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日常に本を足し算すると  作者: ボル
第1章 具現化の書 優しさの書
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本と嘘を付く

「いちゃいちゃしとるんじゃないわ、このボケナス!まったく……。」

夢の少女は呆れたような、何というか形容しがたい感じでまた文句を言ってくる。

「勝手に夢の番人してるのはあんただろ。」

俺も同じように呆れていた。

「そんなことより聞きたいことが沢山あるんだけど。」

そう、この少女のこんなペースに乗っかっている場合ではないのだ。自分のペースに持っていくために自分から話を振っていく。


「なんじゃ?手短に言ってみろ」

「上から……っ!はぁ。手厳しいお前がなんであの時加担してくれたんだ?そして水希がいつの間にか持ってた本は何?」

少女は腕組みをして目を少しだけ細めた。

「はぁ、大したことない質問じゃのう。まず水希の本は『日常の書』じゃな。あの本は水希が守るように、そう決められたものじゃ。今は未完成じゃが、本当は世界を変えかねない、影響力のある本じゃからの。加担したのはせっかくの宿り木をそう易々と枯らされては困るからじゃ。」


答えてもらえないかと思っていたが案外まともな回答が返ってきてちょっとびっくりした。

でもなんで、あんな自由奔放に動き回るあいつにそんな重要そうな本を持たせたんだろうか。

そんなことを考えているうちに意識がうつらうつらになってきた。

「そろそろだわ。じゃあ、またな」

少女に向けてそういうとはっとしたような表情をして上を見上げる。厚い靄のかかったような明るい上空から光が差し込み始めていた。

「もう目覚めなのか。もっとゆ……り……」


最後に少女は何かを言おうとしていたんだろうが、最後がちゃんと聞き取れなかった。ちょっとだけの後悔を感じながら目を薄く開いて天井を見る。

「朝……か」


また1日が始まった。今日こそは水希と零には仲良くしていただきたいところだ。

ベットの隣を向くと派手にお腹を出して寝てる女がいる。

「おい、起きろー。腹出てるし、朝だぞ」

軽く頰を叩いた。

「ん〜。あと5時間〜。」

はぁ、とため息をつきながら腹に張り手をかましてやった。


「お腹痛い。」

「そんな強く叩いてねぇっての」

登校は別々にする予定だったんだが、飯をコンビニで買わなければいけないということと、どうしても二人で行きたいという水希のわがままで俺らは並んで歩いている。

零に見つかったら朝から波乱が起きそうだ。

「んも〜!もっと起こし方があるじゃん〜!!なんで叩くのさ!」

頰を膨らませて怒る水希はあざとい。

「いや、5時間は舐めてるだろ。そんなに深い眠りなら叩いても起きないと思ったんだよーだ」

嫌味程度にそういうと更にぷりぷりとするのだった。


高校生活が始まって初めての授業が今日の一時間目の現代文。現在は三時間目の古典が行われていた。

普通、第一回の授業というのは先生への自己紹介や授業の方針などが行われるものだと思うがうちの学校はそうではない。一応、進学校の名門であり、未来の大企業を背負わなくてはならない人材が大勢いるのだ。

そのためか、先生たちは既に顔と名前が一致しており無駄な自己紹介タイムなどは一切を吹っ飛ばして一回目から本格的な授業が始まっていた。

俺はまじめに授業を受けている。受けているんだが、頭にそれが入ってこない。内容が難しい?そんな理由なわけがない。椅子の下から一定のリズムで尻に振動が伝わってくるのだ。

