第54章.抜け落ちた■■■
「き、きゃぁぁぁ!!!?」
バタバタと糸の切れた人形のように倒れる人々。長船の手に握る刀で起こした惨劇に巫女は堪らず悲鳴を上げた。
その巫女の悲鳴に祭り騒ぎだった商店街は騒然となり、騒ぎに気づいた人々がなんだなんだと野次馬の視線が刀を持つ長船と対峙しているカガリへと集まり始めていくのだった。
「ひひひ!ひところ!ひ、人殺しーー!!!?」
「…参った、静かにするつもりでござったが逆効果でござったなぁ」
取り乱し騒ぐ巫女と突然の声に何事かとざわつく野次馬たち。
それらをぐるりと見渡し、ペンッと額を軽く叩き長船は困ったように苦笑し、流れるような動作で刀を鞘に収めた。
(なんだ…?斬ったのに血が出てねぇ!?何しやがったんだ?)
一瞥した足元に横たわる男の体には血はおろか、斬った後すら無くただ意識を失い眠っているように見えた。
長船が振るい刀から生じた閃光は確実に周囲の人々を斬った。だが斬られていない。斬ったのに斬られていない矛盾が得体の知れない悪寒を感じさせた。
無意識に体が長船から遠ざかろうとする中、カガリは歯を強く食いしばり、振り絞るように声を発した。
「ッ…テメェ……一体何を斬りやがった…?」
「おや、何をした、のでは無く何を斬った。と申すか…ははは。これは面白い」
「あ?」
カガリの言葉に長船は意外そうに言うと不意に笑い出した。
一体何が面白かったのか分からず、カガリは怪訝そうに首を傾げさせていると長船は一息吐くように頭を振ると不敵な表情にさせた。
「いやはや、確かに斬ったと耳にしていたでござるが……ふむ。これは思いもしておらなんだ。相性が悪いのか…はたまた想定外の人物がいたか…」
「あわ、あわわ…!」
(………まさか)
「んの野郎…ッ!なに訳わかんねぇこと言ってやがる!!」
倒れ込む人々を見て腰を抜かし震えている巫女を一瞥しながら疑念の表情を浮かべる長船。
その、自分は目を逸らすことなく対峙しているにも関わらず全く気にもしない長船の余裕な行動に、再びカガリの堪忍袋の緒が切れかかった。
「よそ見ぶっこきやがって!光もん出したくらいで勝った気になってんじゃねぇぞ!!」
「ん、ああいや。すまんでござるな…お主を前にしていたのだった。えー……忘れてしまったでござる…さて、何の話でござったかな?」
「なん…!?テん…メェェ…ッ!ふざけんのも大概にしやがれ!!」
「おっと」
「きゃぁ!!?」
長船の一言にブチりと緒が切れる音響かせ、怒り心頭にカガリは怒声を放つや長船へと殴りかかる。
巫女が足元にいることなどお構い無くやみくもに飛び掛かり拳を振り回すカガリであったが、長船は柳の葉の如く繰り出される拳や蹴りを紙一重でかわしては野次馬の群れを背に跳ねるように下がっていく。
「うわあ!!」
「ぎゃあ!?」
「邪魔だ退けボケどもぉぉ!!!」
「と、轟さ……まって!!」
訳も分からず笑われ。よそ見。余裕の佇まい。あまつ話さえ聞いていないどころか聞き直してくる始末。
長船のいい加減で気まぐれな言動にもはや我慢のならないカガリは得体の知れなかった悪寒のことなど頭の中から抜け落ち、止めようとした巫女の言葉は耳に届くことなく、怒りのままにどよめく野次馬を押し退け野次馬の中へ中へと紛れていく長船を追いかけていく。
「はっはっはっ。まるで猪か冬眠前の熊でござるなぁ」
