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第18話 お先にいただきます

 キラーーーーン!!!

 トウヤは肉肉人(にくにくじん)に蹴飛ばされ、はるか遠くへ消えていった。


「うんっ??うんっ??」

 気付かぬうちにトウヤを蹴飛ばした肉肉人は、自分のしたことに気付かずに足を止めてトウヤを探していた。


「ねぇ・・・??ちょっと・・・」

 ムーンはいつもの口調で、しかし内面は緊張しながら肉肉人に話しかけた。


「何だ・・・??」

 その凄みに萎縮しそうになったが、ここで引けば召喚士としての威厳がなくなると察知したムーンは、気丈に振る舞ってみせた。


「"何だ・・・??"じゃないわよ!!なんであんたあんな遠いところに召喚されてるわけ??」


「・・・・・」

 肉肉人はムーンの問いかけに何も答えない。


「あんた召喚される側として、とても失礼なことしてるわよ!!」

 ムーンは自分が無茶苦茶なことを言っていると理解しながらも、ここは力で押し切ろうと考えていた。


「・・・・・」

 肉肉人は尚も黙ったままである。

 その様子がムーンには何よりも恐怖だった。

 だからこそさらに畳み掛けた。

 攻撃は最大の防御と言わんばかりに。


「あとねぇ、来るのが遅いのよ!!遠くに召喚されただけならまだしも、ここに辿り着くのにいったいどれだけかかってんのよ!!」

 八つ当たり以外の何者でもなかった。

 本当は全てムーンのせい。

 それはムーンが一番良く分かっていた。


「お前凄いなぁ・・・」

 肉肉人はやっと口を開き、思ったことをストレートに言った。


「えっ??」


「はははは!!!面白い!!ここまで高圧的な態度で来られると逆に清々しいわ!!」

 肉肉人は体だけでなく、心も大きかったのである。


「な・・・、何を笑って・・・」

 と言いかけたところで、さっきからまくしたてるように話しているため急に息苦しくなり、着ぐるみの頭部分をとった。


 カポッ・・・


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!化け物ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 肉肉人は動物の頭の中から人の顔が出てきたことにとてつもなくビックリした。

 肉肉人は今の今まで自分はクマと話をしているのだと思っていたのだ。


「何が化け物よぉぉぉ!!」

 ごもっともである。


「俺は魔界では年長組に属すると思っていたが、まだこんな未知の生き物がいたとは・・・。クマの顔の下に人間の顔・・・。寿命が300年ほど縮まるかと思ったぞ!!面白い気に入った!!これからも貴様の力になってやる。先ほどのように、何か困ったことがあればいつでも俺を呼び出せ!!」


「えぇ・・・」

 何だか上手くいったようで、ムーンはホッと一安心した。

 次の瞬間である。


 バタン・・・。

 ムーンはその場に倒れてしまった。

 無理もない。

 初めての召喚魔法。

 それにムーンは気づいていないが、肉肉人はかなり上位に位置する魔界の住人である。

 召喚するにはムーンの全魔力を注がなければいけないほどの。

 ムーンは満身創痍だったのである。

 緊張や危機的状況が疲労に対する意識を鈍感にしていただけであった。

 そのため、一戦終え安堵したムーンは、その疲労を一気に感じ始めたのである。

 結果、その場に倒れてしまったのである。


 ザッ!!ザッ!!ザッ!!ザッ!!ザッ!!

 ザッ!!ザッ!!ザッ!!ザッ!!ザッ!!

 そんなムーンに歩み寄る者がいた。


「クククク!!地響きのような音が聞こえたので気になって来てみれば。これは思わぬ収穫だ!!おいっ!!この女もその男と一緒に連れていけ!!」


「かしこまりました!!ボリべさま!!」

 2番隊の兵士はムーンを抱え、ボリべの後をついていった。


「クククク。こいつは確かサンの妹だったはず。俺を殺そうとして来たところを捕まえられ、今頃はギルティ王国で処刑されているはず・・・。どうしてこんなところにいるのかは知らないが、こんなところに偶然いるなんてあり得ないだろ!!不審者たちの仲間であるのはほぼ確定。このまま連れて行けば、何かあった時の交渉材料として使える。これは計画以上に順調に進み始めているぞ!!ダメ元で頼んだポロ・アチチさまも出席してくださるようだし・・・。ククク。神が俺とサンの結婚を祝福してくれているみたいだ!!幸せすぎて笑いが止まらねぇぜ!!ハハハハハハ!!!」

