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ディストピアーズ!  作者: モッキー
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第11章.雨天夜の襲撃



「………えっ!?デ・アールさんって轟さんのペットなんですか!お喋りするのに?!」



広い部屋に巫女の驚いた声が唐突に上がる。



「あぁまあ…そんなとこだな。喋るけど」


話していたカガリは机の上に頬杖を付きながら気だるげに頷いた。

それを聞いていたディアは「うむ!」と自慢気に頷き語る。


「これでも四世紀もの長い刻を生きてきた高貴な蝙蝠であるからな。喋ることなど造作もないことである……ではない!勝手にペット扱いするでない!!」


「いや、そう言うのはそこから抜け出してから言えよ…」


ディアの乗りツッコミからの怒りに、カガリは巫女の膝の上で猫を愛でるかのように撫でられているディアにツッコミ返した。

何故、ディアが巫女に前回同様。また撫でられているかというと、ディアを撫でたいと言う巫女にディアが拒否した所、余りにも悲しげな表情で落ち込む為、ディアが罪悪感で否めなくなったからである。



「てか、ペットみてぇなもんだろ。飼った覚えは一切ねぇけどよ」


「ふん、飼われた覚えなど無いから安心するがよいわ。小娘!!主様の命が無ければ即刻、貴様の使い魔など辞めてくれる!」


「使い魔にした覚えもねぇよバカ!!」


「け、ケンカは良くないですよぉ…!デ・アールさんも落ち着いて…!」


バチバチと火花を散らし睨み合うカガリとディアの間に割り込み、困った顔で仲介する。

割って入られたことにより、ふん!とカガリは鼻を鳴らし、窓の方へ不機嫌を惜しみ無く発揮してそっぽを向き腕を組む。



「轟さん…」


「…今思ったが、そなたは物好きであるな」


「も、物好き?」


カガリの態度にしょんぼりとした巫女がそう聞くと、ディアは翼膜で自身の胸(顎?)を撫でながら「うむ」と珍しそうに頷いて見せた。



「あの娘は暴力沙汰ばかり起こす、ろくでもない乱暴者と評判の娘である。町を歩けば邪険にされ、学校に行けば腫れ物扱い。ひねくれていると言うか…聞き分けのないと言うか………この数日間だけで将来を心配してしまうような、そんな社交性皆無な奴であるぞ?そなたのような上品なマドモアゼルとは月とすっぽん…いや、比べるのもおこがましいである」


「ケッ…余計なお世話だ。くそコウモリ……」


「あはは……んー、でもね、デ・アールさん」


「む?」


そっぽを向いたまま小さく悪態を吐いたカガリに巫女は空笑い、少し唸り悩んだ後、ディアに小さく耳打ちした。

巫女が囁いた言葉に、ディアは少し驚いたような顔をした後、「微塵も思えんである」と辟易とした眼差しで聞き耳を立てているのがバレバレなカガリを見つめ、深く落胆した。



(ふふふ、四世紀もの長い時間を生きても分からないことってあるんですね)


(長く生きようとて、わが輩は所詮は一匹の蝙蝠。知り得ないことなどごまんとある。“人間”となれば尚の事…不可解な生き物である)


(“不可解”…ですか)


(うむ。その中でも彼奴レディーはずば抜けて、“不可解”な類いである)



(……こいつら一体、なんの話をしてやがんだ…?)



ひそひそと内緒話をする巫女とディアの会話を盗み聞きしようと背を向けたまま聞き耳を立ててるカガリであったが…うまく会話を聞き取れず不服そうに不貞腐れた…その時。



「…ん?」


「…?轟さん?どうしたんですか?」




 突然、立ち上がり窓の方へと移動し始めたカガリに巫女は首を傾げながら質問すると…カガリは素っ気ない態度で窓の外を見つめたまま返事を返す。



「…………いや、なんでもねぇ」


「え……そ、そう…なんですか???」


「………さて、レディーよ。そろそろ雨も止み始める頃である。夜が深くなる前においとまするべきではないかね?」


 

