13.砂蟲の大軍を一撃で倒す
《アベルSide》
街の連中から英雄認定されてしまった、それから数日後。
俺は神聖輝光竜のピュアの背中に乗って、王国の西側、人外魔境という場所へ向かっていた。
「アベル殿、申し訳ないでござる。拙者を人外魔境へ連れてってくださり……」
経緯を説明しよう。
ヒトミが王都にいる仲間のもとへ手紙を出した。
(俺に弟子入りするからしばらくパーティ活動を中断すると)
するとギルドから返事が来た。どうやらヒトミのパーティは、すでに一つの依頼を受けていたらしい。
それは、彼女の所属するSランク冒険者パーティに、商業ギルドからの護衛依頼。
どうやら緊急クエストらしく、依頼主は複数の冒険者パーティに声をかけていたそうだ。
ヒトミは『どうしよう……』と迷っていた。
既に受けた依頼をキャンセルすることが嫌なのではなく、困ってるやつをほっとけないんだそうだ。
でも、ミョーコゥから王都はかなり遠い。
今から行ったところで間に合わないだろう……。
……と迷っていたので、俺はヒトミを王都まで送り届けてやった。
まあ、いちおう俺がヒトミを助け、弟子入りさせたせいで(頼まれてないけど)、依頼に遅れてしまったわけだからな。仕方なくだ。
転移魔法を使い、一瞬で王都へと到着した俺たち。
しかしすでにヒトミの仲間は、彼女を置いて出発したらしい(後続組として出発したそうだ)。
しょうがなしに、仲間のもとへ、ヒトミを届けてやることにしたのだ。
『ぴゅい! ちちはやさしいのね! こまってるひとを助けてあげるなんて!』
なぜくっついてきたピュアが、成竜の姿で嬉しそうに言う。
「……違う。俺はただ、厚かましい弟子女を、人外魔境とやらに送り届けてやるだけだ」
「うう……申し訳ない、アベル殿。弟子にしてもらったうえ、送らせてしまい……」
「……まったくだ。こんなことは、これっきりにしてくれ」
俺はもう、余計なことに首を突っ込みたくないのだ。
誰かのために何かしたところで、どうせ、裏切られてしまうからな。
『ところで、ちち? ひとみねーちゃを、どこに届ければいいの?』
「どこって……どこなんだ?」
俺は依頼内容を把握していない。
知ってるのはヒトミだけだ。
しかしヒトミは気まずそうに目をそらす。
猛烈に嫌な予感がした。
「おまえ……もしかして依頼内容聞いてなかった?」
「そ、そんなことないでござる! 人外魔境へ行く馬車の護衛でござろう!」
「……それ以上の情報は? 人外魔境のどこへ行くんだ? どの馬車だ? 仲間はそもそもお前が行くこと知ってるのか?」
ヒトミが大汗をかいていた。
……こ、この女、後先考えず飛び出してきたな。
「すみません、何も把握してないでござる!」
「……おまえな」
「申し訳ない……困っている人がいたら、なりふり構わず助けるべき……と教わったもので」
誰だそんな迷惑なことを教えた…………俺か。
まだ若くて、やる気のあったころの俺の姿が、ヒトミの中には残っているのだろう。
この状況を作ったのは、間接的には、俺だ。
……ほんとに、しかたねえな。
「……この人外魔境に向かってる馬車を探せばいいんだな」
「! 探してくださるのですか?」
「ああ」
「なんと! やはりアベル殿はお優しいおかた……!」
違う。俺は別に優しくなんてないのだ。
俺のせいで、ヒトミは無鉄砲馬鹿になってしまった。
そのしりぬぐいをするだけだ。
「しかしこの広い荒野のなか、馬車を見つけるのは非常に困難ではありませぬか?」
「……魔力感知を使う」
「魔力感知?」
「生物はみな体内に魔力を持っており、それは個体ごとに異なる波長を、体外に発してる。
その魔力の波長を感じとる技術が、魔力感知だ」
「おお!」
今ので理解できたのか?
