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第1話『川辺にいた同級生』

『桜~姉妹篇』主な登場人物



(高校生)


七三里朝也なみさとともや 神崎観鈴かんざきみすず 小野坂沙月おのさかさつき 遠野史菜とおのふみな(新)


(大人)


池田一美いけだかずみ 能登治史のとはるし 小野坂玖実おのさかくみ


その他の登場人物


関本伸太郎せきもとしんたろう 日野隆志ひのたかし カオリ ちづる 等



(注) (新)は新たな登場人物


新学期が始まって約十日が経過した。

暖かい日が続いている。


(…春もそろそろ終わりなのかな。…)

西に傾く日輪が町を橙色に照らす中、芳野川沿いの桜並木道を歩いている女子学生…御崎坂高校二年E組・神崎観鈴かんざきみすずは、殆ど緑の葉のみになった木々をふと見上げてそう思った。

風も春風から夏風に変わろうとしている。

ついこの間まで肌寒い風が吹きつけていた日々が夢のあとのようだった。


(…今日は、何処にいるかな?…)

桜並木道を歩きながら、観鈴は誰かを探しているのか川辺の方に視線を向けていた。

そうしてしばらく歩く内、観鈴は探していた人を見つけた。川辺でひとりぽつねんと座り佇んでいる、ジャージ姿にジャンバーを羽織った女子。


「お待たせ、沙月。」

観鈴は川辺に下りてその女子に近づくと、笑顔で声をかけた。

黙念と川の流れを観ていた女子も、観鈴の声を聞くと笑顔で振り向いた。

「お疲れ様、観鈴。」


彼女の名前は小野坂沙月おのさかさつき

十二歳年上の姉と二人暮らしの、観鈴と同じ御崎坂高校に通う二年B組の同級生。

ただ沙月は体が病弱で、前学期から病気の為学校を休みがちだった。

新学期になってからも、依然学校を休む日が多かった。


観鈴と沙月が出会ったのはついこの間の始業式の日。

それまで二人は全く面識無かった。

始業式後の帰りにこの川沿いの桜並木道を眺め歩いていた観鈴が、川辺に一人佇んでいる沙月を見かけ声をかけたのが始まりだった。

その日から二人は意気投合して友達関係になり、毎日放課後にこの川辺で待ち合わせして合うようになっていた。



二人は並んで座り、夕陽色に美しく映える芳野川を眺めていた。

時折僅かな冬の名残を感じる肌寒い風が吹き、その度に川辺に生えている野草の群れや川沿いに並ぶ桜の木々が静かな葉音を奏でていた。


「今日は、体の具合はどうなの?」

一本の草花を手に弄びながら、観鈴は尋ねた。

「今日は少し良い感じなの。でもまだまだ健康には遠いかな。」

答えながら沙月は手元にある小石を拾い、川に放った。

川に透明な橙色の飛沫と水紋が広がった。

「‥そっか。ま、無理はしないで療養してね。」

「うん、ありがとう。早く病気治して学校に登校出来るよう頑張るの。」


やがて日は暮れ夜になった。そろそろ帰ろうかなと、二人は腰を上げた。

「また明日ね、沙月。」

「うん、バイバイ。」

川辺前の桜並木道で挨拶を交わし、二人は別れた。



…その二人の様子を、

「…ん?」

偶然近くを自転車で通りかかった前髪の長い男子高生‥観鈴と同じ御崎坂高校二年E組のクラスメイト、七三里朝也なみさとともやが見ていた。


******


翌日。

御崎坂高校の昼休憩時、二年E組の教室。


「おい神崎。」

持参してきたお弁当を自分の席で食べ終え水筒のお茶を飲んでいる観鈴に、朝也が側に来て話しかけてきた。

「何?七三里君。」

「昨日偶然見かけたんだけどさ、川辺でお前誰かと一緒だったよな?」

「あ、うん。」

「あいつ誰なんだ?」

朝也の質問に、観鈴は水筒の蓋を閉じ鞄にしまってから答えた。

「あの子は小野坂沙月といって、この学校の二年B組の生徒で私達と同級生だよ。」

