第19章.テメェの願いは誰にも届かねぇ
今回は長めです
「お、お前たち!!」
カガリの突進に臆した巫女は四人の僕をカガリにけしかけると同時にその場から逃げるように廃ビルの奥へと撤退する。
向かってくる四人の僕たちは魔法で出来た得物を出現させ、カガリに襲い掛かる。が……
「退きな……雑魚が!!」
四人の僕の攻撃を流れるようにかわし、カガリは鋭い蹴りを的確に四人らの顔面に叩き込み吹き飛ばした。
「くっ…!!使えない奴等ね…!!」
「待ちやが…ッ!!?」
そのまま速度を衰えさせることなく、奥へと逃げた巫女の後を追いかけていくと、何かに気がついたカガリはその場で急停止し、よけるように背中を反らす。
刹那、カガリの鼻先を掠めるように何かが風を切り、目にも止まらぬ速さで通過した。
「ッ……!!」
はらり、とかわし損ねた髪先が綺麗に両断され落ちるとカガリは顎へと流れ落ちる冷や汗を手の甲で拭い取りながら息を飲み込んだ。
「チッ!!なんで今のがかわせるのよ!」
「あっ、ぶねぇじゃねぇか!この野郎…!!」
逃げながら振り向き様に“振るった鞭”が当たらなかったことに盛大に舌打った巫女は忌々しげに吐き出すと再び、前へと向き直りどんどん奥へと逃げ出した。
不意打ちにむかっ腹を立ったカガリは床を強く蹴り、巫女の頭を追い越しと巫女の前に立ちふさがった。
「くっ……!!?」
「テメェの顔面をぶん殴るまで逃がしやしねぇよ、女王蟻…!」
「ッ……ほ、本気ですか?轟さんに殴られたりなんかされたら……わたし、死んじゃいますよ…?」
「……殴る所かテメェなんかデコピン一発でもおしまいだろうな、くそ女」
「じ、冗談ですよね…?わたしたち、お友達じゃあ…!」
「その嘘くせぇ口を閉じてろ。テメェの話は聞きあきた」
追い詰められ、乾いた笑みを浮かべて口調を変えてまで逃れようとする後退る巫女に、カガリは首や指の骨を鳴らしながら鋭い目付きで睨みを効かせ、ゆっくりと前に進んでいた足が、徐々に速度が増していく。
