いったいそんなことの何に意味があるというのだろう、と貴女は目の前の床を見つめるのだった。
僕は見ているだけだった。
ある時から、いつも、その半分として。
彼女がそれに溺れるたびに。
だけど彼女は、ことを終えると必ず虚空を見据えて何かを待つようにじっとしていた。
そしてその慎ましやかな唇からただ一言だけ、
「私でなくとも」
と、声にするともなく零していた。
僕は識っていた。
彼女が他の誰かをバカには見えない何かで満たしたあとで、必ず空っぽになった彼女自身のために祈っているということを。
時々、僕は彼女の身体を借りた。
愛おしいという感情が肉体を揺るがすのを感じると、離れがたくて仕方がなかった。
他者に対する禍々しいほどの愛着が、相手を壊そうと必死にこの身体を突き動かす。
仮にも彼女の身体で禁忌を犯すことは許されないからこそ、実現できない行為はより僕の頭の中で輝きを増す。
僕もまた、祈るしかなかった。
ある時から、彼女の望みがすっかり果ててしまったことを知った。
いつもそうだ。
彼女は傷つき続けると、自分を守るために相手に笑顔を刻みつけたままそこからいなくなる。
大した芸当だと思う。
僕は黙ってついていく。
しかしその時は、いつもと違った。
次の望みがある時にしか、彼女はそんなことをしないはずだったのに。
もう何日も彼女は冷たいベッドの上で泣いていた。
愛しさの矛先を完全に失って、僕ですらどうしようもなくなってしまった。
そうして時間を重ねるうちに、彼女は逃げ出すことを決意した。
僕にもそれしか見えなかった。
最後の相手が彼女の居場所をそっくり奪ってなかったことにしてしまったから。
そうなる前に僕がそいつを壊せなかったから。
ほんの少しの復讐でさえ、彼女はする気配を見せなかった。
黙って、笑って、知られないように消えることで喪失感を与えるのがやっとだと諦めて、ふたりで遠くを目指そうと決めた。
僕は彼女の半分として、愛することにすべてをかけて生きていくしかない。
ふたりでひとりだ。