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ディストピアーズ!  作者: モッキー
52/57

第52章.三つ目の条件

《チーム結成から二日後の今に戻る》




「ブラックローズ!」


「ん?」



 二日前の出来事を思い返していたカガリはさっきまで令奈と騒々しくしていた杏に呼ばれ、ふと我に返った。

 そして、呼ばれた方を振り向くと暗い道路の向こうから一台の車がこちらへやって来ているのが見えた。



『ふむ、乗っているのは人間が三人……だが魔力は感じん。ただの一般人のようであるな』


「さ、さっき怪魔に襲われてた人かな?」


「ハァ?何よアンタたち怪魔と戦ってるところ見られてたの?あんまり目撃者増やすと動きづらくなるから気を付けろって言われてたじゃない」


「うるせ。あんまりってことは少しは良いってことだろうが……欠片の回収済んでんならさっさと、ロボなんたらバイク片付けろミッドナイト。ずらかんぞ」


「トトモラM(メタモルフォーゼ)G(グレート)M(メタリック)バイクだ!!ロボは付いてない!!!!M・G・エーーームッ!」


「うるせぇし長ぇ上にダセーんだよ。もっとマシな名前つけろ」


「それとアタシが乗れるようにもしなさい。横に座席付いてるタイプがいいわ」


「あれスピード出ねぇぞ……っか、オメェは飛べるだろうが………良いから()()()()


「なによ。アタシだってバイクに乗せてくれたって良いじゃないのよ、ケチ」



 ガシガシと乱暴に髪を掻きながらカガリは億劫そうに令奈に言うと、令奈は二人から少し離れた場所へと移動していく。

 カガリとトトモラをバイクから戻させ不満げに膨れっ面になっている杏はぶつくさと不満を漏らしている令奈を見つめた。



「しかしまあ……まさかこれがこんな便利アイテムだったとはね……想像もしてなかったわ…」



 令奈はポケットから取り出した小さな()()()()を見つめながらしみじみ一人呟くとそれを三人の目の前へ軽く放り投げた。

 瞬間、ポケットから取り出されたモノはその場で一回転するとたちまち人一人は通れる程の扉へと姿が変わったのだった。



「うーん……こ、このどの角度から見ても拭えされないどこでもdoa感……」


「ネイティブに発音すんな。アタシも思ったけど」


「訳わかんねぇこと言ってねぇで行くぞ」




 人生一度は見たことあるような既視感を覚えさせる扉を前に、カガリは早々と扉に手をかけた……それとほぼ同時であった。




「動くな!!手を上げろ!」


「抵抗すれば即刻逮捕する!」



 向かってきていた車が到着するや否や、中から強面の男と女が拳銃を片手に三人に警告するように叫び声を上げた。




「んだよ。あいつ等警察(サツ)だったのかよ…あんな目に合ったってのに追ってくるとか根性据わってんな…」


『人間にしては大した精神であるな』


「いいい、言ってる場合か!!とど……じゃなかったブラックローズ!警察だぞ!ポリスメンだぞ?!逮捕されちゃうぞ!!」


「アンタねぇ…ちょっと慌てすぎよ、こよん”ん”っ…ミッドナイト。で?どうするのよ。ブラックローズ?」


「……どうもこうもねぇよ、ずらかる一択だろ」



 警察と言う単語に慌てる杏をあきれ気味に見つめる令奈はカガリに訊ねるが、カガリは心底億劫そうにため息を吐いた。



「銃向けられて動じない……やるなあの真ん中の子。どうします?川内刑事。あのフードの子、あんなバケモノと戦っていたんですよ?小鳥遊センパイもまだ気絶してますし、我々だけで捕まえられるとは思えませんよ…と言うかなんであんな場所にドアが……?」


「知らん、簡単に諦めるな。例の二つの事件の件もあるんだ。何としてでも身柄を確保し署まで連れてくぞ。絶対に逃がさん…!」


「そうすんなりいくと良いんですが…と言うわけで君たち三人!話が聞きたいので署まで連行す……あっ!?」




 抵抗すれば撃つとばかりに拳銃を向け、カガリたちににじり寄ろうとしたその瞬間、二人が構えていた拳銃が突然横からかっさらわれるようにしてカガリが伸ばし薙いだイバラに奪われた。



