第1章.人助けをするつもりなんてこれっぽっちも無いけどな
自分なりの魔法少女作品です。
面白いと思って頂ければうれしいですm(_ _)m
___世の中は正しい事と正しくない事で出来ている。
少なくとも、周りの人はそう言う。
たとえ、それが正しくなくとも、時には正しい事だと人は口を揃えて言う。
じゃあ、一体、何が正しくて何が正しくないのか。そんなのはわからない。
よくテレビで流れる子ども番組のアニメの方がハッキリとしてるくらいだ。
『正義のヒーロー』は世界を守るみんなの味方。
そして、『悪者』はみんなを困らせ、世界征服をも企んだりや、あの手この手と使って『正義のヒーロー』を倒そうとする。
だけど、どれだけ『悪者』が強くなろうとも『正義のヒーロー』は負けないし、最後は決まって勝利する。
___“正しい正義”が“正しくない悪”を倒す。
それが当たり前。
悪い事をすれば正される、それが世の中の常識。
混沌の中に秩序は生まれず、また、秩序の中にも混沌は生まれないのだ。
しかし、そんな世の中であるにも関わらず、常識的な考えがどうにも気に入らずにいる奴等は世の中にはたくさんいる。
輝く太陽があれば必ず影が生まれるように奴等は日陰に蠢き光を欲するように。
この物語は陰と陽の物語。
老人が語る、悪の少女と正義の夢物語。
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「オラァ!調子のってんじゃねぇぞテメェ!!」
「ひ、ヒイィィィ!す、すんませんした!もう二度しません!!許しください!!!ぐぎゃぁぁ!!」
人目のつかない学校裏から聞こえる少女の怒声と男の悲鳴。
そこには一人の少女と地面に這いつくばり、土下座する男が容赦なく顔面を蹴りあげられていた。
いわゆる、不良同士の喧嘩だった。
「へ、頭が負けた…!」
「嘘だろ…あの人が負けたところなんて初めてみたぞ…!」
「なんて動きだ、女じゃねぇだろ…」
男が負けて、少女が勝っている。そんな常識に周りで見ていた男の手下である不良たちは、信じられないと言った様子でざわついていた。
不良たちはすぐさま、気絶している不良たちのボスである男を連れて、全員が少女から逃げるようにその場から逃げていく。
「チッ!テメェが仕掛けておいて逃げてんじゃねぇよ」
そんな不良たちの後ろ姿を見て、少女が苛立ったように舌打つ。
投げ捨てていた学校指定の手提げ鞄を肩にかけるように持ち、部外者が校内に入らないよう張られた鉄柵を軽々と越え、少女は歩き出す。
___『轟 カガリ』
それが少女の名前である。
短気で喧嘩っ早い上に気性も荒く、粗野と粗暴に乱暴、警察もお手上げと言った手のつけようのない程…中学二年生になる頃には喫煙や飲酒、万引きやかつあげ、喧嘩に明け暮れる日々。
そしてそれは、高校一年生になろうと変わらないどころか、更に無免許運転、半不登校を追加しより悪化してる始末であった…
先も述べたが、正しい事が正義であるのならば、彼女は紛れもなく悪である。
自らを悪だと理解はしている。何故なら、絵に描いたような不良の彼女は奇しくも、正しい事と正しくない事に疑問を抱いているからだ。
世間からみれば彼女は厄介者、だが、彼女にとって本当に厄介者なのは世の中の正義と言う概念の方であった。
正しいと思う事が正しいのか?
それとも、正しいと想い続ける事が間違っているのか?
結局の所、何が正しくて何が正しくないのだろう。
そんな考えを、彼女は知らずしらずの内に考えているのだ。
だが、毎年、赤点どころか学校にすらまともに通わずにいる彼女にそんな事など到底、分かるハズもないのだが…
それでも不思議と考えてしまう。
「……今日はなに食おっかなぁ」
数分も経たない内に考えていた話題などどこへやら、思考回路すら不真面目な彼女は合唱寸前の腹の虫を押さえながら、空腹を満たすべく店を探すと、すぐにハンバーガー屋とハンバーグ店の二つの店が目に入った。
「え~っと?今のオレの所持金は~っと…ゲッ!!」
ゆったりと待ちながらハンバーグも良いが、テイクアウトが可能な上にすぐに食べられるハンバーガーも捨てがたい。
だがスカートのポケットからお金を取りだし掴んだ小銭を見るなり、カガリはガックリと肩を落として落胆したのだった。
「百円だけかよ…!」
それも五円、十円とかなり細かい小銭であった。
不良の懐は寂しいもの。しかし、これでは腹の虫は治まらない。ならば、やることは一つだとカガリはお金を徴収すべく、慌てて辺りを見渡すが運が良いのか悪いのか、昼過ぎだと言うのに周りには誰もいない。
「ツイてねぇなぁ…」
“グゥゥゥゥ~”
「クソ~…遠いがコンビニしかねぇか…」
遂に押さえきれなくなった腹の虫が盛大に鳴き始め、カガリは持っていた小銭をポケットに戻し、コンビニがある道を渋々と歩いていく。
その間、腹の虫の合唱は続き、カガリはなんとも言えぬ情けない気持ちになっていく。
___その時だった。
“だ………けて……た…”
「んぉ…?」
ふと、背後から誰かの声が聞こえたような気がし、カガリは足を止めて声が聞こえた方を気だるげに振り返ると…
そこには建物とビルの間に出来た一本の薄暗い路地の道があった。
(あれ…こんな所に道なんてあったか?)
