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第7話『私も、見て、くださいっ……』

 火照った頬に夜の潮風は心地良い、七月でも日が沈めば気温は下がる。ひなたは今だ続く胸の早鳴りを感じながら帰りを急ぐ。門限に厳しい家族から何を言われるか今から不安だった。

 あの屋上での出来事から、ひなたは自分の住む世界が急激に変わった事を喜んでいた。静かな屋敷に帰るのが嫌で、ちょっとだけ規律に反抗して立ち入り禁止の屋上に行ったのが始まりだった。ひなたはそれだけで満足して、また静かな生活に戻ろうと思っていた。

 しかし、弐々村朝灯が屋上に現れる。静かな自分に話しかけ、その上眼鏡を外した自分に対して『可愛い』など勿体無い言葉をかけてくれた。朝灯は自分と対極にいる人間であり、自分の人生と交わることなどないと確信していたのに。


「朝灯、くん……」


 ぽつりと呟くだけで胸に温かい感情が満ちてくる。魂の回復はできないらしいが、この胸の暖かさを感じるだけで、ひなたは生を感じる事ができた。

 自分――明星ひなたは静かな人間だった。誰かのせいにするつもりはないが、育った家の影響が多大にある。明星家は古い家で、代々虹雪の地に伝わる名家だった。祖父母が封建的な考えを持っており、幼少の頃は同年代の子と触れ合う機会が皆無であった。広くて狭い屋敷がひなたの知る世界の全てであり、全て自分の知る人だけで世界が構成されていた。

 祖父母が他界したのはひなたが十歳の頃だった、そこからは自由に友達を作り、自由に学び、自由に生きられる権利を与えられた。しかし生まれてからの十年を静かに過ごしてきたひなたが、それをきっかけに活発に生きる事は難しかった。

 父と母、屋敷の内側にいる人間――壁の内側にいる人間に対しては心を開く事ができる。けれど未だに壁の向こうにいる人間は苦手だった。ひなたの事を知らないし、ひなた自身が分からない人間とどう接していいかなんて分からなかった。視力は悪くないのに分厚い眼鏡で自らの表情を隠し、本という物言わぬ存在に依存した。そうこうしている内に時間とともに壁は分厚くなり、ますます内側への依存、外側への憧れを高めていくのだった。

 ひなたにとっての外側、その代表は弐々村朝灯だった。誰とでも訳隔てなく接し、誰の悪口も言わず、人当たりの良い笑顔をいつも浮かべている。成績も運動神経も平々凡々でありながら、弐々村朝灯は徹底的に嫌われる要素が無い存在だった。それがひなたにとっては憧れであり、尊敬できる要素だったのだ。それは何の理由も無く人に好かれているという事なのだから。

 いつのまにか、ひなたは朝灯を外側の代表としてずっと追いかけていた。何もかも自分とは対照的であり、絶対に交わる事の無い憧れの存在として。だからあの時、屋上で声をかけられた時は夢でも見ている気分だった。

 だから落ちていく朝灯を見た時、何の恐怖も感じなかった。ただ『死ぬ人間が違う』という考えが頭を染めあげたのだ。今でも誇らしい。死んだのが自分で良かった、と。

 そして今、その外側の代表と門限を破り放課後二人きりで、妖しい儀式をしている。ひなたは屋上から落ちてからずっと夢を見ている気分だった。


「ただいま」


 ひなたはそう静かに呟いて屋敷の門をくぐった。これから始まる口やかましい父の小言に少しだけ辟易する。ひなたは携帯のアプリを起動し、ピンク色のフォントで百パーセントと表示された画面を見る。憂鬱な気分が消えていく。

