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父親と息子③

ーーさらに時はたった今尚、息子は部屋から出てこない。


籠城戦において食事は最も重要な要素の一つだ。

兵站が無くなれば継戦能力がなくなる、籠城中、補給が切られた中で生き残るためには降伏か、城を出るか、の二種類だ。

けれど今現在息子はいまだに籠城を続けている、おそらくピンピンしていることだろう。


想定が甘かったと、認めざるを得ない。

息子の籠城戦は計画的に行われたものだ、決して突発的に行われたものじゃない。

いや、おそらく本人は突発的に始めたものなのだろうが、無意識に籠城戦の準備をしたのだろう。


引きこもり、本来親の甘やかしと体たらくが生み出す生物。


だからこそのWiFiと食事、そして鍵をいつでも開けられるという脅し、それらを行ってなお息子は出てこない。

我が息子ながら愚かにも程がある。


どうしてそういう部分は考えられるのに将来を考えられないのか、と。

将来を考えれば高校二年生で引きこもりはかなりまずいということに気づくはずだ。

将来的に大学に行くにしても就職するにしても高校はきちんと行かねばならない。


手札がつきつつある、現状かなり厳しいと言わざるを得ない。


相手の補給船を完全に経ったはずだが未だに戦闘を続けているあたりどこからか補給を受けているに違いない。

けれどその補給路が割り出せない、母さんに聞いてみたが知らぬ存ぜぬを貫き通された。

怪しいとも思うが、流石に現状に疲れ切っており、息子側につくとは思えない。


「なかなかやるじゃないか、息子よ」


思わず感嘆の声を漏らし、笑みをこぼす。


「だが、いったいいつまでその痩せ我慢が続くかな」


ーー


さらに数週間が経った。


実際、今回の件はかなり厳しかった。

いや、今現在も厳しい状況下にあるが、詰んではいない。


まずWiFi、これだが回復した。


子供の頃極限まで追い詰めたクソガキがいた。そいつは今高校でリア充をしていて彼女もいるし、チャラチャラしている。

あの時店側と警察も十分反省しているからと言って事件にしなかった。

そしてあの話が終わった後、相手側の親や、うちの親からこの件は内密にしろと言われたのを覚えている。


けれど、相手の子供は恐怖した。

いつ言いふらされるのかわからない、自分の犯罪歴がバレれば学校でも孤立し、犯罪者の烙印を推される。

学校からの評価も変わるだろう、今も犯罪をしているのではないかと疑われることだろう。

今現在立候補している生徒会選挙に影響が出ることは確実だ。


だからこそ、連絡を取り、こういった。


『隣の家に住む青島京子さんの家のWiFiのパスワードを教えろ、さもなくば全校生徒のメルアドに例の件をばらす』と。


メルアドは簡単に手に入る、学校初日に教師が有難いことに仲良くしましょう、とか言って全員に欠かせた紙がある。無論奴からの返信はこうだ、長ったらしい自己弁護の文章と、今現在の状況、生徒会会長になるためにそういう事態はまずいとか。


そして最後に書かれた十八桁のパスワード。


これでWiFiへの接続は完了、掲示板に今現在の近況を同じコテハンで書いて父を挑発した。


食料問題だが、これは簡単な話、押し入れにアホほどストックしておいた防災食料が役に立った。

父曰く、日本は災害の国であり、何が起きるかわからない、もしもの時、近隣住民との共存のためにはある程度の量の非常物資があった方が好ましい。

だから押し入れに一ヶ月分の食料を入れておきなさい、と。


それに加えて引きこもりつつ購入していたペットボトルの水とカロリーメイトの箱。

最新式の家で、宅配便をおいておいてくれる箱が併設されている。

だから父と母が不在の隙を狙い、ピンポイントで送ってもらい、回収。

これにて兵站問題は解決した。


そんな可能性父なら普通は気づくだろう、けれどそうはならない。


何故か。理由は簡単、父は俺の資金がショートしていると思っている。

その理由は掲示板のスレでスペックを書く際貯金額も掲載したからだ。


お年玉貯金とだけ書いておいたが、父はこれを俺の財力と判断したことだろう。

だが問題はその桁が一つ違う、ということだ。

現実的な数字かつ、桁を一つ変えることで資金のショート、それを想定する。


父からすれば、今の俺は資金もないのに籠城戦を続ける奇怪な敵だ。


勝つためならばなんだってする、絶対に出ない、そう決め、今日もVtuberの配信を開く。


「ちょっといいか」


ドアの外から声がする、父の声だ。

返事をする必要はない、相手側の降伏ならばそう名乗り出るべきだ。

無視を決め込んで配信の続きを流す。


「私はこの手段だけは取りたくないと思っていたんだが、もうしょうがないと割り切り、お前の基本的人権を軽視することにした」


「……何?」


「今まで私は社会人としてお前の人権を認めてきた。だがそれを終えると今言っているんだ」


「いや、え、ちょっと待っていったい何をする気?」


「最終勧告だ、もし今お前が出てこないならばこの家を売却し、私と母さんは社宅に移る。社長に話した所社宅の最上階、というかもともと社長が使っていた部屋を提供してくれると言った。三十分だけ待ってやる、これは脅しではない。もし出てこない場合この家の売却手続きを始め、お前の失踪届けを警察に提出させてもらう。もう一度いう、これは脅しではない」