「誰が獣だこの野郎ぉ!!」
「おっと」
「あぁ!?」
「ふおぎゃおっ!!!?」
挑発する長船に怒号と共に飛び蹴りを放つカガリ。だが、僅かな瞬きの一瞬の内に長船は入れ替わるように通り掛かった少女に立ち替わり、そのまま少女を蹴飛ばしてしまった。
「しまっ……んなろ!!おちょくりやがって…って、いねぇ?!!」
長船から吹き飛んだ少女へと視線を外した僅かな隙に長船の姿は消えており、カガリは慌てて辺りを見渡すが姿はどこにも見当たらない。
「くそ…!どこいきやがった!!?」
「ちょっとアンタ!いきなりなにすんのよ!!」
「あん?!」
消えた長船を追いかけようとしたその時、不意に呼び止められ振り返るとそこには蹴り飛ばされた少女が表情険しくカガリをまっすぐに睨んでいた。
「急に現れてアタシに飛び蹴り食らわせた挙げ句何も言わず立ち去ろうだなんてなんてどういう了見よ?!こっちは授業抜け出してまで白雪嬢を見に来てるってのに台無しじゃないのよ!!!」
「なぁぁにが白雪嬢だくだらねぇ。野次馬のくせにそんなしょうもない理由で邪魔すんじゃねぇよ!もう一発ぶっ飛ばされる前に失せやがれ。ミーハー野郎!」
「な、誰がミーハーよ暴力女!!」
「や、やめろよアリ子!お……落ち、着けって…ミーハーなのは事実だし、ま、周りが見てる…だろ…!?」
「アリ子言うな!アンタどっちの味方よモジャ頭!!まさかこんなトサカアホ毛頭の方につく気じゃないわよね?!」
「あ、あう……そ、そんなことぉ…!!」
「ちょっと待てテメェこらぁ!!!誰の頭が柴犬のケツだ地味貧乳野郎!!」
「言ってないしお前よりはあるわ鉄板まな板下品女!!!」
「取り込み中あいすまぬが」
「あん?!誰よアンタ」
「っ!?しまっ!!」
二人の罵声の応酬のまさに話を裂くように、会話の間に現れた長船に、気を取られていたカガリは冷や汗を流し表情を引きつらせた。
「お前ら退いて……!!?」
「きゃっ!?」
「あわ?!!」
「油断大敵でござるよ」
カガリはとっさに棒立ちしていた二人を突き飛ばし自身も攻撃を避けようとしたが息するような自然な動作で繰り出された長船の白刃による横薙ぎが非情に背中を斬りつける。
「ギッ!!!ッゥゥゥ___!!!」
「な…!?アンタ!!」
「ぐ…っ!お、オレに触んな!テメェらはさっさと失せやがれ!」
「はは、戦の中人の心配とは悪手でござる……いや、にしても随分青いでござるな。悪童とは思えぬ善行をなすとはこれまた意外や意外……声を我慢しただけでも大したものでござるが……」
血を流し焼けるような痛みに堪えながらも目尻を吊り上げ牙を向き睨むカガリに長船は表情変えることなく刀を振りかざす。
「…ッ!ちくしょ…ッ!!」
トドメを刺そうとする長船の迫る刃。
カガリは歯を食い縛り、何とか間一髪のところで攻撃をかわす。
「ほほう…」
背中に刀傷を受けて尚攻撃を避けるカガリに長船は目尻を僅かに下げ、瞬時に逃げたカガリへ刀を振るう。
「くっ!!!」
背後から来ていた筈がいつの間にか消え。どこに消えたのかと見渡せば気づかぬ内に目の前に現れ、まさに亡霊のごとく消えては予期せぬ場所から現れる。幾度と振るわれる長船の奇襲に必死に避けるカガリ。
しかし、長船の執拗な猛攻は周りの人々を巻き込むことに躊躇なく斬りかかってくる。
(見境無しかよ…!!)