「はぁ?!うそ、盗ら……いや、今腕から…!!?」


「っ、なんなんだコイツらは……!?」


「おおっ!!こ、これはまさに……なんなんだコイツらはって聞かれたところを答えて上げるが世の情けチャンスってヤツ、じゃないか?!ようやくあ、悪党っぽいセリフ言うビッグチャンスだ、ぞ!!」


「ハードでスイートチャーミーなクライシスってやつ?嫌よ四字熟語並べて名乗るのは」


「おい混ぜるな、よ…!!」


「ごちゃごちゃバカやってねぇでさっさとずらかるぞ。オメェら」


『である』


「ま、待て……!!」



 ドアを開け、カガリは奪った拳銃を投げ渡すと受け取った令奈は銃口を握り潰す。

 拳銃を破壊されたことに驚愕する二人を他所に日常のように会話する奇妙な姿の三人組がドアの向こうに消えようとし、川内刑事は慌てて叫び三人の足を止めた。



「お、お前たちは……何者なんだ…?」


「あ~~ん?何者だと?」



 恐る恐る絞るように発せられた川内刑事の言葉に、カガリは間延びした声を出しながら半身だけで振り返らせ、迷惑そうな表情で川内刑事を睨み付けた。



「……オレは悪党だ。テメェら警察が大大大大大だいっっ嫌いで仕方ねぇ、ただの悪者……正確に言えばブラックローズって名前の魔法少女だがな」



 数秒間の沈黙の後、カガリは表情鋭く口角を吊り上げた。

 緊迫した空気の変化に、数々の現場を立ち会ってきた川内刑事も得体の知れない不敵に笑うカガリの言葉に息を飲んだ。



「ま、魔法少女だと…!?ふざけるな!!そんなテレビの中のような話があるか!!何が目的だ!二つの事件を起こして何をするつもりだ!!」


「目的?事件だァ?ふざけてるわけでもねぇし、そんなの知るかよ。オレは好き勝手にしてただけだ。それなのにちょっかいかけて来やがった奴らが居やがったからぶっ飛ばしてやっただけ……そんだけだ」


「そんな子供じみた理屈が……」


「そんなガキの理屈は通させねぇてか?くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ。オッサン」


「ッ…!!」



 脅し見せつけるように指の骨を鳴らすカガリ。牙を向け今にも襲い掛かってきそうな獣のような敵意に、川内刑事は思わず半身を退いた。それを見たカガリはフン、と鼻を鳴らす。



「オッサン、今そんなテレビの中みてぇな話があるかって言ったよな。オレだって最初はワケわかんねぇって思ったぜ?だがよ、これは紛れもなく現実だ。テメェらを襲ったバケモノも、オレら魔法少女も、テメェらが知らなかっただけだ。それを理屈だ?現実を見向きもしねぇでふざけてんのはテメェの方だろ」


「そ、そうだそうだ!あ、あたしたち……も最近、まで知らなかった……けど願望者は存在……したん、だ!いて」


「オメェは大人しく中で待ってろ。ミッドナイト!おい、デンジャー!」


「はいはい、そんな怒鳴らなくても聞こえてるわよ」



 横から口を挟んできた杏の頭をはたき、カガリは令奈にがなると、令奈はドアの向こうへ杏を連れていく。

 その様子を顔だけで見届けた後、カガリは小さくため息を吐くとガシガシと髪を掻き乱しながら未だ警戒している二人に振り返った。



「で?テメェらはオレらをどうしたいんだ?逮捕するつもりか?」


「……そうだと言って、お前は大人しく我々に着いて…ッ!?」


「は!んなわけねぇだろうがダーボ!!」



 川内刑事が言うや否や、カガリは二人に向かって飛びかかる。

 カガリの唐突な行動に二人はとっさに身をかわす。瞬間、カガリはニヤリと笑い、右手の指先を真っ直ぐにし振りかざすと()()()()()()()()()()()()



