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第12話 トム、返事をしてくれ

 天気は晴れ。

 雲ひとつない晴れ。

 今から数時間後には、いくつもの怒号や叫びがこの空を汚してしまうのだろうと考えると、少し罪悪感を感じてしまいそうなほどに、空は澄んでいた。

 ドラキュラたちによる、ムーンのお姉さん、サンの奪還の日の朝を迎えた。


 ガチャン、ガチャン・・・

 各々が武器や道具を持ち準備は万端。

 誰の掛け声でも構わないから、一声あればスグに動ける。

 そんな体制であった。


 緊張に震える者もいれば、今にも逃げ出したい者、楽しみで震える者もいる。

 しかし、全員が自分のやるべきことに対して覚悟を決めていた。


「では、行きましょう!!」

 クンの声に全員が頷き、それぞれの目的地へと歩を進めていった。


「じゃあな、トム!!頼んだぞ!!」

 クンが右手を差し出した。

 それは誓いという名の握手を求めるものであった。


「あぁ・・・」

 緊張と不安で胸が押しつぶされそうなトムは、クンの目を直視できなかった。

 しかし、視線を少し逸らしながらもしっかりと握手は交わした。

 その光景をニニが遠目で微笑みながら見つめていた。

 森林にみんなの足音が響く中、時間は刻一刻と夕刻へと進んでいく。



「着きました!!ここが待機場所です!!」

 クンに連れられ、ドラキュラ、ニニ、ムーン(着ぐるみ装備)、ヤムは教会近くの高台にやってきた。

 周りには大きな木がのびのびと茂っており、それが教会からの視線を遮っていた。

 だから向こうからこっちが見えにくい。

 ヤムが見つけてくれた穴場スポットだった。


「流石に警備が行き届いているな!!死角はなしといったところか??」

 ドラキュラは全く焦る様子を見せずに言う。

 入口しかり、教会の周りしかり、教会へと続く道しかり、警備に抜け目がない。

 その人数を見ているとこれから自分たちが相手にしようとしているのが、とてつもなく強大なのだと思い知らされる。


「大丈夫ですか??」

 小屋を出発してからずっと手の震えが止まらぬヤムをニニが心配して言った。


「えぇ、大丈夫です・・・」

 歯切れの悪い返事だった。


「私も緊張しています。というより、ここにいる全員がそうです!!・・・あっ、一人違いますけどね」

 そう言ってニニはドラキュラに目をやり続けて言った。


「だから、それで普通。あとは作戦を成功させるためにお互い力を出し切りましょう!!」


「えぇ・・・。ありがとうございます」

 ヤムの頭の中に"人の気も知らないで・・・"という言葉がよぎったが、スグにそう思ってしまった自分の身勝手さを反省した。


「大丈夫!!何があっても私たちがいます!!もしもの時は、私たちがあなたたちを守ってあげるので安心してください!!」

 ニニの言葉に感謝をしながらも、これからのことを考えると簡単には安心できないヤムであった。


「ははは!!そう難しく考えるな!!楽しく行こうぞ!!」

 周りの空気を吹き飛ばすほどの能天気さでドラキュラが言う。

 しかし、そんな言葉では空気は変わらない。

 それでもドラキュラは続ける。


「城の外で力を使うなど何年ぶりだろうか・・・??ワクワクするなぁ!!」

 最早、ドラキュラを止められるものは誰もいなかった。


「異常なーーーーし!!」

 教会の周り以外、静寂に包まれた中、突然見張りの声が響いた。

 全員がドキッとし、見つかるのではと思い身を潜めた。

 その様子をドラキュラだけがニヤニヤしながら楽しんでいた。

 また、そんなドラキュラをニニがとても不快そうに見ていた。


「全くこの人は・・・。感情が戻って間も無いはずなのに、そんなことを感じさせないどころか、既にコントロールをしているかのように楽しんでいる!!僕は感情を失くしたことがないからわからないが、普通はこんなものなのか??」

 やはりどんな時もニニはドラキュラに興味津々だった。


「このまま時が来るのを待ちましょう」

 静かに、しかし力強く、クンがみんなに言った。


 そして、時は過ぎていった。

 眼下には常に忙しそうに動いている兵士たちが見える。

 対照的に、頬に触れる風はとても静かで優しかった。

 このまま何も起きないのではと錯覚するほどに。


「貴様ら、ここで何をしている??」

 全員が一斉に振り返った。

 全員不意をつかれたのである。


「な・・・??なぜバレた・・・??」

 計画と準備に自信のあったクンが一番驚いていた。

 想定外の展開に頭が上手く回らない。

 とりあえず構えをとってみた。


「不審者発見ーー!!」

 しかし敵は冷静でスグに攻撃をしてくることはなかった。

 続々と兵士が集まってくる。


「取り敢えず、みんなそれぞれに逃げてください!!固まったままでは捕まるのは時間の問題です!!かく乱するという意味でも、バラバラに逃げるのが得策だと思います!!みなさん例のものはしっかり持っていますね??」


『もちろん!!』

 一人一人が手に持ったその道具を見せ合った。


「その小型無線機があれば、誰がどこにいても連絡が取れます!!自分の状況を伝えるにも役立つはずです!!それを肌身離さず持っていてください!!そして、あの教会で会いましょう!!どうかご無事で!!」

 しっかりとした指示など出せるはずもなく、ドラキュラたち一向は方々へと散っていった。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・。どうしてバレたんだ・・・」

 不足の事態に回らぬ頭の中で、ふとよぎったことがあった。


「トムは大丈夫なのか??」

 自分たちの計画がどこかでバレたのであれば、トムの行動も筒抜けになっている可能性がある。

 クンは走りながら無線機を取り出しトムに連絡をした。


 ザザザザ・・・。

 ザザザザ・・・。

 ザザザザ・・・。

 全く応答がない。

 

 "やはり、トムにも何かあったのか??"

 クンに再び不安が押し寄せる。


「おい!!トム聞こえているか??聞こえているなら返事をしてくれ!!」

 しかし無情にも、無線からは砂嵐のような音しか聞こえてこない。


「おい!!おいってば!!トム、返事をしてくれ!!」

 大声を出せば敵に自分の位置を教えてしまうようなもの。

 そんな不利な状況になるのだとしても、クンはトムの安否を確認したかった。


 "も・・・し・・・"

 クンの思いが届いたのか、無線からかすかに声が聞こえた。


「トム??トムなのか??実は俺たち、奴らに見つかってしまったんだ!!そっちは大丈夫か??」


「ク・・・ン、め・・・ん」

 その声はトムだった。

 トムが生きていることがわかっただけでもクンは安心できた。


「どうした??何かあったのか??」

 クンはガムシャラに森の中を駆け抜け、気がつけば森の出口近くへとたどり着いていた。

 結果、無線の声が鮮明に聞こえ始める。


「ごめん・・・クン。俺たちが・・・、お前をボリべに売ったんだ・・・」

 その言葉を聞いて、クンの足が止まった。

 目の前には森の出口が見えていた。


「おや、おや、おや、おや、誰かと思えば・・・。私に彼女を奪われた元カレさんではないですか??」

 クンの目の前に見える森の出口には、ボリべが部隊を引き連れ待ち構えていた。

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