 何でもないと口にしがら、思い込んだ表情をするカガリに、巫女はどうしたのかと不安そうな表情を浮かべる。

 すると、それを見ていたディアは巫女の腕の中で一息入れてから、落ち着いた様子でカガリに提案してきた。


「……だな」


「え…?」


 カガリは数秒、黙り込んだ後…淡泊にディアの提案に賛成し、巫女の腕の中からディアを乱暴に奪い取り、さっさと部屋を出てると玄関へと向かっていく。



「ちょ、ちょっと待ってください!二人とも!!雨が止み始めるって言っても、まだ外は大雨……!!」


「ハッハッハッ、心配ご無用であるよ。マドモアゼル」



 余りの唐突なお開きに驚いていた巫女は慌てて玄関に向かうと、丁度玄関の扉を開け始めて降りしきる大雨の中、出ていこうとしたカガリの服を掴み、引き留める。


 すると、カガリの手から抜け出したディアが羽ばたきながら、紳士的な振る舞いで巫女に言い聞かせる。



「馬鹿は引けど、これしきの大雨では此奴は風邪は引かんであいだっ!!!?」


「誰が馬鹿より馬鹿だ、コウモリ傘にして逆さまに開くぞコラ。テメェもいつまでも掴んでんじゃねぇよくそ女」


「あぅ…!」


 ヘルメットでディアを叩き落としたカガリは不愉快げに言うと服の裾を掴む巫女に軽くチョップをし無理やり手を離させる。



「うぅ…」


「そんな強くやってねぇ筈だったろ…ったく、友達ダチならともかく、引き留める奴間違ってんだろお前…」


「………轟さんはお友達ですよ…」



頭を押さえ、しょげる巫女に呆れたカガリが素っ気なく言うと…

巫女は俯きながら静かに呟いた。



「……はぁ、だから言ってんだろ?オレとテメェは友達じゃねぇ。“友達になんかなれるわけねぇんだ”っうの……分かったか?……何回も言わせんな。くそ女」



しばしの雨音が響く沈黙の中、カガリは深く溜め息を吐き、降る雨を見つめ頭の後ろを掻きながらはっきりと言った。

その言葉に…巫女はひどく落ち込み、口を開こうものなら、今にも泣き散らしそうな顔で黙り込んでしまい。まるで小さな子供のように…自身の服の袖を強く握り締めていた。



「………あばよ」



堪える巫女に短く告げ、カガリはジト目で見つめてくるディアを引き連れながらバイクに跨がり、大雨の中を走り去って行ったのだった…





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「貴様はほーーーーーんとーーーうにっ、最低な人間であるな。クズである愚かである無能である恩知らずの恥知らず、ろくでなしーの人でなし~、である」


「ギャーギャーうっせぇ!!」


ザーザーと鳴り響く大雨の中、通行がまだらとなった車道をバイクで走り抜けているカガリの耳元でイヤリング姿のディアが先程の巫女とカガリのやり取りを非難する。

 ゴーグルを装着していながら雨で視界の悪い上に耳元で延々と執拗に言われ、カガリは雨風に負けず大声でキレた。



「あぁでも言わなきゃあいつ、一生オレにつきまとってくんだろうが!!殴ってないだけましだろうが!?」


「ふん、例えそうだったとしても、何もあんな言い方をせずとも良いではないか。服を借りたままはおろか、貴様の制服まで置いていったままなのであるぞ?後先考えていない阿呆の証拠である…」


「だからうっせぇってんだろ!少しは黙って……」




“ドドドドド……”




「む?なんである?」



 雨の中だと言うのに地鳴りのような音が後ろから響いてき始め、ディアは何事かと後ろを見ると、五つの光の球体が並列に並び、近付いてきていた。


「ありゃ……“フォルツァ”か?こんな夜中の雨にビックスクーターで走るなんてどこのバカだよ。どんな神経してんだ?」


「貴様もあんまり変わらんと思うのだが?……にしても」


「あぁ、なんかきなくせぇ…」


 バックミラーを一瞥しただけで車種まで言い当てたカガリは怪訝そうに言うが……見事なブーメラン返しにディアはツッコまざるを得なかった。

だが、追いかけるように急速に近付いてくる五台のバイクに、違和感を感じた二人は警戒の色を強める。



「ん?」



すると、背後へと迫る五台の内の一台が突然、速度を上げ、カガリのバイクの前へ躍り出るなり、先頭に立つとバイクの後部座席に座るフルフェイスの人物が後ろへ振り返ってきた。