 朝灯なら、ずっと憧れていた朝灯なら――こんな自分でも受け入れてくれるのではないだろうか、そうひなたは夢うつつに思っているのだった。





「明星ひなたの匂いがするね」


 ビーフストロガノフの香りが漂ったマンションの玄関で、朝灯は一夜に開口一番に言われた。


「だから、俺だって一夜以外の異性と交流することもあるって言ってるだろ」

「いや……濃い」


 犬の血でも混じっているかのような一夜の嗅覚は、鋭敏に朝灯の変化を捉える。


「し……知るかよ! 一夜には関係無いだろ!」

「それが尽くしたボクに言う台詞!? せっかく色んな液体を入れてビーフストロガノフを作っていたというに!」

「媚薬とか混ぜてないだろうな!!」

「――その手があったか!」

「俺そのうち殺されそうな気がする!」


 朝灯は目の前の錬金術師の事を本当に信じられなくなりそうだった。溜息をついて食卓へと向かう。野球拳の死闘のせいでお腹は限界まで空いていた。

 一夜は律儀にビーフストロガノフをしっかりと仕上げており、なんだか朝灯は申し訳なくなる。食してみると頬が落ちる程美味しく、一夜の底の知れなさを再確認した。


「……ぶー」

「ぶーじゃない、ビーフだ。美味いよ一夜」


 一夜はじっとりとした瞳で朝灯を見つめる。朝灯が褒めているのに反応が薄いのは珍しい。


「……ケーキ」

「ごめんなさい」


 朝灯は今になって思い出す。致命的なミスだった。


「別にいいのだけれども、朝灯がいてくれるだけでボクはいいのだけれども、朝灯はこういう約束を破るような男じゃないと思うの」

「ごめんな、ちょっと立て込んでて。この埋め合わせは絶対にするから」

「立て込んでて? 明星ひなたと立て込んでたの?」

「……ご、ごちそうさま!」


 朝灯は逃げるように食器をキッチンまで運び、食器を洗い出す。一夜とまともに喋っているとそのうちボロが出そうだった。


「明星ひなた……ちっ、ノーマーク。朝灯は明るく元気で黒髪で巨乳の女の子が好きなんじゃなかったの?」

「物凄く下品な言い分だが、概ねその通りだ」

「巨乳っていうのは加点要素が大きいとか?」

「あのね、確かに好きだけど、それだけじゃないっていうのは……上手く言えないけど、分かるだろ、じゃあ一夜は俺の何処が好きなんだよ」


 客観的な視点で聞くと気障な台詞だが、この二人の関係性から考えると、当たり前の台詞だった。


「全部、存在だよ」


 心地良い好意。溺れてしまいそうになる愛情。


「……そういうことだ。だから好みのタイプっていうのは目安って事」

「ということは、明るく元気っていう要素は度外視して、明星ひなたの事を気に入っているんだ?」

「ああ、もうっ! 一夜、お前はどうしたいんだよっ!!」


 朝灯はちょっと声を荒げ、一夜に強く言葉を吐く。しかし朝灯の視界には一夜はいない。朝灯がぎょっとすると、背中から抱き締められた。


「ボクは、明星ひなたより魅力的な人間だと思う」

「自分でそんな事言うなよ」


 一夜はぐずるように朝灯の背中に頬ずりする、くすぐったい甘い感触だった。


「確かに謙虚じゃないよね。けどボクはたくさん勉強して成績は良いつもりだし、運動だって何でもできるつもり。ねぇ朝灯、それは誰の為でもない朝灯の為なんだよ」

「ありがとう、本当に。もちろん俺だって一夜の好意は嬉しいよ」

「じゃあ……答えて欲しい。愛してほしい」


 何度も何度も一夜が願った事、答えの無い問い。朝灯は溜息をつきながら溜息をつく。今度はどんな言葉で繕えばいいか、そんな打算的な考えを巡らせる。

 的確なタイミング、あるいは最悪なタイミングで朝灯の携帯が鳴り響いた。


「……ごめん」


 疲れた声でそれだけ呟き、朝灯は自分の部屋へと逃げる。一夜は一人になったキッチンで立ち尽くした。


「そんなに、明星ひなたが良いっていうの……なら」





 翌朝、朝灯は珍しく目覚まし時計で起きた。いつもは一夜がのしかかってくるというのに。それどころか一夜はすでに学園に向かったようだ、食卓の上にはラップがかけられたサンドイッチがあった。ちょっとした口論になれば一夜が朝灯から離れる事はあっても、一晩たっても離れたままなのは非常に珍しい事だった。