「ま、待ってください…!わたしは本当はこんな事したくなかったんです!『不可視夜祭』……そう全部、『不可視夜祭』が……!」
「だから……言っただろ!!」
「ヒッ!!?」
表情が青ざめ、慌てふためく巫女が言い終える前に、カガリは拳を握り、走り出した。
迫るカガリの拳に、巫女は悲鳴を上げ、恐怖で体を膠着させる。
「“嘘話”は……聞きあきたんだよ。“くそ女”!!」
弓から放たれた矢の如く勢いで駆けたカガリは拳を真っ直ぐに突き出しながら叫んだ。
迷いなく振り抜かれた拳が衝突した瞬間、壊れかけた廃ビルをそのまま壊しかねない程の衝撃と破壊音が響き渡り、カガリは“背後にいる巫女に振り返ることなく言う”。
「オレと喧嘩してぇなら……“テメェから出てこいよ”」
____女王蟻…!
“殴り破壊した壁”が音を立てて崩れ落ち、砂塵舞う中……怒りの表情を浮かべるカガリの前に一人のシルエットが現れた。
「なんで“バレた”のかしら…今度こそアンタを始末する作戦を練って来たっていうのに……作戦が台無しじゃない」
「ッ!テメェは…!?」
砂塵を片手で払い、壁の向こうから姿を現したシルエットの人物を見た瞬間、カガリは驚き思わず声を上げた。
「堂坂……令奈!!」
カガリがその名を呼ぶと、令奈は口角を吊り上げ不気味に笑う。
「へぇ、アタシの名前覚えてくれてたんだ。てっきり、人の顔なんか覚えてなんかないと思ってたわ……轟カガリ…」
「気安く呼んでんじゃねぇよ。アリ女!テメェ…アイツに何しやがった…!」
「アイツ…?あぁ、ミコのことね。別に何もしてないわよ?アタシはただ“お願いしただけ”……アタシの代わりに“アンタを殺せ”、ってね!」
「ぐぅ”っ?!て……め……っ…!!?」
令奈が右手の人差し指をタクトのように振るうと向かい合っていたカガリの背後から音もなく腕が伸び、反応するより早く巫女の腕がカガリの首を裸絞た。
「ぐぎ……う”ぁ”っ……ぁ”っ!!」
ギリギリと首が絞め上げられていき、カガリは慌てて解こうとするが、か細い腕からは想像も出来ぬほどの力でガッチリと固定されており、解こうともがく度に首が絞まっていく。
『レディー!!』
「ぁ?さっきから誰と喋ってるかと思ったら……あの変な奴連れてたのね…」
『誰が変な奴か!貴様、卑怯だぞ!!』
「卑怯…?バッカじゃないの?自分の力を使って何がいけないのよ?」
当然のように言い切る令奈は薄ら笑い、手の平を前に出す。
すると、カガリを絞め上げる巫女の腕にはち切れんばかりの血管が浮かび上がり、絞める腕に更なる力が加えられた。
「か……はっ…!!」
首ごと折られてしまうのではと思うほどに絞められたカガリは酸素を求め、口を大きく開け呼吸をしようとするも、肺が酸素で満たされることはない。
脳に必要な酸素が無くなっていき、抵抗する手が痺れ、手に力がうまく入らなくなっていく。
意識が遠退きそうになるのを必死に堪え、苦悶の表情のカガリに、令奈は飛び回る羽虫を仕留めたかのような笑みを浮かべた。
「今度は気は抜かないわよ。アンタを絞め殺すまで、ミコの“命令”は解かない…確実に死んでもらうから」
視界がぼやけ、現状打破を探す思考が掠れ白い霧に包まれるように散漫になっていく。
最後まで抵抗していたカガリの手が、だらりと落ちる……
____まさに刹那の時だった。
(ッ…緩る…?)
絞め殺さんと絞めていた巫女の腕の力が僅かに緩んでいく。
「この……オラァァァ!!」
「な…ぐっ!!?」
瞬きほどの僅かな瞬間にカガリは大きく目を見開き、肺を酸素で満たすよりも巫女の腕を掴み脱出し、持てる限りの力任せに驚く令奈へと巫女を背負い投げ、令奈を吹き飛ばした。
「さ、酸素、たす、助かった!!」
『ゆっくり息をするのだ。慌てて吸うと余計に苦しいぞ』
「そ、そんなのんびりできっか!」
