01.大魔導士、追放される
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「アベルのおっさん、悪いけど、おれのパーティから出ていってくんない?」
村を襲っていた魔王軍残党を倒し、王都へと戻ってきたその日の夜。
俺はパーティーメンバーである勇者ジャークに、呼び出されて、そう言われた。
場所は王都にある、ジャークの部屋。
目の前には赤い髪の、やんちゃそうな見た目の少年がいる。ジャーク・モンド。
年齢は18歳。天から与えられた職業は、勇者。
「出ていってくれって、どういう意味だ……?」
「おれは勇者の職業を持つ、最強の冒険者。その仲間に、今のアベルのおっさんはふさわしくない。そう言ってんだよ」
職業。
この世界を作った天の神が、我々人間に与える、特別な力。
剣士の職業を与えられると、訓練せずとも剣を自在に操れる。
魔法使いの職業なら魔法を生まれて直ぐ使えるようになる。
ジャーク・モンドの職業は勇者。
勇者能力の最大の特徴は、世界最強の武器、聖剣を使えること。
魔族、魔物などの魔なるものたちに対して特効を持ち、万物を切り裂く最強の武器。
聖剣を高難易度ダンジョンで手に入れてから、ジャークは最強となった。
人々、そして国はジャークという少年に、多大なる期待を寄せている。
「確かに、昔のあんたは凄かったよ。魔神を倒した最強冒険者、アベル・キャスターの名前を知らないやつがいないほどにな」
「……昔は、か」
俺、アベル・キャスター。現在33歳。
孤児として生まれる。生きるため、食っていくために冒険者となった。
俺の職業は大賢者。
その能力は、あらゆる魔法を、詠唱無しで行使出来るというもの。
この力を使い、俺は様々な魔なるものたちを葬り去っていった。
生きるため、食べるため。
両親から捨てられ、スラムで育った俺は、他に頼れる人も、コネもなかった。
だから大賢者の力を使い、魔物、魔族を倒し続けた。
そして……今から10年前。
いにしえの勇者によって討伐された、魔王の怨念が形をなした最悪の存在、【魔神】が出現。
魔王が生きていた時と同等の被害が世界中に及ぶ。
その魔神を討伐したのが……俺、アベル・キャスター。
世界中から賞賛を受けた。
やがて皆が俺を偉大なる魔法使い、【大魔導士】と呼ぶようになったのだ。
「昔のあんたと比べて……今はどうだ。33歳のくせに、髪の毛は老人みたいに真っ白。体にもガタがきて、まともに走ることもできない。それに、体内の魔力量も年々減ってきて、今はもうまともに魔法が使えないんだろ?」
……俺は現在33歳。
だというのに、俺の体はボロボロになっていた。
原因は、不明。
魔神の呪いか……? と思って、【ジャーク】の紹介で高名な呪術師に診てもらった。
だが、そのような呪いは受けていないとのことだった。
治療師にも相談したが、体の衰えの原因はわからないという。
「おっさん……もうあんたの居場所は、最前線にはねえんだよ」
「…………」
魔法の使えない大魔導士なんて、世間の誰も認めても、求めてはくれないだろう。
でも……。
「俺は……ここにいたい」
「はぁ~~~~~~~~~~~~~………………。あのさぁ……おっさん。あんたの伝説はもう終わったんだ。過去の栄光にすがって、いつまでもみっともなく最前線で戦おうとすんなよ」
「…………」
ジャークは、わかってくれてないのか……。
俺がどうして、このパーティにいるのかって。
「アベルのおっさん。あんたには一応感謝してるよ。孤児上がりで、右も左もわからねえおれと【あいつ】に、戦いのイロハを教えてくれた。この聖剣も、あいつの【杖】も、あんたが居なきゃ手に入らなかった」
……そう、あれは10年前、魔神を倒したあと。
俺は一組の少年少女を、拾ったのだ。ひとりは勇者の職業を持つジャーク。
もう一人は、ジャークと並ぶ才能を持つ少女。
ティア・セラージュ。聖女の職業を持つ少女だ。
ジャーク、そしてティア。
二人とで会ったのも10年前。彼らもまた、俺と同じスラム上がりの冒険者だった。
彼らに、在りし日の自分を重ねた俺は、二人を育てることにした。
……二人が立派になるのを、見届けるのだと。……家族の居ない俺にとって、二人は……家族のような存在だった。
