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ディストピアーズ!  作者: モッキー
39/57

第39章.不繋の怪魔



 店を飛び出した杏は慣れない走りに息を切らしながら、ウェイトレスが目撃したと言う少女を探して、街路樹が並ぶ通りを駆けていく。

 


「ハァハァ…!ど、どこ…に…!?」



 痛む横腹に表情を歪めるも、杏は立ち止まることはせずに懸命に足を動かしながら辺りを見渡す。

 運良く平日の柳森町の通りを歩く人通りは少なく、該当する小さな少女の姿を探すのに苦労は無く、杏は道行く人々を見落としの無いように走り抜けていく。



「あっ……!!」



 人々の間の中、数メートル離れた前方に少女の影が見え、店員が見たそれらしき少女が道を曲がっていくのを発見した。

 


「ハァ…ハァ……こ、ここ…なの、か?」



 見失わぬよう、急いで少女が曲がった道にやって来た杏は乱れた息を整えながら上を見上げる。

 そこには大きな文字で『ようこそ!第二柳森町商店街へ!!』と、書かれた看板が仄かに光るアーチに目立つように吊るされていた。



 だが、昼過ぎを越えたばかりの筈にも関わらず、商店街の中は薄暗く、妙な不気味さを漂わせ人の気配すらさせない静寂に包まれていた…



「うっ……よ…よし…」



 商店街の不気味さに一瞬、怖じけずいてしまった杏であったが、すぐに頭を振り両手を強く握り締めて気合いを入れる。



 勇気を持って、杏が商店街に足を踏み入る。その時であった。




「ま、待ちなさいよーー!!」


「ぬあっ!?な、なんだぁ!?」



 背後から突然、叫び声が聞こえて、驚いた杏は慌てて声が聞こえてきた方へ振り返ると、そこには髪を振り乱し必死に腕を振りながら走る令奈であった。



「あ、アリ子…!?なんで…ここ、に?!」


「ハァハァ…!あ、アンタねぇ!?あ、アンタが勝手に出ていったから追いかけてきたんでしょうが…!!ぜぇぜぇ……いきなり飛び出して…ゲホゲホ!!ど…どこ行く気よ!?後、アリ子って言うな!」


「うっ、ご…ごめんよ…」



 よほど疲れたのだろう。ヘトヘトのあまり令奈は膝に手を付き、息苦しそうに咳き込みながら杏を叱りつける。

 その真剣さに杏は素直に謝り、表情を落ち込ませた。



「ったく…で?なんで急に店を飛び出したりしたのよ?アタシ、またお昼ご飯食べ損ねたんですけど……」


「な、なんでと言われても……その、よく分からないんだ。妙なざわめきを感じた…と言うか…こう、ビリッと!みたいな…感じで…」


「妙なざわめき…?ビリッと…みたいな感じぃ?なによそれ。冗談でしょ?そんなワケわかんない理由でアタシはここまで走らされたわけ?」


「ご、ごめんよ……そ、そいつが…もしかしたら犯人、なのかもって……思ったから…えっと……ごめんなさい…分からない、よな……本当に、ごめん……」


 令奈に説明するも、うまく言葉に出来ない杏は弱々しく肩を丸め、不安げに両手の指同士をいじいじと弄び、顔を俯かせた。

 



「…はぁ~~~、もう!ウジウジとめんどくさいわね!!分かったわよ!アタシも探せば良いんでしょ探せば!!」


「いお、ぅ…あ、アリ子…?!」


「先に言っときますけど!!」



 杏の落ち込みように令奈は焦れったい思いにかられ、背中を丸める杏の背を叩き無理やりに立たせ、目の前の不気味静かな商店街へ憤りながら堂々と奥へと入っていく。

 衝撃に驚いた杏が声を掛けようとするも、令奈は突然、杏に振り返り言葉を遮ると釘を刺すかのように言うのであった。



「アタシはあくまでも探すだけだからね!?本当は轟カガリの奴がどうなろうとどうだって良いんだから!それと他人の命よりアタシは自分を優先するからね!超絶ヤバい願望者とか現れたらアタシは逃げるからね?!そこんとこ肝に命じときなさいよ!?」