 追い風吹く森の中、自身の結婚式を挙げるため、教会へと続く道をボリべは闊歩する。

 クンとムーンという人質と一緒に・・・。




「ん??あんなところに人が倒れている・・・」

 教会へ急いでいたニニは、森の道の真ん中に倒れている男を見つけた。


「大丈夫ですか??」

 ニニの頭の中では、教会へと焦る気持ちと男を心配する気持ちが綺麗に同居していた。


「うぅぅぅんん・・・・。うぅぅぅんん・・・・」

 男は酷くうなされていた。


「どこか具合でも悪いのですか??」

 男を見れば、今の質問がどれだけ愚問かわかる。

 それほどまでに男は苦しんでいた。


「えぇぇい!!」

 ニニは気合を入れて男を担ぎ上げた。


「ドラキュラさまに先を越されるかもしれないですが、だからと言って、このままこの人を放っておけないですよね!!」

 と言いながら、ニニは男を背負って気がつく。


「熱がありますね??体が熱いですよ」


「ははは。おかしなことを言う人ですね。そりゃあ私だって人間なのですから、熱くらいありますよ!!」

 男は息切れ混じりにそう言い返した。


「いやそうじゃなくて、平熱以上の熱がありますよってことです!!」


「あなた、私の平熱をご存知なのですか??」


「だからぁぁ・・・」

 ニニは知恵熱が出そうになった。

 しかし、男の苦しそうな話し方を背中で聞くうちに、早く病院に連れて行ってあげたいと言う気持ちが教会へ急ぐ気持ちを凌駕し始めていった。


「私、昨日まで旅に出ていまして、こっちの方で予定があったので戻ってきたのです」


「はぁ・・・」

 ニニは男の突然の身の上話にあまり関心を持てないでいた。


「で、目的の場所まで行こうとしたら道に迷ってしまって・・・??」


「でも、ここら辺が地元なのでしょう??」


「この街に職場があるってだけですよ!!だから若干愛着も薄くて、こうやって道に迷ったりしているのです。ははは」


「風邪まで引いてね」


「風邪なんて引いてませんけどね・・・」


「ははは」

 ニニには男が強がっているように見えた。

 しかし、それが微笑ましくもあった。

 それでついつい笑ってしまった。


「そういうあなたはこんなところで何をしていたのですか??」


「私は・・・。うぅ〜〜〜〜んん。囚われのお姫様を助けに向かっている途中ですかね」

 我ながらキザな言い回しに、頬が焦げ落ちそうなほど恥ずかしくなった。


「わぁぁお!!それは面白そう!!私もそこに行きたいです!!」


「いやいや、あなた熱があるんですよ!!まずは病院でしょう!!」


「でしたら、この道をもう少し行ったところを右に行ってください」


「ここら辺からは道が分かるんですね??」


「はい!!任せてください!!」


「助かります!!」

 ニニは男の言う通りに道を進んで行った。

 すると遠くに白い建物が見えてきた。


「ふぅ〜〜。やっと見えてきましたよ!!病院にさえ着けばもう安心です!!」

 目的地に向かい歩を進めるニニ。

 視界にしっかりと白い建物が見えた時、ニニはあることに気がつく。


「これは・・・、教会・・・」

 そう。その場所は自分たちが先ほど見下ろしていた、結婚式が行われる予定の教会であった。

 そしてニニの目的地でもあった。


「おい見ろよ!!」

 教会の警備に当たっていた兵士たちが一斉にニニに注目した。


「よいしょ・・・っと」

 男はニニの背中からサッと降りて教会の方へとスタスタ歩き始めた。


「お忙しい中、ご苦労様です!!ポロ・アチチさま!!」


「えっ??」

 ニニは口を開けたまま固まった。


「ここがボリべの結婚式場かぁ・・・」

 そう言いながら。ポロ・アチチは教会全体を見渡した。


「そう言えばお礼がまだだったね。君、ここまで連れて来てくれてありがとう」

 ポロ・アチチはニニに感謝の言葉を送った。


「ドラキュラさま、お先にいただきます」

 ニニは満面の笑みを浮かべた。

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