16.勇者Side その5
《ジャークSide》
一方、ジャークたちは人外魔境から離れた森の中にいた。
依頼主のメアリー・クゥは、顔を真っ赤にして、勇者一行を叱責していた。
「おまえには失望したぞ! 勇者ジャーク!!」
メアリーから怒声を浴びせられ、ジャークは思わずすくんでしまう。
「さんざん調子に乗っておいて! 無様に逃げ帰るとはどういうことだ!?」
「ちょ、調子が悪くてよぉ~……」
砂蟲と相対した際、聖剣を召喚しようとして、失敗した。
その後何度も聖剣を呼んでも、現れる気配はない。
「本当に、申し訳ありませんでした、メアリー様」
ティアはジャーク・パーティの中で、唯一、自分たちの非をわびる。
(ゼーレンは我関せずといった感じでそっぽ向いてる)
「……いや、ティアさん、あなたには感謝してる。結界で我々の馬と荷を守っていただいてる」
支援物資まで砂蟲の餌食になってしまったら、今回の依頼は完全に失敗に終わってしまう。
それを水際でせき止められてるのは、ティアの防御結界のおかげだった。
「結界はまだ持ちますが、やはり今この状態では、我々だけであなた方を村へ送り届けるのは無理だと思います」
「な!? て、てめえティア! 無理ってなんだよ! まるでおれじゃ力不足みたいじゃねえかよ!」
片思いする女に、役立たずと思われたくなくて、声を荒げるジャーク。
一方、ティアは冷静に言う。
「あなたが不調を抱えてるのは、事実でしょう? 聖剣、呼び出せないのですから」
「そ、それは……なんとかなる!」
「なりません。聖剣が使えない以上、戦力は半減どころではないです。前衛が機能してないのです、我々だけでは任務遂行は不可能です」
「だ、大丈夫だって!」
「じゃあ、聖剣を出して見せてください。今すぐ」
「うぐうぅうう……」
「……出せないのですね」
ティアの目には、ジャークに対する憐みの色が見て取れた。
そんな風に、好きな女から弱くみられるのが、嫌だった。
と、そのときである。
「おーい!」
メアリー達のもとへ、複数の冒険者たちがやってきたのだ。
着物とよばれる、極東の衣装に身を包んだ女。
その仲間たち、という構成だった。
「遅れてすまなかった。後続部隊、到着いたしたでござる!」
着物を着たリーダーらしき女が、ティアたちに頭を下げる。
どうやらメアリーは、ジャークたち以外にも、冒険者に依頼を出していたようだ。
「な!? おれたちだけで十分だって言っといたのに!」
「あの後、ティアさんから助言をもらったのだ」
ティアはジャークを見て言う。
「緊急クエストでは不測の事態が起きやすいので、保険をかけておくべきだと、メアリー様に助言したのです」
「て、てめえ! り、リーダーを差し置いて何を勝手に……!」
「保険がなければここでリタイアでしたよ?」
「が、ぐ、そ、そう……だけど、よぉ……」
大活躍して、大金ゲットして、ティアを振り向かせる作戦が台無しだ。
自分は失敗して、さらに女に自分のケツをふかせている。
「なんとも情けないな、男」
「ああ!? ゼーレンてめ! なに自分は関係ないみたいな顔してんだよぉ! 失敗したのはてめえの魔法がへぼいことも原因だろうが!」
ゼーレンの魔法は、砂蟲一体を倒すことしかできなかったのだ。
「砂蟲は、世界最高の魔法の使い手であるこのわらわでも、一度に倒せるのは一匹だけだった。それだけ強い魔物だということ。これ以上の仕事ができる使い手など、この世にはいない」
求められてる仕事はきちんとした、とゼーレンは主張しているらしい。
だがジャークは、アベルの強さを知ってるから、やはり釈然としなかった。
「して、これからどうするでござる?」
「この場にいるメンバーで、急ぎ、開拓村へ向かう。……もっとも、砂蟲が大量にいて、進むのは困難だろうが」
すると、ヒトミはきょとんとした顔で言う。
「砂蟲は、もういないでござるよ?」
「「は……?」」
メアリー、そしてジャークも、ヒトミの言葉に耳を疑った。
「拙者をここまで運んでくれた【師匠】が、おひとりで、砂蟲を全部駆除してくださったのでござる! 魔法一発で、どーん! と!」
「「そんな馬鹿な!?」」
ジャーク、そして今まで我関せずだったゼーレンすらも、ヒトミに詰め寄る。
さすがに今の発言は聞き捨てならなかった。
「ありえねえよ! 砂蟲を、ひとりで、全部だと!?」
「ふざけるな! この世界最高の魔法使いが苦戦した相手を!? 魔法一発ですべてを駆除だと!?」
二人とも、自分たちが最強だと信じて疑っていない。
だから、自分たちがかなわなかった砂蟲を、瞬殺した存在を、認められなかった。
