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欲望と願いのグリモワール  作者: 藤ゐ馨
日常崩壊編
7/10

第七話 変換

 「どうした、何ボッとしてんだよ?」


 俺は突然の声に驚くと、寝ぼけてるのか? と言う表情でコウスケが、呆れた表情で俺の顔を見ていた。「まだホームルーム前なのに、だから徹夜でエロゲーはやめろって言ったのに」と、ありもしないことを言い始めたので、とりあえず一発ぶん殴る。


 「適当なこと言うと、ぶん殴るぞ」

 

 「いってぇ! だから、殴ってから言うなよ」


 確かに、昨日から色々ありすぎて、正直寝不足気味で少し寝ていたみたいだ。

 何か夢を見たような気がするけど、思い出せない・・・・・・まぁ夢なんてそんなものだろう。

 俺のやることは明確で、大蜘蛛を倒すと言うことだけど、どうすれば良いのか・・・・・・全くわからない。そんな中で、コウスケの無神経な一言が、腹に立ってしょうが無い。

 自分でも理不尽な怒りだというのはわかってる。


 自問自答していると、カワシマ先生が教室に入ってくる。いつもの様に、出席を取っていくが、今日も不機嫌な様子だった。


 「榎宮は、また休みか・・・・・・休むなら連絡ぐらい寄越せや」


 俺も正直休みたい気持ちだったが、確かめなければいけないことがあったので、休むわけには行かなかった。

 絶界で死ぬと、その存在は無かったことになると、アムリタが言っていた。なら、アンリはどうなったのか・・・・・・。この世界はどういう風に変わったのか、その事を確認しなければならない。


 今のところは、変わったところは無いようだ。


 休み時間になり、アンリの教室に確かめに行こうと思ったが、放課後まで待つことにした。

 部活に行けば・・・・・・すぐにわかることだから、今すぐ確かめなくても良いと、自分の気持ちに言い訳をしながら、時間を過ごしていく。


 教室の窓から、校門を眺めていると、一台のパトカーが学校に止まっていた。

 パトカーから如何にもベテラン風の無精髭を生やした刑事と、若そうな刑事が出てきて、学校に向かって歩いていた。

 何か事件があったのか? でも、昨日のことでは無いとしたら・・・・・・。いや、俺には関係の無いことだ。


 時間が経ち、放課後になると俺は部室に向けて歩き始める。心の中では、何も変わってなければ良いのにと思いながら。

 だが現実は非情だった。薄汚れたプラスチック製の板に、科学研究部と書かれた部室があるはずなのに、今は無くなっていた。ただ何も書かれていない、プラスチック製の板だけがある。部室内を覗いて見るも、人の気配が無い。物すら置いてないただの空き部屋。


 『満足したか?』


 「満足って何だよ」


 アムリタの非常な一言が感に障る。言いたいことは分かる、ここに来るのは無意味だと言いたいのだ。それをするぐらいなら、魔導書の契約者を探した方が、有意義というモノだ。だけど、そんなこと言われなくても分かっている。とはいえ、気持ち的に確かめなければ前に進めないのだ。


 『貴様の求める日常は、何もしなければ戻っては来ない』


 「わかってる」


 アムリタに正論を言われる度に、口調が強くなっていく。

 本当に頭では、分かっているんだ。だからといって、すぐに割り切れるモノでも無い。そんなことをアムリタに言ったところで、鼻で笑われるだけかも知れない。


 『なら、これからどうするのだ?』


 「・・・・・・契約者を探せば良いんだろ、どうやって探せば良いんだ?」


 今度は極めて冷静に受け答えができた。

 ふー少しずつ頭を冷やしていこう。アムリタの心ない一言だろうと、彼女は敵じゃ無い協力者なんだ。ただそうKYなだけだと思えば、そこまで腹は立たないはず。そう、コウスケと同じだと思えば良い・・・・・・駄目だ、それだと余計に腹立つわ。


