第32章.必殺の悪撃!モードレッド・ブルー!!
「ミッドナイト、スター……?」
恥ずかしげもなく口上を述べ現れた少女を前に、星司は忌々しげな目を少女に向けてその名を呟いた。
「…ここら一帯は私が囲った結界の影響で誰も入れない筈だが……一体、どこから入り込んだ?」
「結界…なるほどなるほど!道理で外に出られないと思った。秘密を守る貴方らしいやり方…」
「私、らしいだと…?……そうか、お前か…」
少女の含みある言い方に表情を険しくさせた星司は、少女の正体に気づくと同時に表情を更に険しくさせた。
(ッ!なんっう殺気……って、コイツ、もしかして…!?)
殺気すら混じる視線で少女を睨む星司の体から漏れた刺すような魔力を肌で感じ取ったカガリは星司同様、少女の正体に気づくと信じられないと言うように恐る恐る、口を開いた。
「テメェ…まさか、“ボサ髪女”、なのか?」
「フッ、バレちゃ……しょうがないな…そう、ミッドナイトスターとは不思議なおじいさんが力をくれたついでに名付けてもらった魔法少女としての名…何を隠そう、その正体は引きこもり系根暗JK今宵坂杏ちゃんだっ!!」
((うわー…超ダセェ…))
ピースサインをしながら再び決めポーズを取った杏に、見ていたカガリとディアは若干引きながら心の中で呟いたのだった。
「ち、ちなみに…さっき、お前がだ、ダサいって言ったポーズは『機帝革命者モリアーティ伯爵』12話でモリアーティ伯爵が初めて敵アジトに侵入して現れた時に取ったポーズ…だからな…?さ、最高にカッコいいポーズなんだからな?!」
「いや知らねぇけど…」
「どうやって“魔法”を会得した。ミッドナイトスター…?まさか、お前にそれほどの『欲望』があったとは思えないが…」
カガリに抗議をする背を向けた杏に星司は威圧感な声色で訊ねる。
その声に肩をビクつかせた杏であったが深呼吸をし、星司を見据えるように向かい合った。
「い、言った筈です。不思議なおじいさんが力をくれた、って…!」
「ずいぶんと…ふざけた話だな。一体、どこの誰だ?そんな頭のネジの外れた発想を持つ狂人者は……だが、まあ良い…今は余計な手間を働くお前たちを始末するとしよう…イカれた狂人を探すのはその後だ…」
「ひっ…!」
「おっと!」
目付きを鋭利なナイフのように尖らせた星司の体から殺気の込められた魔力のオーラが暴風のように放出される。
星司が発した風圧と威圧感にひるみ、後ろに倒れそうになった杏を、肩を抱くようにカガリは背中を支えた。
「あ、ありがと…不良女」
「ケッ!情けねぇ面すんな。ボサ髪!あんなでっかく粋って出てきたくせに今さらビビってんじゃねぇよ。ホント、ダッセェ女だな……最初の勢いはどうした?!」
「そ、そう言われても…!やっぱり、恐いものは恐いん…だ!い、いくら魔法少女になった、からって……あたしは、お前みたいに…度胸もなきゃ、簡単に戦ったりなんか……あいたっ!!?」
「なぁーに寝惚けたこと言ってんだ。このタコ…テメェはアイツの強さをおだてに来たのかよ?」
弱気になった杏の頭を叩き、カガリは叩かれたせいで涙目の杏の肩に腕を回し顔を見つめ、ニヤリと、悪賢い子供のように口角を上げた。
「テメェの中の“悪役”みたいに、精一杯反抗しにきたんだろ?違うのか?ミッドナイトスター?」
一切の皮肉も嘲りの欠片もない。曇り一つ無い信頼しきったカガリの言葉に、杏の胸は大きく高鳴り、目頭が熱くなった。
「っ…!お、おう!い、言われなくともやってやる…ぞ!!あたしを甘く見るなよ!ブラックローズ!!」
「へへ…よっしゃ!そんじゃぁ、オレら悪党魔法少女の力…!!」
「「派手に決めてやる!!」」
互いに拳を合わせ、二人は星司の元へと全速力で駆け出した。
「余興は終わったか?小娘ども…!!!」
星司が両手を前に突きだすと辺りの瓦礫や折れた鉄骨が、散弾銃のようにカガリへと向かって放たれる。しかし、放たれた瓦礫の散弾が直撃する寸前、カガリの後方から無数の魔弾が射出され、瞬く間に瓦礫を粉砕、正確に撃ち落とした。