床に手をついたカガリはゲホゲホと激しく咳き込み、自分の首を抑えた。
必死に肺に酸素を送り込むように肩で大きく息をし、苦しそうに繰り返す呼吸をする中、涙で潤む瞳をキッ、と強く鋭くさせ令奈に向ける。
「オレを絞め殺すまで油断しないんじゃなかったっけ?まぁ?首を絞めたくらいじゃあ、オレはやられやしねぇが!!」
「……そのわりには余裕がなかったように見えたけど?」
乱れた息遣いのまま挑発するように余裕ぶりを見せるカガリの笑みに、令奈は鼻で一笑しながら立ち上がり右手を上げる。
その動作に倒れている巫女の体がピクリと痙攣を起こし、糸で吊るされたマリオネットのようにふらふらと立ち上がった。
「ったく……いざって時に役に立たないわね…なんで急に手放したのかしら?」
巫女の表情に一切の感情はなく、それを見たカガリは苦虫を擦り潰した顔をした。
「そいつ、テメェの“ダチ”じゃなかったのかよ…?」
「ダチ…?えぇ、そうね。ダチよダチ……ミコはアタシの大切な“親友”よ」
指の代わりに顎を軽く動かし、巫女を指す仕草で令奈に言うと、令奈は虚ろな目でただ立ち尽くす巫女を一瞥し、目尻を上げ、わざとらしく思い出したかのように手を叩いた。
「ミコとは小学校からの中学の最後までずっと一緒でね。誰よりも優しくて、弱虫なくせにお人好しで……ばか正直の臆病者…」
「臆病者…?」
「そう。彼女、イジメられてたの。内気でどんくさい鬱陶しいくらいの箱入り娘……イジメるには十分過ぎる条件じゃない。でも、彼女は誰にも告げ口をしなかった……苛める人間が怒られたら可哀想、って言ってね…」
令奈は哀れみの目で巫女を見つめ、頬を撫で下ろしながら続ける。
「バカだと思わない?彼女は苛めてくる人間が怒られないように誰にも告げ口せずに我慢しながら庇ってたのよ?そんな相手の神経を逆撫でするような行為が……ある日、学校中に知れ渡った…イジメは更にひどくなったわ……その度にこの子は泣きながらアタシの名前を言うの……“レイちゃんレイちゃん、助けて”って…だから、アタシはいつも言ってたの……」
____“大丈夫だよ、アタシが助けてあげる”ってね…!
哀れみを向けている目が、徐々に愚か者を嘲笑うかのような目に変わっていき、令奈は込み上げる哄笑を抑え肩を震わせる。
「さっっっっっっいこうに笑えたわ!藁にもすがる勢いで泣きじゃくるこの子の顔ったら雨の日に捨てられた犬そのものだったもの!助けてあげる度に彼女はアタシに依存して自分から下僕になっていったわ。アタシがお願いすれば何だってしてくれる最高の“働き蟻”さんにね…」
高笑い、棒立ちする巫女に令奈が魔力を注ぎ込むと巫女の全身の血管が生き物のように激しく脈打ち蠢く。
だが、そんなおぞましい光景が繰り広げられる中、カガリは冷静に、それでいて怒っているように令奈を見据えていた。
「アタシと学校が別になったのと高校ではイジメがかなり無くなったせいか。“魔法”が溶けかかっていたのは気づいていたけど……まさかアンタみたいなウジ虫がまとわりついてるとは思わなかった。アタシのミコに手を出す輩だけは我慢ならないくらい嫌いなの…特に、アンタみたいな不良は…」
「…まるで“くそ女”をモノみてぇに言うんだな」
「…そうよ。ミコはアタシのモノよ。アタシに“ひれ伏す道具”、アタシを“満たす玩具”、アタシに“富を与える打出の小槌”……“アタシの願いを叶えてくれ続ける人形”でいるしか生きる事の出来ない人間よ!アタシに縛られ続けることで幸せに…………!!!」
「うっせぇーよ、ターコ。くっだらねぇ話をいつまでもすんじゃねぇ。気持ちわりぃ」
「……くだらない?」
狂気に表情を歪ませる令奈の話を聞いていたカガリだったが、退屈そうに耳の穴を小指で軽くほじくり、付いた汚れをふぅ、と吹き飛ばしながら興味が無さそうにハッキリと一蹴した。