「な!?」


「くっ!狙いはそっちか!」


「ニヒヒ!必殺(ひっさぁぁぁつ)ッッ!!!」




 剣のように見立てた右手にイバラが一直線に伸び、カガリは叫ぶと同時に勢いよく車に向かって直剣と化した右手を力任せに振り下ろした。



「“カガリ式(オレりゅう)ゴリ押しチョーーーップ”!!!!」



 豪快で乱暴な力業。振り下ろされたイバラの手刀は車を真っ正直から真っ直ぐに轟音と共に一刀両断した。

 真っ二つに割れた車は左右別々にゴトリと傾き倒れると後部座席で気絶していた小鳥遊が頭をぶつけた。



「あ、あぁぁ!!!しょ……署の車なのにぃぃ!!」


「ッ……!!貴様、あっ!?」


「夜道には気を付けて帰れよマヌケ警官共!!」



 二つに分かれた車に二人が気を取られた隙にカガリはゲラゲラと笑い声を上げながら颯爽とドアの中に入っていく。「待て!!」と川内刑事と谷田は慌ててドアに手を伸ばすが、ドアは瞬く間に光になって消え、二人の手は空しく空を掴むのだった。



「くそ…!!あの小悪娘……!!」


「かんっっっっぜんに私たちのことおちょくってましたよあいつ!!!と言うか普通警察の車壊します!?いや、普通は壊すなんて出来るわけないんですけど……じゃなくて!!うぅ、ぁぁあ!!ムカつくぅぅ!!何なんですかあの娘!!?絶対逮捕してやる!!このままじゃあ、警察のメンツが丸潰れですよ!ねぇ、川内刑事!!?」


「…………」





 カガリの傍若無人っぷりに憤る谷田の横で最初こそ谷田と同じく憤っていた川内刑事だったが、何かを考え込んでいるのか。元々険しい顔だった顔を更に険しくさせ、消えたカガリたちが入っていたドアの合った空間を睨み付けながら黙り込んでいた。



「…?川内刑事、どうされたんですか?」


「…………いや、何でもない。谷田、至急署にここまで来てもらうよう連絡してくれ」



 不思議そうに訝しむ谷田に川内刑事は頭を振り、未だに気絶したままの小鳥遊の元に行きながら言った。

 「了解です」と谷田の声を聞きながら川内刑事は小鳥遊の肩を抱き上げ、まだまだ寒い夜空を睨むように見上げた。



「……願望者…」



 あの軍服姿の少女、ミッドナイトとか言う少女が確かにそう口にした言葉。

 今日だけで目を疑うような出来事がいくつもあった。到底信じられないことも聞かされたが、たったの一言……その言葉だけで、彼女たちは本当に人とは違う存在なのだと川内刑事は悟った。



「……絶対に、この手で捕まえてやる」



 一人呟いた言葉は夜風にさらわれ消え、川内刑事は小鳥遊を連れて署に連絡している谷田の元へ向かっていくのであった。






>>>>




《轟カガリの秘密基地(アジト)





「ぎゃはは!見たかよディア、あいつらのあの顔!まんまと出し抜いてやったぜ!!」


「何がそんなに可笑しいものか。わざわざあんな子供の戯れのようなことせずとも逃げられたものを……ヘタに刺激して躍起になられたらどうする気である」


「人がいい気分で笑ってんのに水さすんじゃねぇよ。頭のかてぇやつだなテメェはよ!後、逃げてねぇよ!帰ってきたって言えっうの!」


「事実である」




 魔法扉を通じて上機嫌で自分たちのアジトへと戻ってきたカガリは帰って早々嫌みを言うディアに言い返すも、もうカガリの扱いに慣れたディアはひらりと受け流しカガリから離れた。



「我輩を言い負かしたくば知能をつけるのだな、レディーよ」


「ケッ!口の減らねぇ頑固コウモリめ…たまには主のオレ様を敬いやがれっての!オイ、アリンコ女!茶……!!」


「彼女たちには帰ってもらったよ」




 ディアが離れたことで変身が解除されたカガリはディアを恨めしげに一睨みした後、先に戻ってきている令奈にお茶の催促するために振り返ったその時……カガリの目に映った人物に目を見開いた。




