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若すぎる執事、指導

 皆様は自宅の庭で焚火をしたことがあるだろうか。

ちなみに私の家の庭には、無駄に焚火用の暖炉っぽいのがある。

昔はここで可燃物を燃やす為の焼却炉があったが、今のご時世、家庭でゴミを燃やすなんて以ての外だ。

 目の前で燃え上がる炎。今はそれを焚火の前でしゃがみつつ、悠馬君と二人で見守っている。


「お嬢様……一つ言ってもいいですか」


「絶対駄目」


「お嬢様、不器用すぎます」


「駄目って言ったじゃん! 何で言うの!」


 悠馬君から言葉攻めを受ける私。

何故そんなプレイをされているのかと言えば、一時間程前……私は昼食の用意をしようとして、盛大にやらかした事が原因だ。




 ※




《一時間前!》


 よし、朝食は悠馬君に美味しいのを食べさせて貰ったし……昼食は気合を入れる!

悠馬君程美味しくは出来ないが……私だって女子だ。簡単な料理なら出来る筈だ。


「さて、献立は何にするか……オムライスとか……」


オムライスなんてご飯に卵焼きを乗せるだけの簡単料理だ。

初心者の私にはちょうどいいメニューだろう。


「えーっと……まずはご飯を炒めてチャーハンみたいにすればいいんだよな」


昔、母親が良く作ってくれたオムライスは美味しかった。

卵部分はフワフワトロトロで、ご飯はご飯で絶妙な味付けが。

要はあれを再現すればいいのだ。母親の味はまだ覚えている。


「ぁ、ご飯に具も入れなければ。ネギとウィンナーと……ぉ? 高菜漬けもあるな。これ全部刻んで……」


 よし、とりあえず具を刻むところから始めよう。

えーっと……包丁は……


「むむ、なんか家の包丁……バリエーションが豊富だな。なんだ、この十三日の金曜日に出る怪人が持ってそうなデカイのは……むむ、こっちのはノーマルな包丁っぽいな」


まずはネギから刻むか。


「ネギをまな板に乗せーの……テレビみたく猫の手にして……ガガガっと……」


むむ、意外と難しいな。

もっと小さく切りたいのに……。


「まあ、多少デカイほうが美味しいかもしれない。次はウィンナーと高菜漬けを……」


両方、まな板の上に乗せて切り始める私。

ふふふ、悠馬君の驚く顔が目に浮かぶ。

私の絶品料理を味わうがいいわ!


「って、痛い! あれ? なんか……指から……メッチャ血が……」


「お嬢様? 何か手伝える事ありますか……って、ギャー! なにしてんですか! なにしてんですか!」


「……痛い……」


「ちょ! 凄い血出てますよ! 止血、止血!」





 ※





 《んで、現在》


 悠馬君の迅速な応急処置により、私は一命をとりとめた。

タオル一枚が真っ赤になるくらい血を流したが……まあ、傷自体は大した事は無い。


「まったく……包丁もろくに使えないなんて……」


「うぐ……だ、だって……今まで料理なんてしたことないもん……学校の調理実習くらいしか……」


「それでオムライスなんて作ろうとしてたんですか……」


 それで今私達は庭で焚火をしつつ、焼き芋を作っている。

何故に焼き芋かと言えば、これなら誰でも出来ると悠馬君に教えて頂いているからだ。

料理初心者の私は、とりあえず火がどんな物かを観察する所から始めなければならないらしい。


 目の前で燃え上がる焚火。

ちなみに燃えているのはセオリ―通り枯れ葉だ。

そこに新聞紙とアルミホイルで巻いたサツマイモを投入し、今は出来上がるのを待っている。


「ところで悠馬君……なんであんなに料理上手いの?」


「僕は……熊本の孤児院に居た時、シスターさんに教えてもらったんです」


シスターさんか。

確かに料理上手そうだな。


「はい、シスターさんの料理はどれも絶品でした。中でもビーフシチューとか……最高でしたね。そんなシスターさんに料理を教わって……兄弟達のご飯を時々僕が作ってたんです。美味しいって言われるのが……凄い嬉しくて……」


「あぁ、分かる分かる」


「絶対嘘でしょ! お嬢様は料理なんてしたことないんだから!」


「ぁ、あるもん! 学校の調理実習で……」


尤も、美味しいなんて言われなったが。

なんだっけな……独創的な味とか言われた気が……


「……ま、まあ……昼食は焼き芋でいいとして……夜はどうしますか? 何か食べたい物があれば作りますよ」


うっ!