「そうなのか?制服着て無かったと思うが?」

朝也の言葉に、

「‥ああ、それはね‥、」

観鈴は少し表情を暗くし、机に頬杖をついて答えた。

「‥沙月は余り学校に登校していないからなの。」

「?どうして?」

「‥沙月は以前から病気なんだ。」

観鈴は沙月と自分の出会いや関係、沙月と毎日あそこで待ち合わせしている事等を話した。


観鈴の話を聞き終わると、朝也は最後に尋ねた。

「小野坂の病気の具合はどうなんだ?」

「‥うーん。最近はそんなに悪くはないみたいだけど、良くなってもないみたい。」

観鈴はやや顔をしかめて答えた。

「‥そうか、ありがと。」

朝也は礼を言うと、席に戻っていった。


******


放課後。

学校を出た観鈴は、いつも通り川辺で沙月と会った。


川辺に腰掛けて二人が仲良くお話していると、

「神崎。」

後ろから呼ぶ声がした。

振り返ると川沿いの並木道から、朝也が二人を見ていた。


「どうしたの七三里君。」

驚く観鈴に、朝也は苦笑いを見せながら川辺に下りて歩み寄り、

「いや、彼女に会ってみたくてな。」

そう言いながら、沙月に視線を向けた。

「君が、小野坂紗月さんか。」

初めて会った朝也からの質問に、沙月も少し驚いた様子を見せながら、

「‥うん。あ、サツキのサはさんずいに少いなの。あと呼び捨てで呼んでいいの。」

訂正も交えて挨拶した。

「‥ああ済まない。」

朝也は軽く謝してから、

「俺は観鈴と同じ二年E組の七三里朝也だ。数字の七と三に距離の里でナミサト。朝也のトモは朝、ヤはナリとも読む字だ。宜しくな。」

自分も自己紹介を返した。


それから三人(主に朝也と沙月)は、川辺で色々な会話を交わした。

観鈴の感じた所、朝也と沙月も意気投合したようだった。

(‥良かった…)

仲良く会話している二人を見て、沙月に新しい友達が出来た事を観鈴は嬉しく思った。




やがて日は暮れ、三人は別れた。

ただ、朝也と観鈴は途中まで帰り道が同じ為、一緒に下校路を歩いた。


夜風は昨日より暖かくなっていて、夏の香りがした。

「春もそろそろ終わりだな。」

歩きながら朝也は呟いた。

「そうだね。もう陽も暑く感じるようになってきたもんね。‥七三里君、」

呟きに答えてから、観鈴は朝也の顔を見上げて尋ねた。

「どうして七三里君は、沙月と会ったの?」

観鈴の問いに、

「‥いや、」

朝也は口を濁らせて、

「‥ただ、俺も小野坂の為に何か出来ればなと‥。学年も同じだし‥元気にさせたいと思っただけだ‥さ。」

少し顔を下げ曖昧に答えた。

「へ~、」

その様子を見て観鈴は少し笑うと、耳元のリボンを揺らし朝也の顔を覗き込んで、

「七三里君、意外と優しいんだね~。」

悪戯っぽく言った。

「んなことねーよ。」

朝也は苦笑しながら答えた。


******


一方。

朝也・観鈴と別れた沙月は、一人で帰り道を歩いていた。


夕陽は既に西に沈み、夜空が広がっていた。星も幾つか輝いている。

その星を観ながら、

(‥嬉しいな…)

沙月はウキウキとしていた。

(‥新しく友達が出来た!…)

脳裏に観鈴と朝也の姿を思い浮かべている沙月の、歩く足取りは軽かった。


やがて沙月は自宅の前に着いた。

屋内は明かりが点いていて、台所の方から炊事作業をしている音が聞こえた。

(‥玖実さん、今日も早く帰ってきてくれたんだ‥)

そうと分かった沙月の胸に、嬉しさと悲しさが同時にこみ上げた。

(‥玖実さん、私まだ諦めないよ‥)

自宅の扉の前で佇み、沙月は心で叫んだ。

(‥必ず、夢を叶えるから!‥)

「ただいま。」

沙月は扉を開けた。


この日の夜は澄んだ星空が綺麗だった。



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