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若すぎる執事、興味

「待って……!」


 ……あれ?

ここは、どこだ。

あぁ、自分の部屋か。


「……なんだっけ……」


酷く怖い夢を見ていた気がする。

でも内容は全く覚えていない。


 しかし何故か、私は自分の手首を必死に擦る。

傷……傷は……無い。


「なんだ、傷って……なんの夢見てたんだ、私……」


次第に自分が酷く汗だくになっている事に気が付いた。

もう全身グッショリで、パジャマのまま風呂にでも入ったかのようだ。


「気持ち悪い……」


 私はあまりの気持ち悪さにパジャマを脱ぎ捨て、床に放る。

もうこのままシャワーでも浴びに行こう、そうしよう。

今家には兄も弟も母も居ない。下着姿で徘徊しても怒鳴ってくる人間なんて居ないし……。


 汗でビショ濡れのパジャマを持ち、自室を出る。

すると……


「……………」


むむ、燕尾服姿の悠馬君が!

もう起きて着替えてたのか。君は朝も強いな、少年……


「なんて恰好してるんですか! ふ、服着てください!」


あれ、怒鳴られた。

むぅ、大丈夫だと思ったのに……


「まあ落ち着くんだ、悠馬君。私の裸なんて風呂で見飽きてるだろう。大目に見てくれ」


「見ません! そんなに見てないですから! いいから早く服着てください! お嬢様!」


そんな事を言われても……パジャマはグッショリで気持ち悪いのだ!

とりあえずシャワーを浴びさせておくれ!


「わ、わかりましたから! 早く行って、行って!」


「そんな邪見にするなよ。寂しくなっちゃうだろうが」


まあ、あんまり少年の心をかき乱すのも忍びない。

大人しくさっさとシャワーを浴びに行こう。




 ※




 そんなこんなでシャワーを浴び、オニューな部屋着に着替えた私。

歯も磨き終えた所で悠馬君が新しいタオルを持ってきてくれる。

君は本当に気が利くな……ってー! あかん! 私滅茶苦茶悠馬君の事……コキつかってるやん!


「別にそんな事ないですけど……というわけで二日目スタートです、お嬢様。朝食にしましょう」


ふむぅ、よかろう。

そういえば朝食って……もう作っちゃったのかね?


「実は作ろうとしたんですが……その……」


なんだか言いにくそうに口を噤む悠馬君。

そういえば……さっきから香ばしい匂いがする。

誰か厨房に立っているのかね? 


いや、一人しかいないか。


「まさか……親父殿が?」


「はい、僕が起きた時には既に……」


一体親父殿はどんな料理を作っているんだ。

この匂いから察するに……肉系? いや、朝から?


「昨日もお父様……お寿司三人前食べてましたしね。逞しいです」


「あぁ、親父殿は根っからの体育会系だからな……。ゴツイし食う量もハンパじゃないんだ」


「そういえば、お嬢様のお母様は何処に……?」


むむ、母か?

確か九州の方に剣道の特別顧問として赴いているはずだ。


「剣道強いんですね、お母様」


「いや、そうでもないぞ。母上はとにかく八方美人というか……なんでもホイホイ引き受けちゃう人なんだ。今九州に行ってるのも、誰かの代わりに行ってるだけで……」


まあ、学生時代は剣道一筋で、周りからはシロクマの爪という異名で恐れられていたらしいが。


「なんか可愛い異名ですね」


「シロクマ舐めんな。地上最大の肉食獣だぞ。恐ろしいぞ」





 ※





 そのまま私と悠馬君は共に食堂へ。

そこにはパンダが縄跳びをする絵がプリントされたエプロンを着た親父殿が。


なんてファンシーなエプロン着けてるんだ。親父殿。

可愛いぞ!


「ありがとう。席に着きなさい」


 言われた通り素直に席に着く私達。

そして目の前に出される料理……って、ハンバーグ?!

朝っぱらから……これを食えというのか。しかもかなりデカイ。

私は朝練前の男子高校生では無くてよ!


「豆腐ハンバーグだ。食べなさい」


むむ、豆腐?

随分凝ったものを……。


「い、いただきます……」


悠馬君と共に手を合わせ、箸で柔らかいハンバーグを切り、口に運ぶ。

むむ、中々に美味い。豆腐のくせになんか肉っぽい。


「美味しいです! お父様!」


おおう! 悠馬君は大喜びだ!

もう満面の笑みでガツガツ行っている!

口の周りにハンバーグのソースを付け、夢中になってかぶりつく悠馬君。


この子もこんな風に食べるのか……。


「もっとゆっくり食べなさい。よく噛むんだぞ」


親父殿は布巾で悠馬君の口元を拭いつつ、まるで実の父親のように振舞う。

うぅ、なんだか嫉妬心が……メラメラと……


親父殿が私より悠馬君に優しくしてる!


