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AI-6

AI

その小さな身体が、輝きだした。

空間を切り裂いて周囲に拡散する、赤い光。

光の眩さに刺激を受けたのか、巨大イドは突き刺していた腕を思わず抜いていた。

刃を引き抜かれても、身体から放たれる赤い光は止まない。

やがて光は、身体にも変化をもたらす。イドの右腕の巨大な刃によって空けられた、十センチ以上はあろうという腹部の傷が、あっという間に回復していった。

そして地面に倒れていたの小さな影が、ゆっくりと立ち上がった。身体の光は止むことはなく、全身を包み込んでいる。

光はやがて、その中心にある人影の元へと収束を始めた。そして、身体の各部位に装備されていた銀色の装甲に吸収されていく。

光を吸収した装甲に、変化が現れる。

その銀色の表面に、赤いラインが走ったのだ。腕や足の装甲の上では、腕や足に沿う方向に。胴の装甲の上では、幾何学模様を作り出すように。

銀色の中で、赤く走る線は際立った存在感を示し、その輝きも失われないまま、赤と銀の光を眼前の敵に向かって放射し続けていた。

目の前で起きた突然の異常事態に、何の表情も持たない銀色の怪人も、全身で狼狽の様子を見せていた。

顔を上げて、眼前に並ぶ敵たちを、ギロリと睨みつける。

まず狙わなければいけないのは、そいつ。

そいつは視界の隅にいた。黒川さんの身体を抱えたまま、小柄な全身を、前にずらりと並んだ巨体の影に隠していた。

そいつはこちらの視線に気づき、右腕の刃に力を込めようとした。

その瞬間、そいつの姿は消えていた。

体重を乗せた拳の一撃が、赤い軌跡を描き、そいつの痕跡を跡形もなく消し去っていた。

支えを失った黒川さんの身体をそっと抱き留める。

イドの元となった学生の身体も解放されるが、そちらには手を回せず、どさりと地面に落ちる。申し訳ないと心の中で謝罪する。

気を失ったままの黒川さんを、後ろにそっと下ろした。

三体の銀色怪人が、こちらの方に向き直る。

後ろに黒川さんの身体を置いたのは、自分への枷だ。

ここから先には、奴らを決して行かせない。その思いと共に、眼前の敵に対して身構えた。

一番前に出てきたのが、右腕に巨大な刃を備えた巨大イドだった。

地面を蹴り、右腕の刃を振りかぶりながら、こちらにその巨躯を跳ばしてきた。

すっと息を吸い込む。そしてそっと右腕を握り、軽く後ろに構えた。

そして、力を込めて前方へと打ち出した。

激突する二つの力は、互いに動きを相殺して止まる。

しかし力の均衡は一瞬で崩れた。

突き出した拳からあふれ出た赤い光が、あっという間に銀色の巨躯を浸食していく。

赤に包まれた銀色は、太陽の光に晒された雪のように、あっという間に溶けて無くなっていった。

そして、その銀色に取り込まれていた人間の身体が露わになって、その場に崩れ落ちた。


身体が理解した。そして自分自身でも理解することが出来た。

今自分の身体を包み込み、目の前の敵を圧倒するパワーを与えてくれる。

これが私の

これが僕の

本当の力なんだ!


味方が刹那の間に消え去る様を見て、残る二体の怪人も狼狽を強める。

目の前の小さな敵がゆっくりとこちらに近づいてくる。怪人はその場で止まっていて、次の策を講じているかのように見えた。

しかし、彼らには選択肢など用意されていないのだ。

理由は分からないが、今眼前に迫る敵は、自分たち圧倒的に上回る力を手に入れた。そんな敵に向かっていったところで、勝てる見込みはない。ならばこの場から立ち去り逃げるのが、己を守るためには最良の策のはずだった。

しかし、怪人たちにそれは許されていなかった。兵士として一度送り出された時点で、アンセムにとっての敵を殲滅させることだけが、それにとっての存在する意味になっていた。目的を果たさずに逃げ帰ることなど許されていない、アンセムがそれを不可能にしているのだ。