我慢の限界になって後ろを振り向くと待っていたと言わんばかりの嫌な笑みを浮かべる水希がいる。

こんなの毎日やられたらうざすぎる。流石に昼休みに注意しよう。そう決めて、老人による漢文の訳をラジオ代わりに残りの時間も耐えることとする。


無事に三時間目の授業が終わると、昼休みだ。三時間で昼休みというのは何とも違和感があるが、午後の授業の時間に連続の授業が入れられるというのが理由のようだ。

俺は無言で水希を外に連れ出そうとしたが、タイミングよく男二名と女一名に呼び止められる。

「琉夏!!みんなで飯食おうぜ!!」

三吉を筆頭とした和斗、零だ。

顔を近づけて誘ってきた三吉は肩に手を回して小さく囁く。

「お前、転校生の子と仲良いみたいじゃねえか!俺らも仲良くなりたいし紹介してくれよ!」

ええ……。

内心、和斗はともかく零は言うわけがないと思ったが断わるわけにもいかず五人で食堂に足を運ぶこととなった。


食堂には、怖そうな運動部の生徒からおそらく弁当を忘れたのであろう弱気そうな生徒まで数々いた。

朝弁当を買っている我々がわざわざ食堂に来たのは三吉が食堂で飯を食べてみたかったからという単純な理由からだ。

三吉一人だけお盆にラーメンを乗せ、俺含め四人はビニールやらランチバッグをぶら下げていた。

普通、食堂は飯に目が奪われ、ほかの生徒は気にならないものだがここの人達は違うようだ。

俺ら五人に視線が注がれている。

原因は、女二人だろう。世にも珍しい美人秀才の逸材が肩を並べて歩いているからであろう。


水希が転校してきたことは即日話題になったようで、知らないうちに校内新聞がオール満点の通知表とともに水希を取り上げたらしい。プライバシーもくそもない。

零は普通に入試の順位発表の一位に名前があってどんな奴なのか拝みにきたやつがかわいいと広め歩いたようだ。

それが他学年にも広がり、この注目というわけだ。

非常に肩身が狭い。だってさっきからこいつらと一緒にいることでの俺ら男子に対する鋭い視線が痛すぎるのだもの。


そんなとばっちりを食らいながらもなんとか席に腰掛けると、なんだかぎこちない食事会が始まった。

程なく、ラーメンを一口すすると三吉はスープを蓮華ですくいながらこちらを向いた。

「で、琉夏と緑川さんは知り合いなのか?」

それに弁当のおかずに箸を伸ばしていた零も反応する。


とうとう来たかそう腹をくくった。そう、地獄の尋問タイムだ。

俺一人なら問題はない。一人ならだ。

だがこの場には当事者が二人そろっている。つまり自由な発言、行動をとる水希と口裏を自然に合わせなければいけないのだ。

水希にアイコンタクトを取ろうと視線を向けたとき、彼女は既に自由な口を開いて発言の直前だった。

それを、止めることは出来なかった。

「ん?親戚だよ?」

水希は何気もない顔で返した。

「親戚なの?!」

一番驚いたのは零だ。

食卓に両手をついて立ち上がる。

「そう。ね?琉夏」

彼女の小さなウインクと共に嘘が始まった。


「そうなんだよ、黙ってて悪かった。」

「え?え?!でも、そんな話聞いたこともないよ?!」

幼馴染からしたらそりゃそんな反応になる。

「まあ、遠い親戚というか。」

そうだったんだ……。と脇に目をそらす。

そして隣の水希に体を向けると小さく頭を下げた。

「ごめんなさい!知らなかったとはいえ、なんか変に絡んだりして……。いきなり声をかけて二人で人気のないところに行ったりするからもしかしたら危ない人なんじゃないかって……。」

「あー。。ま、まあとにかく!気にしてないから、謝らないで!!」

こんな光景、三吉たちは何が何だか状況もつかめないだろう。謝ったり謝られたりする二人を座らせて、弁当を食べ進めながら男子二人にこれまでの争いの経緯を説明した。


「なんかそれ、琉夏が取られあってるみたいで釈だな。」

つまらなそうな顔をしてスープに浮いたネギをちまちまと食う。

まあまあ、と苦笑を浮かべてから、和斗は女のようなしぐさで手を合わせ目を輝かせた。

「総合的に琉夏は守られてる、というか常に気にかけられてて幸せじゃないか!」

「まあ、な……」

少し鬱陶しくはあるが。


この後は四時間目の授業が始まり、放課後には部活動が開始するのだった。






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