 『それは簡単だ、殺人事件を探せば良い』


 「殺人事件?」


 あまりにも突拍子のない言葉が返ってきた。冷静になろうとしていた頭が、一瞬思考停止して、オウムの様に聞き返してしまう。


 『ああそうだ、あれだけの心象世界を作り出しているんだ、もう人間としての精神は、限界に来ているはず。なら、一人や二人殺していても可笑しくは無いはずだからな』


「なるほ・・・・・・」突然静電気が、体中に走る感覚に陥った。「な、なんだ」と当たりを見渡すが、先程見た光景と変わりなく、気のせいかと思ったが、アムリタは意味深な一言を言った。


 『結界を張られたな』


 中二病かと言いたくなる台詞を、当然のように言い放った。当たり前の思考回路の持ち主なら、冗談だろ? 病院行くか? で済むんだが、昨日からその当たり前の思考がショートしているみたいだ。

 つまり、アムリタが結界を張られたと言うなら、張られたのだろう。

 普通に考えて、何のためにそんなものが張られたのか・・・・・・偶然? っておめでたい考えをしている場合じゃ無いだろう。間違いなく必然的に今の状態にされている。


 落ち着け・・・・・・今はどうするか判断を聞くのが先だろう。


 「みーつけた」


 アムリタに今の状況を聞こうと持った瞬間、先程まで誰も居なかった目の前の空間に突然そいつは現れた。

  

 見た目は十二歳ぐらいの金髪碧眼の少年。外人の子供が突然現れたのにもびっくりだが、その姿がこの場に似つかわしくない格好だということだ。

 赤いローブを羽織っていて小難しい刺繍が施されている。黒いシャツにも何か刺繍がされていてぱっと見コスプレおつーと言いたくなる。だけどこの格好とこの状況で、ただのコスプレした子供と言うには、異常すぎるだろう。

 アレだ・・・・・・なんか錬金術とか使いそうなそんな見た目だ。自分で思った事に、失笑したくなる。


 『魔術師が何故?』


 アムリタの台詞を聞いて確信した。やっぱりなっと。

 逆に安心するわ。いや、しちゃいけないんだろうけど・・・・・・。

 今一番の問題は、こいつは何者で何しに現れたかって事を考えないといけないだろう。

 

 背中に嫌な汗がツーと流れるのが分かる。

 心臓の鼓動は、さっきから警戒音のように激しくなっている。

 少年は手から細く切った布を、ブランブランと揺らしながら屈託の無い笑みを浮かべていた。


 「それじゃーばいばい」


 そう言ってその細長い布を、俺に向けて振り下ろした。

 先程までは、ただ柔らかそうなただの布きれだったのに、それは鞭を振るったかのようにしっかりと勢いよく振り下ろされる。

 咄嗟の出来事に、普通なら避けられるはずの無い一撃。

 だけど、昨日までの経験が生きた。

 何かあるそう思えたからこそ、その所見殺しの一撃を避けることができた。


 俺が避けた先の空間は、先程まであった扉が鋭利な刃物で切られたかのように、綺麗に斜めに切り下ろされていた。


 『まずは、逃げるのが得策だろう』


 言われずとも逃げる!あんなのに関わってたら命がいくつあってもたらねえよ。

 好都合に扉を開けてくれたのだから、何も悩まずに廊下に出てひたすらに走る。


 「キヒヒ、逃げられねえよ」


 少年は笑いながらゆっくりと歩いて俺を追いかけようとしてくる。

 だけど、走ってまで追いかける気は無いようだ。

 最近逃げてばっかりな気がする・・・・・・多分気のせいだろう。


 自分の教室にたどり着くと、先程までいたクラスメートの姿が何処にも無い。

 逃げてる途中で誰にも会わなかった。この時間に誰にも会わないなんてあり得ない。

 だって、この学校は部活動が義務づけられている。少なからず誰かしらには合うはずなのだから。

 つまりこの状況は、普通では無いと言うことなのだろう。

 

