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第13話 格下は隠した

「はっ、ほっ、とっ・・・」

 上司と逸れた少年は森の中を淡々と走っていた。


「待てぇぇぇぇ!!」

 後ろからは剣や槍など殺傷能力のある武器を持った兵士たちがたくさん追ってきている。


「どうしよう・・・、ドラキュラさまとはぐれてしまった・・・」

 ニニはクンの言った通りに教会へ向かっていた。

 "敵に見つかってしまった"ことは全く気にしていない。

 それよりもドラキュラが自分の目の届かないところに行ってしまったことの方がよっぽど気掛かりだった。


「絶対にあの人は何かしでかす!!このままだと絶対に・・・」

 自分たちの目的は"本当の罪人"であるボリべをギルディ王国に連れて帰ることである。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 しかし、それ以上や、それ以下になる可能性がこのままだと出てくるのである。

 ドラキュラというたった一人の男の自由奔放な行動によって。


「はぁぁ・・・、結婚式って言葉だけ聞くととても幸せなんだけどなぁ。どうしてこうなってしまったのやら」

 ニニは昨日からずぅぅーーっと後悔ばかりしていた。


 ピュンッ!!

 そんなニニの頬を突然何かがかすめた。


「痛てっ」

 思わず声が出る。


「ふんっ!!不審者というから来てみれば・・・、なんてことはない。ただの子供じゃないか!!」

 兵士たちの群れの中から一人、細身の男が前に出て言った。


「・・・」

 ニニは何も言わずに群れを見つめている。


「どうした・・・??怖気付いたか??それとももう降参か??おいおいやめてくれよ!!わざわざホッカ王国3番隊副隊長のムットマ様が来たというのに、こんなんで終わってたまるかよ!!まだ何にも出来ていないんだからなぁ・・・」

 男はウズウズしているようだった。


「ちょっと落ち着いてください。あなたの言う通り私は子供です。大人たちに言われるがままついて行ったらこんなことになってしまって・・・。なので、今回のところは見逃してくれませんか??」

 ニニは握り拳を作った左手を右の掌の上で回しながら言った。


「ふん!!ガキが一丁前にゴマスリか??どうせ人に媚び売ってでしか生きていけないような、くだらん両親を見て育ったんだろ!!不憫だなぁ・・・。そう考えるとお前の言い分も納得は出来る」

 ニニは自分の両親を侮辱したムットマへの怒りを顔に出すことなく、薄ら笑いを浮かべながら話を聞いた。


「でしょ??でしょ??そうでしょ」

 ニニは何とか穏便にこの場をやり過ごそうと振る舞った。


「そうだなぁ・・・」

 ムットマは両手を組んで首を左右にかしげながら悩む様子を見せた。


「やっぱりダメぇぇぇぇぇぇ!!!!ガキだろうと何だろうと、大人にそそのかされていようとそうでなかろうと、不審者は不審者だ!!俺はなぁ、自分より格下の相手をいたぶるのが好きなんだよ。たとえそれが子供でもなぁ!!それに、ここでお前を見逃しても、次の瞬間には俺に切り掛かっているかもしれねぇだろぉぉぉぉ。ヒヒヒヒヒヒ!!」


「こんな風に??」


 ズガンッ!!!!

 気がつくとニニがムットマに剣で攻撃を仕掛けていた。

 その速さにムットマは全く反応出来ていない。

 しかし、ニニは剣をわざと外した。

 外れた剣は地面を強く叩いた。

 慌ててムットマはニニと距離をとった。


「き・・・貴様、何だ今のは??どうやった??なぜそんなに早く動ける??」

 ムットマは矢継ぎ早に質問した。


「"何だ今のは??"って、ただの剣での攻撃ですけど・・・。なので"どうやった??"って聞かれても、ただ攻撃したとしか答えられませんね。それと"なぜそんなに早く動ける??"って聞きましたけど、ごめんなさい。僕の中では全く早く動いたつもりはないです。まさかあなたにそんな風に映るなんて僕も正直驚いています。さすがは格下ですね。こんな動きが早いだなんて」