杏の精密射撃による、後方支援にカガリはニヤリと笑い、驚く星司の元へ一気に跳躍し、蹴りを放つ。
「食らいやがれ…!」
「こざかしい真似を……!!!」
「おっせぇ!!」
「くっ……!!?」
カガリの蹴りを寸前でかわし、星司は素早く右手に魔力を込め放つ。だが、独壇場である間合いにまで接近を果たしたカガリは、放たれた魔力の塊を素早く回避すると同時に回し蹴りを繰り出す。
「そこっ!!」
「なに!?」
今まで遠隔攻撃に徹していた星司が、連続攻撃を繰り出すカガリから距離を取るや。がら空きとなった背後に回り込んでいた杏がすかさず魔弾で星司を狙い撃つ。
「ッ……!!」
「よそ見してんじゃねぇぞ!!!」
背後から迫る魔弾をとっさに瓦礫で防いだ星司だったが、更にその隙を獰猛な獣のように狙い決めるカガリの猛攻が繰り出される。
「チッ!!!!」
反撃すらままならない状況の星司は盛大に舌打ちをした。
「鬱陶しい……鬱陶しいぞ貴様らああああ!!!!!」
挟み込むようにして立て続けに攻め続ける二人に、怒り心頭となった星司は再び、魔力を爆発させ、カガリや杏を吹き飛ばすと空高く飛び上がった。
「遊びは終わりだ!!!思い上がった貴様ら魔法少女がいくら束になろうとも……私に敵う筈がないと知れ!!!」
空高くから星司の怒りの怒号が響き渡る。
「いっっ……あのヤロー、なにする気だ?」
『奴の魔力が増幅していく…!奴め、結界ごと我々を仕留めるつもりである!!』
「な、なんだってー!?……ハッ!意外と自然に言えるものなんだな、これ…って、なんだあれ!?」
「オイオイオイオイ……マジかよアイツ!!!?」
瓦礫の山に吹き飛んだ二人はすぐさま、空を見上げると二人の目に、空を覆い尽くさんばかりの瓦礫の空が飛び込んできた。
「どこに逃げようと無駄だ!建物ごと……潰れてしまえ…!!!」
怒りに目を剥く星司が両手を広げると空を覆う瓦礫が一斉に二人を捉えて停止する。
矢の雨ならぬ、岩石の雨。力業を見せようとする星司にカガリは深くため息を吐いた。
「…はぁ、やれやれ。どうしてああもプライドの高い奴ってのはキレやすいのかね?」
「ここまでされてキレない奴はいないと思うぞ」
『暢気に会話している場合か!あの数では一方的にやられるぞ!?勝算はあるのか?!』
「勝算?…そんなもん、オレの“とっておき”があるじゃねぇか」
『なに?!ま…まさか、本気か貴様!?“あれ”をやるつもりであるか?!!』
「あ、あれってなんだ?“必殺技”、とかか?」
「おう!超絶ド派手のサイコーにイカした技をアイツに決めてやるよ!!」
騒ぐディアを見て、怪訝そうに首を傾げさせカガリに聞くと、カガリはニッ、と嗤い軽快に頷いた。
「おぉ!!良いなそれ!!!めちゃくちゃアニメっぽい!!やっぱ技名は叫んでから殴るのが王道だよな!手に汗握る最高にCOOLな感じがたまらない、ぜ!!」
「あ?そうなのか?技名…“技名を叫ぶ”、ねぇ…」
『まてまてまて、本気でやるつもりであるか!?あんな隙だらけの技をどうやって当てる気だ!!?』
「んなもん決まってだろ。おい、ボサ髪女。オレをアイツより上に上げられるか?」
「え?ち、ちょっと待ってて……」
慌てるディアを他所に杏に訊ねると杏の空に向けたゴーグルが演算を開始し、計算音を出しながら杏は小さく唸った。
「んー…多分行ける、と思う。けど……やるしかないんだろ?」
「おうよ…そんじゃ、いっちょ決めてやるぜ!」
力強く両拳を合わせたカガリは今から成そうとする事に心臓が高鳴り興奮するのを感じながら、瓦礫の空を見上げて勇ましく笑ってみせた。
「何をしようと無駄だ!!!!!食らうがいい!!」
星司の叫びを引き金に岩石の雨が一斉に二人へと振り注ぐ。
「こ、ここは任せろ…!!ガンシューティングは、得意中の得意……!!」
だが、動いたのは杏も同じで岩石を撃ち落とす為、2丁拳銃を構えようとマントを勢いよく広げた。その時だった。
“ガシャン!”
