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第16話『一生の宝物にしますねっ!』

 朝灯とひなたが晴れて恋人同士になってから、二週間が経過した。夏休みに入り学生達はそれぞれの夏を謳歌することになる。

 式姫はひなたの魂の完全回復への道は順調ではあるものの、まだしばらくかかる、と朝灯とひなたに伝えた。なので二人は毎日のように儀式を行い、純情を溜めていった。


「いやー、しかしまどろっこしいったらありゃしないわ」


 式姫は弐々村家のマンションの訪れていた。朝灯とひなたに今日も儀式のアイディアを提供しにきたのだ。


「恋人同士なんでしょ? もうそりゃズバリ純情が溜まるような事をすりゃいいじゃない」

「そうは思うんですけど、やっぱその、先輩が考えているような事って何か目的があってやる事じゃなくって、自然なものでありたいなーっていうか」

「いや立派な繁殖という理由があるのだけれども」

「……そりゃ、そうですけど。いや、俺は決意したんです。そういう事はひなたの魂が完全に回復してから、本当に二人の気持ちだけで、致していきたいと」

「うわぁ童貞こじれてんな」


 式姫は朝灯に珍品でも見るかのような視線を向ける。けれど、朝灯は自分の考えが間違っていないと確信している。


「それにひなたは大切にしないと壊れてしまいそうで、触れるのにも勇気がいるっていうかぁ」

「童貞ってこじらせると死ぬのよ? 結社のジョージは童貞をこじらせて死んだわ」

「具体的な死因が知りたい」

「冗談はさておき、まぁその考えが正しいと思うのならいいんじゃないの? ただそれはひなたちゃんが何処にも行かない事を前提にしているけど」


 式姫は意地悪そうに呟く。朝灯は嫌な汗をじっとりとかいた。


「いやだなぁ、ひなたが浮気なんてするはずないじゃないですか」

「ひなたちゃんは物凄く愛情に飢えている子だからね。もしも朝灯君の愛し方が足りなかったりしたら――」

「先輩、ひなたの好物とか好きなものとか好きな場所とかその他もろもろ有益な情報を」

「自分でやんなさい」


 いや、大丈夫なはずだ。うん、信じているよ、今度美味しいものでも食べに行こう、と朝灯は心を落ち着かせる。即物的だった。

 今日の儀式の具体的な内容は知らされておらず、準備があるから、と朝灯はずっと自室で待機させられている。式姫は特にやる事が無いらしく朝灯のベッドに図々しく腰掛けていた。


「……そーいえば、謝らなきゃいけない事があったわ」


 式姫は当然のように探り当てた朝灯のエロ本をぱたんと閉じて正座する。


「あの屋上のフェンス、ややこしい事態が起きないように術を解除してなかった。そのせいで修理作業が中々進まなかったんだと思う」

「術っていうのは?」

「家の地下室への扉にも同じものがあるんだけどね。『ここに留まっていたくなくなる』っていう類の術の事、そのせいで多分長時間の作業が困難になったんじゃないかなぁ。結構負の側面が強い術だからひなたちゃんを引き合わせちゃったりした」


 式姫は真面目にそう話し、朝灯に対して頭を下げる。


「ごめんなさい」


 式姫はこういう所は実に誠実で、多少言っている事がめちゃくちゃでも好きになれてしまう、そんな存在だった。


「いいんです、俺もひなたも先輩がいなければ何も始まらなかったんですから」

「そう言ってくれると救われるよ」


 式姫は胸のポケットの膨らみをそっと撫でる。朝灯はそれが何なのかは知らなかったが、とても大切なものである事が分かった。

 朝灯の携帯に着信、準備ができたらしい。


「さ、じゃあいきますか」

「……先輩、あんまりひなたに変な事をさせないでくださいよ」


 キッチンへの扉の前に式姫は立ち、自信満々に朝灯に宣言する。


「朝灯君はこの扉を開けた時、まず間違いなくこう言うだろう。『式姫先輩は天才だ』と」

「何言ってるんですか、もうよっぽどの事が無いとそんな事は――」


 キッチンへの扉が開かれる。そこには――誰もが夢見る、楽園が広がっていた。


「あ、やっぱりだめぇっ! 見えちゃう、見えちゃいますよっ!」

「……ふん、そのEカップはさぞかし収まりが悪いだろうね。遠回しにボクとの差を表現しているのかな? 存外に性格が悪いね?」

「ううぅっ……一夜さん、酷いですっ」


 裸エプロンだった。そう、裸エプロンだった。男の欲望しか反映していないその破廉恥な衣装を纏った二人の美少女は、朝灯を迎え入れる。エプロンにはたくさんのフリルが可愛らしく彩られており、淡いピンクの色彩は煩悩を加速させる。


「あ、あまり見ないでもらえると、流石にこれは、水着より数倍恥ずかしいです」

「朝灯、そうらしいよ。じゃあボクを見るといい」


 一夜は腰をクイっとセクシーに曲げ、魅惑のプロポーションを朝灯に見せつける。細い腰と綺麗なラインの胸は、破廉恥な衣装である裸エプロンを一つの世界として成り立たせていた。剥き出しの脚の脚線美も捨てがたく、美麗な魅力を見るものに焼き付ける。


「式姫先輩は天才だ!!」


 力強く、野太い声で朝灯は腹の底から叫ぶ。ああ畜生、どれだけ予定調和だったとしても力いっぱい叫んでやるさ、式姫先輩に一生ついていきます。と朝灯は静かに誓いを立てる。双子の一夜の可愛らしい姿は見慣れているにしても、その隣のひなたの姿が朝灯にとって今世紀最大の衝撃だった。