一撃受けたカガリの体では体力の消耗が激しく、それに加え長船の振るう刀に斬られ驚き騒ぐ野次馬たちによって大きく避けることになり、徐々に限界が近づき追い詰められいく。
「くそ!邪魔だどけ!退けって…がっ!?」
蜘蛛の子を散らすよう逃げ惑う野次馬に気を取られ、逃げる一人にぶつかられ態勢が崩れ倒れてしまった。
「しま……っ!!」
「覚悟」
慌てて立ち上がろうとしたカガリだったが僅かな隙も見逃さないとすでに長船は刀を振りかざしカガリの首に狙いを定めていた。
斬られる。そう直感したカガリだったが突然、ガキン。と甲高い鉄を弾く音が響き、振り下ろされようとした長船の刀が手から吹き飛んだ。
「は。あ。な…なん……おわ!?」
「これで貸し借り無しよ」
ちりんちりんと鈴を鳴らす刀が地面を転がる。何が起きたのかと困惑していると背後に引っ張られ、見るとそこには不機嫌でいっぱいに表情歪ませた虫のようなゴーグルをした先ほどの少女がいたのだった。
「な、な……な!?」
いつも通りの日常だったのに突然刀を振り回す怪しい女に襲われ、死を覚悟した直後、突然刀が吹き飛ばされ助かったと思えば今度は突然奇妙な衣装に身を纏った少女に現れた。
遂に訳のわからない状況の連続に理解が脳に追い付けなくなってしまい、目を見開いて酸素を求める魚のように口を世話しなく上下させるカガリに少女はふん。と不本意だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「何よアンタ。危ないところを助けてあげたのにお礼も無いわけ?アンタがしたみたいに蹴っ飛ばしてあげても別に良かったのよ?」
「す、素直じゃ…ないよな。こっち、も……た、助けてもらった、のに…」
「貸し借り無しって言ったでしょ。チャラよチャラ」
「お…お前ら…!い、一体……!」
「いや~…これは驚いた、でござる。よもやこの場に二人も願望者がいるとは……少々遊びが過ぎたでござるな」
心底辟易している少女に続き、同じように白の軍服と言う奇妙な衣装に身を包んだ友人の少女の実現に、カガリが恐る恐る声にしようとするが、長船により掻き消された。
陽気に話す声色の中に氷のような冷ややかな殺気が含まれており、カガリは思わず息を飲み座ったまま後ずさるが、質問を向けられた二人は怯まずに身構えた。
「なにが遊びが過ぎたよ、ござる願望者!隠す気なんかさらさら無かったくせによく言うわ。それに一般人巻き込んだりなんかして協会が黙っちゃいないわよ!」
「そそ、そーだそーだ!黙っちゃないぞぉー……きょ、協会って、なに…?」
「アンタはちょっと黙ってなさい!」
「はは。協会、と申すか。確かに正体を隠そうともせずにむやみやたらに常人を巻き込むのは《魔導協会》の掟に背く…が、心配は無用でござるよ」
淡々とした調子で話す長船。されど三人を見据えるその佇まいには一切の隙は無く、彼女との間に十二分な距離があろうと飄々と発せられる声に一つ一つに乗った言葉にはすぐ喉元まで刀が突き付けられているかのような謎の重圧があった。
「全て斬れば済む話でござるからなぁ」
嘘やハッタリではない。彼女が一足でも踏み込めば即座に斬られる。
そう、全身に伝わってくる殺気が本能に訴えかけてきた。
「っっ!!」
誰もが息を飲んだその時、遠くで人々たちが一斉に歓声を上げる声が響き渡ってきた。
「ふむ。ようやくおなりでござるか」
驚いている三人を前に長船が微笑むとどこからともなく辺りにいくつもの鈴の音が鳴り響く。
カカン。と木を叩く軽快な音響けば鈴が鳴り。鈴鳴れば太鼓がドドンと響き。笛の音鳴れば琵琶が鳴く。
水面に浮かぶ波紋のように広がり続ける歓喜の声。まるで喝采の波の中にいるかのような中で一際輝く豪華絢爛な山車が人波を割りながらやってくる。
「っ…」
山車の上で舞うその姿一目見て息を飲む。金色の孔雀柄の黒い打掛が優雅に妖しくはためくその様はまさに闇夜を踊る一羽の孔雀のようであった。
誰もが息飲み見惚れる美しき者。
「キャァァァ!!!白雪嬢ーー!!」
誰かがその者の名を叫ぶ。
蕪木一座が妖艶なる花形、白雪嬢の名を。