通り慣れた道だったハズだが…思い返して見ても、こんな道があった事が不思議と思い出せない。
カガリは小首を傾げさせ、気まぐれに路地の道がどこに繋がっているのか覗き込むが……何故か、まだ日は高い内にあるにも関わらず、奥への道はまるで影を押し込んだかのように真っ暗であった。
気味が悪い…そうカガリが直感で感じ離れようとした。
_____その時だった。
“ベタベタベタベタ!!”
「うぉ!な、なんだ!?」
背中を向けた瞬間、背後から何かがこちらに向かってくる足音のような物が聞こえ、カガリは何事かと慌てて振り返る。それとほぼ同時であった。
「助けて!!」
「ぬぁぁぁ?!!ななな、なんだテメェ!!?」
カガリが振り返った瞬間、額から血を流した少女が道から飛び出し、カガリの肩を掴み、そのまま押し倒してきた。
押し倒されたのもあるが、驚いたカガリは突然の出来事に肩を掴んできた少女を蹴り突き飛ばすが、それでも少女は痛みよりも恐怖の方が勝っているらしく、鬼気迫った様子でカガリに泣きすがってきた。
「お願い!助けて!!助けてください!!!」
「や、やめろ離せまとわりつくな!!何なんだよ!!?」
「見捨てないでください!お願いします!!し、死にたくない!!!」
カガリがどれだけ払いのけようとしても、少女は必死にカガリの制服から血だらけの手を離そうとはしない。
「うわぁぁ!血!?オレの服が血だらけに!!いい加減にしろよ!!クソ女!!」
「きゃぁ!!」
制服を血だらけにされた怒りでカガリは少女を突き飛ばし、ようやく引き剥がすと今度は逆に少女の胸ぐらを掴み地面に押し付けた。
「テメェ…!!オレは今、腹が減って気が立ってんだ!どうすんだよこの血だらけの制服をよ…?!これじゃあ、コンビニに入るどころか歩いてるだけで補導もんじゃねぇか!!あぁ!?」
「う、うぅ…ご、ごめんなさい…!!」
「ごめんなさいだぁぁ?!!謝る前に弁償しやがれ飯おごれゴラァァァ!!!!」
カガリの怒鳴り声に我に返り、泣きながら謝る少女に、それでもカガリは怒りが治まらず胸ぐらを掴み上げ、拳を振り上げた。
_____その時だった…
“ズチャ…ヌチャ……ズチャ…”
「あん?なんだ?おい、まだいるのか?」
「あ……あ………」
少女の裸足の足音とは違い、今度は引きずって歩く間に不快な音を立てながら向かってくる足音が聞こえてきた。
カガリは拳を下ろし、胸ぐらを掴んだ少女に聞くが…少女は目を見開き、真っ暗な道を瞬きすらせず、酸素を欲している金魚のように口を閉じたり開いたりさせ、震えていた。
「…なんだお前?なんか見えるのか?」
「……や…」
「あ?」
「いやぁぁぁ!!離して!!離してください!!!」
「お、おいなんだよ…!?あんまり暴れ……!!!」
「来る!!“オバケ”に殺されるーーーーーっ!!!!」
少女の叫び声にカガリの言葉が遮られたその時…
“ズオォォォォォォ!!!”
「え?」
真っ暗な道から生き物のように蠢く影が飛び出し、カガリと少女を捕食するように包み込んだ瞬間、カガリの意識は一瞬にして暗闇に消えた。
>>
“グチャグチャ…ニチャ、ニチャ……ブチュ…”
(ん…んん……何の…音だ?)
四散していた意識に響く、得たいの知れない不快な音にカガリはぼんやりした頭でゆっくりと目を開いた。
いつの間にか意識を失ったのだろう。目が覚めるとそこは薄暗くとも分かる殺風景なコンクリート部屋で、奇妙な事に目に映る景色はひっくり返っていた。
「って…なんで吊るされてんだ!?ここどこだ!?」
ぼんやりしていた脳が一気に覚醒したようで、カガリは自分の両足をロープで縛られ、ミノムシのように逆さ吊りになっている事をすぐに理解した。
だが、予想だにしていなかった状況にカガリは驚き声をあげ、事態を把握すべく慌てて辺りを見渡す。
「あっ!オイ!!クソ女!」
部屋の隅で先程の少女が横たわっている事に気がついたカガリは少女に呼び掛ける。
しかし、少女もまた意識を失っているのか全く反応がない。
どうしたものかと、無い知恵を絞り、カガリは逆さ吊りにされたまま首を捻っているとあることに気がついた。
(あの制服…確か隣町の……東海学園のだったか?)