 嫌な雰囲気を漂わせ、ジッと見つめるとフルフェイスの人物はカガリを挑発するかのように親指で首をなぞった。




「……見え透いた挑発であるな。あんなのに乗せられる奴の顔が見た……」


「やんのかゴラァ!!!舐めてるとぶっ殺すぞテメェ!!」


「……近くにいたである…むっ!!!?」


 あからさまな挑発にまんまと引っ掛かるカガリにディアは一人、悲しみに暮れるのであった。

しかし、その結果。“背後かは忍び寄る存在”にディアはいち早く察知した。


「レディー!すぐ後ろに来ているぞ!!」


「あ?!うおっ!!マジかコイツら!!?」



 ディアに言われ、慌てて振り返ったカガリはギョッとする。


正面に気を取られている内に後ろから挟み込むように距離をつめていた四台のバイクがすぐそこまで迫っており、更には後部座席に座る全員フルフェイスと言う集団には木の棒にナイフが括られた粗末な武器が手に握られていた。



「ほう、槍であるか……これはまるで中世時代に見た懐かしき騎馬戦さながら……冗談で済む範疇を越えるであるな。確実な殺意を感じるぞ、レディー」


「冷静に解説してんじゃねぇ!!そんなもん喧嘩以外に光もんナイフ出した時点で正気じゃねぇんだよ!!恨まれる覚えはあっても殺される覚えはオレには無ぇ!!……いや、割とあった気もしなくもないな…」


「……常日頃の報いである」



若干、思う節があったパニック気味のカガリに、ディアは呆れたように呟いた。



 瞬間、カガリのすぐ横を何かが掠め、頬に小さくも電気が走ったような痛みが走った。


「イテッ!?な!?」


 不意の痛みに手で触れて見ると雨で滲んだ血が指先に付着しており、カガリは表情をゾッとさせ、すぐさまバイクのアクセルを全開に回し速度を上げた。



「ジョーダンじゃねぇぞーーーっ!!」


「急いで前に出ろ!!来るぞ!!」


「なんなんだテメェら!!っうか、前の奴退けよ!!」


(こちらが寄りつけぬ且つ、こちらを寄り付かせぬ為の長物の槍。それに逃げられぬ陣形……中々の策である。念には念を…と言った所であるか…)



背中のすぐそばで振るわれる刃からバイクを左右に動かし、前へ逃れようとするが……前には出させないとばかりに正面を行くバイクはピッタリとカガリの動きに合わせて移動し、妨害してくる。



「くそっ!(適当に道を曲がって撒こうにもこの辺、道知らねぇから迂闊に入って袋小路とか笑えねぇぞ……!!ん?そう言えば……)」




この辺りは隣町と繋ぐ道で信号も無く、雨で人気も無い今ではある意味襲うには絶好のタイミングであろう。最悪の事態…

この状況を脱する為、懸命に打開策を考えていると、カガリはある事を思い出した。



 その時、恐らく、首謀者らしき人物が親指を立てた拳を逆さまにし落とす動作を見せると、後方の四台が速度を上げ、後部座席の人物たちは槍を一斉に身構えだした。



「どうやら奴らは一気にトドメを刺すつもりのようである。どうする?レディー!」


「確か……あと少しで……“あれ”なら………」


「レディー…?(何か打開策を閃いた……のか?)」


「よっしゃ!!一か八かやってやるぜ!!!」



ぶつぶつと真剣な表情で呟くカガリはアクセルを回し直し、車道のギリギリまで端へと移動しながら、カガリは決行に移すのであった。





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