「うそ!?白雪嬢!?やば!!テレビの百倍はキレイなんだけど!!!?やば、まじヤバイ!!やば過ぎ!!」
「二次元なら良かった」
「聞こえとるえ。そこなおチビはん」
誰もかれもが白雪嬢の登場に歓声を上げる中にも関わらず、艶やかでそれでいて強く凛とした声が辺りに響いた。
騒ぐ相方を冷めたように見ていた軍服の少女がびくりと肩が上がり、騒いでいた奇妙な姿の少女も一人を除いて歓声を上げていたその場の誰もが口を閉じた。
「おーおー。くわばらくわばら……まだ虫の居所が悪いとみたでござる」
「当然や。いくら仕事ゆうたかてちんたらしてえぇもんやないよ、長船はん。ちょっと遊びすぎやないの?時間厳守。忘れたらあきまへんよぉ?」
「忘れるなとは…もの忘れが激しい拙者に酷なことを言いなさる」
突如訪れた静寂の中、くくく。と笑い声を漏らす長船に舞台で舞っていた白雪嬢が声をあげる。
美しい張りのある声。されど感情なく氷のような冷ややかな声を向けられた長船はわざとらしく身震いするふりをしからからと笑う。
「ふん、呑気なもんやねぇ…まぁ。話は邪魔なお客さんを退かしてからや」
ぱん。と白雪嬢が両手の平を合わせる。
すると、開いた手の平の間に薄緑の三角形の光が浮かび上がり、その光が瞬く間に観客と三人。長船全員の体を突き抜けて広がっていった。
「ッ…!?」
「う、うそでしょこれ…まさか結界!?」
「うぇぇぇ?!じじじじじゃあ、あの人も……!!?」
「願望者でござるよ」
からん。と舞台から跳躍し長船の前に一枚の木の葉の如く、白雪嬢が舞い降りぽっくり下駄を軽快に鳴らす。
艶やかな瞳を向け、色艶な唇をわずかに薄らと笑わせ白雪嬢は月夜に飛ぶ蝶の扇子を手に、驚愕している三人に上品な作法でお辞儀する。
「お初に…うちは蕪木一座が華の嬢……願望者白雪でありんす。あんじょうよろしゅう…ほな。死なはったらよろし」
そう言って顔を上げた白雪嬢の表情は恐ろしいほど綺麗な笑みを見せ、勢いよく袖を振り上げた。
するとその瞬間、振り上げられた袖の中から怪しく光る何かが一直線に放たれた。
「っ…!?」
袖から射出された何かがへたり込んだまま気を抜いていたカガリに向かってくる。カガリはとっさに腕を出し体を庇う……が、ぶつかる衝撃はおろか痛みすらやってこない。
「な…なん…っ!?お前!!!」
恐る恐る目を開けるとカガリの目の前には軍服の少女の姿があったのだった。
「ちょっ、ミッドナイト!?アンタがなんで庇って…!!大丈夫なの!?」
「へ、平気…でで、でも……デンジャー!」
驚くもう一人の少女が慌てて軍服の少女に近付き心配する。軍服の少女は大事ないと頷き起き上がろうとしたが突然、ぽてりと尻餅をついた。
「ちょっと!いきなりどうしたのよアンタ!?」
「そそそ、それ、が……あ、足……足が動かないんだ!!」
「はぁ…!?」
「どどどど、どうしよう…!!?」
「うちの攻撃の前出はりはるからよ?でもまあ、小さい見た目にもよらず勇気があるんやねぇ。そう言う健気なん、うち嫌いやないよ?」
口元に手を当て淑やかに笑う白雪嬢の袖からじゃらじゃらと、淡く光る緑黄色の鎖が音を立てて落ちた。
足を懸命に動かそうとしているミッドナイトと呼ばれた軍服の少女の傍らでデンジャーと呼ばれた少女が白雪嬢に表情を鋭くさせた。
「週刊誌に願望者だ、なんて書いてなかったじゃない…!」
「ほほほ。言うても意味ないけど言うわけないやないの……そないな怖い顔しはらんでも止めただけで死にはしぃひんよ。女の子は可愛い可愛いしたらなアカンからねぇ…うち、女の子好きやもの…愛らしい子は大事にせななぁ?」
「……じゃあ、女の人が好きってのは週刊誌通りってわけ…!」
「アンタはん。うちのふぁんなんやねぇ、嬉しいわ~。そやよぉ、うち女の人が好きやの……でも、男みたいな女は嫌いや」
表情一変。つい今さっきまで淑やかな顔をしていた白雪嬢の表情が突如、憎悪するかのような激しい剣幕へと豹変した。
そして殺意を抑えることなく視線に乗せ、未だ腰を抜かしているカガリに睨みぶつけた。
