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父親と息子①

高山俊輔(コウヤマシュンスケ)は自他共に認める引きこもりである。

具体的にいうならばここ一年間外の光すら浴びていないし、二階から出た覚えもない。

動くとするならば母親が食事を部屋の前に置いた時だけだ。


人と会話することも無くなったし、語りかけてくる母親は常に無視、同情と叱責、哀愁。

どれもこれも母親の自分勝手なもので、聞きたくない。

怒鳴る父の声もノイズキャンセリングヘッドフォンが守ってくれる。

常に流れているVtuberの配信か、アニソンが外のいやなものから守ってくれる。


毎日叱責してくる父も、最近パタリと来なくなって久しい。

とうとう父親に見捨てられたとネット掲示板に書けば、同類連中が罵詈雑言と同情をくれる。

あいつらも俺も負け組で、同じ井の中の蛙だ。井戸から出なければ平和にその中で生きていける。 

外から石を投げ込まれようとも耐え凌げば井戸は変わることはない。


俺にとっての井戸はこの部屋で、石は両親の言葉だった。


今日も同じ生活が始まる、Vtuberの配信を見て、アニソンを聴く。



ーー


仕事から帰るとき、家の電気は消えていることが多い。

昔は帰るまで待っていてくれた妻も今は寝ていて、作り置きの食事が食卓に置かれているのが日常となった。

唯一家で電気がついているのは息子の部屋、二階の端の部屋だけだ。

どうやら窓は塞がれているのが暗いが、その隙間から光が漏れ出している。

それだけが息子の生存確認の方法であり、しばらくその顔も見ていない。


トイレに行っているのかもわからない、いや、一度だけ丸一日張ったことがあったが、出てくることはなかった。

私か、妻が二階から消えると、トイレに行くらしい。

それも音を立てないように、気づかれないようにひっそりと。


だからこそもう私は息子を諦めた、もう無理だと理解した。

親類や、家族からかけられる言葉では救えない領域に行ってしまった。


だからこそ私は今日バーのマスターと約束を取り付けてきた。

息子の食費、宿代、迷惑料込み込みで一ヶ月。貯めに貯めたへそくり五百万円を無理やり置いてきた。

受け取れないと言っていたが、このバカ息子をどうにかする為だったらそれぐらい苦でもない。


問題はどうやって部屋から叩き出すかだーーいや正確にはどう会話を始めるか。

そもそも会話にすらならない、息子はただひたすらその耳を塞ぎ会話を始めることすら叶わない。


だからこそ私は作戦を立てた。それはーー


ーー



深夜、目を覚ます。

昼夜逆転生活などニートとして基本だろう。

他所の人達が寝静まるころに俺は起きて、掲示板や動画サイトに入り浸る。


パタンと、食事を母親が置いていく音が聞こえるがすぐに出るのは素人のすることだ。

最近だと夕食しか置いていかない、というか母からしたら朝食か。こうやって俺にとっての朝食を置いていくのは何ヶ月ぶりか。


訝しみつつも、あの甘やかすだけしかできない母親が強硬手段に出るとも思えない。


けれどリスクは取れない。

出た瞬間部屋に戻さないように何かをされるかもしれない、父親がひっそりと忍び寄っているのかもしれない。

リスクを考えれば食事はおかれてから冷めていようが口に突っ込める三十分後が最適。


カロリーメイトを口に放り込み、ペットボトルの水をあおる。


PCを起動、動画サイトに飛ぶーーおかしい、検索サイトの画面には見慣れない恐竜のドット絵とインターネットに接続されていませんの表記が出ている。

念のためpcを再起動、どんな問題も再起動すれば九割九部直る。

けれどつながらない、pcの背後を確認するがLANケーブルは確かに繋がっている。


つまり他に思いつく可能性はーー


ーー



息子はおそらく、食事を置いたところですぐに出てくることはないだろうと想定していた。

それもそうだ、息子は自分に似て用意周到、罠を貼り臆病とすら言えるほどの計画を練る。

だからこそ食事が出されてすぐに出ていく危険性は犯さない、自分が引きこもりだったらと想定し思考回路をシミュレート。


きっと息子は時間をずらすだろう、それも毎日決まって別に時間になるように。

例えば月曜日は十分ずらし、火曜日は二十分、水曜日は五分、エトセトラ。

それらを毎日ずらし、そのスケジュールも毎週変えている。


敵の会社を潰すときにするときは何か、内情を探る、だ。

内情を探り、資産状況を探り、有価証券報告書をと照らし合わせ産業スパイを送り、ありとあらゆる手段を講じて敵の会社の情報をかき集め、隙をつき、脅し、話し、そして会社を買収する。