ティアはヒトミに問いかける。
「倒したというその方は、今どこに?」
「師匠は拙者をこの地に置いて、帰ってしまったのですが」
ジャークはやっぱり信じられなかった。
メアリーは「とにかく、馬車のもとへ行こう」と提案。
全員で馬車のもとへ向かう。
そこには、大量の砂蟲の死骸が、放置されていた。
「あ、あんだけたくさんいた砂蟲どもが、全員死んでやがる……!」
あの恐ろしい化け物が死んでることもショックだったが、それ以上に、自分が苦戦した相手を、一度にこんなに倒せる奴がいる。
その事実のほうが、彼に衝撃を与えた。
自分の障害になりえる存在は、もうすでにボロボロにして、スクラップにしてやったはず。
自分こそが、世界最強の存在であると、信じて疑わなかったジャークにとって、目の前の光景は受け入れがたいものだった。
そして、それは自称・世界最強だけでなく、自称・世界最高も同様のようだ……。
「あ、あ、ありえん! な、なんじゃこれは!? 敵の急所のみを、的確に魔法で打ち抜いてるじゃとぉ!?」
どれほどすごいことなのかは、剣士であるジャークにはわからない。
だが、世界最高を自称する魔法の使い手が驚愕しているのだ、それが、尋常じゃないことはわかった。
「お、おい着物の女! その師匠とやらは、どんな魔法を使ったのじゃ!?」
「たしか、火炎連弾と」
「な、なんじゃとぉおお!? ちゅ、中級魔法だぞそれは!?」
ゼーレンが極大魔法で、一匹倒すのがやっとの相手を、その師匠とやらランクの低い魔法で、複数体倒して見せたらしい。
「う、嘘じゃ……嘘じゃ嘘じゃ! こんなのありえない!」
ゼーレンもジャークも、目の前の事実を受け止められていない。
一方、ティアはすぐに切り替えており、出発の準備を整えていた。
「ジャーク、ゼーレン様。すぐ出発しますよ」
「「…………」」
「早くしなさい! 我々の仕事はまだ終わってないのですよ!?」
ティアに叱られた二人は、悄然としながら、馬車についていく。
「ティア殿。はじめまして、拙者ヒトミと申します」
「挨拶が遅れてすみません。私はティアです。この度は本当に助かりました。私たちだけでは、メアリー様と開拓団の皆さんに、ご迷惑をかけするところでした。なんと感謝を申し上げていいやら……」
馬鹿2名と違い、ティアだけは、自分たちがヒトミたちに迷惑をかけたことを、きちんと謝罪していた。
「あいや、拙者は何も。師匠がやってくださったことなので」
「そのお方、すごい魔法使いってことですが、どんな人ですか?」
ティアが探るように言う。
「凄い優しく、強いお人でござる! ヒドラという化け物を魔法一撃で倒したほどでござった!」
「……そう、ですか。すごい、魔法使いなのですね」
ティアは「まさか……いやでも……」とぶつぶつつぶやく。
何かに気づきかけて、しかし確信を得られない様子。
ジャーク、そしてゼーレンはいまだにショックから立ち直れないようだ。
「とにかく、今は任務に集中いたしましょう」
「そうでござるな! 早く馬車を、村まで送り届けねば!」
「ええ。村は強力な魔物の被害を受けて、けが人が続出している、大変な事態にあるとのことですから」
「強力な魔物?」
どうやらヒトミは、依頼内容をあまり把握してない様だった(ジャークも同様だが)。
「はい。ファフニール、という古竜だそうです」
「ファフニール……そいつのせいで村が困ってるのござるな?」
「ええ。討伐できればいいのですが、今のメンツではおそらく無理でしょうし……」
ちら、とティアがジャークを見てくる。
……その目は、明らかにジャークを弱いもの扱いしていた。
「無理じゃねえ! 聖剣さえ使えれば、おれに倒せない魔物はいねえんだ!」
「砂蟲に負けたでしょう? もう強がらないでください。今のあなたは、どこかおかしい。きちんと医者に診てもらうべきです」
そんな風に、ティアは幼なじみの体を気遣ってくれる。
だがジャークはそのティアのやさしさを、『ティアに馬鹿にされてる』と解釈した。
「うるせえうるせえ! とにかく、ファフニールはおれが倒す!」
ジャークは幼いころ、アベルが古竜を討伐した話を聞いたことがある。
アベルは三日三晩かかって、ようやく倒せたらしい。
「アベルのおっさんで三日かかるなら、おれなら一日で、余裕で倒して見せるぜ! 見ててくれよティア! おれの大活躍を!」
……ところが、である。
「なにぃいい!? ファフニールが、討伐されたぁ!?」
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