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日常に本を足し算すると  作者: ボル
第1章 具現化の書 優しさの書
2/18

本は封印を解かれる

「お兄ちゃぁん!!二階にいるんでしょ?!?!ご飯出来たから運んでぇー!」


妹のごはんですよコールは二階の俺の部屋までしっかり届いた。

てか、むしろうるさい!近所迷惑だ。


「はいはい!今行くから待ってろって!」

スマホを充電器に挿して、俺、花咲琉夏は妹のいるリビングへ急いだ。


俺がリビングへ行くと妹、花咲岬は腕を前に組んでキッチンに立っていた。眉間にシワが寄っているところを見ると多少不機嫌のが分かる。


「はぁ。お〜そ〜い〜!さっさと料理食卓に並べて!お兄ちゃんが遅いから今からグラタンに火を通さなきゃいけないじゃん!」

そんな文句をグチグチ言いながらタイマーセット出来ないオーブンにグラタンを2つぶちこんだ。


別に俺が来る前にオーブンに入れててもよくね?

そんなツッコミが口から出そうになった。

そう。この言動からお気づきであろう。我が妹はバカである。


しっかりやれているようでやれていない。そんなのしょっちゅうだ。親が海外で働いているので家事全般やってくれていてすごく助かってはいるのだが、代わりに自分のことがうまくできないちょっと困った子なのだ。


と、俺は食卓に並ばなければいけない今日の夕御飯に目をやった。

ご飯、からあげ、ハンバーグ、サラダ、おまけにさっき作り始めたグラタン。

いろいろ多いな。カロリーとか。

俺は少し呆れた表情を作って岬の方に視線を向けた。


「お前なぁ、明日から家を離れて中学の寮に行くからって自分の好きなもの作りすぎだろ!いやまぁ俺も全部好きだけどさぁ」

俺は並べられてる料理の中からハンバーグを両手に持ってそういった。


「ならいいじゃん!これでもかなり品目絞ったんだよ?」

少し自慢げにそういうので、少し痛いところをついてやろうと真顔で渾身のセリフをかけてやった。

「そうかそうか、レパートリーは絞れてもこんなの食べたら腹は絞れないぞ」


場が静まり返る。時計の針の音だけが部屋には響いていた。

完全に滑った。

そんなときだった。

急に、岬の携帯と二階にある俺の携帯からとても大きなサイレン音がなり響く。


「なんだなんだ?!」

俺は急いでハンバーグを食卓に置くとそれを止めに二階にかけ上がった。


無事にサイレン音を止めてその内容を確認すると

『聖古道図書館火事』

という地域速報だった。


聖古道図書館とは、本の貸出しはもちろん、日本の歴史的資料や、本。それだけじゃなく海外の貴重な本などを収納している日本で一番大きく、古い図書館である。


その建物自体の貴重さ、収納物の貴重さだけに、外壁には防火壁。内装にも防火壁紙など徹底的な配慮をされている。はずだ。


もし燃やすなら閉館後に中に忍び込んで中の本自体を燃やすしか方法はない。


そんなことを速報の記事を見ながら考えていると、リビングからテレビのニュースの音が聞こえてきた。

急いで二階からかけ降りて、岬の隣に腰を下ろした。


「お兄ちゃん。これ、普通火事なんてあり得ないよね?」

少し強張った様子で俺の腕を引いてきた。

内心驚きを隠せないが表面だけは冷静を装う。


「あぁ、人が意図してつけなきゃ絶対に無理だろ」

「でも、燃やす理由って…あ、もしかして都市伝説の…?」


聖古道図書館の都市伝説とは、その古さとあり得ないぐらいの広さ、そして謎の階段などがあるせいで、みんなの推測や噂ががどんどんネットなどに書き込まれたことから作られていったもので、特に有名なのが空中から続く螺旋階段の先にある物の都市伝説である。


図書館内の中心には高所作業車でもない限り上がれないようなところに螺旋階段がある。

その螺旋階段の上りきった先には

『この世に終わりをもたらす事のできる本』

が存在するらしく、嘘か本当かは分からないが、とても有名な都市伝説である。


それで今回の火事の目的はそれを狙ったものなんじゃないかと岬は睨んだらしい。


「怖いよぉ…ここから図書館までかなり近いし…なんかあったら…」

都市伝説を思い出したからか、いつもは強気な岬が急に怖がり出した。


俺は岬を落ち着かせる為に冷静な態度で対応する。

「んなもんあるわけないだろ?所詮噂だよ、噂」

そういってなだめてやると少し考えて、納得したように小さく頷くと「そうだよね!」と言ってテレビを消した。


と、ここで俺はふと気づいた。なんか臭くね。と。

「い、妹よ、忘れていたが…。グラタン、焦げてません?」

岬の顔が一気に真っ青になった。まるでこの世の終わりのような顔をしている。


「あぁ…あぁあぁぁぁぁぁ!!バカやろー!!図書館が火事になんてなるからグラタンも火事になっちゃったよぉぉぉぉ!!お兄ちゃん!急いでスイッチ切ってきてえぇ!!!!!」