 ニニは意地悪な笑みを浮かべながら言った。


「貴様・・・、調子に乗るなよ!!たった一度、俺の隙をついたくらいで何が格下だ!!それにな、良いことを一つ教えといてやろう。俺の武器はこいつなんだ!!」

 そう言ってムットマは右手に持った弓矢を高く上げた。


「お前のような小僧でも知っているだろう。そう、弓矢だ!!要するに俺の得意とするのは長距離からの攻撃。接近戦はあまり得意ではないのだ。だからこのくらい距離を取ってこそ、俺の本気が出せるのだ!!」

 ムットマはバク転しそうなほどふんぞり返裏ながら話した。


「いや、自分の武器が何であれ、近いからとか遠いからとかで、本気を出せる出せないって言っている時点で、格好悪過ぎますけどね・・・」

 ニニも負けずに口撃をかます。


「うるさい!!子供だと思って調子に乗りやがって。これでもくらいやがれ!!」


 バシュン!!

 ムットマの矢がニニを目がけて飛んで来た。


 シャッ!!

 ニニはすかさずよける。


 バシュン、バシュン、バシュン、バシュン、バシュン。

 バシュン、バシュン、バシュン、バシュン、バシュン。

 ムットマは矢を次から次へと射っていく。


 シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ。

 シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ。

 その全てをニニは避けていく。


「どうした、さっきみたいに攻撃して来いよ。あぁそうか!避けるだけで精一杯か、ハハハハハ!!」

 

 バシュン、バシュン、バシュン、バシュン、バシュン。

 バシュン、バシュン、バシュン、バシュン、バシュン。


 シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ。

 シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ。

 飛んでくるムットマの矢に対してニニが剣で何かをすることはなく、ただただひたすらに避けていく。


「やはり所詮は子供。でかい口を叩いても、いざ相手が本気になれば逃げ回る。典型的な弱者・・・もとい、格下が考えそうな戦術よ!!だがなぁ、俺はそんな格下を痛ぶるのが大好きなのさ!!」


 バシュン!!

 ムットマの矢がついにニニを捉えた。


「ほうら、そろそろ限界か??俺の矢が当たり始めたぞ!!」

 その言葉に観念したのか、ニニは動き回るのをやめた。


「そうですね。あなたの言う通りそろそろ限界です」


「だろうなぁ、子供にしてはよくかわしたと思うぞ。そんなお前に敬意を込めて、この技をお見舞いしてやろう!!」


 "ポイズンアロー!!!"

 ニニ目掛けて矢が飛んできた。


 ザシュッ!!

 ニニはその矢を避けなかった。

 矢はそのままニニの左肩に突き刺さった。


「もう太刀打ちできないと思って堪忍したか??だがもう遅い!!その矢には神経毒が仕込んである。一度当たれば体が言うことをきかなくなるほど強いなぁ!!そして、今から俺は動かなくなったお前をボッコボコのギッタギタにするんだ!!クククク、考えるだけでワクワクしてくるよなぁ??」


 ガクッ・・・。

 ニニは膝をついた。


「ほらほらほら!!早速毒が回ってきたろ??ククク、ハハハ!!もう終わりだ・・・」

 そう言ってムットマは弓矢を構えた。


 スクッ・・・。

 が、ニニは何事もなくついた膝を伸ばし、立ち上がったのである。


「え・・・???」

 ムットマは呆然としている。


 ブンッ!!バッ!!ザッ!!ズバッ!!ビシッ!!

 ブンッ!!バッ!!ザッ!!ズバッ!!ビシッ!!

 そんなムットマをよそ目にニニは素振りをしたり、蹴りの練習をしたりと元気モリモリな姿を披露する。


「なぜそんなに動ける・・・??」

 ムットマは目の前の光景を理解できないでいた。


「"なぜそんなに動ける??"って、毒が効いていないからですよ!!」


「は??ば・・・バカな」


「だからさっき言ったじゃないですか??そろそろ限界だって。こんな茶番に付き合うのはそろそろ限界なんですよ。ちょっと遊び過ぎたくらいです」


「・・・・・」

 "何を言っているのだこいつは??"という疑問が、ムットマの頭の中で何度も繰り返し鳴り響いた。


「だから終わりにしましょうか??」

 ニニは元気いっぱいに剣を構えて笑った。

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