村々の人々(易しめ)
あー、なんか、
「困るなぁ。むらが……」
人はボヤクものだ。
それは1人で生きようと志しても、自分の声を自分の耳に通すことで、1人じゃないと錯覚する程度の、自分による自分の証明。
「なくならない……」
真剣に困った声で、子供レベルの小さくて変態な絵師さん。瀬戸博は、ディスプレイに映る画像データと睨めっこ。
普段はとんでもないほどの馬鹿で、ど変態で、女の事しか考えない彼であるが。こと、自分にとって必要な事ややるべき事には、とてつもない集中力と成果をあげる。
馬鹿と紙一重の天才の、1人といえよう。
とはいえ、彼のメインは女の子だけという有様であるが。
「うーん。ダメだ!むらが、上手く……」
そんな彼にも悩みがある。悩むということは、改善があるということ。それに自分は気付いているようで、気付けない。その悔しさもまた、レベルアップの一つだ。
そんな瀬戸の様子を眺める、瀬戸の被害者と呼べる3人の女性。
「悩んでるね、瀬戸くん。珍しい」
安西弥生。
「でも、私には分かる。オカシイに気付けるのに、直らない歯がゆさってクリエイターには付き物だよ」
林崎苺。
「あたしにはそう見えないんだけど」
工藤友。
ここはゲーム会社。
ブラック真っ只中の、ゲーム会社である。
「村が困っているって、瀬戸くんって田舎育ちだっけ?」
「いや、都会でしょ?絶対あーいう奴、親戚と仲悪いタイプ」
「友ちゃーん。こーいう集まりのほとんどは、親戚関係と仲が悪いものだよ?」
「常識で測れない生物の集まりが、クリエイターですからね」
「あたしが除け者かい!?」
常識なんて、よく分からないものだ。ここでは親族関係の仲が良くないのが多いのだろう。まぁ、そーいう仕事といえば、そうだと思うが……。なんしろ、金を稼げる仕事はいいものだと思うのだが。
「いやー、村って村じゃないでしょ」
「林崎はどーいう考えよ」
「瀬戸はデザイナーよ。きっと、色の斑が気になっているのよ」
「ああ、それはあるわね」
「妥当です!」
弥生はプログラマー、友ちゃんはプランナー&営業などなどの雑用、林崎は音響全般。
このゲーム会社のデザインを任されているのは瀬戸ともう1人、松代宗司が主な担当であった。
「あたしは。あれね……村でも、斑でもなく、ムラね。ムラムラするってあれ」
「うわぁー。私はそれ言うつもりなかったー。友ちゃん、考えてちゃった?」
「私も言わないようにしてたのに……」
「この裏切り者共ーーー!なんか私があいつと同レベルみたいじゃない!?ムラムラしてないわよ!」
騒がしくなったところで、瀬戸も気になって声をかけた。
「もー、友ちゃん!聴いたよ、今の!助けてよ!凄い貧乳でも良いから」
「うっせ、死ね!!ま、ま、まだ成長期あるわよ!」
いや、ないない。
「ところで、さっきから何を悩んでいるの?」
「あーその、退かない?」
「すでに瀬戸くんには色々退いているので、別に大丈夫ですよ」
「そっか」
これが平常かつ日常会話。
瀬戸としては、女の子と話せるだけで幸せなのだ。毎日は無駄にポジティブなのさ。
「実はその。僕、あんまり今、ムラムラしないんだ」
あ、友ちゃんの予想通りだ。(全員の予想通りだ)
「エロ漫画描いてるとこだけど、男優の印象が弱いせいか。そそられない。ビッチな女性のおかげで保たれているエロ漫画……という印象が強すぎるんだ!僕の作品全般が!読者をムラムラさせるのが、僕の作品が導く影響でありたいんだ!!」
「女のあたし達に相談されてもねぇ」
「仕事中に趣味ですか」
「……平常運行、ですね」
「ほら、相談しても解決しない!この憤り、分かってくれないなんてね!」
「相談って全てが解決に向かうもんじゃないわよ」
「というか、どう答えろって?」
分かるようで、分からん状況。
まぁ、とりあえず。
「私、ちょっと拝見してもいいですか?」
「や、弥生ちゃん。いいの?」
「男の方にでしたら、口に出したいです。読んでみたいし」
興味本位。こーいう輩を敬遠する者も当然いるが、そうでない人もいる。
安西弥生。勇気を振り絞るとかはなく、ご拝見。
「………確かに、性的な感じは湧いてきませんね。エロ漫画としては微妙かと」
「だよね!!弥生ちゃんの意見聞きたいんですけど!」
「私としては……ちょっと席をいいですか」
「どうぞどうぞ!」
プログラマー、安西。彼女なりのスーパーな、アドバイス。
ちょっとした記憶媒体を差込。
「ほうほう」
とある自作ソフトを起動させる。
「で?」
ディスプレイ画面は非常に綺麗となり、内臓されたデータもまた、スッキリに
「一から作り直してください。その間、エロイデータは全部没収です。この中に全部入りました」
「ちょっと弥生ちゃーーーん!?なにしてくれてんのー!?」
「仕事中に趣味ばかりしないでください。私、宮野さんの相手なんですから……」
「ごめん!悪かったから!頑張って仕事するし、ちゃんとしたエロ漫画作るから!だから、僕の!僕の作品、嫁達を連れ攫わないでーーー!」
パソコンやスマホなどがあれば良いやと思うけれど。
「ああされると、人間の多くが脆くなるよね。人は人ってことで」
「仕方ないけれど。村人らしく暮らせってのが、あいつの罪の償いよ」
それが無くなる辛さは、ホントに計り知れない。
「ムラムラしない村人にされちゃったよ!!」
「それでいいかと」
「別に上手くない!」