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2枚の黒板が作ったSugeeee! な伝説と聖地

作者: 鯣 肴

 あるサーファーが、事故って死んだ。プライベートビーチで。彼は生きた伝説といわれたサーファーであり、世間は大いに賑った。


 遺族の意向を受け、島に上陸した刑事はわずか一人。刑事は自分以外誰もいない、船も通らぬ砂浜で、波の音を聞きながら考える。


 本土での検死の結果、彼は溺死したということが分かった。つまり、彼はサーフィンをしていて何だかのアクシデントで死んだのだ。


 全ての答え、証拠はサーフボードにあると刑事はあたりをつけた。そして、2日程度費やし捜索した結果、打ちあがっていたサーフボードを発見したのだ。


 だがしかし、それには大きな問題があった。サーフボードは2枚あったのだ。


 真っ黒な漆黒の板。1センチ程度の厚みの直方体の板で、光沢がある。まさに、黒板(くろいいた)、といえるのではないだろうか。


 気のせいかその光沢は鉛筆の芯と似ていた。その裏面には、彼の名前が書かれていた。白字で。文字とのコントラストで、黒い板感が物凄く際立っていた。


 もう一方。金属の枠で囲われた板。金属の枠は、銀色。アルミのようだ。角は丸く削られている。角張っていると危ないからだろう。そんな、銀色の枠で囲まれた、黒っぽい緑色の板なのだ。


 裏面には、白字でやはり彼の名前が書かれている。これは、さながら、黒板(こくばん)のようだった。






 刑事は大いに悩んだ。


 彼が死ぬときに乗っていたのはどちらの板なのだろうか、と。それが分かれば、彼が死んだ理由が分かるような気がしていたのだ。


 どちらも、彼が公の場もしくは、私的な場で使っていることを一度も見られていない板だった。


 彼はスターではあったが普段はとてつもなくオーラのない一般人にしか見えなかったのだ。超モブ顔だったのだ。


 彼を崇めるファンに偶然出くわしたとしても、あまりのオーラのなさに、人違いでしたごめんなさい、と必ず謝られるほど。全力で謝罪され、自分の正体を明かせたことは普段は一度もない。


 だから、パパラッチですら、彼が大会以外のときどこにいるのかは全くつかめなかったのだ。どうあがいても普段の男を見て、その正体に気付けないのだから。


 露出がサーフィンの大会のときくらいしかないのだ。だが、目立ちたがり屋なので、大会のときは、謎の大物というような得体のしれないわけのわからないオーラを出し、とことん誰もできないことをやってみせるのだ。


 そのときのイメージがファンの目には焼きついており、それこそが男の世間でのイメージなのだ。


 なぜ一般人にも知名度があるかというと、誰にも知られないようにこんな無人島を手に入れていたり、年に一度のキワモノすぎるサーフボードでのサーフィン大会を創設しちゃったり、変に行動力があったためである。


 今回はおそらくキワモノサーフィン大会関連の準備をしていて、事故って溺れたというのが妥当な線だろうと、刑事は考えた。


 現に、彼の死体には他殺の形跡はなかったのだ。つまり、自殺か事故死なのだ。






 サーファーが死んだ理由は結局分からずじまいとなり、事件性もなかったため、あっさりと捜査は終了した。そして、遺族にその板は相続された。


 伝説のサーファーが最後に使った板として。どっちかが最後の板なのだ。


 そして、その板は、オークションに出されることとなった。


【2枚のうちのどちらかが伝説のサーファーが最後に使った板】


 そんな前代未聞のタイトルで、2枚セットで。


 その色々つっこみたくなるタイトルであった板は、サーフボードとしては異常な値で売れることとなった。


 今でも、彼の死因は分かっていない。そして、島を訪れるサーファーたちが後を絶たない。そこはサーファーたちの聖地となったのだから。






 隠された真実。それを知るものはもはやいない。死んだサーファーのみが自身の死因を知っていたのだから。目撃者は誰一人いなかったのだから。


 男は誰もいないこの島で、自分が考えた最強に乗りこなせない板を乗りこなす、ということに挑戦していた。


 今年のキワモノサーフィン大会でも、相変わらず訳分んねえが男様Sugeeee! とか言われたかったからだ。


 一枚の板でではなく、足ごとにに1枚ずつ計2枚の板を使って滑るという、頭悪すぎる無茶を男はやりたかったのだ。しかもその2枚の板は、黒板と、黒鉛板という、ありえなさすぎるもの。


 無事やりきって、ありえない板で波に乗るなんて、男様Sugeeee! とか言われたかったのだ。


 だが、無茶すぎた。色んな意味で。男は紛れもないサーフィンの天才だった。こんな謎板2枚で沖の遠くの方まで行って、波乗りできるくらいには。


 こんな板でサーフィンなんて物理的に無理なはずなのに、余裕な俺Tueeee! と思いながら波乗ってしまうくらいには、才能が溢れていたのだ。


 だが、無理なものは無理。それを男は最後まではねつけられるほどではなかったのだ。右足を乗せていた黒鉛の板。これが海水に塗れてとっても滑りやすくなっていたのだ。


 やたらめったら高い波に乗って、新技考える人、をやろうとした男は右足を滑らせ、海へと落下していったのだ。


 運の悪いことに、黒板ボードの淵で頭を打ち、気を失って海に落ち、あっけなくお亡くなりに。






 そんなアホらしい男の最後を世間は知らない。アホだったが生きた伝説だった男は神格化された。


 頭悪すぎる、サーフボードといっていいか分からない、男が人生最後に使った品は4桁億円という狂ったような値で取引され、無人島はそれ以来サーファーたちの聖地となったのだ。

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