「くそジジ、ぐえ!!?」


「主人さまと呼ばぬか貴様!!いい加減覚えるである!」



 そこにいたのは、この場に似つかわしくないペストマスクとハットを被ったカップを片手に優雅に紅茶を楽しむ老紳士だった。

 思わぬ人物の登場に反射的に悪態を吐いてしまったカガリに怒りのツッコミを入れたディアは颯爽と老紳士の元へと飛んでいった。



「レディーのご無礼をお許しください我が主よ。非礼のお詫びにとは言いませぬが昨晩良い茶菓子を入手しておりましたゆえご用意させて頂きたく存じます……」


「ふむ、では頂こうかな。ついでにとは何だが紅茶のおかわりも頼めるかな?」


「ディアてめ……っ!やいやいやいテメェこら!ここはオレ様の基地(アジト)だぞ!なにオレの断りもなく茶を飲んでいやが……!」


「このデ・アールにお任せあれ、我が主人よ!」



 カガリの言葉を遮り、風のような速さでディアは奥に取り付けられた台所スペースへと飛んでいってしまった。

 そんなころころと態度を豹変させるディアにカガリは思わず呆れていると老紳士の小さな笑い声が耳に入り、カガリはジロリと凄むように老紳士へと向き合った。



「おいこらジジイ。なに勝手にアイツら帰らせてくれやがった。おかげで帰りの足が無くなっちまったじゃあねぇか。どうしてくれんだ。ああ?っか、飲むならそれ取ってから飲めよくそジジイ」


「はは、それはすまないことをしてしまったね。なに、帰りくらいは私がなんとかしてあげるとも」



 まるで謝るような素振りもせず、マスクをしたままだというのに紅茶の香ばしい香りを楽しむ仕草を見せ、老紳士は紅茶を口にした。

 そんな老紳士の態度にカガリは忌々しげに一蹴し、不満さを惜しげもなく勢いよくソファーに腰かけた。



「で?部屋に籠りっぱなしのジジイがわざわざここに何のようだ。まさか茶を飲みに来ただけとか言うんじゃねぇだろうな?」


「ふふ……それも良かっただろうが生憎、用ならちゃんとあるのだよ」



 口にした紅茶の余韻に浸りながら老紳士は穏やかだが見据えるかのような目で訝しむカガリを見つめてきた。



「さて、急な訪問で悪かったね。《執拗の怪魔》はどうだったかね?どこまでも付いてくる執着心と巨躯に似合わぬ速さで中々手を焼いたのではないかな?」


「ケッ、そんなくだらねぇーこと聞くためにわざわざきたのかよ?あんなはえーだけのエビ怪魔なんざオレさまの敵じゃねぇーっうの!余裕だよ、よゆー!!雑魚過ぎて話になんねぇーっうの!」