「朝灯くん、見ないでって言っても。見てもいいっていうか、一夜さんは確かに細くて綺麗だし、目を奪われてしまうのは仕方ないって言っても、その、恋人は、私だから、その……やっぱり……見て、欲しいです」

「じゃあ遠慮無くぅうううっ!!」


 眼球というレンズを肉体の最大限まで磨き上げるイメージで、朝灯はひなたを凝視する。まず太股である、もちもちして柔らかそうな太股は剥き出しの状態で、もふもふのスリッパだけを履いていた。これはポイントが高い。


「式姫! ハラショー! 式姫!」


 もふもふのスリッパ、ハラショー。一気に女の子度がアップである。それが太股の露出を際立たせる。視線は上へ、危うい腰の布地と肌のチラリズムは、下に何もつけていないという甘美な要素によって視線を外す事ができない。いや、本当は妥協して下着をつけているのか? それとも裸エプロンという要素に正々堂々と挑み、つけていないのか? それが分からない、それが逆に朝灯の興奮をヒートアップさせる。


「……我が双子ながら、中々に衝撃的な表情をしているね、朝灯」


 そして何よりも明星ひなたの真骨頂、胸である。エプロンから今にも零れそうに圧迫されたバストは開放を待ち望んでいるかのようだ。横から見ると水着では視認する事が不可能だった横乳という最強のセクシャラスアドバンテージ(セクシー+デンジャラス=セクシャラス)が存在し、胸という存在を全力でアピールしていた。白くきめこまやかな肌は、触れてしまいそうになる手を抑えるのを必死にさせる。


「今日の儀式は裸エプロン祭りになっております。一夜ちゃんを巻き添えにする事でひなたちゃんの了解を得ましたー」

「先輩はきっといつか教科書に載るよ!」


 朝灯はキラキラした瞳で式姫と固い握手を交わす。式姫も満足そうにひなたと一夜を見ていた。


「朝灯くんが喜んでくれるならいいんですけれど……やっぱり、恥ずかしいですよ、見えちゃいますよぉ」

「そいやっさ!」


 朝灯は生まれてから今までで一番華麗な動きでひなたに向かってスライディングする。つけているのか、つけていないのか、それが問題だった。


「んきゃーっ! や、駄目、こないでくださいーっ! きゃーっ!」

「そいやっさ! そいやっさ! ふははははは!」

「朝灯は、あんなにバカだったんだ」


 一夜はぽそりと呟く。世界で一番の味方である一夜にさえ呆れられる、そんなスケベスライディングを繰り返し朝灯は行っていた。


「そいやっさ、そい――ぎぃやーっ!?」


 朝灯は調子に乗りすぎたのか、盛大にイスにスライディングしてしまう。丁度脚の間に椅子の脚が滑り込み、股間を強打してしまう。


「オゥフッ……ぅ……ぉ……ぁ……」

「だ、大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄るひなた、だが箇所が箇所なので、涙目になったままオロオロするのみ。


「全く、朝灯のこんな姿見た事無いな」


 一夜は苦笑して、朝灯とひなたの様子を見る。寂しさと祝福を込めて、優しい眼差しを向けていた。


「……あ、死ぬ、これは死ぬかも知れぬ……最後に遺言を聞いてくれぬか……」

「えぇっ!?」

「はいはい、血縁関係であるボクが聞いてあげるけど」


 朝灯が手招きし、一夜にだけ聞こえるように呟いた。


「ひなたに謝らなくていいの? 結局色々あってうやむやになったからさ」

「……っ、ああ、それでボクを呼んだんだ。全く朝灯は遠回しだね」


 一夜は小さくありがとう、と朝灯に呟き、髪を撫でる。朝灯は満足そうに微笑んだ。

 それから一夜はひなたに向き合い、うやむやになっていた事を謝る。全ては自分に向けられていた言葉で、それゆえに強く鋭くなってしまった事を。

 ひなたはその謝りを受け止め、ありがとうと返事をする。一夜は面食らった。


「嬉しいんです、一夜さんみたいな人と伝え合う事が出来て。ちゃんとお互いの想いを知る事が出来て。それは少し前の私じゃできなかった事だから……だから、ありがとうございます」


 一夜はその言葉を聞いて、安堵したように表情を緩めた。

 それぞれが辿り着いた答え、今ここに幸せの場所があること。朝灯はそれをが叶った事が、ただ純粋に嬉しかった。


「ひなた、写真を撮ろう。今度はみんなで」

「――はいっ!」


 ひなたはこれ以上無いぐらいの笑顔を浮かべ、携帯を手に取る。


「朝灯くんが真ん中ですよ」

「おは、おははは、乳が、乳が当たる、乳が」

「朝灯、流石にその表情で写るのは……入らない、もうちょっと寄って」

「可愛い後輩達に恵まれて、よよよ……式姫先輩泣いちゃう」


 狭い携帯の画面にみんな寄り添って、笑顔を浮かべていた。それをひなたは、本当に幸せそうに大切に保存する。


「一生の宝物にしますねっ!」


 まだまだ続く幸せの時間、それはずっとひなたが待ち焦がれていたものだった。


ご愛読ありがとうございました。

朝灯、ひなた、一夜、式姫の未来が幸せでありますように。


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