「ぅ、あわわ…?!う、うん…わ、分かった…お、覚えとく…え、えっと、その……ありがとう…アリ子…」


「アリ子って呼ぶな!フンだ!!」



 鼻を鳴らしそっぽを向き先行く令奈の後を杏はパタパタと着いていき、二人は薄暗い商店街を真っ直ぐ、奥へ奥へと進んでいくのだった。




>>>




【第二柳森町商店街】




 商店街を進む二人であったが、まだ正午だと言うのに商店街の中は並ぶ店全てシャッターを降ろされており、進む二人の足音だけが響く程、辺りは静けさに包まれていた。



「……し、商店街、ってこんなにさ、寂れてる…ものなのか…?」


「そ、そんな事知らないわよ!アタシに聞かないでよ…全く!」



 辺りを見渡し歩いていた杏が誰に言うわけでも無く、疑問を呟くと…前を歩いていた令奈が不機嫌そうにバッサリと切り捨ててきた。

 その時、杏はあることに気がついた。


「……も、もしかして、ビビってる…のか…?」


「は、はぁぁぁ!?」



 不安を紛らわせるように腕を抱き歩く令奈の後ろ姿に、杏が静かに指摘すると令奈は顔を真っ赤にさせ、後ろを振り返り声を荒立てた。



「だ、誰が!!?バカ言わないでよ!べ、別に…アタシがこんな薄暗いだけの場所でビビビ、ビビるなんてわけないでしょ!?」


(うわー…こんなゲームでしかないような典型的なビビりの誤魔化し方って現実(ほんとう)にあるんだぁ…)



 表情険しく、強気に叫ぶ令奈だがその足はガクガクと震え、声色も見事に震えており…眉毛を下げ杏は心の中で悲しげに呟くのであった。



「な、なによその腹立つ顔は!!?アンタだって轟カガリがいないと本当は怖くて仕方ないん……じゃ、ない、……の…」


「…?あ、アリ子。どした…?」



 杏の微妙な表情に耳まで真っ赤にして怒ろうとした令奈が突然、勢いが無くなっていくように黙ってしまい。

 令奈の変化に杏は小首を傾げさせ言うが、令奈はまばたき一つせず、凍ったかのように後ろを見つめたまま一向に動かなかった。



「う、後ろに何か……あるのか…?」



 固まる令奈の視線の先を辿るように、杏は後ろを振り返ると……



_____そこには……黒い影のような人影が虚ろな姿で佇んでいた。




「……?な、なんだ…あれ?」



 杏がそう口にした瞬間、佇んでいただけの黒い人影がこちらに気づいたのか。突然、二人の方へ顔をゆっくりと動かすと体を引きずるような動きで二人に向かって歩き始めた。



「……も、もしかして、あれ…か??」


「あれでもどれでももしかしなくても怪魔よ!!!!」



 怪魔と判断すると同時に令奈が悲鳴を上げた瞬間、体を引きずるように歩いてきていた怪魔の動きが突然変化し、ものすごい速さで二人に急接近をしだした。



「うぉ!?気持ち悪っ!?あ、アリ子、逃げ……」


「イヤァァァァ!!!!!!こっち来んなーーーーーっ!!!」


「はやっ!!?」



 あまりの急激な動きの変化に驚いた杏が令奈に逃げるよう、指示しようと令奈に振り返ったが……すでに令奈は脱兎の如く猛スピードで逃げ出していた。



 宣言した通り真っ先に逃げ出した令奈に置いてけぼりを食らった杏は呆然とその場で立ち尽くしながら、向かってくる怪魔へ顔を向けた。



「……変な怪魔だな」



 頭一つ胴一つ。人型をした怪魔。だがその姿は異様だった。

 手の先で二又に別れており、ものすごい速さで接近してくるがその足は一本だけと言う摩訶不思議な形状をしていた。

 そして、観察する杏と怪魔との距離が目と鼻の先近くまで迫るや、怪魔は顔の無い顔の真ん中に人の歯を浮き出させ不愉快な奇声を上げながら容赦なく飛びかかってきた。



「……ふっ…せ、節操の無い……奴、だぜ…」


 よだれを垂らし迫る怪魔の大口を前にして、冷静さを持った杏は両手を銃のようにして怪魔の前に出し……



___そして、杏は不器用過ぎる不敵な笑みを浮かべながら唱える。




「…変身!!」



 怪魔の大口が杏を飲み込むその瞬間、杏の身体が光に包まれた。



 同時に、銃のように構えていた両手の中に二丁拳銃が出現すると、杏は素早く引き金が引き、怪魔の口に轟音と共に魔法で出来た弾丸。魔弾を撃ち込んだ。

 


