一撃
その日、大通りには人集りが出来ていた。
商店街でもあるその通りは、元々人通りの少ない道では無い。
しかし、その日は特別だった。事件があったのだ。
その道に広がる赤黒い染みは血の色で、そこに倒れている少年の命が失われていく様子を表している。
傍らで泣き崩れる少女は、この事態の責任の一端が自分にあると考え、どうすればいいか困惑していた。
その少年に縋りついて泣くべきなのだろうか。そして、大声で謝ればいいのか。しかし、もしそうすれば、また新たな犠牲者が出るかもしれない。どうすればいいか、わからない。だから優しい彼女は、ただ傍らで泣くしかなかった。
もう一人、傍らで佇む青年がいた。
その手には滴る赤い液体に塗れた刃物が握られている。俯いているため、通行人にはその表情はほとんど窺えなかったが、その目は、倒れた少年を無感情に見下ろしていた。
その刃物から、この事件の犯人が彼であることは明白だ。しかし、周囲の野次馬には、彼を拘束しようとする者はいなかった。
それは、武器を持っている彼への恐怖からだったのか。それとも別の感情か。いずれにせよ、手を出さなかったのは、ただの野次馬根性からではなかった。
しかし、噂は伝わり、誰が呼んだともなく衛兵は来る。
治安維持のため、住民の平和のため、衛兵は来る。
裁かれるべき青年を捕まえに。裁かれるかどうかは別として。