第11話 覚悟を決めた者
「クンさんが元ホッカ王国の3番隊隊長だったって本当なんですか??」
「えぇ・・・、本当です」
「と言うことは、サンと言う恋人だけでなく、ホッカ王国3番隊隊長という地位まで、ボリべに奪われたというわけか??」
「ド、ドラキュラさま!!もう少しオブラートに包んでくださいよ!!本当のこととは言え、失礼ですよ」
「ははは、本当のことなんで気にしなくて大丈夫です」
クンにとっては、ニニの言った"本当のこと"という言葉の方がグサリと来ていた。
自分ではもちろん理解していたが、第三者に改めて言われたことでクンの表情は寂しくなった。
しかし、そこは三人よりも大人。
ニニの気遣いに感謝し、ドラキュラの真っ直ぐな言葉を受け止め、気丈に振る舞った。
「ほら見ろ!!クンもこう言っているではないか!!」
ニニは"そういうところを直せと言っているんですよ!!"と言いかけて飲み込んだ。
その判断は正解だった。
なぜなら、クンはニニの言葉により傷ついていたからである。
それに気づかずにドラキュラを攻めるニニは、見る人が見ればみっともなく映っていたであろう。
「なので、自分で言いますが・・・、戦力にはなると思うんです!!」
クンは表情を切り替えて頼もしげに言った。。
「そうだな」
ドラキュラは優しく微笑んだ。
「明日の結婚式は夕方18:00からのスタートです。一応時間は決まっているのですが、出席する人たちは名の知れた強者ばかり!!事件があればその対応にあたると思います。なので、全員が決められた時間に集まるというのはほぼ不可能と考えます」
言い終えるとクンは大きく息を吸った。
ここから大事なことを言う。
全身がそう言っていた。
「それを逆手に取ります!!要するに教会とは別の場所で、私たちで大きな事件を起こすのです!!例えば爆発事故とか・・・」
「爆発事故・・・??」
ニニが復唱する。
「もちろん、人を巻き込んだりはしません!!城下町のハズレに私の祖父が所有していたホテルがあります。すでに廃業しており、今は誰も使っていないので、その建物を爆破して部隊の気をホテルに向けるのです!!」
「そんな大切なホテルを爆破して大丈夫なのか??」
ドラキュラはクンに質問した。
「えぇ、大丈夫です。あのホテルが廃業したのは、かつて戦場だった場所に建設したため、周りに地雷がまだたくさん残っているというデマが流れたからなんです」
「・・・」
ニニは"この人って、とことんついていないなぁ・・・"と思ってしまったが、これもまた口にはしなかった。
「廃業になった時は落ち込みましたが・・・、この日のためだったのだと今なら思えます。なので、それを利用しようと思います!!」
「確かに、そんな話が元々ある場所なら、爆発が起こっても周りは"ほら、やっぱり"ってなるだけですからね」
「えぇ!!それにそんな危ない場所なので、人もあまり寄り付きません!!色んな面を考慮して、この作戦が一番なのではと考えました!!いかがでしょう??」
クンの提案に異論を唱える者はいなかった。
「では、みなさん賛成ということでホテルに爆弾の準備を・・・、と言っても実はもう準備はしてあるんですけどね!!」
「だろうな!!」
ドラキュラはわかっていた。
「えぇ。あなたたちと出会っていなくてもこの作戦は必ず実行していました!!」
「力無いものが、強者に勝つ方法があるとするのなら、それは奇策と相場は決まっている!!」
そう語るドラキュラをニニは尊敬の眼差しで見ていた。
"なんだかんだ言っても、技術・座学共に研ぎ澄まされている"
それは、ふとしたドラキュラの行動や言動から、幾度となく感じて来たことであった。
「で、この爆破を担当はトムにお願いしようかと思っています!!」
「残念ながら私は非力です!!ですが、私の考える力が必要だとクンは言ってくれました!!この"力の必要ない大役"は私にこそふさわしいと思ったのです」
トムの目は覚悟を決めた者の目をしていた。
「どうですか??私の仲間たちは??」
「正直、最初は不安しかありませんでしたが、こうして見ていると案外頼もしいのかもと思えてきました」
ニニはドラキュラがいることもあり、自分たちの方がクンたちより実力が上なのだというスタンスを崩したくはなかった。
それでも、エールを送りたいと思った。
この瞬間からニニはクンたちを足手まといとは思わなくなった。
「では、明日の計画をおさらいしますね!!明日の夕方までにトム以外のメンバーは教会でスタンバイしておきます。トムはホテルの近くで待機。まずはトムが動きます!!結婚式と同時に爆発を起こしても、それが教会まで伝わるのに時間のラグが生じるからです。理想は結婚式が始まる30分前、つまり17:30!!その時間に爆発騒動を起こし、注目を集めます。そしてある程度、ホテルに人員が集まったところでサンの奪還がスタート。・・・といった流れです。よろしいでしょうか??」
「大丈夫だ!!」
ドラキュラが言った。
「えぇ、大丈夫です!!」
ニニも言った。
「では、この流れで行きます!!」
「ひとつ良いか??」
ドラキュラがおもむろに言った。
「何でしょう??」
「教会に向かう送迎中を狙った方が良かったのではないか??」
『・・・・・』
場が静まり返った。
「では、この流れで行きます!!」
クンは聞かなかったことにした。
「みなさん・・・」
そう言うとクンは手を差し出した。
その手の意味を理解して、皆、クンの手に自分の手を重ねていった。
「気合い入れていくぞぉぉぉぉ!!」
『エイエイオーーーー!!!!』
全員がひとつになったような気がした。
「では、みなさん今日はもう寝ましょう!!」
クンの呼びかけに皆が賛同し、それぞれが自身の部屋に戻っていった。
「なぁ、トム??」
「何??」
「明日、大丈夫だよな??」
「どうしたの??今頃怖くなって来た??」
「あぁ・・・。いざとなるとな・・・」
「ヤムだって今まで頑張って来たんだから大丈夫だよ!!」
「わかってる!!わかっているけど震えがとまらねぇんだよ!!」
「それは俺も同じさ!!」
「そうか・・・、明日はお互い悔いのないようにやろうぜ!!」
「あぁ・・・」
トムとヤムはそれぞれのベッドの上で仰向けになり、天窓に映る星のない空を見つめながら眠りについた。
「待っててねお姉ちゃん!!必ず助け出してあげるから!!」
着ぐるみを脱いだムーンは力強い決意を胸に眠りについた。
「はぁ・・・、ドラキュラさまが変なことをしませんように!!ドラキュラさまが変なことをしませんように!!ドラキュラさまが変なことをしませんように!!」
ニニは祈りながらそっと眠りについた。
「待ってろポロ・アチチ!!フフフ・・・」
ニニの祈りを吹き飛ばすように、ドラキュラは武者震いしながら眠りについた。
そして決戦の朝が来た。