「ギギギギギギギィィィィ!!!!」



 撃ち出された魔弾に頭を破壊され、後ろに吹き飛んだ怪魔は地面に倒れる、が。

 頭が無いにも関わらずどこからともなく、甲高い奇声を発する怪魔はじたばたと体を蠢かせた後、体を起き上がらせる。



 そして、魔法少女に変身した杏、白銀の軍服に身を包む『ミッドナイトスター』に再び襲いかかってきたのだった。



「っ?!し、しぶとい奴…だな!!」



 頭を失ったせいか。闇雲に突っ込んできた怪魔の突進をかわすと杏はすかさず、二丁拳銃を構え、魔力を込める。



「“GAMEOVER(ゲームオーバー)”!!」



 二つの銃口から大量の魔弾が轟音と火花と共に怪魔へと放たれる。

 薬莢飛び散る魔弾の連弾に耐えきれず、怪魔の体はあっさりと崩れていき、最後に残った一部が商店街にある電柱に激突すると瞬く間に消滅していったのだった。



「む、むふふ。スコア……の足しにもならないザコキャラだった……ぜ…」


『ヒャイーハー!!』


「わ、また勝手に出てきた……何で勝手に動く…んだ?お前たち……」



 肩慣らしにもならないと杏が自慢げに鼻を鳴らしているとまたも勝手に動き出し、足元から拍手を送るモラン&トットに杏は小さく嘆息した。その時だった。



「のぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「ふひょっ!?な、なんだ!?」


「たたたたた、たーすーーけーーてーーーー!!!!」




 商店街の奥から突然、尋常ならざる悲鳴が響き渡ってくると逃げ出していた筈の令奈が全速力で杏の元へと戻ってきた。

 ただし、逃げる彼女の後ろからは先ほどとは別種のタイプである、数十は居よう怪魔の群れがやって来ていた。



「な、な…な……!!!!?」



 商店街の高い天井をぎっしりと埋め尽くさん勢いで、互いを押し退けながらも二人に向かって蠢き、圧倒的な数の怪魔に杏は表情を引くつかせる。



「なんっ!!なんで怪魔がこんなに…!!こんなにいるのよーーー!!!?何とかしなさいよアンターーーー!!!!」


「……無理!」


「ちょっ!!?アタシを置いて逃げるなーー!!!!」



 モラン&トットを肩に乗せ、杏が商店街の出口へ向かって全速力で駆け出す。

 逃げた杏に令奈は特大のブーメラン発言を叫びながら懸命に足を動かして迫る怪魔の群れから逃げるのであった。



「ひぃひぃひぃひぃ!!待って!!待って待って待って待ってったら!!!!」


「は、早く…!こっち、だ!!」


「はひぃぃぃ!!」



 広い通路を外れ、狭く細い路地に逃げ込む二人。



 二人の後を追い、怪魔たちも一斉に路地へと入り込んでくるが、その多すぎる数が災いし、互いの体が邪魔し合い、怪魔たちが次々に入り口で詰まって動けなくなっていく。

 進むこともも退くことも出来なくなった怪魔たちを見つめ、杏は肩で息をしながらホッと胸を撫で下ろした。



「な、なんとか……助かった…」


「ハァハァハァハァ…!!ゲホゲホゲホッ!!し、死ぬかと……思った…!一体、どうなってんのよこの商店街!?これじゃ怪魔の巣じゃないのよ!!って言うかキモい!!ただひたすらに気持ち悪い!!なんでこんなグロテスクな見た目しかいないわけなのよこのバケモノ軍団は!!?」