「……いってきます」


 ぼそっと呟き、身支度を終えた朝灯は家を出る。いつもより少しだけ夏の暑さが気だるい。

 学園に着くと、ちゃんと一夜は出席していた。しかし話しかけてこようとしない。ひなたが不思議そうに朝灯を見るが朝灯は何も言えなかった。


 放課後になり朝灯とひなたは虹雪学園から出て、海沿いの自販機の前で式姫を待っていた。本日は土曜日の半日授業だったので時間は十分にある。最も七月の昼の炎天下の中に放り出されて無邪気に遊ぶのも中々厳しいものだったが。


「あの、一夜さんは」

「何も言わずに帰っていったよ、別に明星は気にしなくていい」


 放課後、朝灯は一夜と一言も交わさないままだった。一夜は帰りの挨拶と同時に教室を出て行ったのだ。


「それより、今日の事だけど……昨日みたいに無理はしなくていいから」

「いえ、無理なんてしてないです」


 ひなたは昨日より少しハキハキした調子で朝灯に答える。少しずつ打ち解けてきたのか、と朝灯は安堵する。


「眼鏡外したんだ」

「はい、あれ……伊達ですから」


 ひなたは分厚い眼鏡を外した状態だった、愛らしい瞳がくりくりと朝灯を見つめている。


「そうだったんだ、ふーん」


 朝灯は赤くなった表情を悟られないように視線を外した。どんな心境の変化かは分からないが、朝灯はその変化を嬉しく思った。

 しばらく他愛も無い会話を交わしていると、気の抜けた声が二人にかけられる。 


「うへーい、玉藻先輩だよー」


 式姫が大きなバッグを抱えて現れる。よほど暑いのか亜麻色の長髪をポニーテールに纏めていた。いつもと違った様子に朝灯は少し頬を緩める。


「あっつー全くさっさと冬になれ。死霊術的にも夏はいやなのよ。痛むし」

「何がだろう」


 式姫は黙っていれば可愛らしいお嬢さんであった。発達過多のひなたや、ドールのように完成された綺麗さの一夜などとは違い、普通の体型であるものの非常に健康的な色気があった。利発そうな凛々しい瞳と端正な顔立ちは黙っていれば可愛らしい。


「持てし」

「言われなくても持ちますよ」

「ぐへへへへへ、ひなたちん。今日もいっぱい純情溜めようねぇ」

「が、頑張ります」


 黙っていれば可愛らしい、繰り返し朝灯はそう思う。


「先輩、今日の儀式なんですけど、なるべく人の目につかないところがいいんですが」

「だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと場所は見つけてあるから。しかし人の目があったほうが純情は溜まりやすいんだけど、まだそんな度胸無い?」

「はい、まだ朝灯くん以外に見られるのは」


 自分ならいいのか、というなんだかくすぐったい優越感。朝灯は足取りが軽くなる。三人はそのまま海沿いの道路から少し外れた位置にある林の中に入っていく。道なき道、という訳ではなく適度に踏み倒された道がそこにあった。


「わぁっ……これって、あの、秘密基地みたいですね!」


 ひなたは目をキラキラさせて笑った。今日はずっと機嫌がいい。


「私、こういった経験が無くて、その、お友達と一緒に遊んだりするのが」

「そうなんだ? 私も久しぶりだなぁ。友達とこうやって純粋にお日様の下で遊ぶのは」


 先陣を切る式姫が探検隊のように枝を払いながら答える。


「と、友達……えっと、友達って、ごめんなさい」

「何を謝ってんの? もう私の中ではひなたちゃんはダチよ?」


 ひなたは衝撃を受けたように固まる、しばらくすると物凄い勢いで何度も頷いた。


「……先輩、俺は?」

「パシ……友達、パシ達?」

「聞かれても困るんですけど」

「うそうそ、ダチだよダチ。朝灯君は結構人の間合いに入ってくるのが上手いよね」


 朝灯は心当たりがあり、式姫にそこまで見抜かれている事に驚いた。

 三人はじゃれ合いながら林の中をガサガサと進む、夏の一コマとしたらそれなりに絵になる光景だった。


「朝灯君は私達美少女の事どう思ってるのよ」

「まず先輩の事は恩人ですかね。年上ですし、何よりもでっかい恩がありますから」

「そんなビジネスライクな。あれは私としても有意義な事だったんだよ。普通に友達ってところにカテゴライズしてくれて構わないよ」

「じゃあ携帯のアドレス帳を『魔女』から『式姫ちゃん』に変更しておきますね」

「テメェ……」


 突然、ひなたが寄り添うように朝灯に並び、上目遣いで朝灯を見つめる。朝灯は何処でそんな事を覚えてきたんだろう、と心臓の鼓動を早めた。


「私の事は、どう思ってらっしゃいますか……?」

「丁寧すぎるだろ、いやえっと、あのなあ。まぁ大前提として友達というのは成立しているわけだけども、これからする事を考えると、友達とカテゴライズすると結構矛盾が生じるんじゃないかと俺は思う」