怪人たちはその豪腕を構え、右腕に備わった対応を構え、迫る敵へと向かっていく。

それだけが、それらの取ることの出来る唯一の道だった。


最初に迫ってきたのは、パワー強化を施したイドだった。

私は

僕は

今度は両拳を使って立ち向かうことにした。呼吸を整えると、自然に腕の先にプロメテウスのエネルギーが集まり、拳が赤い光の玉となる。

イドは相手の腕を掴んで抑えようと、両腕を必死に突き出す。

私は

僕は

拳を軽く動かして、それをなぎ払った。

イドは弾き飛ばされた手を高く掲げて崩れ落ちる。軽く触れただけなのに何という苦しみ様だろう。

私は

僕は

そのまま両拳を、銀色の筋肉が激しく盛り付けられた巨体に撃ち込んだ。

その身体に反作用を持つエネルギーが、あっという間に、が浸食した。

瞬間

私は拳にさらに力を加えて、その身体を吹き飛ばし、反動で自分の身体を後方へと追いやった。

私が立っていた場所を、巨大な弾丸が通過していた。

空間を抉り取られたような感覚に襲われる。気づくのが遅かったら直撃していただろう。

残る一体。既に消えようとする仲間を囮にして、そこに気を取られた敵を仕止めるという策に出たようだ。

一発目が外れたのを意にも介さないという様子で、腕の狙いを付け直す怪人。

私は

僕は

その前に堂々と立った。

そんな相手の様子に、怪人は少し戸惑いを見せたが、構わず二発目の弾丸を放った。

左拳を突き出す。

人間の顔ほどの大きさもある弾丸は、その拳の直前で粉々に割れて消えた。

相手に動揺する隙すら与えない。

私は

僕は

すかさず大地を蹴って、構えていた右拳を撃ち返した。

最後に残っていた銀色の柱が、あっという間に光に包まれて、崩れ落ちていった。

後に残った人間の身体が、地面の上にどさりと落ちるのだった。


大きく深呼吸をしながら、拳をゆっくりと下ろした。

敵の驚異は去った。もうアンセムの気配はない。

勝ったのだ。

地面に転がる、学生たちの身体。本当に申し訳ないことをした。再び心の中で謝罪する。

僕は

私は

その事実を実感して、喜びに満たされる。

そして心が落ち着き始めて、ようやく自分自身の状態に意識を向けることが出来た。

これは、何だ。

今の意識の状態は、一体何なんだ。


僕を突き動かしたのは、思いだった。

黒川さんを助けたいという思い。そしてそのために、僕自身も動きたいという思い。

その思いが燃え上がり、闇の中にいた僕を外へ引きずり出した。

そして僕は立ち上がり、向かい合った。

学校を滅茶苦茶にし、そして僕の身体に襲い掛かってきた、銀色の怪人と。

全身を、とてつもない力が突き動かしてくれた。

そしてその力の導くままに、目の前の敵に拳を振るった。

銀色の怪人に自分の手がめり込み、それを通して体の中の力が流れ込んでいくのを、確かに感じていた。

僕は、戦ったのだ。

僕の中にいる、コンピューターの中で生まれたエゴだと自称する存在

イチカと。


何が起きたのか。

地面に打ち倒され、巨大な刃に突き刺された。

そして、私と言うエゴが再びアンセムの元に吸収されていく。

私は必死に抵抗したが、どうしようもなかった。

あの場所に帰るのか、そう覚悟したとき、それが起こった。

私の中で鎮まっていた物が、湧き上がる力と共に一気に吹きあがった。

エネルギーの爆発、その勢いが、私の中に入り、私を吸い尽くそうとするアンセムの魔手を、一瞬で退けた。

私を形作っていた、そして私の戦う力となっていたプロメテウスの力。今までのそれとは比べ物にならないくらいの勢いが、私を

だから、お互いの力を結集し、強大な存在となった銀色の怪人を、軽々と倒すことが出来た。

分かっていた。その力をくれた、いや仮にそうではないにしても、その力を発現させるきっかけになった存在。

アヤト。

私に身体を貸してくれた、現実世界の男の子。

彼が、私を助けてくれたのだ。

私と一緒に、彼も戦ってくれていた。

それを思うと、なぜか心が弾むのが分かった。何なんだ、この思いは。

しかし、それを考え始めたとき、意識が薄れ始めた。

大丈夫だ、今度は吸い込まれるのではない。「Bird Cage」に戻るだけなんだから。

アヤトの了承を得られれば、いつだってこの場所に戻ってこられる。

今回のことだって、考える時間はいくらでもあるんだ。彼とは長い付き合いになりそうなんだから。

そんなことを考えながら、私は端末の中に存在する巣籠へと戻っていく。


僕の意識が現実に戻ると同時に、身体の方も白石アヤトとう男子高校生のものに戻る。

周囲には静けさしかなかった。辺りに転がる学生の身体。混乱が収まったはずの校舎の方からも、人の声はまだ聞こえない。

こんな騒ぎを起こして、一体どうなるのだろうか。

イチカとの出会い、怪人の襲来。何から何まで分からないことばかりだ。

でももう、考えても無駄だという諦めの気持ちが、僕の中で膨らみつつあった。

イチカが僕の中からいなくなる間際に考えたこと、それは僕にも伝わっていた。

考える時間はいくらでもある。彼女とは長い付き合いになりそうなんだから。

この先に何が待っているのか。確かに不安はある。

それでも今は、そんな不安を僕の中の満足感が掻き消してくれた。

守りたいと思った人を、自分の意志で、自分の行動によって守ることが出来たという、生まれて初めて得ることの出来た満足感に。

いかがでしたでしょうか。


男女の人格共有でもっと美味しい展開が作れるんでしょうが、思いつかないんですよねぇ……


だんだんTSF的なうま味は減っていくので、それらをお求めの方はFile5くらいまでお待ちください……

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