表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/67

第17話 肉肉人

「いでよ!!!肉肉人(にくにくじん)!!!」


 ブフワァァァァァァァァァァ!!!

 ムーンの詠唱に呼応するように、禍々しい煙が辺りを覆った。


「な・・・、なんだこの気味の悪い空気は・・・??」

 明らかに今までとは"何か"がムーンとトウヤの周りに充満していった。

 それは、異界からの使いがまとったオーラであった。

 やがて煙が晴れて、中から魔界の住人が現れた。


「・・・・・」

 トウヤは言葉を失った。


「・・・・・」

 ムーンも言葉を失った。


「何か・・・遠くね・・・??」

 そうトウヤが言ったのも無理はない。

 ムーンは確かに召喚することに成功したのだが、まだまだ召喚魔法が未熟なため、召喚する場所を間違えたのである。

 二人から遥か遠くの方に、その魔界の住人は召喚されたのであった。

 先ほど、二人を包んだ煙は何だったのか・・・??

 全く関係のない場所に肉肉人は召喚された。

 さらに二人が遠くの肉肉人を確認しようと目を凝らして見ると・・・。


「何だか・・・ちんちくりんなやつが召喚されたな・・・??」

 トウヤがそう感じたのも無理はない。

 肌の色は人間に近く、頭はスキンヘッド+つむじに毛が三本。

 上半身は裸、下半身にはステテコパンツのような膝上までのはきもの。

 足は裸足。

 見るからに雑魚キャラ。

 そんな印象を受ける。


「○○○○○○○○!!!」

 そんなちんちくりんが遠くで何かを言っているようだった。しかし二人には全く聞こえな勝った。


「○○○○○○○○!!!」

 それでもそのちんちくりんは二人に向かって何かを話しかけている。


「はいはい!!わかったわかった!!いいから早くこっちに来いよ!!でないと、お前のご主人様の命がなくなっちゃうぞ!!」

 その言葉が届いたのか、ちんちくりん・・・もとい、肉肉人は二人へ向かい走って来た。

 早くなければ、遅くもない。

 ただただまっすぐ二人に向かって走って来る。


 トン!!トン!!トン!!トン!!トン!!

 トン!!トン!!トン!!トン!!トン!!

 その音はとても小さく軽いものだった。


「はははは!!何だか走って来る音までちんちくりんだぞ!!」

 トウヤはリラックスしながら近づいて来る肉肉人を見ていた。

 トウヤが肉肉人に見惚れているのを見て、ムーンはその場からこっそり逃げようとしていた。


「おいっ!!」

 ムーンの方を全く見ずにトウヤが言った。


「どさくさに紛れて逃げようなんて考えてないよなぁ・・・」

 その言葉に"ビクッ"としてムーンは足を止めた。


 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

 足を止めたムーンとは対照的に、肉肉人が走って来る音が少しずつ大きくなっていく。


「はぁ、あいつがここまで来るのにもう少し掛かりそうだから、少し話でもするか??」

 ムーンの返事を待つつもりはハナからなかった。


「お前、もしかして今日の結婚式を妨害しに来たんじゃねぇだろうな??」

 着ぐるみの隙間から汗が溢れ出そうなほど、ムーンは動揺した。


「どうやらその様子だと違うようだな」

 着ぐるみからは表情が読み取れない。

 そのため、自分の質問に対して着ぐるみがあまり動かなかったのを見て、トウヤは自分の読みが外れたのだと勘違いしたのだった。


「しかし、あのサンって女もついてねぇよなぁ・・・」

 ここで初めて着ぐるみは"ピクリ"と反応した。

 話に夢中になっているトウヤは、またもや気づいていない。


「あのボリべに目をつけられるなんてよぉ・・・。あいつ一度食いついたら離さねぇからなぁ!!!どんな手を使ってでもものにしようとするからたちが悪い!!その上、その為に練った計画には一切の抜かりがないときている。今日だってそうだ・・・。自分の結婚式を妨害しようとするヤツが必ずいるって仮定して、徹底的にリサーチしていやがった。そしたら本当に妨害しようとしている集団を見つけやがった!!どんな手を使ったかしらねぇがな・・・。そこからはトントン拍子だ。まず集団の中で弱みを握れそうなヤツを見つけ、そいつを脅す。今度はそいつにスパイとしてそのまま集団に紛れ込ませ、ここぞのタイミングで裏切らせる!!今回も同じ流れよ!!信頼していた仲間に裏切られたショックで士気は下がり、成功へ向け尽力していた分、より大きな絶望感を味合わせることが出来る・・・。全くもって趣味が悪い!!だが、俺は嫌いじゃない!!だから、喜んで手を貸した。案の定、バカがまんまと引っかかったみたいで笑いが止まらねぇぜ、はっはっはっはっはっ!!!!」

 ムーンの握った拳がプルプルと震えていた。

 その原因はボリべであり、トウヤであり、自分の無力さでもあった。


「何だ??そのプルプルした手は??恐怖か??それとも苛立ちか??それともアル中か何かか??まぁ、いずれにしてももうちょっとの辛抱だ!!今こっちに来てる、あのちんちくりんを軽くぶっ飛ばしたら、次はお前だ!!その悪趣味な着ぐるみをギッタギタにして、本性を見てやる!!全然結婚式と関係ないのに、たまたまこんなところでふざけてたら俺に見つかって、人生詰んじまうなんてなぁ、お気の毒にぃぃぃ!!!」

 不快な笑い声が響いた。

 

 ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!

 ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!

 肉肉人の足音がどんどん近づいて来る。


「やっと来たか、ふぅ〜、待ちくたびれたぜ!!つまらん話もしてしまったし、では、ちんちくりん退治と行きましょうか」

 ようやくトウヤは構えた。


「えっ・・・????」

 話に夢中になっていたトウヤは気付かぬうちに、体を着ぐるみ(ムーン)の方へ向けていた。

 要するに近づいて来る肉肉人から、目を離していたのだ。

 そして、数分ぶりに肉肉人へと視線を戻したトウヤは次の瞬間、額から一筋の汗をこぼす。

 自分の想像していた景色と違っていたからである。


 ドガガンッ!!ドガガンッ!!ドガガンッ!!ドガガンッ!!ドガガンッ!!

 ドガガンッ!!ドガガンッ!!ドガガンッ!!ドガガンッ!!ドガガンッ!!

 眼前に迫り来る、肉肉人の足音は鼓膜を突き破りそうなほど大きかった。


「デカくね・・・????」

 そう。肉肉人は身長100m、足のサイズ15mというスケールの持ち主なのだ。

 最初に見た姿がちんちくりんに見えたのは、10km先にいた肉肉人を見ていたからであった。

 そして・・・。


「誰がちんちくりんじゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 肉肉人は耳も凄く良かった。

 遠くでトウヤが離していた声が全て聞こえていたのである。

 怒りが1mmも冷めることなく、10kmの助走でスピードにのった肉肉人は、そのままトウヤに突っ込んだ。


「あっ、やべっ、詰んだ」

 と、トウヤが思った時にはすでに遅かった。


 バッコォォォォーーーーンンンン!!!!

 トウヤは、肉肉人に蹴飛ばされ、遥か彼方へと消えていった。

 ムーンはトウヤに勝利した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