さすがSランク冒険者。
「さっぱりわからないけど、なんかすごいでござるな!」
「……おまえもうちょっと黙ってろ」
なんでこんなのを弟子として取ったのだか……。
俺は目を閉じて、周囲に意識を張り巡らせる。
魔力の波長は種族ごとに異なる。
人間なら人間の、動物なら動物の波長が存在する。
すぐに、隊列を組んでいる馬を発見することができた。
……が。
非常に厄介ものが、【2つ】も見つかってしまった。
……どうでもいい。かかわらなければ。
「……ピュア。南東へ向かえ」
『あいあいさー! 南東! ……って、どっち?』
……俺の周りはアホしかいないのか。
俺は魔力感知で感じ取った位置を指す。
ピュアがすさまじい速度で目的地へと向かう。
ほどなくして、馬車の列を発見。だが……。
『わ! おうまさんだ!』
「馬車が襲われてるでござる!
あれは……砂蟲!」
馬車の周りに砂蟲が、複数体存在した。
かなりの数だった。
「でも、おかしいでござる。砂蟲が馬を襲おうとしないのでござる。
何かに動きを阻まれてるのでござるか……?」
俺は魔力感知で、この場の状況を理解していた。
砂蟲が複数体いることも、そして、砂蟲から馬車を守る【結界】が張られてることも。
「…………」
結界魔法には、彼女の魔力の波長が感じられた。
おそらく結界構築からかなり時間が経過してる。
それでも、長く結界を維持できていた。
「……さすがだな」
と、ここにはいない彼女を褒めてしまうほどに、見事な結界だった。
何やってんだろうな、俺。
彼女はもう、俺の弟子でも家族でもないのにな。
「アベル殿! 見送り感謝いたす! 拙者ここで降りるでござる!」
馬鹿が突っ込もうとしたので、俺は首根っこをつかむ。
「馬鹿かおまえ。今跳びだしたら、あの大量の砂蟲の餌にされちまうぞ」
「むぅ、しかし砂蟲たちが引っ込む気配はないでござるよ?」
おそらく砂蟲は、あの馬車を狙っているのだろう。
あの馬を食わない限り頭を引っ込めない、か。
「っち。ああもう、めんどくさい」
俺は右手を上空に掲げる。
大賢者のスキル、詠唱破棄を併用し、魔法を発動した。
「火炎連弾」
突如、俺の上空に大きな火の玉が出現。
そこを中心として、無数の火の弾丸が射出される。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
無数の弾丸が地上へと降り注ぎ、砂蟲の顔面をたやすく貫通する。
弾丸は地上にいる砂蟲……だけでなく、地中に潜っているやつらも全部、打ち抜いてしまった。
「……やりすぎた」
大勇者の効果で、魔法の規模がでかくなりすぎた。
余った火の弾丸がもったいなかったので、サービスとして、この近辺にいる砂蟲すべてを撃ち殺してしまった。
「す、すごいでござる師匠! あれが噂の極大魔法でござるか?」
「いや、中級魔法だ」
魔法には初級、中級、上級、極大、と4つの階級に分かれている。
俺が使ったのは中級、下から二つ目の魔法だ。
「すごいでござるよ! Sランクの砂蟲の大群を、中級の魔法で倒してしまうなんて!」
「……どうでもいい。さっさと降りろ。迎えにはこないからな」
「はい! 感謝するでござる!」
ばっ、とヒトミが飛び降り、馬車のもとへ向かう。
あいつの張った結界魔法のおかげで、馬車は無事だった。
まあ、弾丸が当たらないように、魔法をコントロールしたので、無事なのは当たり前なのだが。
「…………」
あいつ、馬車を目的地に送り届けたあと、どうするつもりなんだ?
まさか歩いて人外魔境から、ミョーコゥへ戻るつもりか?
どんだけ時間かかると思ってんだよ、馬鹿だなほんと……。
「ピュア。俺は一人で帰る。おまえはヒトミについてってやれ」
ふわり、と俺は飛行魔法で飛び上がる。
ピュアがきょとんとした顔で俺を見てきた。
「……なんだよ?」
『ちち! かっこいい! いいひと!』
「……何言ってんだおまえ」
『ねーちゃのために、ぴゅあをのこすんでしょ? やさしい!』
……勘のいいガキは嫌いだよ。
「ヒトミが仕事を終わったら、余計なことをせず、戻ってくるんだぞ? いいな?」
『うん! 余計なこと【は】しないよ!』
……なんか不安だ。
あいつらに、余計なことを【言わなければ】いいのだが。
まあ、そもそもピュアとあいつらは面識がないのだ。
俺が助けたってこと、あいつらに伝わるわけがないか。
ないな、絶対。
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