意気揚々と広げたマントの中から、何故か、2体のサッカーボール程の大きさしかない。骸骨頭のオモチャのようなロボットが落っこちたように飛び出した。
「……なんだそれ?」
「……よく分かんないけど、あたしの“魔法”みたいだな」
『『ヒャイーハァー!!』』
一大事だと言うのに固まっている二人の目の前で、突然、2体のロボットが奇声らしき機械音を鳴らし、ガチャガチャと騒々しく、好き勝手に辺りをうろちょろとし始めた。
「おぃぃぃ!!余計、被害が悪化してるじゃねぇか!!!!さっきの計算っぽい感じはなんだったんだよ!!?」
「そ、そんな事言われてもこちとらまだ魔法少女歴一時間も経ってないから仕方ないだろ!?計算ではしっかりと……!!」
『二人とも!!上、上、上ーーー!!』
好き勝手に動き回るロボットに気を取られていた二人はディアの声で我に返り、上を見上げるとすぐそばにまで岩石が迫り来ていたことに気がついた。
「あぁくそ!!こうなったら全部砕いて……!」
「い、今から!?間に合うわけないだろ!?“防御魔法”とか……ああ、ダメだ、潰れ…………!!」
マンション全体が地割れを起こす程の轟音を響かせ、振り注ぐ瓦礫の雨。
逃げ場など無い攻撃で砂ぼこりが舞うマンションの屋上を上空から見下ろす星司は勝利を確信する。
「価値を決めるなだと?あれほど私に意見したくせに笑わせる。魔法もまるで使えない者を無価値と呼んで何が悪い?この世は使う者と使われる者のどちらかだ、社会に必要の無い者は切り捨てられる。無力なガキが大人に楯突くんじゃな……」
「だったら、力を証明すりゃいいんだな?」
「なに…?」
屋上の砂ぼこりが晴れ瓦礫の山の一角が露になると、そこにはあれほど振り注いだ岩石をかわし、空を飛ぶ星司を見上げる彼女たちの姿がいた。
「バカな…!一体、どうやって……む!?」
無傷の少女らに驚く星司は二人の足元を立ち、手を振る2体のロボを見つけ、忌々しげにロボの所有者である杏を睨み付けた。
「どこまでも私の気に障る奴だ…!!」
「おーおー、お前の魔法で大層ご立腹みたいだぜ。ミッドナイト?いい気味だからもっとおちょくってやれよ」
憤る星司を見上げ、カガリは2体のロボットを両脇に抱えた杏に笑い掛けるも、杏は額に冷や汗を浮かべ、疲労の息を吐いた。
「これ以上、怒らせても…あんまり意味無い、と思うぞ?ゲームでも怒りゲージMAXの後は逆に冷静になるのが常識、だし……」
『……しかし、なんとまぁ…奇妙な魔法であるな…“盾”になったと思えば、子供のように……これが杏殿の“願望の形”なのであるか…?』
杏の冷静な判断に賛同するようにカクカクと頭を揺らし頷く仕草を見せるロボットたちに、ディアは不思議そうに唸るもカガリは心底どうでもいいと肩をすかした。
「とにかく、仕切り直しだ。あの野郎より高く飛ぶか、何とかして動きを封じねぇとこっちは一回限りの特大技だ。その前に魔力が切れたりもしたら…」
「一発KOのサドンデスバトル、ってことだな。外してもタイムアップでも勝てなきゃ負けとか鬼畜ゲーにもほどがあるぞ…」
「へっ!勝ちゃいいんだよ勝ちゃぁ…!とにかく耳貸せ耳!!」
「わわわ、って、ふんふん……それ、うまくいく、のか?」
「覚悟決めろよ?やれなきゃやられるだけだからな!」
聞かされた作戦に不安そうな顔をする杏に、カガリは勇ましく笑い掛ける。