息子とて同じだ、同類を制するときにするべきことなど単純明快簡単なことだ。


息子は部屋で何をしているのだろうか、ゲームだ、動画だ、掲示板だ。

それらの情報は息子と交流のあった友人から聞き出したDisco○dアカウントからゲームのプレイ状況プレイ時間、繋がっているコミュニティから割り出した。


参考となる情報、息子の境遇から板を探しスレを読み漁ればそれらしいものは見つかる、そしてそこで深い指数の極めて高く、掲示板の住人が好きそうな事をする。

そしてスレが立てばコテハンを記録し息子の財務状況、近況、感情などを探ることができる。


情報は正義だ、武器だ、最強のアイテムであり情報に勝るものなどない。


だからこそ、追い込む。今までの軽いジャブではなくストレートを腹に叩き込む。

全ては奇襲、対策などできない。


「さて、今頃君はWiFiがなくなってることに気づいた頃だろう」


そう、ドアに向けて語りかけた。



ーー



「さて、今頃君はWiFiがなくなってることに気づいた頃だろう」


ぐるぐると回る検索エンジンの画面、ああ、そうだ、敵の攻撃だとすぐに気づいた。


そう、敵、父だ。


父は計画的だ、用意周到だ、自分の情報もあらゆる手段で集めたに違いないだろう。

親として尊敬したことはないが、一人の敵としてその実力を認めている。

だからこそある程度こちらの情報が流れていると想定ーーわざわざ掲示板やチャットアプリでも悟られぬように情報をあえて流した。

コテハンをつけ、disco○dも友人から敢えて流させた。

敢えて餌を撒き、相手がどこから情報を得ているのかを断定。


欺瞞情報を撒き、相手が信じるであろう真実の情報に一割の嘘を混ぜる。


「ーーいい加減出てこい。学校に行けとは言わない、いやなことがあったんだろうとは理解している。教師やクラスメイトの主観で語られた情報が全て事実だとも思っていない。両者の情報を比較し、検討、吟味することで実際の背景はえらる、そういうものだと教えたよな」


「……」


「せめて、説明をするならしてくれ。母さんが問い詰めて、攻撃し、お前を悪だと決めつけたことは私からも一言言っておいた」


「……」


「今日、父さんの友人に頼んでその人の店でバイトをさせてもらえないかと頼んだんだ。だから、バイトから始めてみないか?今の今までずっとお年玉貯金で耐えてきたんだろう?それもほぼほぼなくなってきたはずだ」


ーー笑うな、まだ笑うな。


「だから、出てこい。焼肉でも食いに行こう。冷めた飯ばかりじゃ気がまいるだろう」


「はっ……父さんも老いたな」


ここまで順調に行くとおもわず笑いが出てくる、笑わずにはいられない。

ドアの向こうで唖然とする父さんの顔が見えるようだ。


「何?」


「俺が父さんが情報を集めていないと、そんな想定をしていたとでも思ってるのか?」


「……気づいていたのか」


「父さんは親として嫌いだ、どこまでも論理的で感情論を有さない。説明したところで俺を理解しちゃくれないに違いない。だから俺は部屋から出るきも話すきもない。ここは俺の城だ、籠城させてもらう」


「ふむ、まあ、息子よ。そこまで親として毛嫌いしているなら、その敵の手の内ぐらい理解していたんだろう?父さんのパソコンにハッキングしていたことぐらい気づいている」


ーー!?


気づかれていたのか!?

父さんのパソコンのセットアップをした三年前、念のため仕込んでいたマルウェアがバレたとでも!?


「俺はお前を自分の息子として、最大限理解しているつもりだ。敵として接した場合、父さんがどうなるかもわかっているだろう。お前が一日の大半を掲示板と動画サイトで浪費していることぐらい理解している。WiFi無しでどこまで耐えられるか、精々見せてもらおうじゃないか。だがもし今ここで出てきて会話をし、説明をし、バイトに行くというならばWiFiは新しく光配線をしよう。これは最大限譲歩した講和勧告だ」


「講和は、無い」


「そうか、なら無条件降伏することだ。私は寝る。ちなみに寝ている間に下の階に来たとしても監視員を雇っておいた、降りてくるなり捕縛してもらう手筈になっている。じゃあせいぜい頑張ることだ」


今度こそ父の足音が遠ざかるのがわかった。

けれど爪が甘い、甘いにも程がある。マックスコーヒー並みに甘い。

情報が漏れていることにも気づいていた、父さんはそれを問題がないと理解していた。


それもそのはず、WiFiという文明の力を、一方的に奪えるのだから。

通信網、情報網は命にも変え難い。

現代において情報戦は最優先事項と言って差し支えないだろう。


だが今父さんによりその情報へのアクセスを全面的に失った、こちらが足掻くことも、抵抗することを想定した上で父さんはWiFiという命綱を奇襲で奪い去った。


「だけど、爪が甘いよ父さん」


引きこもりを舐めるなーーそう呟いて、俺は家庭用ゲームハードを片っぱしから起動、SEKI○Oとダ○ソを起動した。無論もうクリアしてあるが一からだ、死にゲー、ハードコア、縛りプレイ。

引きこもりが全力を出せばどれほど時間を浪費できるか目にモノを見せてやる。



ーー



「やっぱり、息子は出てこなかったよ」


電話越しにバーのマスターに連絡を入れる。


『その、流石にバイトからはきついんじゃないか?』


「いや、一度攻勢を始めたからには相手の息の根を止めるまで続ける。もうこれ以上時間が経ったら取り返しがつかないってことはマスターもわかるでしょう?」


『果たして、そう上手くいくかね』


意味深にマスターはそう呟いて、遅れることの謝罪を告げて、電話を切る。

現代人引きこもり一人がwifi無しに生きていけるはずがない、一週間しないうちに出てくることだろう。



ーーあれから二週間が経った。



天岩戸、ひらかず。



父親と息子の全面戦争、無条件降伏は果たしてあり得るのかーー!?男と男の鎬を削る戦いの決着はーー!?


次回、鏡花、困惑する。

明日も、サービスサービス!


それと挿絵を追加したので、よかったら探してみてください、過去の話につけてあります。

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