 「状況説明を求む!!」


 『案外冷静なのだな』


 どこか呆れたようにアムリタが言うけど、冷静にならざるおえないだろう。

 わめき散らして解決しないのは、十分に理解しているからだ。それなら今この状況がどうなっているのか、冷静に判断して解決に尽力した方が得策だろう。

 意外にアムリタの方が、この状況に戸惑いを見せてるように感じる。数秒何か言いよどむ様にあーだのうーだの考えて、ようやく考えが纏まったみたいだった。


 『端的に言えば、閉じ込められたと言うことだ・・・・・・今の状況では、学校から出ることはできないだろう』


 「解決方法は、あるんだろ?」


 ここで無いとか言われたら、冷静を保っていたダムが崩壊する自信がある。


 『無くはない・・・・・・一つはこの結界の術を破壊すること、二つは魔術師を殺すこと、解決方法としては、この二つと言ったところだろう』


 「結界の術の破壊ってどうすれば良いんだ?」


 『今の我には、分からぬな・・・・・・先に言っておくが、我自身を召喚することも出来ない状況でもある』


 上げて落とすパターンだったか・・・・・・。

 自動的に解決方法二つ目の魔術師を殺す? あの少年を俺が? 嘘だろ・・・・・・。人殺しなんて出来るわけがない。アムリタを召喚して任せることも出来ない。

 詰んだ・・・・・・。

 

 いや待て考えろ。何でこんな状況に追い込まれている? あの少年は何を目的で俺を襲った? もしかしたら何か誤解が生じてこの様な状況に陥ってるのでは無いか? もし、俺に提示できるもので解決できるなら、説得も可能なのでは無いか?


 「説得とかで解決できないか?」


 『魔術師に説得? ・・・・・・中々面白い意見だな。もしその説得に失敗したらどうする?』


 「その時は、その時で考えるしかないだろう」


 俺の消極的な考えを、アムリタは面白そうに声を弾ませる。だが、すぐに声色は真剣なものに戻して俺に問うてくる。


 『実にキョウヤらしい意見ではあるが、何も力が無いまま相対するのは、馬鹿のすることだ。なら、相対するだけの力がいるだろう。だから少しだけ戻してやろう』


 そう告げた後アムリタは、『変換トラペノン』と魔法を唱えた。

 ズキン・・・・・・と一瞬痛みが走るが、何をされたのかよく分からない。見た目に何か変化があるというわけでもなさそうだ。だけど、何かされたのは確かだろう。


 「・・・・・・俺に何をした?」


 『それは、秘密だ』


 アムリタの言葉は、何処か寂しげでそれ以上聞くなと、無言で言っているみたいに聞こえた。

 俺は何かされたのは、事実だろう。とはいえ、今アムリタが俺に不利益をもたらしても何一つ意味は無いと思える。なら、俺の為に何かしたと信じよう。

 昨日であった得体の知れないモノを信じるとは、俺も相当躍起に回ってるな。


 「鬼ごっこは、終わりかな? クヒヒ、かくれんぼうは、つまんねえなー」


 廊下から聞こえる足音は、徐々にこちらに近づいてくる。

 こちらの居場所が分かっているのか? 先程の台詞から考えれば、分かってて言っている感じに聞こえる。ならこのまま隠れているのは、下策・・・・・・いざという時を考えれば廊下の方が逃げやすい。

 大丈夫、確かに相手は得体の知れない少年だ。だがあの布に気をつければ良いだけだ。

 俺は声がまだ遠くにあるうちに、廊下に飛び出ると、約五十メートル先でに少年が愉快そうに歩いていた。


 「お前は、何者だ」


 出ると同時に、安っぽい台詞をはいてみる。

 突然指を向けられてそんな台詞をはかれた少年は、キョトーンとした表情でその場でたたずで、何を言われたのか理解したとき、腹を抱えて笑い出した。


 「昨日の戦闘を見て、魔導書を擬人化させて召喚したのには驚いたけど、近接戦闘が大したことないのは見て分かった。つまりーこの結界内では、お前はただの人間ってことだ。勿論魔法を使うかも知れないけど、その対策もバッチリらしいし――だ・か・ら・俺を楽しませてくれよーキヒアハハ」