「何をごちゃごちゃと言っている!!私を馬鹿にするのも大概にしろ!!!」
「テメェこそ、いつまでもオレたちを見下してんじゃねぇぞおおおおお!!!!」
星司が操る岩石を砕き破壊し、カガリは一直線に星司の元へと跳躍し、空中を縦横無尽に駆け上がっていく。
どれだけ傷つき、力を見せつけられても、一向に怯まないカガリの猛攻に、砕かれる度に増える数百もの無数の岩石を操る星司の顔色がついに、疲労と焦りが生まれつつあった。
「おの、れ……!ちょこまかと…!!!薄汚い蝿の分際で…!」
「だったら、そんな蝿も潰せねぇテメェのご自慢の魔法はそれ以下ってことだよな…!?」
「なっ…!!ッ!!!?」
岩石の群れを掻い潜り、ついに星司の背後にまで到達したカガリはすかさず、裏拳で凪ぎ払う。
だが、寸前のところで裏拳はかわされてしまい、今度こそ、好機を逃すまいと星司はカガリの顔面を掴み、手に魔力を込めた。
「惜しかったな!」
「テメェがな…!!」
「なに…!?」
魔力を放とうとしたその瞬間、顔面を掴まれながら不敵に笑うカガリの後方から一筋の光が爆ぜ、カガリの首の横を横切るように二つの弾丸が星司の両肩を撃ち抜いた。
「ぐおぉっ!!?」
一瞬にして全身に駆け巡った焼けるような激痛と撃たれた両肩の傷から血が、飛沫となり空中を舞う。
「後は任せたぜ…ボサ髪女!!!」
「グガッ!!」
そして、不意の出来事に困惑し、緩んだ手から脱出に成功したカガリは星司の頭を飛び越えるように背後に周り、カガリの手甲に巻き付くイバラが伸びている先へ受け渡すように強烈な蹴りを叩き込む。
「ま、任された!不良女!!!」
カガリが裏拳と見せかけて密かに伸ばしていたイバラに引き上げられ、同じ高さにまで到達した杏はカガリの合図に息を大きく吸い、神経を研ぎ澄ませた。
そして、意識を集中させ、魔力の込められた2丁拳銃を飛んでくる星司へしっかりと狙いを定め、引き金に指を掛ける。
「あ、杏!!きき、貴様、よくも……!!よくも私を撃ってくれたなああああああああ!!!!」
「……ヒヒ…“杏”、か。今さら名前を呼ばれても、遅すぎだ、よ…」
迷うことなく狙いをすましていた杏はそう静かに口にすると…握り締めた拳銃のトリガーが引いた。
「“GAMEOVER”…!!」
「ぐ…ぐぉおおおおおおぁぁああああ!!!!」
光が爆ぜ、爆音が辺りに響く。それとほぼ同時に二つの銃口から魔弾である強力な弾丸が連続で射出される。
弾道は真っ直ぐ、正確に岩石を盾に身を守ろうとした星司の腕を一瞬で撃ち抜き、次々と魔弾は星司へ撃ち込まれていく。
「あががががぎぎぎ…!!!な、ななな……舐めるなああああ!!!」
「うわっ!?」
打撃のように鈍重な衝撃を与える魔弾の嵐を、星司は魔力を広範囲に放出し、無理やりに魔弾を弾くと、刹那、伸びた血だらけの手が杏の首を締め上げた。
「う、ぁ…!!」
「ハァ…ハァ…!!!手間を取らせよって…!この程度の攻撃で勝った気でいたか、愚か者め!!私の“支配”から逃れられると思うな!!」
「し…支配……ひ、ヒヒ…!」
首を締め付ける力が強くなっていく中、怒る星司を前に杏は苦しみながらも、その顔には微塵も恐れもなく、笑みを浮かべていた。
「なにが…可笑しい…!!お前も私を侮辱する気か……!!?」