【注意:お嬢様は一応大学生です】


ゆるせぬ!

こうなったら私もハンバーグのソースを口元に付けて……

って、いやいやいやいや!

何を小学生相手にヤキモチ焼いとるんだ。

親父殿は元々子供が好きじゃないか。


(もみじ)、今日はどうするんだ?」


ん? どうするって何が?

別に予定は無いですたい。


「……? あの、椛って誰ですか?」


ああん?

何を言うとるんだ、悠馬君。

椛っていうのは……私の名前さ!


「ええ! お嬢様って……お嬢様じゃないんですか?!」


んなわけあるか!

私だってちゃんと名前あるわ!


「てっきり……作者は名前なんて考えてないのかと……しかも結構可愛い名前だし……」


「フフフ、ありがとう、悠馬君。ちなみに考えたのは死んだ爺ちゃんだ」


懐かしい思い出がよみがえってくる。

そう、私は昔、爺ちゃんにベッタリだったのだ。


 昔は……家の縁側で爺ちゃんの膝の上に座りながら……庭でガチバトルする父と母を見守っていたものだ。


「ってー! なんですか、ガチバトルって! それ夫婦喧嘩ですか!?」


「いや、原因は良く知らんけど……親父殿と母上は良くバトルしてたな。お互い格闘家だからな。夫婦喧嘩も激しかった」


私と爺ちゃんは……まるでK-1を観戦するかのように、コーラとポップコーンを食べながら……


「モロ観戦モードじゃないですか。というか……何が原因でそんな……」


知らぬ。

というか本人そこに居るじゃないか。聞いてみると良い。


 恐る恐る、隣で特大ハンバーグを頬張る親父殿へ事情聴取する悠馬君。

一体何が原因で激しいバトルをしていたのかと……

まあ、大した理由なんて無いだろう。


「理由……? 俺がスカート捲りしたからとか……」


本当に大したことない理由だった! っていうか親父殿可愛いな!

母上のスカート捲ってたのか!


「つい……」


あぁ、わかる、わかるぞ。

まあ夫婦間だから許される事だ。

これからも思う存分、母上のスカートを捲るといい。


「でもK-1みたいなバトルに発展するんですよね……理由とのギャップが凄まじいんですけど……」


確かに……スカート捲りからの壮絶なバトル。

親父殿も母上も……苦労してるな……。




 ※




 さてさて、朝飯も食い終わり……今日はどうしようか。

滅茶苦茶平日だけども……本来ならば大学に行くべきだろう。しかし今更行くのもなぁ……。


「いっそのこと、就職先探すとか……」


むむ、悠馬君。

大学にも行かずに家でダラダラしてる私が……働けるとでも?!


「すみません……僕が間違ってました」


「分かればよろしい。しかし就職先か……いつかは働かないとダメなんだよなぁ……」


なんだか急に不安になってきた。

私このままで大丈夫かしら。


「今更ですか。まあ僕も人の事言えませんけど……」


むむ、そういえば悠馬君は小学校に行ってないんだっけ……。


しかし……昔エライ人がこう言いました。


「……? なんて言ったんですか?」


「一人の時間を何に使ったかで……未来が変わる……」


誰が言ってたんだっけ……どっかの漫画家だと思ったけども。

忘れた!


まあそういう事だ! こういう時にしか出来ない事をするべきだ!


「そういう意味なんでしょうか……まあ、前向きでいいですね」


「いやいや、私は後ろ向きに前向きなんだ。というわけで親父殿に相談してみよう。我々はどうするべきかを!」


 今現在、親父殿は流し台で食器を洗っている。

そんな親父殿の背後に回り……脇腹をつつく私。


「ふぐ!」


むむ、親父殿……相変わらず脇腹が弱いな。

ここか? ここがええのんか?


「ごふっ! うぐ! あがっ!」


「あの、お嬢様……お父様が可哀想です。微笑ましいですけど……」


ふむぅ、まあこの辺で止めておいてやろう。

 そんなワケで親父殿! 質問がある!


「……なんだ」


「私達は……今日どうすればいい?」


「学校いけ」


尤もな意見が飛んでくる。

しかしそれ以外で頼む。


「…………」


すると親父殿は手を布巾で拭きつつ、自分のビジネスバックを手に取ると……中から財布を。

え、お小遣いでもくれるん? 


「ここに行ってこい」


そういって手渡された一枚のメモ書き。

そこには……


「熊本県……阿蘇市草千里ヶ浜?」


どこよ、コレ。


「……え?」


むむ、なんか悠馬君が反応した。


ん? 熊本って……確か悠馬君が居た孤児院があったんだよな……


まさか……


「二人で行ってこい。現地に正彦も居る」


ああん?!


グアム野郎……グアムじゃなくて熊本に居るだと?!


一体全体どういう事だ!


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