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喫茶店と少年

今まで私が定休日を設けていなかった理由はただ一つ。そこまで忙しくなかったからだ。いやだっていつも私は座って雑談をしながらのんびり紅茶を淹れて、日が暮れたら表の札を裏返すだけだったのだから。


夜は小説でも読みながら、適当なタイミングでお風呂に入ってベッドに行く。夜間営業のために、叔父さんは昼間は大体寝ている、そうでもしないと夜には起きれないのだ。お偉いさんから著名人が来るとか言っているけれど、大体眠りこくっているので見たことはない。


まあ喫茶店の営業を支えられるぐらいの金額を儲けているのだから、確かにお客さんは来ているのだろう、知らないけれど。


と、簡単に説明したのだけれど、私は基本的に暇で、六時にはもうダラダラしていて朝起きてさらに本を読んでダラダラする、そんな生活だった。過去形だ。今となっては客が絶え間なく来て喫茶店は繁盛している。黒字というのは嬉しいものなのだけれど、一人で働いているとやはり無理が祟る。叔父さんの提案を聞いて私は定休日を設けた。


毎日あれだけ忙しいのが続くと、私としても体に来ているのがわかる。関節の節々が痛いし、筋肉痛でヒリヒリする。なんだかもう筋肉痛に筋肉痛を重ねすぎてなんとも思わなくなってきた始末だ。


何故定休日の事をこうやって考えているかといえば、今日がその日だからである。


「何をすればいいのかわからない」


そう、定休日にすることがわからない。ベッドで眠り、昼頃まで寝て休もうとも思ったのだが、生活習慣が抜けず、五時ごろに起きてしまう。一応バーの方を見て、叔父さんが飲み潰れてないかを確認しいつも通り喫茶店の、カウンターの中で椅子に座る。


「もしやこれがワーカーホリックというやつなのでは」


毎日が喫茶店の営業だった、それだけに休みという概念を完全に失念していた。疲れているのだからダラダラすればいいのだけれど、なんだかそれはもったいない気がしてできない。かといって店を開いているわけではないので、ここでこうやって座ってても常連さんがくるわけではない。


いや本当にどうしたらいいんだこれ。

足をぶらんぶらんと揺らしてみる、椅子が揺れる、背が低いせいで足がつかないのだ、虚しい。

朝のいっぱいに紅茶を飲もうとも思ったけれど、なんだかそういう気分でもない。

一人でジャンケンをしてみたけれど、何をやってるんだ私という気分が強すぎて続かない。

小説を開いてみたはいいけれど、だいたい読み終えてしまっている。この前リッタ先生が持ってきた病む漫画というのも読み終えたのだけれど、ショックすぎて内容が記憶にない。


「暇だ」


忙しいのなら忙しいで暇を潰せていいのだと、初めて理解した。

こういう時に趣味があればいいのだが、読書以外にやらないし、紅茶を淹れるのも気分じゃない。

足をふらふらとして素数を数えていると、カウンターの上に置き手紙のようなものがあるのが見えた。いや、ようなものではなく、置き手紙だ。それと何か茶色の手紙を入れるような封筒。字が汚いので叔父さんだろう、雑多な紙に書き殴った字で。


「『どうせお前のことだから盛大に暇をして座っていることだろう。そこで親切な俺からの提案なのだが、商店街を散歩してみてはどうだろうか。本屋と、お菓子屋、ケーキ屋などがある、バーのお客さんが甥っ子、まあお前のことを知って、高校の入学祝いにと二十万置いてったので、渡しておく。非常識なのはわかっているが、あっち側も金銭感覚がバグっているので気にしないでやってくれ。この金で適当に趣味でも見つけるといい、貯めるのでも結構』」


......叔父さんの客はいったいなんなんだ、非常識にもほどがあるだろう。どういう理屈で二十万高校生に渡すんだ。とりあえず一枚だけ取り、残りはその場に置いておく。趣味を見つけろと言われてもどうすればいいのかなんてわからない。


「まあ、予定もないし散歩でもいいか」


先ほど独り言をしているな、と思う。あまりよろしくない癖だ。けれど喫茶店で常に雑談していたり、誰かの会話を聞くのに慣れていると、静けさというのがひどく寂しい。ちょっと前までなら、この時間に店を開けて、朝一番で来る大島さんと適当にお話をしていた。けれど補習に行ってるからもうないのだけれど、いや別に何も問題じゃない、気にしてもいない。


適当に寝間着を脱いで、タンスを開けばリッタ先生が持ってきた服の数々が現れた。着るかどうかわからないのによくもまあ買ってくるなと思う。最近は本当に少女らしいものばかり持ってくるのだ、遠慮がない。

適当に見繕ったシャツとジーンズ、髪の毛は水月がおしゃれをしなさいというので、適当に結わいて結んでおく。財布に一万円を入れて腕を伸ばし、あくびを零す。


「......行ってきます」


一言、呟いて喫茶店から出た。さて何をしたものか。

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