東海学園と言えば、才能のある人や金持ちだらけが通う学校だ。
___しかし、そんな隣町のお嬢様学園の生徒が何故、この町にいるのだろうか?
それによく見れば、足は素足でボロボロの血まみれ。
制服も所々破れている。どう考えてもタダ事では無い事態なのだろう。
(どこかの不良に拉致されて命辛々逃げてきた…ってわけないか。オレを気絶させて吊るすだけの不良がいるわけ無ぇしな…)
自分が如何に他の不良に恨まれているのかは理解している。それゆえに不良たちが関わっているのならこの状況はまずあり得ないと断言出来る。
じゃあ、一体誰がこんなことを…?
___“来る!!“オバケ”に殺されるーーーっ!!”
「……はは…そんなバカな話があるわけ…」
ふと、思い出した少女の言葉に、カガリは乾いた声で笑った。
___あるわけない。そう思った矢先だった。
“ズチャ……ヌチャ…ズチャ……”
(この音……あのときの?)
何かを引きずって歩くような、奇妙な音が部屋に響き渡る。
カガリは息を飲み、すぐさま気絶したふりをし始めた。
固定されていない状態のパンチなど大したダメージにもならないだろうが締め上げることはできる、喧嘩に明け暮れる不良であるカガリだからこそ身に付けた経験が咄嗟にそうさせた。
“ズルリ……ベチャ…ヌチャヌチャ…”
(なんだ…?“何か”が…入ってきた?)
暗がりの中で蠢く『何か』が部屋に入ってきた。
音だけではわからず、悟られぬよう、正体を見ようとするカガリはゆっくり慎重に薄目を開け、目をこらしめる。
しかし、先程は薄暗くとも見えたハズの部屋が…今は何故だがあの路地の道のように視界の先は真っ暗になっていた。
(あれ…?おかしいな…さっきまで普通に……)
何故見えないのかと不思議に思っていたその時…
“ヌチャリ”
「っっ!!?」
真っ暗な部屋に怪訝を抱いていたカガリの目の前に突如、青色と黄色とオレンジに配色されたカラフルな大きな瞳が浮かび上がった。
悲鳴が出かかった口を閉じ息を止め、かがりは懸命に平常心を保ちながら目の前の“大きな瞳”にバレぬよう目を閉じる。
(ほ、本当に“バケモノ”かよ…!!)
部屋が真っ暗になったのではなく、少女が言っていた“バケモノ”がカガリの前に立っていたからだ。
恐らく、床に置いた少女よりも吊し上げたカガリを見にきたのだろう。
目を瞑っていながらでも分かるほど、何度も何度もカガリの体を観察しているが分かる。
“ブフゥゥゥ…!!”
「うぎっっっっ?!!!!!!!」
またも突然に、今まで嗅いだことの無い異臭のする風がカガリの顔に吹き掛けられた。
その瞬間、異臭の臭いをダイレクトに吸い込んだカガリは思わず、息を詰まらせ気絶しかけた意識を必死に保ちながら気絶したふりを装った。
(クセェェェ!!ぜってぇー殺す!!殺す殺す殺す殺すっっ!!)
溢れんばかりの怒りを抑えながら、カガリは目の前にいる“バケモノ”に殺意を向けながら呪いのように心の中で唱え続けた。
だが…
“ヌチャ…”
(んひゃ!!?)
“ヌチャリ…ヌチャヌチャ…”
(うひゃぁぁぁぁ!!ギャァァァァ!!)
宙吊りにされた体を巨大な生暖かいナメクジのような粘着質のある。恐らく“バケモノ”の舌であろう物体が這い回る感触に全身が不快感で総毛立つ。
“ヌチャ…ヌチャヌチャ…ズチャリ…”
人生で絶対に起きることの無い、味見をする“バケモノ”の舌に舐め回される体験を全身で味わうなどこの先味わうことは無いだろうが…
最悪の感覚に襲われながらカガリは今すぐにでも叫びだしたい声を殺し、粘りつく異臭の放つ唾液を全身に塗りたくられようが必死に堪え続けた。
やがて、カガリを舐め回していた“バケモノ”はあまり反応の無いカガリに飽きたのか、吊りし上げていたカガリのロープを引きちぎり、無造作に床に置くとようやく横たわっている少女の方へ離れていく気配に、カガリは涙目になりながらゆっくりと体を起こした。
(こ、殺ず…!!必ず殺じでや”る”ぅぅ…!!)
短気で有名な不良である彼女にしてはよく堪えている方ではあったのだが、それも我慢の限界である。
カガリは足に括られたロープを静かに剥がし、無造作に転がっていた鉄パイプを手にし、少女の様子を伺っている“バケモノ”を睨み付けた。
(人助けをするつもりなんかこれっぽっちも無いけどなぁぁ……!!)
“バケモノ”の後頭部であろう箇所目掛けて鉄パイプを振りかぶり、一切の躊躇もなく、鉄パイプを振り下ろす。
「やられっぱなしなのはオレの気がおさまらねぇんだよ!!」
鉄パイプが曲がる程の力でうち下ろしたカガリは怒りを込めて叫ぶのだった。