その余りにも軽薄な態度に、さっきまで笑っていた令奈の表情が険しくなっていく。
「さっきからベラベラベラベラベラ……お喋りしたいだけならよそでやれよそで……大体、勘違いも程があんだろ。くそ女がテメェに依存してんじゃなくて、“テメェの方がくそ女に依存してんだろうが”……虫の女王が“勘違いしたまま調子こいて人間さまを操ってんじゃねぇよ”」
「………今の言葉を取り消せ…そしたらまだ……」
「取り消すわけねぇーだろ、バーカ」
「ッ~~!!殺す!!」
令奈の叫び声に反応するように鞭を振るい、巫女が飛び出す。それに合わせ、カガリも床を蹴る。
『今まで“兵隊蟻”と同じと思うな!かなり強い魔力を感じる!』
「見りゃわかる!」
赤い湾曲の軌道を描いて振るわれる鞭を弾き飛ばしながらカガリは迫ってくる巫女の肩に肘を押し付け、勢い落とす事なく強引に押し倒す、が…令奈の魔力の影響か、驚異的な力で押し返してくる。
「チッ……!!ただの“命令”じゃねぇのか…?!」
「抵抗させない方が良いかもよ?あんまり暴れさせちゃうと……」
____“壊れちゃうから…”
冷ややかに発せられた言葉の後…突然、巫女の腕に異様に浮かび上がっていた血管が音を立てて破裂し、噴水のように勢いよく鮮血を吹き出した。
驚くカガリは目を戦慄かせ、慌てて押さえつけていた肘を退け、背後へ飛び去った。
「………どういうことだ…!」
「ふふ、言ったでしょ?アンタを始末する作戦を練って来たってさ……」
血管の切れた両腕の傷から血を流す巫女の肩を抱くように手を回した令奈は冷徹な声色で言う。
「命令した者の力を限界以上に引き出させる。“超過命令”……本来、力を抑えている脳の制御を無理やり外しちゃうせいで加減を間違えたらすぐに壊れて使い物にならなくなるけど、生半可な力じゃ太刀打ち出来ないくらい強いわよ?」
肩を抱く手から令奈は更に巫女の体に魔力を与えると、無理やり与えられる苦しみからか、無機質な顔が僅かに歪んで見えた。
『外道め……!!』
「なんとでも言いなさい。ミコが死んでしまったら悪いのはそいつのせい……ミコを苦しめない為にも抵抗しないで素直に死んであげなさいよ」
全く悪びれる事無く笑う令奈には、罪悪感の欠片すら見当たらず、胸くその悪いどす黒い感情を秘めた言葉を吐き出す……
その姿に、カガリは手のひらの肉に爪が食い込む程 強く拳を握り締めた。
「…?何よその手は…まさか、まだ反抗するつもり?」
『れ、レディー…??』
カガリの行動に、令奈とディアの二人は怪訝そうに話し掛けるが……カガリは波立たぬ水面のような声色で、ハッキリと聞こえる声で宣言とも言えるように言ったのだった。
「一切、手加減無しでぶん殴る」
『……ハァ!?』
「……どうやら、アナタのご主人様は今、ミコがどれだけ危険な状況なのか…分かってないみたいね…」
『そうだぞ!レディー!奴の言う通りだ。貴様のやろうとしている事は火薬の入った瓶の中に火を入れるようなものだ!!魔力で破裂寸前の巫女殿を殴ったりなどしたら……!!』
「だから、代わりにオレが死ねってか?」
『そ、それは……しかし、それでは巫女殿が…!』
「殴るなんて大嘘よねぇ?だって、アンタ……“ミコを攻撃しようとしてない”でしょ?」
止めるディアを無視するカガリに追い討ちをかけるように令奈が言葉を投げ掛ける。
「知ってるわよ。ミコを煙たがってるみたいだけど、本当は“友だち”だってアンタが思ってる事くらい…だから攻撃出来ないんでしょ?」
心を見透かしているようにイヤらしく嗤う令奈の言葉に、カガリは反応を示さず、無言のまま歩みを止めない。
「黙ってたって無駄。極悪非道と呼ばれた不良が聞いてあきれる…たった一人の友情に手も足も出せずに死ぬってどこの不良漫画よ。バッカ見たい…」