「お、落ち着け…よ!アリ子……!!」


「アリ子言うな!!!」



 言葉が通じる筈もない怪魔たちを指差し、怒鳴り散らす令奈を宥める杏であったが…令奈の怒りは高まるばかりで一向に収まらない。


「あーもー!もうイヤ!!轟カガリと関わるとほんっっと、ロクなことにならない!!!アタシ、帰る!」


「え、え…えぇ?ま、待て……!」


「引き止めたって無駄よ!バケモノ退治ならアンタ一人で……」


「ゲームとかならそれ、死亡フラグだぞ……?」



 杏の一言で、帰ろうとした令奈の足がピタリと止まる。

 そして、暫しの間を開けて令奈は苦虫を噛み砕いたような表情をし、ギギギと錆び付いたようにゆっくりと杏に振り返る。



「……アンタ、意外と嫌な性格してるわね」


「ケヒヒ……それほどでも…」


「褒めてないわよ、根暗娘!!どーすんのよあれ!?いくらあんたが遠距離タイプの魔法を使えたってあの数相手じゃ、じり貧じゃない!!」


「む、むぅ…確かに……この数はキツい…?あれ?」


「なによ?なんか見つけたの?」


「あいつだけ…へんな動き、してる…」


「はぁ?」



 憤る令奈に言われ、杏が入り口で詰まっている内、一匹の怪魔を指を差す。

 令奈は指を指された方へ不機嫌そうに見やると驚愕に目を見開いた。



「なに……あれ?」



 令奈が見つめる先には…不快な音を立て、体を丸めて震える怪魔の姿があった。

 異質な雰囲気を醸し出す怪魔が突然、大きく体を震わせ身じろぐと挟まっていた周りの怪魔たちがピタリと止まった。

 そして、身じろぐ怪魔の元へ一斉に他の怪魔たちが我先にと集まり始めた。



「ちょっ、なになに?!いきなり何なのよ!?」


「ふ、おぉぉ…」



 歪に繋がっていく長く巨体な胴体を天に昇る龍のように大きくうねらせ、黒い液体を滑らせた人と水棲生物が混じりあった無数の手足が二人の前に振り降ろされる。

 驚愕する二人がその巨体を見上げるとそこには二人を見下ろす卵状の黒い頭部に開かれた幾つものカラフルな目玉が不気味に見つめていた。



「が、“合体”…した…!?」


「う、嘘でしょ?!そんな怪魔…聞いたこと無いわよ!!」



 予想だにしなかった異常事態に令奈は表情を青ざめさせ後退ると、その僅かな動きに反応した怪魔が耳をつんざく程の大音量の奇声を上げた。



「ひっ…!!」


「く…来るぞ!!走れ、アリ子!!撤退、するぞ…!」


「い、言われなくとも逃げるわよこんなの!!!!!!」



 巨体を蛇の如くうねらせ、無数の手足を這わせ、狭い通路をものともせずに二人へ進撃し始めた怪魔から逃げるべく、二人は同時にその場から走り出す。



「こ、こんなの…に、逃げ道がないじゃない…!!なんで一本道しかないのよ…!!?」


「ま、まさか……あたしたち……お、追い込まれてた…のか?」



 逃げるために飛び込んだ通路が一瞬にして逃げ道の断たれた一本道に様変わりしていたことに気づけど、時は既に遅く。怪魔と二人の距離はみるみる内に縮まっていたのだった。



「も、もうダメ……限界…!!これ以上、走ったら……し、心臓が破裂……キャッ!?」


『ヒャイーハー!!』


「アリ子を頼む…!ここは…援護する…!」




 逃走に次ぐ逃走の連続に、息を切らし力尽きかけた令奈を杏の肩から飛び出したモランとトットが担ぎ上げ、杏は向かってくる怪魔に振り返り、剥き出しの目玉を狙って二丁拳銃を乱射させた。



 発射された魔弾は全弾全て怪魔へと撃ち込まれていく……



__________だが……




「くっ…!効いてない…!?」



 杏が絶え間なく魔力を込めた魔弾を撃ち込めど、巨体を振るわせる怪魔の体にダメージは無く、魔弾による効果は精々足止め程度にしかならなかった。

 だがそれも僅かな時間だけであった。魔弾の雨を受ける怪魔は頭をもたげ、商店街全体を震わせる程の咆哮を上げると杏の攻撃など気にもしないかのようにもたげた頭部を叩きつけてきた。