またしても私は悠馬君に頼る事になるのか。

でも夜……夜こそは……


「悠馬君……じゃあ夜はカレーライスにしよう。私は君を全力でサポートする」


「いえ、完全に逆ですよね。僕がお嬢様をサポートするんですよね?」


メインは君だ!

私は……見学しつつ、超簡単な作業だけやらせてくれればいい。


「別に構いませんが……カレーライスですか。ルーあるかな……流石にルーなしでは作れないですから、僕」


ふむ。ルー無しでもカレーって作れるの?


「モチのロンですよ。元々カレーっていうのはスパイスを煮込んで作る物なんです。結構色々なスパイスが必要になってくるんですが……そうですね、最低四つは必要です」


ほほぅ、そうなんだ。

まあそんな事より……


「そんな事って……人に説明させといて何ですか、その言い草」


「いやぁ、いい香りがしてきたじゃないか、焼き芋の! 香ばしい!」


 もうワシはお腹ぺこぺこよ!

火の観察はもういいから、焼き芋たべようず。


「はいはい、では取り出しますね」


そのまま鉄の棒(なんか名前あるけど忘れた)で焼き芋を焚火の中から取り出す悠馬君。

むむ、素晴らしい! 香ばしい匂いがムンムンと!


「お嬢様、勿論素手で触っちゃダメですよ。っていうか手出さないで下さいね。危ないから」


「わん!」


「……何を犬みたいな返事してるんですか。お嬢様」


「くぅーん……」


「だから、お嬢様、ちゃんと人として返事して……」


いや、悠馬君。私は何も言ってないぞ。

さっきから返事をしているのは……いつの間にか私の隣に鎮座している……この子犬だ!


「……え? お嬢様の家……子犬飼ってるんですか?」


「いや、知らん。私もさっき気が付いた。いつのまにか隣に子犬が鎮座してて……きっと焼き芋が出来上がるのを待ってるんだと思う」


「何を冷静に分析してるんですか。というかドコの子ですか。ちゃんと首輪付いてますよ」


ふむぅ。言われてみれば。

犬種は……トイプードルっぽい。略してトイプー。


「お前は何処から来たんだい? モンブラン」


「何を勝手に名前つけてるんですか。っていうかモンブランって……」


いや、何となくノリで……。

いいつつトイプーの背中を撫でまわす私!

茶色の毛並みはモフモフ……手触り最高だ。

ちゃんとトリミングされてるな。


「クゥーン……」


むむ、私に甘えてきた!

よかろう! 抱っこしてやるぞ! これでも近所の犬を昔から可愛がってたんだ。犬の扱いなら任せよ!


「お嬢様……あんまり可愛がると情が移っちゃいますよ。お別れするとき悲しくなります」


「ああー、夏休み田舎に遊びに行って……お婆ちゃんの家周辺で仲良くなった子と別れる感じ?」


「そんな感じです。なんか実体験があるみたいですね、お嬢様」


まあな……。

別れはいつも辛いものだ。

しかしなんだ、そういう子の顔は思いだせるのに、名前とか全く思いだせないんだよな。


「それって……風じゃないですか?」


「風邪? 私は風邪なんて曳いてないぞ」


「違います。将来生まれてくる子供が……ある日ひょっこり遊びにくるんです。その子と遊んだ記憶は鮮明に残ってるのに、何故か名前が全く思いだせないっていう……」


なんそれ。

それを風っていうの?


「はい。シスターさんが教えてくれました。もしかしたら……僕はお嬢様の風かもしれませんよ」


つまり……君は将来、私が生む子供って事?


ま、まさか……そうだったのか!

作者にしてはロマンチックなオチだ!


「勿論違います。ちなみに今の設定はボツになった案なので……。パクリになるからって……」


ふむぅ。

パクリはダメだな!

参考にするならいいけど!


「ところで焼き芋が出来上がりました。モンブラン(犬)は冷めてからじゃないと危ないですね……」


「わん!」


いい返事だ! モンブラン!


「じゃあ悠馬君。私にアーンをしてくれたもれ」


なにせ今私、モンブラン抱っこして両手が塞がってるし!

モンブランも中々私から離れてくれない。この甘えん坊め!


「もう懐いちゃったじゃないですか。元の飼い主に早く返さないと……」


いいつつ、アーンしてくれる悠馬君。


「熱いですよ、気をつけてください」


「うん……あーん……あつっ!」


「人の話聞けよ」





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