「そのわりには防戦一方に見えたがね」


「ぐっ……やっぱ視てやがったんじゃねぇかよテメェ…!」


「君に力を与えたのは私だからね。君の願望(ちから)がいつ、どう使われるのか。与えた者として見届ける義務があるのだよ」


「余計なお世話だ変態ジジイ!オレの力をどう使おうがオレの勝手だろうが!何が見届ける義務だ!テメェがオレを視てんのは単なる暇潰しだろうがよ!!」


「ふふ。確かにそうだ。御茶を飲んでいる間の余興くらいにはピッタリの戦いぶりだ」


「んのやろ…!少しは嫌み以外言えねぇのかってぇの…!」



 歯に衣着せぬ老紳士の物言いに再び睨み付けるカガリだったが、いくら怒鳴ろうと老紳士に効果はなく、盛大に舌打ちをした後そっぽを向いた。

 そっぽを向いたカガリに老紳士は小さく微笑むように笑った直後、奥のスペースからディアが紅茶とそれに合う茶菓子を持ってきた。



「ありがとうデ・アール。ふむ、やはり君の淹れた紅茶は実に良い匂いだ……私ではこうはいかない」


「そう言っていただき誠に至福でございます。我が主人よ」


「なぁ~にが我が主人よ、だ。尻軽コウモリ………」


「ふふふ……さて、そろそろ本題へと入ろうか」


「あ?」



 手を胸に当て頭を下げるディアを見て、カガリはほほ杖を付きながら辟易していると、唐突に老紳士が改めるように姿勢を正し、訝しむカガリへと向き合った。



「なんだよ。まだなんか言い足りねぇことでも…」


「三つ目の約束はまだ果たせそうに無いかね」


「……やらねぇって言った筈だぞ」


 今度は何を言い出すのかとうんざりした様子のカガリだったが、老紳士の一言で気配を一変させた。

 殺意すら感じさせる表情を向けるカガリを、老紳士はしばらく見つめた後、老紳士はため息と共に重たい声色で再び言葉を紡ぎだす。



「不殺を望む意志は揺るがぬか…」


「当たり前だクソヤロー。テメェが出した怪魔の討伐した魂の回収するくそ面倒な条件なら飲んでやるが、()()()()()()()()っう人殺しの条件だけは乗る気はみじんもねぇよ。気に入らねぇヤツはブッ飛ばすが殺人はしねぇ。それがオレの不良としてのポリシーだ」



 呆れとも取れる老紳士の言葉にカガリは強い意思で言う。だが、それに対し老紳士は三度(みたび)、深いため息を吐くのであった。



「……それが悪として君の意志なら仕方ない。だが……覚悟しておきたまえ」


「あ?」


「そう遠くない未来。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね」


「な……おいこら!一体どういう………ッ!?」


「主人さま…!?」


 冷たい声色で予言のように語った老紳士に勢いよく掴みかかろうとしたカガリであったが、振りかぶった手は老紳士の身体に触れることなく、空を撫でるだけですり抜けてしまった。

 空振りしてバランスを崩しかけたカガリは慌てて体勢を立て直すも老紳士の姿は無く、霞のように二人の前から消え去ってしまっていたのだった。

 


「チッ!!あの野郎…!またワケのわかんねぇことだけ言い残して消えやがって……!まともに話す気ねぇだろ!?」


「す、少しはお主の頭で考えてみよと言う主人さまながらの助言だ…である」


「無理してジジイの顔立てるんじゃねぇよ、っか!帰りくらいなんとかしてくれんじゃねぇのかよ?!」


「む、むぅ…今回は変身して帰る他あるまい」


「だぁぁぁ!!めんどくせぇーー!こうなるんだったら話なんざ無視してさっさと帰りゃぁ良かったちくしょー!帰んぞディア!!」


「承知したである。レディー」



 髪を乱暴に掻きむしり嘆くカガリは苛立ちそのままにディアと共に外へ出て、家に帰る為にブラックローズへと変身する。



「次出てきたら今度こそぶん殴ってやる!」


『やめんか!主人さまへの無礼は許さんぞ!?』


「左様。目上には礼を払うものでござる」


「あ?」



 ぼやき跳び立とうとしたカガリを涼やかな声色が嗜めた。

 不意に聞こえてきた声にカガリは無意識に振り向くと袖の長い白い和装束を着た人物が佇んでいたのだった。



「誰だテメェ?」


「侠客でござる」



 何の気もなく、さも当然のように口にしたカガリに暗闇で佇むその人物はあっけらかんと応えた。

 その表情は影で見えないが口元は今まで見た誰よりも優しげに笑っており、変身したところを見られたことも忘れるほど…

 いつの間にか自然な佇まいでその人物はカガリの目の前まで近づいてきていたのだった。



「では、御免なすって」


「は……?」


『む?』


 清涼の風吹くような言葉の後にちりん、と鳴る鈴の音と共に薄糸に似た閃光が三度、六度と走った。

 何が起きたのか。小首を傾げさせるカガリだったがふむ、と目の前の人物が満足げに頷いてみせたのだった。



「おいテメェ、いま いっ、たイ何を………あ、?」


『レデ ィー…?』


「ディア、なに オキ  んだこれ……?」


 目の前の人物に手を伸ばそうとした瞬間、突然カガリの視界がずるりと上下に分かれた。

 異変に気付いたカガリがイヤリング姿のディアに訊ねるが、次の瞬間に、カガリの身体とディアの身体が乱雑に分断されぐらりと地面に倒れた。



「出会い頭に失礼つかまつる…これも依頼にて、斬り捨て御免でござる」



 足元に広がる血溜まりの中、しゃがみ覗くその人物は無造作に横たわるカガリを見つめながら静かにそう微笑むのだった。




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