 「・・・・・・会話する気は、ゼロって事か」


 笑っていたかと思うと、二メートルほどの細長い布がまるで剣の様にまっすぐになる光景は、その布じたいに意思があるのではと思わされる。

 それがさも当たり前のように、少年は布の剣を構えて、五十メートル先から一気に俺の方に詰め寄ってくる。

 その速度は、常人以上であり、見た目どおりの子供という認識を瓦解させる。


 だけど、何故かその速度を目で追えていた。

 出会い頭の時は、確かに鞭の速度を目で追うことは出来なかった。だけど、少年の繰り出す剣技一つ一つを目で捕らえて、何とか躱すことが出来た。


 右左を結ぶ一閃を後退して躱し、左斜めから右斜めに切り下ろす刃を右に飛び跳ねて躱す。

 一撃でも貰えば、多分無事では済まない緊張感の中、なんとか生きている。

  

 だがこのままでは、体力的にきついのは確かなので、何とか反撃に転じたいという気持ちが少しずつ貯まっていく。


 「おいおい、避けてばっかりじゃ、俺が楽しめねえだろうが」


 反撃してこいと言わんばかりに、態とらしい大ぶりの動きで挑発してくる。

 流石の俺も、十二歳そこらの餓鬼に、馬鹿にされても怒るわけがない、というか、怒る余裕もない。それほどまでに、少年と俺の技量差に差があるのだから。


 でも、何故俺は、少年の攻撃を避ける事が出来ているのだろう? 

 アムリタがさっき何かしたのが関係あるのか?

 でなければ、ここまで避けることも出来ずに瞬殺だっただろう。


 それでも届かない、言葉をかける余裕もない。

 何が説得だ・・・・・・どんだけ余裕な考えを持っていたんだ。

 選択をミスったのは間違いない。相対するべきじゃ無く逃げるべきだったんだ。

 今はもう逃げようとすら出来ない・・・・・・戦うにしても場所の選択も悪い。


 もし敵が大蜘蛛だったら、もっと深く考えたはずだ。

 そう、敵の見た目のせいで、どこかなめていたんだ。


 心がチリチリと痛みを発してくる。

 もう楽になりたい、そういう弱さが生まれてくるのもしょうが無い。それぐらいこの攻防は激しいのだ。

 喉なんてすでにカラカラになるぐらい、汗が止まらない。


 でも何とかしなければ・・・・・・確実に殺される。

 その為にも、力が欲しい・・・・・・そう願ったところで、誰も助けてはくれない。


 その心の弱さが、動きを鈍らせる。

 ついには、少しずつ布の刃が体に触れ始める。


 浅く切られていく肌・・・・・・流れ出る血・・・・・・。

 痛い・・・・・・痛い・・・・・・痛い!!

 死ぬ!!このままじゃ死ぬ!!!


 布の剣が右手に突き刺さる。そして激しい痛みが体を駆け巡る。

 その痛みは、あの大蜘蛛の追いかけられ嬲られた記憶を蘇らせる。


 「アグゥアアア!!」


 「キヒアハハ、良いね――もっと気持ちよくしてやるよ!!」


 圧倒的な暴力の前に、嬲られるしかない。

 先程からただただ遊ばれていたに過ぎないと理解する。


 このまま殺されるのか? 

 この理不尽のまま・・・・・・嫌だ・・・・・・嫌だ・・・・・・

 まだ死ねない!! 何も出来ないまま死ぬなんて嫌だ!!

 どうすれば良い? 答えは簡単だろう? 変われば良いんだ。

 今のままなら死んでしまうなら・・・・・・死なない自分に変われば良い。

 そんなことが出来るのか? 俺は誰に聞いてるんだ? 分からない・・・・・・でも、やり方は分かった。 出来るかどうか、違う出来ないと死ぬんだ・・・・・・。

 俺は両手で顔を覆い一言だけ呟いた。

 

 「変換トラペノン

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