「な、なんの…!!」



 杏は後方へ跳び、怪魔が振り下ろし叩きつけてきた頭部をかわし、すかさず怪魔の体に飛び付くや銃口を怪魔の肉体に押し付けながら魔弾を発射させる。

 撃つ度に怪魔の体は液体にも似た肉を撒き散らす音を響かせ、同時に赤黒い血液を少しだけ吹き出しては辺りに四散し消滅する…が。



 それだけでは怪魔の動きを止めるには至らず、体にまとわりつく杏を振り落とそうと肉が削げた先から無数の手足が杏に襲い掛かる。



「ッ…!!こ、この…食らえ食らえ食らえ!!」



 捕まるまいと襲いくる手足を撃ち落とし、怪魔の体から離脱した杏であったが、くるりと宙を舞い、狭い通路の壁を利用しながらあらゆる角度から怪魔に攻撃を与えていく…



 しかし、いずれも大した効果は見られない。



 令奈の言ったとおり、じり貧な戦いであった。



(だ、ダメだ…あたしの攻撃じゃ…ダメージを与えられない。でも、何とかしないと……!!)



 押し潰そうと迫る巨体に無数の手足。厄介この上ない肉体で暴れまわる怪魔の進撃に苦悶の表情を浮かべる杏。



 魔力とて無限ではない。このままではいずれ、魔力が尽きてやられてしまう…



(落ち着け…落ち着け…!何かある。あいつだったらこんな時…轟なら……こんな時……どうする?)

 

 焦る気持ちを押さえ、何か弱点は無いかと懸命に思考を働かせているとふと、そんな考えが頭の中に浮かび…杏はあることに気がついた。



(合体したのなら…もしかして……!!)



 怪魔の攻略を閃いた杏はすぐさま実行に移すべく、繰り出される怪魔の手足を掻い潜り、胴体の上を転がるように着地すると怪魔と怪魔同士が連結する“関節部”に銃を構えた。



「上手く……いってくれ、よっ!!」




____ズガガガガガガッ!!!!!!




 

 肉体は分厚く痛手には至らなかった魔弾であったが、“歪に連結されたこの箇所ならば”…!!

 爆ぜる火花と爆音鳴り響かせ、魔弾が撃ち込まれていく関節部から噴水の如く、黒い血飛沫を上げて胴体から引き剥がされていく。



 そして、引き剥がされた肉片が“元の一匹の怪魔”に戻った瞬間、杏はニヤリと嗤い銃を構える。



「でかくてダメなら…ちぎって倒す…!!“弱点”見破ったり…!!」



 分裂した怪魔を素早く撃ち抜き消滅させ、杏は怪魔の体から跳躍し、空中で身を捻ると同時に銃を構え、全ての関節部に魔弾を放ち、全てを正確に撃ち抜いていく。



「“JACKPOT(ジャックポッド)”!!」


『Gaaaaaaaa!!!!!!!!』



 巨体であった怪魔は頭を空に向けて断末魔の悲鳴を上げると全ての関節部から血飛沫が噴出し、全身に亀裂が入り、爆発するかのようにバラバラに崩れ去り元の怪魔の群れが狭い通路に降り注ぐ。



「これで、ゲームセット…!!」



 着地を華麗に決め怪魔の群れに狙いを定めた杏は戦いの決着に二丁拳銃に魔力を込め引き金を引く。




__________まさにその時であった。 




「いただきま~す♪」


「へっ?」




_____ズズズズズズズッッ!!!!!!




「ふひ!?」



 引き金を引く刹那、突如どこからともなく陽気な声が響き渡る。

 そして…次の瞬間、降り注ぐ怪魔の群れが突然、杏の背後から伸びてきた血に塗れた無数の手が一匹のこらず怪魔たちを掴み、たちまち通路の奥へと引きずり込んでしまった。



 驚愕の光景に我を忘れていた杏はハッと背後に振り返ると、そこに立っていたのは…



「お姉さんすごーい♪とっても強いんだね♪びっくりしちゃった!」



 後ろで結んだ二つのおさげ。大きくパッチリ開いた目。小さな背丈に似合う可愛らしい幼さの残った顔立ちの少女がニコニコと微笑みながら立っていたのだった。

 



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