カガリは止まらない。真っ直ぐに近づいていく。
「……チッ、見殺しになんか出来る筈ないのは分かってる。ハッタリにもならないわよ」
それでもカガリの足が止まることはない。
「……もう良いわよ。恨むならミコ、轟カガリを恨みなさい…!」
シビレを切らした令奈は向かってくるカガリに巫女を差し向ける。
「……は?」
だが……巫女は錆び付いた機械のように、動かない。
「な……えっ?なんで、なんで魔法は解けていないのに…?なんで動かないのよ!?」
「命令して動かない理由は一つだけだろ」
「な……ヒッ!?」
「“テメェの命令に嫌気が差した”んだよ」
何度も巫女を操ろうと手を前に突きだしていた令奈の意識がカガリの声に反応して視線を向けると、いつの間にか目の前にまで接近し終えていたカガリがいた。
そして、令奈が逃げ出そうとするより早く、左手で胸ぐらを掴み、カガリは残った右手の拳を振りかぶった。
「み、ミコ!!なにしてんのよ!!?は、早く助けにきなさいよ!!早く!!今まで散々助けてあげたでしょ!!!?早くしろ、のろま!!」
「おいおい、テメェの親友になんっう言い方してんだ……そんな奴にはスペシャル顔面パンチを見舞いしてやる」
「ま、待っ……!!」
「歯ぁぁぁぁ食い縛れやぁぁ!!!!!」
顔面蒼白で悲鳴を上げる令奈の顔面に、カガリは宣告通りに一切の手加減すらせずに強力な右ストレートを叩き込んだ。全体重の乗った拳は勢いよく令奈を吹き飛ばし、余りの威力にゴムボールのように壁や天井を跳ね回り、最後は全身を床へと叩きつけた。
「う、うぎぁぁ!!ああぁ!!は、歯が…骨が折れ”だ…!!ア“ダジの顔がぁぁぁぁぁ!!!!」
殴られた血だらけの顔面を押さえながら悶え苦しみ泣き叫ぶ令奈にもはや、カガリに対する戦意は失われていた。
「ヘッ……参ったか、アリンコの女王め!」
「……ぁ」
「っ…おい!」
突然、全く動かなかった巫女の体が事切れたかのようにその場に崩れ落ちるように倒れ、カガリは慌てて駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!くそ女!!」
「ぅ……ぅん…?とど、ろき……さん?」
『おぉ!やったぞ!戻ったである!』
巫女を抱き起こしたカガリが呼び掛ける。すると、巫女はうっすらと目を開け、ゆっくりとカガリの名前を呼ぶと、カガリは少しホッとした顔をした。
「……世話焼けさせやがって…」
「……轟さん…わたし……とても酷いことしてる夢を見ました…」
ぼんやりとした目でカガリの目を見つめ、巫女はぎゅっ、とカガリの手を握りながら哀しげに呟く。
「夢の中のわたしは…轟さんに沢山酷いことを言ったり、轟さんを傷つけたりしました……それも、レイちゃんと一緒に楽しそうに行っていて……とても怖い夢でした…親友だから、レイちゃんの友だちだからって……いっぱい言い訳しながら、轟さんを苦しめました…」
(違う……)
「最後には……レイちゃんまで裏切ってしまって………わたしは、なんて悪い事を……」
『…!巫女殿、まさか……最初から意識が…?』
知らずに操られてしまってただけ、それなのに涙を流し、夢を語る巫女の胸の内は罪悪感で満たされている。
彼女に罪は無いと言うのに……
だが、カガリはどう声をかけていいか分からず…ただ、握り締めて震える巫女の手を離さないでいるだけで精一杯であった。
「轟カガリ…!!!!」
突然、呪詛のような声で名を呼ばれ、振り返ると、そこには顔面を押さえ、血を流しながら息を荒らげ、殺意を込めた目で睨む令奈が立っていた。
「テメェ……」
「動ぐんじゃないわよ”!!」
カガリが動こうとした瞬間、令奈は叫び右手を前に出した。すると巫女の手が落ちていたナイフのように鋭利に尖った瓦礫の欠片を手に取り、カガリの胸に突き付けた。