「あ、あなたが……くだらないと決めつけたあの、“オモチャのヒーロー”がどんなものか、あなたは知っていますか……?」
「なに?」
「あの……ヒーローは……あなたのような身勝手な支配者になんか、絶対に屈したりはしないんだ…!」
締め上げる手を掴み、意識が遠退きそうになりながらも、血眼で睨み上げる星司をまっすぐに見つめ、杏は叫んだ。
『『ヒャイーハァー!』』
「な!?」
首を絞められている杏の背後から突然、2体のロボットが左右から顔を出し、驚いている星司に素早く取り付いた。
「なんだこれは?!!い、一体…なんなのだコイツらは!?」
「支配者を倒す、あたしの“革命軍”…だ!!“構え”!!」
取り付くロボットを引き剥がそうと必死にもがく星司。手の力が弱まった隙に脱出した杏は微笑の笑みを浮かべる。すると、杏の言葉に合わせて鏡合わせのように2体のロボットは拳を構え出した。
その瞬間、次に起きうる出来事を理解した星司の表情が、一気に青ざめ、表情を引きつらせた。
「ま、まて!!あん……!!」
「ヒヒヒ…!……グッバーイ、“お父さん”…!」
引き留めようとする星司の言葉を杏は静かに遮る。
それを合図に、2体のロボットの拳が星司の顔面に炸裂した。
「ぐぎああああぁぁぁぁぁぁあああッ!!!」
血を撒き散らし、星司は激痛に声を荒げ、真っ逆さまに落ちていき、宙を浮いていた岩石の上に激突すると、もはや、身動きすら取れない星司は苦痛に呻き声を上げる。
「こ…んな、こんなこと……バカげている…!!な、何かの間違いだ……!」
「まだ夢みてぇーなこと言ってんのか。クソ野郎…」
「っ!?」
意地でも状況を認めない星司を見下すように、空高くからカガリの嫌悪する声が響き渡る。
「ブラック、ローズ……!!!!そうだ、貴様だ…貴様さえ現れなければ……私の平穏は守られていた…!娘の存在も外には……!!」
最も高い位置にある岩石の上に腕を組み仁王立つカガリを見つけると、星司は激しい怒りに突き動かされるようにゆっくりと体を立ち上がらせた。
その様子を見ていたカガリは鼻で一蹴し、岩石から星司に向かって飛び降りた。
「許さん、貴様は……貴様だけは絶対に許しはしない…!!!」
「どうだって良い…!!テメェのくだらねぇ話はもう聞きたくねぇ!!!!」
落下する勢いを利用し、叫んだカガリは蹴りを繰り出しそのまま隕石のように星司へと一直線に向かっていく。
「私は…【不可視夜祭】の幹部なのだ…貴様のような……社会のゴミに、出来損ないの願望者に……負ける筈がないのだあああああああっっっ!!!!」
「知るかそんなもん!!」
星司は傷ついた身体でこれまでの比ではない魔力を放出させ、向かってくるカガリに宙を漂う無数の岩石を全て衝突させる。
しかし、どれだけ岩石が衝突しようとも落ちてくるカガリの勢いは、一向にその威力と速度が衰えることなく、愚直なまでに星司へ狙い定め、真っ直ぐに落ちていく。
「な、何故だ……何故、貴様は倒れない!?貴様は一体…!?」
「ヘッ…!テメェが何十、何百回と石ころをぶつけようとオレは倒せねぇんだよ!!よーく覚えとけ、ボケ!!よぇー奴しか支配出来ねぇクソ雑魚三下のテメェが、この最凶最悪の魔法少女ブラックローズ、轟カガリ様に敵う筈がねええええええんだよっ!!!」
「あ……あぁ……く、来るな……来るんじゃない!!!!」