「友達の事をエロい目で見ないってことでしょ?」


 横合いからすかさず式姫が茶々を入れた。


「的確にまとめてくれてありがとう魔女」


 ひなたは少し頬を染めて『ぇ、ぇっちぃ……』と物凄く慣れない手つきでぽこんと朝灯の腕を叩く。


「ニャーン!!」


 そのあまりにも慣れないくすぐったさに、あっさりと朝灯は壊れたように奇声をあげた。すかさず式姫がひなたと朝灯の間に割ってはいる。


「ねぇパパ! この子の事飼っていい!? 欲しいわこの子!」

「やらん! 明星はやらん!」

「クソが! この独占厨めが! 今すぐ代われ! 股間のそれを寄越せ!」

「なんで俺の周りの奴はすぐ切り取りたがるんだよ!?」


 今この場に一夜がいたら血の雨が降っているだろうなぁ、と朝灯は脳裏にちりっと痛みが走った。

 三人はようやく林を抜け海岸に辿り着く。左右の岩は壁のように突き立っており、まるで作られたようなお手ごろサイズの海岸がそこにはあった。


「室内で出来ないような実験はよくここでやるの。秘密の実験場ってことね」

「砂浜を掘り返すと白骨が出てきたりしませんか?」

「……多分大丈夫なんじゃないカナ?」

「法に触れちゃってるよ」

「冗談だよ、そういうヤバ気な実験の時はきちんと結社に行ってやってるから」


 朝灯は思考を停止してパラソルとビニールシートを設置しだす。よく来ているのか白いテーブルとデッキチェアが砂浜に設置されていた。


「じゃあ私達は着替えてくるから、覗かないでね」

「そんなベタな事はしませんよ」

「覗くなよ! 絶対覗くなよ!」

「中学生みたいなノリはやめてください。それで本当に覗いても怒るくせに」

「別に覗かれたっていいとひなたは言っているよ!」

「言ってませんよぉ!」


 朝灯の脳裏に着替え中のひなたと式姫が頬を赤らめて乳を隠す、それはそれは大層エロスティックな一枚の絵のような場面が再生される。心のイベントCGが埋まった。ちなみに隣のイベントCGはひなたのパンツのアップだった。


「あわわ、何だか朝灯くんの顔が……」

「○ってんじゃね?」

「言葉を選ぶことを覚えなさいよ!」


 ひなたと式姫は今度こそ岩に隠れて着替える。全く……と朝灯は少し抵抗のある自分の下着を脱ぎ去り、フルチンでプライベートビーチに突っ立った。


「凄まじい開放感」


 朝灯は野太い声で言った瞬間に死にたくなったので、そそくさと水着を着る。水着は昨日のメールを受けてから用意していたのだ。

 朝灯は黙っていても鼻息が荒くなるのを感じていた。全くなんという役得だろうか、ひなたの精神の回復は真面目な問題なのでそこまで楽観的になるつもりはないが、純粋にこの状況は嬉しかった。