「がさつで横柄で下品。傲慢陰険乱暴甲斐性なし。品性の欠片がこれっぽっちも無い男なんて絞め殺したくなるくらい大嫌いや、虫酸が走る…あぁ穢わらしい穢わらしい穢わらしい…!!!」
「白雪嬢」
「なんや!!?あ……ん”んっ…なんやの?長船はん」
「逃げてしまったでござるよ」
「あらま…」
長船の一言に怨嗟に駆られていた白雪嬢はころりと感情を引っ込め目をぱちくりさせた。
_________
「こっわ!な、なに…あの人……情緒不安過ぎ……じゃない、か?!」
「前に男が大の嫌いで男性と一緒の番組はNGしたいって聞いたけどマジネタだったわね…!あんな綺麗な顔の下にどんな闇抱えてるってのかしら!」
「び、美人こえぇぇぇ…!!」
「お、おい!!離せ、離せよ!離せってんだろ!!」
「ちょっ!やめなさい!!大人しくしなさいよ!!」
二人を小脇に抱えながら商店街を飛んでいくデンジャーに顔色を青くさせ逃げるように暴れるカガリ。
バランスを崩しそうになりデンジャーはやむなく地面に降りるとカガリは無理やりデンジャーの手から抜け出し距離を取った。
「ッッ…ハァ、ハァ…!お前ら本当に、なんなんだよ!!?」
「はあ?」
「なに、って……あたしの名前、は…ミッドナイトスター!で…こ、こっち…は、デンジャラスアント…」
「呼ぶときはデンジャーでよろしく。アタシたちは魔法少女よ、そう言えばだけどアンタなんで願望者に襲われてたのよ?」
「知るかよ…!!っうか、願望者とか魔法少女とかわけわかんねぇこと言いやがって!!オレをバカにしてんのか!?」
「ひっ!」
地面を強く踏むつけがなり立てるカガリにミッドナイトは悲鳴を上げデンジャーの後ろに引っ込んだ。
「知らねぇうちにこんな所にいると思ったら刀で斬られるしよ!!オレが何したっうんだよ!?なんでオレが顔も知らねぇお前らに庇われなきゃいけねぇんだよ!?!」
「アンタなに言って…アンタが襲われてたからアタシたちは……」
「だから…!!!なんでオレがあんな奴らに襲われんだってんだよ!!」
「な、なんで、って……お、お前どうし、たんだ……?!」
「どうしたもこうしたもあんたはんらが騒いでも思い出しはしいひんのやから無理言ったらあかへんよ」
ひどく取り乱すカガリと困惑する二人の背後から声が聞こえ、三人が振り返るとそこには白雪嬢と長船の二人の姿があった。
「ッ!もう追い付いて…いえ、それよりもまさかアンタたちコイツに何かしたの!?」
「答える義理はなくてやで?願望者同士の争いや。手の内明かすは阿呆のやることやさかいなぁ…」
「左様。しからば淡々と事を成すだけでござる」
「ち、超…真面目な仕事人……って、事だな…!」
「バカ言ってないで構える!アンタは下がってなさい!!」
「あ…ぁ……!」
刀と鎖を手に迫りくる二人組願望者。
足が動かないが銃を構えるミッドナイト。デンジャーは青ざめるカガリの前に出て構える。
(な、なんなんだよ…マジでなんなんだよこいつら!!?)
目の前の二人組から向けられた紛れもない殺気。身体の真から震えが止まらなくなり、ガチガチと歯が情けない音を鳴らす。
(こ、怖い…怖い。怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!)
押し押せる恐怖の衝動が、無意識に身体を突き動かす。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「え?!!」
「はぁ!?ちょっ、ちょっとアンタどこ行くのよ!!?」
「あらま、また逃げはった」
引き止めるデンジャーの声も聞かず、ただ衝動に駆られるまま逃げ出した。
(怖い、嫌だ、!死にたくねぇぇ!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!!!)
躓き転ぼうが物にぶつかろうが無理やりに押し退け、がむしゃらになりながら商店街の奥へ奥へと逃げていく。
捕まらないように、殺されたくないと言う一心で彼女はわき目もふらずに走っていくのだった。
今年中に投稿出来て良かったです…
来年はブクマ30を目指してがんばります!
そして来年もよろしくお願いいたします!