「りょ、了解!」

俺は岬の必死で狂気にまみれた顔を見て、言われるがままにキッチンへ走った。


「セェェェイ!!」

オーブンのスイッチを切ってグラタンを取り出すと表面が焦げて、黒くなったグラタンが完成していた。

グラタンを持ったままキッチンからゆっくりとリビングに行き、それを岬に静かに差し出した。


「………上手に美味しく出来ました☆」

「あはは、そうだねー」

棒読みかつ真顔!!というより絶望顔と表現すべき顔をした妹がそこにはいた。

相当ショックを受けたのか膝から崩れてぺたんと床に座ってしまった。


なんということでしょう。グラタンファイヤーしたことで岬の機嫌と部屋の匂いが悪くなってしまったではありませんか。これには琉夏お兄ちゃんもびっくり。

落ち込むな、と声をかけようとしたその時だった。


ピンポーンと家のチャイムが鳴る。

「お、俺出るから」

座り込んだ岬に一言かけて、すーっとリビングから廊下に出ると玄関まで猛ダッシュした。


玄関を開けると幼馴染みの同級生、白月しらずき れいが立っていた。

「やっほ!琉夏君!岬ちゃんの中学のお祝いに来ちゃった!岬ちゃんいる?」


その声が聞こえたのか、岬がさっきまでとは打って変わった笑顔で玄関まで吹っ飛んできた。

零がすかさず「おめでと〜!岬ちゃん!!」と言って胸に飛び込んでいった岬を抱き締めた。


「零姉ありがとう!」

そういってさらに岬が抱き締めた。

彼女は家が近くでよく遊んでいた。ザ、幼馴染み。

彼女の両親は訳あって亡くなっていて、一軒家で独り暮らしをしている。


だが、かなり前向きに頑張っていて幼い頃の縁もあって、うちの親の仕事大好きなせいで貯まりに貯まったお金を寄付したりして花咲家をあげて援助している。


親はむしろ自分達の正式な養子だと言っていて、彼女自身の人望も厚い。成績優秀だしなんでも一人で出来るし、おまけに美人だし、悪い点はほぼない。


あるとしたら慣れてくると遠慮というものをしなくなるところが悪いところだ。

でもまぁ、俺から見てもとってもいいやつだと思う。


「ねぇ、お兄ちゃん。零姉とも一緒にご飯食べたいよぉ。いいでしょ?ね!」

甘えるような顔してキラキラした視線を俺に向けてくる。


零も同じ視線を向けてきた。

はぁ、と深くため息を吐くと、満更でもない表情を浮かべながら二人を手払いした。


「さっさとリビングに行け、こうなったら三人でブラックグラタンを食べようじゃないか!」

『やったぁー!』

顔を見合わせ、息を合わせてそういうと、二人は嬉しそうにリビングに走っていった。


それからというもの、急いで食卓に料理を並べ、三人でバクバクとハイカロリーな晩ごはんを食べた。

あ、ちなみにグラタンはクソ不味かった。炭食ってるのとなんら変わらない。


食器を洗った後はボードゲーム、トランプなどをして遊んだ。

そしてついにゲームの間のちょっとした時間で岬が疲れて寝てしまった。

俺もつられるように床に横になる。

「ははっ。主役が寝ちまったからパーティーは終わりだな。……なぁ、零?」


隣で横になってる零に問いかける。

「んー?どうしたんだい、琉夏くん。まさかうちに発情した?妹が寝ている横でそういうことしちゃうの?」

と、ニヤニヤする。


「発情してないし、そういうこともしないわボケ。聖古道図書館が燃えたんだってさ、聞いたか?」

彼女の方を向いて聴くとあまり興味無さそうな顔をして答える。


「ふぅん、でもあそこは人為的じゃないと燃やせないよね、構造上。まぁ、本に興味ないし、どうでもいいけど」

そう言い終わると同時に零はムクッと起き上がった。


「そうだよな。その回答が来るのは分かってた。さぁ、今日はもう遅いから泊まってけ」

そういいながら俺も起き上がる。


「ほら、起きろ岬!」

そういって岬の肩を叩くが全然起きない。

ふと零を見ると何か分かった様な顔をしてニヤニヤしていた。そしてその表情のまま近所のおばさんみたいな口調で

「もぉ!お兄ちゃんなんだから部屋まで運んであげなさいよ!」

と、バンっ!と背中を叩かれた。


「いってぇよ!はぁ、仕方なねぇなぁ、ん。よいっしょ。」

俺はお姫様だっこで岬を持ち上げた。


ついこの間まで小学生だったのにもう中学生になるのか…重くなったな。

いやいや、俺は親か!


一人で脳内ツッコミをかますと、二階に向けて歩き出す。階段を登る音はミシッ、ミシッと音を立てる。

妹を抱っこして運ぶなんて何年振り、いや初めてかもしれない。


いろいろ考えながら歩いているうちにあっという間で岬をベットに運んだ。

「よっし!はぁ…重かった。」

岬をベッドに下ろすと、俺はぐっと背伸びをする。


「さっすが、お兄ちゃんだねぇ~」

そういいながら零が俺の背中をなぞってきた。

「うわぁ?!居たのかよ、そして背中をなぞるな!!」

ちょっと強めにそういうと負けじと零は前から俺に抱きついて

「よいではないか、よいではないか!私達そういう中だろぉ?」

と上目遣いをしながらまたもニヤニヤした。


「違うわ!ほら行くぞ!」

体を振って華麗に零を離させると俺は岬の部屋のドアの外に出る。だが零は出ようとしない。

「うち、岬ちゃんと寝るよ」

と、手を振られた。

なので、俺はあっそとそっけない返事をしてドアを閉めた。


「岬ちゃん、琉夏くん行ったよ」

零がそう声をかけると岬はムクッと起き上がった。

「零姉分かってたの?!結構うまく寝たつもりだったのになぁ」

少ししょんぼりする。


「私にはお見通しだよ☆だって私が問題発言したときピクって動いてたし、あとあれだけ強く叩かれたら普通おきるでしょ?しばらく会えなくなるから甘えたかったんだよね?」

岬は顔を真っ赤にして顔を伏せた。


「ち、ちがうよ!お、起きるのが面倒だっただけだもん!」


真っ赤な顔でニコッと笑った。

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