああああああああ!!!!!!!」


 今度は、ゼーレンが絶叫しながらガンコジーに近寄ってくる。


「おいドワーフ! 貴様今、その男が転移で仲間を連れてきたと申したか!?」

「ああ。それがどうした?」


「ありえん! それは、【大転移】! 失われた、いにしえの魔法だぞ!?」


 通常の転移魔法で転移できるのは、魔法の使用者ただひとり。

 大転移は自分と仲間を転移させるという、現代では使用不可能とされる、古代魔法の一つだ。


「馬鹿な……古代魔法は、わらわでも使えない究極の魔法を使うものが、現代にいるという……のか?」


 ゼーレンはその場で膝をついて打ちひしがれている。


 ……ゼーレンよりも格上の魔法使いが、この世には確かにいることが、彼女の中で決定した瞬間でもあった。


 意気消沈してる馬鹿2名をよそに、メアリーは友に向かって言う。


「友と村を窮地から救ったその御仁にはぜひお礼をしたい。今その方はどこへ?」

「わからぬ。お仲間の薬師の女性を連れて、名乗ることせずいかれてしまった」


「それは残念だ。陛下にこのことを進言し、叙勲してもらおうと思ったのに」


 ……ただひとり、一連のやり取りを黙ってみていた、ティアだけがぽたぽたと涙を流していた。


「てぃ、ティア殿? どうなさったのですか?」


 ヒトミがびっくりしてティアに尋ねる。

 彼女はなぜか嬉しそうに泣いていたのだ。


「いいえ。……ところで、ガンコジーさん。一つお尋ねしたいことがあります」

「なんじゃ、嬢ちゃん?」


 すっ、とティアが村の上空を指さす。

 そこには薄い光のドームがあった。


「この結界魔法をかけたのも、その魔法使いさんですよね?」


 ティアは質問するのではなく、確認するように、ガンコジーに尋ねる。

 彼女が泣いてるのに困惑しつつも、ガンコジーはうなずいた。


「ありがとう、アベルさん。よかった……です。元気になって……ほんとうに、よか……う、うう……」


 幼なじみが泣いてる間も、ジャークは打ちのめされてて、動けないでいた。

 胸に去来するのは圧倒的な敗北感。


 勇者どうかくでもない、ただの魔法使いが、鮮やかに古竜を倒して見せたのだ。


 そしてジャークは気づかなかった。

 ティアが、何に気づいたかに。


 さて。


「依頼はこれで達成だな。冒険者の諸君、ご苦労だった」

「いえ……拙者たちは何もしておらんでござる」


 ヒトミ、そしてティアが、メアリーと会話してる。


「いや、今回の依頼は我らをこの村まで無事に護衛すること。君たちは、見事私のリクエストにこたえてくれた。報酬は弾ませてもらうよ」


 メアリーが汚物を見るような目をジャークとゼーレンに向け「まあ過程はどうあれ」という。


 すると、ティアが手を挙げて、こういう。


「私たちジャーク・パーティは、その報酬、受け取りません」


 ……さすがのジャークも、今のティアの発言はスルーできなかった。


「はあ!? てぃ、ティアぁ! おまえ何馬鹿なことを言ってんだよぉ!」

「私たちは、今回のクエストで、完全にお荷物でした」


 砂蟲に敗北を喫し、そのうえ、ファフニール討伐もできなかった。


「メアリー様がここへ無事に来れたのは、古竜を倒した凄い魔法使いさんと、その彼がここへ連れてきた、ヒトミさんたちのおかげです」


 今の発言に、ヒトミが首をかしげる。


「ティア殿? どういうこと?」

「ヒトミさんをここへ連れてきて、砂蟲と古竜を倒し、村を救ったお師匠様のことですよ」


「な、なんと!? 師匠が、古竜も倒していたのですか!?」


 砂蟲を倒したヒトミの師匠は魔法使いだった。

 エルフ国次期女王候補でもできない古代魔法を使い、古竜を倒したのも魔法使いだ。


 そんなすごい魔法使いが、同時期に二人もいるはずもない。


 つまり、この一連の偉業をなしたのは、ヒトミの師匠の魔法使い、という推理が成り立つ。


「成功の報酬はヒトミさんとそのお師匠様に支払われるべきです。私たちむしろ、迷惑料をメアリー様にお支払いしないと」


「ふ、ふ、ふざっけんじゃねえぞくそアマぁ……!」


 ついかっとなって、ジャークは愛する女に対して、暴言を吐いてしまった。


「迷惑料なんてぜってー払わねえからな! 払いたいならてめえで勝手に……」


 パシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 ……ジャークは一瞬、何をされたのか気づかなかった。

 ティアにぶたれたのだと気づいたのは、彼女から向けられる、侮蔑のまなざしを見てからだ。


「ジャーク。今回のことで、完全に愛想がつきました」

「へ……? え……? なに、言ってんだ……?」


 ティアの言ってること、そして彼女がどんな気持ちになってるのかも、わからなかった。


「わたし、このパーティを抜けます」


 ……パーティを抜ける?

 ティアが、自分の前からいなくなる……ってこと!?


「い、いやだ……いやだぁああああああああああ!」


 ジャークは泣きわめきながらティアの足にしがみつく。


「やだやだぁ! 出ていかないでくれよぉティアぁ!」


 しかし泣いてすがっても、ティアからは冷たいまなざしを向けられるだけ。


「どうして出てくなんて言うんだよぉおお!?」

「……わからないのですか?」

「わっかんねえよぉおおお!」


 ティアはあきれたようにため息をついて、はっきりと、こういった。


「あなたはあまりに身勝手で幼稚だからです。……なにより、アベルさんに感謝するそぶりすら見せない」

「な、んで……アベルのおっさんが出てくんだよぉ……?」


「……なんて馬鹿なの。弟子なら、わかって当然、喜んで当然なのに、あなたときたら……」


 ティアの地雷を踏んでしまったようだが、視野の狭いジャークは全く気づかない。


「あなたが心から嫌いになりました。……さよなら」


 ティアがそう言うと、彼から離れ、ヒトミの元へ行く。


「お礼を言いたいのでお師匠様にあわせていただけませんか?」


 ジャークはティアから嫌われたことが、あまりにショックで気を失う。

 ……これで、愚かな勇者はまた一つ、大切なものを失ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やっとクズが最底辺に落ちるのね。 それでも師匠は気の毒にと思うんでしょうね
[一言] ジャークがいい感じにボコられててスカッとする! ジャークザマァwww
[一言] 陥れてしたに見た結果だな 勇者の力を没収されたのだけが誤算なくらいか これでこの子が合流してしまったらリベンジどころではないだろうな
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