出てこないのなら、部屋にいるならば、お前はもう存在していない、失踪しているものだと。

確か失踪届が出されてからある程度すると死亡判定となるんだったか。

その場合戸籍が消え、学校からもいなくなったものとして扱われるーー。


「学校で何が起こったのかわからないが、私は説明を求めた。話さないのであれば理解はできないし、同情の余地もない。これはお前の選択だ」


そう言って、父の足音が遠ざかっていくのがわかった。

知らず知らずのうちに、俺はvの配信を一時停止していた。


「…….んだよ」


悔し紛れにそう呟いて、俺はヘッドフォンを外したのだった。




ーー



喫茶店の朝は早い、野菜の調理から清掃、それらを決められた時間のうちに全て終わらせて、お客さんが快適な時間を過ごせるようにする。

最近少し暑くなってきたこともあって、冷たい飲み物の売れ行きがいい。

今日も冷凍庫の中の氷の量を確認し、製氷機に水を加える。


未だにお客さんの客足は衰えないし、儲かっている。


けれどやはり来る日も来る日も常連さんはこないし、今や新しい常連さんができ始めてすらいる。


個人的に昔の雰囲気の方が良かった、そちらの方が幸せだったとすら思う。

常連さんと馬鹿みたいな話をして、だらだらと駄弁り、紅茶を出して、お菓子を出して近況を聞く。


そういう時間が好きだった、今の忙しいのが喫茶店として正解かもしれないが、自分の目指しているものではない。


けれど理想と夢だけではどうにもならない。

店を維持するためにもお金はいる。黒字でいなければ金は一方に流れるだけでどうにもならなくなる。

今は叔父さんのバーで賄えているが、いざそれがなくなったら喫茶店を守れるのは自分だけだ。


ドアベルが鳴る音がして、顔をそちらに向けて。


「すみませんまだ開店していなくてーー」


「いや失礼、遅くなった。君が鏡花君だね?叔父さんは今いるかい?」


中年男性、高級そうな、しっかりとしたスーツがよく似合っている。

ハードボイルドという言葉がとても似合う、そんな人だった。


そしてその隣には自分と同級生ぐらいの青年がいる。

やけに長く伸びた髪に伸び切った髭、服装はジャージ。


「ーーえっと、今多分寝ていると思うんで起こしてきます」


駆け足で二階に向かう。


おそらく彼が新しく入るバイトだろう。いったいどういう人物か想像していた容姿とはかけ離れて入るけれど。


「(なんでこう親近感が湧くんだろう)」


何もかも嫌になって投げ出したくなった、そんな両眼を見て確かに同類だと思った。

いや正確にいうならば大島さんと出会う前の自分と、だけれども。




ーー



父への無条件降伏の後、母に今までのことを謝罪し、そのままバイト先に連れてこられた。

そこは商店街から外れた通りの、所謂金持ちが生きそうな店の間にある喫茶店だった。

外装は西洋建築、見るからにヨーロッパに憧れてますという風な洒落た雰囲気。


父が扉を開けば、店に風が入り込んで、揺れる赤毛が視界に入った。


一瞬、心臓が止まるかと思った。


彼岸花を思わせる美しい赤毛は線が細く、風に揺れる様はまさに絵画から飛び出してきたかのようで、あどけなさの残る顔はとても良く整っており、小さな口は驚いているのか、小さく開いている。宝石のような両眼が俺を見透かすかのように見つめてきて、思わず息を呑んでしまう。背丈は俺よりも少し小さい、小柄な華奢な体で、若草色のエプロンがよく似合っている。


父と彼女が会話しているが、よく内容が入ってこない、それほどまでに見惚れてしまって。


おそらく、いや自分はきっと、一目惚れというのをしてしまったらしい。

誰かを呼びに行ったのだろうか、店の裏に消えていったその後ろ姿を目で追っていることに気づきまずいなぁと思う。


格好悪い、というか中二病全開の描写だったとなと思う、ラノベ風に書いているが、こんな稚拙な文章で表現なんて仕切れない。それほどまでに彼女の容姿は素晴らしく、神絵師が描いたイラストから飛び出してきたようだ。


何故か父のため息を吐く声が聞こえ、頬を掻く、髭がある、思わずガラス窓を見れば自分の容姿がくっきりと映った。

伸び切った無精髭に髪の毛は伸び切っていて、顔色すらわからない。

前髪が伸び切ってるせいで視界が悪かったんだなぁと思う。


それよりも。


「父さん」


「なんだ?」


「もしかして、今の俺って凄い容姿してない?」


「それを自覚させるために何も言わずに連れてきた」


この父親ふざけるなよと思ったが理不尽極まりないし、自分が間違ってる自覚しかなかったので口を閉じた。

それよりもこんな容姿で彼女の前に出たのか、第一印象は最悪に違いないだろう、ああやらかした。


何故か父は俺の顔を見て、苦笑いを浮かべていた。







男の娘に惚れてしまった息子、その美少女っぷりに完全に女だと思っているーー

そんな彼に未来はあるのか?無論ない。

鏡花からすれば同性の住み込みだが、俊輔からすれば異性との同棲。


二人に未来はあるのか!


次回、ラッキースケベ、俊輔死す。


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― 新着の感想 ―
[一言] 高校生の息子失踪届けは流石に無理があると思う……すぐに警察に一言連絡するだけで親の故意であることわかると思うし、年齢的にちょっとアウトじゃない?って思ってしまった……育児放棄的な?
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