「嫌だね!!オレの必殺技を受けやがれ!!クズヤローーーーーーーーっっ!!!」
落ちてくるカガリに恐怖し、攻撃を防ごうと岩石を自身の前に展開する、が、その行為はすでに意味がなく、全てを砕き、星司の目の前に現れたカガリは血だらけの顔に邪悪な笑みを浮かべた。
「モードレッド・ブルウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーッ!!!!!!!!」
猛々しく叫ぶカガリが繰り出す“必殺技”。蹴りに込められた魔力が青紫の稲妻を纏い、紫電一閃。全てを打ち砕く破壊の雷の如く。音速の速度で星司へと落ちた。
「ぐぎゃあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」
「ゼリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!!!!テメェの“城”ごとぶっ壊れちまえええええ!!!!!!」
星司が立っていた最後の岩石を破壊し、マンションの屋上へ落ちても尚、勢いは衰えず、轟音を響かせマンションを破壊しながらどんどん、下の階へと突き抜けていく。
そして、マンションの中心部から凄まじい衝撃と砂塵が噴火したように空に舞い上がり、その衝撃でマンションの敷地全体に地割れが起き、マンションを支える支柱や基盤の何もかもがカガリの一撃で崩壊。形を失うように倒壊していく。
「全部…壊れて………って!あ、アイツ……!!」
ブーツから出る魔力ブースターで宙に浮いていた杏は大慌てで、砂塵が立ち込める倒壊したマンションの残骸へと降り立っていくのであった。
◆◆◆
「ふ、不良女…?!どこだ!?へ、返事をしろ!」
マンションの残骸の上に降り立った杏は必死にカガリへ呼び掛けるが、跡形も無くなった瓦礫の山以外に人の姿はどこを見渡しても見当たらない。
「ま、まさか…瓦礫の下敷きになって…!?」
「勝手に殺すんじゃねぇよ」
「うぎゃあ!!!?」
脳裏に過った不穏な考えに弱り果てたその直後、急に背後に現れたカガリに杏は飛び上がるほど驚き、悲鳴を上げた。
「びびび、びっくりしたぁ…!き、急に脅かな…っ!」
心臓が喧しく鳴る胸を抑えながらカガリに振り返る。だが、カガリを見るなり、杏の身体が凍りついたかのように膠着させたのだった。
「お、お前………」
「あ?あぁ、“コイツ”か。別に助けたわけじゃねぇ…よっと!」
震える指で指差す杏にカガリは肩を支えていた意識を失い首を項垂れさせている星司を乱暴に放り捨てた。
そして、思いっきり息を吐きながら凝り固まった肩に手を当て、ほぐすように回すとその場に座り込んだ。
「あ”ー、疲れた~…!ったくよー…身体はあちこちいてーし、魔力もすっからかんでもう一歩も動きたくねぇ~…」
『シャキッとしないか、みっともない…』
「大激闘の後だぞ、後!今日くらい良いじゃねーか、別に……」
「なんで…おと……星司…さんを助けたんだ…?」
「あ?……言っただろ?助けたつもりなんかねぇよ。あのまま下敷きになったら死ぬかもしんねぇーから引っ張ってきただけだ」
「こ、答えになってないぞ…!」
「あのなぁ…!!オレは人殺しじゃねぇんよ!」
気絶した星司を指差し、助けたことに不満を抱く杏に苛立ち、カガリはガシガシと乱暴に頭を掻きむしり、睨む杏を睨み返しながら口を開いた。