「おっぱいでっけー!」

「声が大きいですぅっ!」


 岩の陰からとても素晴らしい言葉が朝灯の耳に飛び込んできた。


「先輩! どんぐらいっスか! どんぐらいっスか!」

「零れる! 零れる!」

「すげぇ! すげぇ!」

「いやぁあああああああああっ!?」


 いかん、俺は一応真摯な紳士であるはずだ、と自分に言い聞かせる朝灯だが、渾身のガッツポーズを抑える事ができない。


「冗談は置いておいて、はいこれ、水着ね」

「えっ……!? いやあの、これって……ブラジル水着じゃないですか!」

「その話を詳しくお聞かせ願えますか!?」

「外野はすっこんでろ!」


 朝灯は今すぐ切り取って岩影に飛び込んでも後悔しないとさえ思った。


「こ、こんなの着れません、何か、別の」

「こちらになります」

「ただの紐じゃないですか! どうしてこんな際どい水着しか……これ、これがいいです!」


 岩陰の攻防は終わる、参加できなかったのが弐々村家末代までの悔恨になりそうだった。


「それではご開帳ーっ」


 なんだかつやつやした式姫の声がすると、式姫が岩陰から現れる、朝灯は油断しており、その姿を見て飛び跳ねるように驚いた。


「ああそうか、朝灯君は童貞だから私でも興奮する訳か」


 式姫は意地悪そうに朝灯を見る。健康的な式姫のしなやかな肢体は赤いビキニに包まれていた。日差しと青い海岸線に映え、魅力的で快活な女の子の姿がそこにあった。


「おほほほほ、どうよどうよ。惚れたんじゃない?」

「綺麗ですね、先輩」


 朝灯は少し悔しくなったのか、真面目なトーンで反撃する。できるだけ顔も引き締めたつもりだ。


「その手には乗らないっつーの、まったく朝灯君如きが私を手玉に取ろうったって――」

「その髪型も似合いますよ、腰だって細いし。正直先輩がこんなに可愛いなんて思いませんでした」


 式姫が固まり僅かに頬を染めた。朝灯はしてやったり、と喜ぶ。


「こ、この……朝灯君のくせに……、年上を弄ぼうだなんてっ!」

「俺だって下克上ぐらいできるんすよ」

「こんにゃろーっ! 童貞! ばかちんこ!」

「いやだからあんたは選ぶ言葉が酷過ぎるんだって!」


 式姫が浮き輪で朝灯をどつく、口汚いがそれはそれは素敵な夏の一コマだった。


「……朝灯くんっ!」


 岩陰から意を決したようにひなたが飛び出す、一歩、二歩と歩き朝灯のもとへと向かう。


「し、式姫先輩ばかり……っじゃ、なくて……あの、あのっ……」


 よたよたと夏の砂浜に現れるひなた。その姿を見て朝灯は脳が痺れる。清楚な白いワンピースの水着は露出はそれほど多くは無いが、やや幼い外見のひなたに恐ろしくよく似合っていた。


「私も、見て、くださいっ……」


 剥き出しの太股は夏の日差しと緊張からか、僅かに汗ばんでいた。肉付きのよいそれは危うい色気で朝灯を誘惑する。何よりも制服の上からでも分かっていた大きな胸は、水着という衣装によって存分にその存在を主張していた。大きい、はっきりと谷間の分かる胸は、細い腰に映えてふるふると揺れている。

 朝灯は思わず黙り込む、綺麗であるし、可愛くもある。しかし何よりも肉感的なひなたの身体に感情が激しく揺り動かされた。


「ひなたちゃん、ちょろっと前かがみになってみて」

「こ、こうですか?」


 朝灯は絶句した。張りのある大きな胸の谷間がこれでもかといわんぐらいまでに主張され、性をアピールしているのだ。


「ふぅ……」


 朝灯は腹筋に力を入れる。気が抜けば大変な事になってしまいそうだ。下腹部と脳に強力なリミッターをかけなければいけない。


「ああうあうあうあうあ……あけほあけほあけほ、ぽぽぽぽぽ、明星、かわいいよ」

「ここは突っ込むべきなところだろうけど、なんとなく朝灯君の気持ちが分かるので何も言うまい」

「どうしたんですか、朝灯くん」

「ひぎぃっ!」


 二つの巨大な禁断の果実(フォビドゥンフルーツ)が迫ってくるので朝灯は無意識のうちに海に駆け出した。ひなたは揺らしながら朝灯を追いかける。


「朝灯くん、あのっ……」

「きゃーっ! きゃーっ! やぁーっ!」


 式姫はその様子を何もせずに眺めていた、よっこいしょういち、とデッキチェアに腰掛けてほくそ笑む。


「……スタンバッてるんだろうな、そりゃ見られたくないか」


 私の時とはえらくリアクションが違うなぁ、という呟きは誰にも聞かれなかった。


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