「な、なに…どうして?手が勝手に………ち、違う。轟さん、わたしこんなつもりは…!!」
「……どこまで薄汚ねぇ真似しやがる」
「うるざい!!アンタだげは許ざない…!アダジを舐めたこと後悔させてやる…!!」
「ッ…!?嫌!!やめて!!」
「ふん」
令奈が右手を強く握り締めると巫女の意思とは別に瓦礫のナイフを握る手がカガリを刺そうと突き付ける、が…カガリはとっさに瓦礫のナイフを弾き飛ばした。
「うそ……」
「……おれは嫌いな事が3つある」
「ヒッ!!く、来るな!!」
鋭く睨むカガリの気迫に圧倒された令奈が慌てて逃げ出すとカガリは左手に魔力を込め、令奈に向かって突き出した。
すると、手甲に巻き付いていたイバラの蔓が意思を宿したかのように伸びていき、逃げる令奈を瞬く間に捕縛し、カガリの元へと引き寄せていく。
「な、何これ!?い、イヤだ…!やめ……助けて!!」
「一つ……テメェは何一つ悪くねぇくせに責任感 感じて泣く奴だ。……何で“テメェ一人が責任感 感じてんだ”ってなるから嫌いだ」
イバラの蔓に絡め取られ、もがき泣きわめく令奈に言いながら、カガリは目の前の事態についていけずに放心している巫女を横目で見つめ、前に向き直った。
「二つ……よぇーくせにこそこそ隠れて人を利用するだけして自分が危なくなったら逃げる薄汚い奴だ!ムカつくんだよ、偉そうに何様のつもりだ!!!」
「く、くそ、くそくそくそぉぉぉ!!!!ミコ!!」
「あぐっ!?」
最後の悪あがきとも言えよう令奈の叫びに、放心していた巫女は今度は自分の首を力強く掴んだ。
「は、ははは!!どうする轟カガリ!?あ、アダジを解放しないとミコが死ぬわよ!?良いの!!?」
「とっ……ろき……さ……!!」
苦しむ巫女にカガリは一瞬、焦りを見せたが……すぐに頭を振り、引き寄せられる令奈に右手の拳を構え、見据えた。
「な、な…!?なんで…!ミコを見捨てる気?!アンタ、頭 可笑しいんじゃ……!」
「見捨てたのはテメェの方だろ!!“なんでもかんでも”……テメェの言いなりになんかならねぇんだよォォォォォォォ!!!!」
その叫びの通り、操っていた筈の巫女の手が首を絞めるのを止め、巫女は手のひらで顔を覆い被さりながら“泣きじゃくっていた”。
「ミ、ミコ…?ミコ……ごめんなさい…ミコ…助け……あぁ……いや……嫌…いやよ、いやよ…!!殴られるのはイヤァァァァァァ!!!」
イバラに巻き付かれた令奈は勢いよくカガリの元へと引き寄せられた。
「今さら謝ったところで……テメェの“命令”は誰に届かねぇよ」
右手の拳に青い閃光を宿しながらカガリは静かにそう言うと……断末魔のような悲鳴を上げる令奈の顔面に無慈悲の鉄拳を叩き込む。
その破壊的な衝撃に螺旋状に吹き飛んだ令奈は幾つもの柱を勢いよく突き抜けていく。
そして、最後は壁へと衝突し、体をめり込ませると今度こそ戦闘不能になったのだった。
『もしも魔法少女5人が全員オタクだったら』の作者様、ニカイドンさんからまたまた!
主人公 轟カガリのイラストを頂きました!!
途中、ハ○ク化したり、メッシュが変わったり、某熱い兄貴のようなグラサンを取ったり、試行錯誤の最後はタイトルやあらすじ入りに拳を突きだしたダーク魔法少女のカガリのイカした笑顔!
本当にラフから完成までたくさんのカガリを描いていただきありがとうございます!!
グラサンを外したカガリの目がなんと可愛らしさに感激が止まりません…( *´艸`)
今後とも随時イラストは募集中ですので気楽に描いていただけると嬉しいです。頂いたイラストは前回と同じくTwitterやあとがきに紹介させていただきます!非公開のものでも構いません!
これからも頑張ってカガリの活躍を見ていただけるよう努力していきます!!