「オレは喧嘩した相手を死ぬ程痛め付けるだけで、テメェの親父と違って殺人なんざする気は更々ねぇよ!!勘違いすんな!!殺したきゃ自分でやりやがれ!」
「ッ…!!」
カガリの粗暴な態度はどうあれ、正論を突きつけられた杏は手元に拳銃を召喚し、倒れた星司に銃口を向ける、だが、その手は痛ましい程に震え、呼吸は荒立っていた。
「______________ッ…」
数秒の葛藤の後、杏は目を閉じ、静かに銃を下ろした。
『杏殿…』
「……“見逃しといてやれ”。それがコイツにとって、一番痛てー事だろーが…」
「……うん」
カガリが素っ気なくそう言うと…杏はその場にへたり込み、顔を俯かせながら小さく頷くのであった。
「ったく……これだから人助けはしたくねぇんだ、ろくでもねぇ…」
『まあ、そう言うなである。あまり悪い気はしないであろう?』
「うっせ、今回限りだこんなもん」
「……そ、そんなに人助けが嫌なのに、何で…助けてくれたんだ…?」
「あ?んなもん……あー、あれだあれ。その……」
ずっと引っ掛かっていた疑問を杏が口にすると、カガリは気まずそうな顔で頬を掻き、言い淀む……
じっと言葉を待ち、見つめる杏。その視線から逃れるようにカガリはそっぽを向くと照れ臭そうに小さく呟いた。
「ただ……“そうしたかったから、そうしただけ”……それだけだ。大した理由じゃねぇよ」
「……ぷっ!うひひひ!!!」
「なっ!?テメ、笑うんじゃねぇよ!!!」
『ぷくく…!!ま、まあまあ、良いではないブフフッ!!』
「テメェも笑ってんじゃねぇよディア!?」
叱られた子犬のように背中を丸め、ふて腐れた目を向けてくるカガリに、杏はたまらず吹き出し、可笑しそうに笑い出した。
二人に笑われ頬を赤め、腹を立てたカガリは二人に怒鳴るも、それすらも可笑しいと言うように杏はお腹を抱えて笑い続ける。
その時だった。
「動くな!!警察だ!両手を上げろ!」
「あ?」
「ウヒ?」
突然、二人の目の前に銃を向けた警察官が現れた。そのあまりの突然の出来事に二人が固まっていると銃を向けてきた警察官の後から更に警察官ら数名がやって来た。
「ここはさっき謎の爆発で崩れたばっかりなのを分かっているのか?!」
「爆発?……なんでそのこと知ってんだ?っか、警察がなんでいんだよ?結界はまだ壊してねぇぞ?」
『もしや…先ほどの必殺技の時に壊したのでは?』
「おい、聞いているのか!?そんなふざけた格好までして…怪しい奴らめ!!まさかとは思うが、二人とも爆破テロ容疑で署まで来てもらおうか!!」
「あー……なあボサ髪女」
「なんだ?不良女」
「こーいう時、何するかわかるか?」
「もちろんわかるぞ」
にじり寄る警察官らを見つめる二人は互いに顔を見合わせると静かに頷き合った。
「「逃げろーーーー!!!!!!!」」
「あっ!?ま、待て!!逃げたぞ追えーっ!!」
魔力が残り少ない為、二人は全速力でその場から逃げ出した。が、警察官らがそれを見逃す筈もなく、声を荒らげながら二人を追いかけてくる。
「うおおお!!こんな展開は望んでねぇぇぇ!!」
「ひぃぃぃ!!もっとカッコいい去り方が良かったのにぃぃぃ!!」
二人はがむしゃらに走り続け、警察官らの追跡を振り切ったのはそれから2時間後であったのは別の話である。