だから、家族が独り立ちできるまで、側で支え続けようとしたのだ。
体が衰えても。
「おっさんには感謝してるけどさ。いつまでも足をひっぱらないでほしいんだ。おれもそうだし、ティアのもさ。あんた……ティアに毎晩治癒魔法かけてもらってんだろ?」
聖女であるティアの能力は、【超回復術】。
あらゆるケガ病気をなおす、癒やしの光を使うことが出来る。
俺の指導によってティアは自在にその能力を使えるようになった。
苦しんでいる人たちのため……無償で治癒術を使ってあげる、優しい子だ。
「あんたもわかってんだろ? 毎晩あんたのとこにいって、あんたの体を治そうと力を使ってる。でも……それがティアに負担かけてんだよ」
「……っ」
……薄々、わかっていたことだ。
ティアは、一日の活動が終わったその日の夜、疲れてるだろうに、俺に治癒を施してくれていた。
日増しに体調が悪くなる、俺のために……。
彼女は『これくらい平気です!』といってくれた。
でも……やっぱりそれは強がりだったのだろう。
「あいつ愚痴ってたぜ? 『毎日辛い』ってよ」
「! ほんとか……?」
「ああ。ホントだよ。アベルのおっさんには恩義があるから、治癒してやってるけど、ホントはもうやりたくないってさ」
「…………」
……やっぱり、そうだったのか。
なんてことだ。俺は……ティアに負担をかけていただなんて。
ティアとジャークは姉弟のようなものだ。
俺には言えない、秘密を、弟であるジャークに漏らしたんだろう。
「……けけ、バーカ。あっさり信じてやがる……」
「ジャーク?」
「ああ、なんでもねえ。とにかく、おれらにとってあんたは必要ない存在なんだよ。おれはあんたなしでも戦えるし、ティアを守ることもできる」
……そうだな。
ジャークは確かに強くなった。
ティアも凄い治癒の使い手となった。二人は、もう立派になった。俺の役目は……ここで終わりだ。
「でも、俺が抜けたら、あとはどうするんだ?」
「腕の立つエルフをもう既にスカウトしてある。あんたが抜けても大丈夫さ」
なんて周到さ。
……これは、多分前々から決めていたのだろう。ジャークとティアの二人で……。
俺、抜きで……。
「…………」
ぽた……と涙がこぼれ落ちた。
二人に拒絶されて、俺は悲しかった。
孤児で、孤独を抱えた俺にとって、二人は家族だと思っていた。
でも……それは俺の一方通行な思いだったのだろう。
大魔導士となったあと、俺は家族のために頑張った。
でもそれは無駄な頑張りだったようだ。
……なんだか、どっと疲れた。
「……わかったよ。俺は、パーティを抜ける」
「ん。そーしてくれ」
……俺は最後に、持っているものを、全部、ジャークたちに託すことにした。
家族への、餞別だ。……まあ向こうは家族じゃないって思っていたようだが。
高い装備品を魔法袋につめて、ジャークに渡す。
そして、右手に収まってる【指輪】も……外そうとする。
「そんなきったねえ指輪なんて、要らねえよ」
「!」
……この指輪は、ジャークとティアが俺にくれたものだ。
初めて二人だけで倒した魔物。
それで得た金で、買ってくれた……思い出の指輪だ。
少しでも金の足しになればと思っていれようとしたのだが……。
それすら、要らないといわれてしまった。
俺にとっては思い出の品なのに……。
「じゃあなアベルのおっさん。ティアにはおれから、出て行ったって言っておくからさ。別れのあいさつなんて要らねえよ」
「……でも」
「あーもう! 察しが悪いなぁ。ティアはあんたの顔も見たくないってよ!」
「…………」
そんなに、ティアは俺のことを嫌っていたのか……。
……なんだか、さらに気持ちが落ち込んできた。
俺はとぼとぼとその場をあとにする。
街の出口でちら、と一度だけ背後を振り返った。
ティアは、ジャークの肩によりかかっていた。
……ああ、なんだ。
「そういうことか……二人は、恋人同士だったんだな……」
そんなことも知らなかっただなんて、なんて間抜けなんだ……俺は。
こうして、かつて大魔導士と呼ばれた俺は、大事だと思っていた家族たちから拒絶され、パーティを追い出されたのだった。
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